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25話  "竜喰"の危機

それから二日程、アルはダンジョンには行かずに街中で療養した。幸い後遺症は残らなかった。後から聞けばルイさんのおかげだった様だ。高級な回復薬と、レベルの高い回復術士を呼んでくれたらしい。


その二日間のうち一日は、またミアさんから街中に出かけるお誘いがあった。ミアさんはアルと同じくらいの年齢の男に【変身】して、だ。アルには勿論ミアさんは普段通りの姿に見えた。二人は他の人の目を気にすることなく、一日楽しく過ごしたが、この時からアルには男色の気があると、まことしやかに噂される事となる。


それからはまたダンジョンに潜る日々だ。最近と同じように、ダンジョンの中をパトロールしながら探索していく。

ちなみにバド達とは二、三回出会った。彼等は四層の安全階層(セーフティゾーン)を拠点に、五層を主に探索しているらしい。メインはゴブリン、たまにオーク。おまけにポイズンフロッグと言った階層だ。一日の稼ぎとしてはアル達ほどではないが一人一万ギルくらいは稼いでいるらしい。いつもアル達を見ると、苦々しい顔をして逃げる様に去っていく。


それ以外に気になったことでは、極稀に【鑑定】が出来ない冒険者もちらほら見かけた。その度にドキリとするのたが、しかしそのどれもあの時の襲撃犯とは違った。シオンに聞くと、【鑑定】を使用する上での前提条件は、顔が見える事らしい。そしてその条件を満たした上で見えないと言う事は、基本的には【隠蔽】スキルを持っている可能性が高いらしい。しかしそれにしては【隠蔽】スキル持ちが多い感じがするとの事で、シオンにもよく分からないと。


そして襲撃犯の場合は、恐らくだが【隠蔽】スキル持ち、つまりプロの暗殺者である可能性が高いだろうとの事だった。アルもあの時の男とどこで会ったのか思い出そうと必死だったが、なかなか思い出せずにいる。暗殺者の中には、特殊な魔法スキルでどこにでもいる風の顔に変えている者もいると言う話なので、気にしすぎるなとルイさんには言われた。


アル達のダンジョン攻略は、と言うと、十二層の安全階層(セーフティゾーン)まで進んでいた。十層と十一層にはオークソルジャーとオークアーチャーが跋扈(ばっこ)している。その二匹はだいたい共に行動しているが、仲は悪そうだ。


特に(たち)が悪いのがオークアーチャーの方だ。彼等にとって重要なのは、どれだけの数の矢を撃てるかだけだ。命中率なんて言葉は知らないし考えたこともないらしい。つまり、オークソルジャーに当たろうが冒険者に当たろうが構わず撃ってくる。これがなかなか怖い。基本的にはオークアーチャーから片付けたり、オークソルジャーが盾になるような立ち回りをしているが、時折オークソルジャーの影から矢がいきなり飛んでくる事があった。一度こめかみを矢が掠めた時は本当に肝を冷やした。


そしてアル達の一日の稼ぎは今までの九万ギルから、さらに上がっていた。先日レベルが20に上がった際に、【保管(ストレージ)】の容量がいつの間にか増えていたのだ。前まではオーク肉二十五個分くらいでいっぱいになっていたが、今はその倍の五十個ほど入る。そこから魔力を全部つぎ込めば全部で七十個程も入る。流石にアル達もそれをいっぱいにするほどは狩りきれない。

特にここ数日はお金稼ぎを主とした八層から卒業し、経験値効率の良い層へと進出している。


「さぁて、今日はもうそろそろかな?」


オークからドロップした肉を【保管(ストレージ)】に入れた後、伸びをしながら言った。何とはなしに聞こえるように努力したつもりだが、シオンには通じなかったらしい。


「何を言うとる。この間殺されかけた所じゃろう。もっと精進せい。まぁしかし。確かに…今日はそろそろ時間かの」


今日も二人はオークを相手にしていた。最近のシオンはずっとこの調子だ。アルが死にかけて以降、輪をかけて厳しい。いや、前からだったっけ?

二人にとって、その日はいつも通りの一日だった。結局狩りを切り上げた二人は、十二層の安全階層(セーフティゾーン)からダンジョンの入り口に戻る。


入り口には、街の自警団である騎士が二人立っており、いつも通りその内の一人に呼び止められる。ダンジョンの出入りの際には、ギルドカードを翳す必要があるためだ。ここ十日程、その結果をモニターしているルイさんから教えてもらったのたが、その結果は意外なものだった。

"ダンジョンの出入りに関するデータで、不審な点は無かった。新人冒険者はどうやら、ダンジョンから出た後で行方不明となっている"という物だ。これで捜査はまた振り出しに戻った様なものだった。


その時ちょうど、ダリウスさんがダンジョンに入っていく所だった。ダリウスさんはいつも通り青い長髪をかき上げ、こちらに敵意むき出しの顔をしている。一緒にいる大男はパーティメンバーだろうか。スキンヘッドで巨大な斧を背負っている。いかにもパワーファイターだ。ダリウスさんと打って変わって、こちらに興味もないのだろう。半ば大男に引っ張られる様に、ダリウスさんはダンジョンに入っていった。アル達も何とはなしにそれを見届けると、街への帰路につく。


二日前の一件に関して、単なるストーカーや辻斬りではないと言う意見でアル達は合意していた。ミアさんの護衛をしていた冒険者、彼を襲った二人目の存在の説明がつかないからだ。

恐らく、ターゲットはアルではなくミアさんだ。護衛の存在を把握していた事からも、前々からミアさんの動向を探っていたと思われる。ミアさんは念のため借りている部屋を変えると言っていたが、そちらは首尾良く運んだだろうか。アル達は街へと帰ってくると、夕陽を背に冒険者ギルドへと向かった。


もうこの街で過ごし初めてから一ヶ月半が経とうとしていた。この十字通りを歩くのも小慣れてきた様な気がする。思えば色んな事が次々と起こるものだ。こんなにあれやこれやと内容の濃い日々は今までに無かっただろう。


「シオンはさ…魔界から来たんでしょ?魔界ってどんな所?」

「なんじゃ急に。魔界もこちらもそう変わらんぞ。違いと言っても人間がいるかどうかくらいじゃの」

「山とか川とかの環境も、こっちと一緒って事なんだ?」


いつも通り、そんな他愛もない話をしながら、街を歩いていく。アルにとって心落ち着く時間だ。

冒険者ギルドに到着すると、そこもいつも通りの喧騒。いつも通りにミアさんに挨拶すると、ミアさんだけはいつもと違った。感傷に浸る様な気分でいたアルを、背中を叩く様に急かす。


「おかえりなさい。アル君、早く部屋に………!」


何かあったのだろうとすぐに分かる。ミアさんがこんなに慌てるなんて、かなり不味い事だろうか。部屋に後から入ってきたミアさんは、息つく暇もなく、アルに言った。


「バド君たちが。"竜喰(ドラゴンイーター)"パーティの三人が。一昨日から行方不明みたいなの…!」

「え!?バド達………が?」

「えぇ。ダンジョンの入り口に置いている水晶の履歴を見ると、一昨日の夕方にダンジョンから出て以降、ギルドに戻って来ていないみたいなの…。受付のローラって子が一昨日の朝に話したのが最後みたい」


アルはビックリしていた。自分がこんなにも動揺している事に。彼等の事は、もちろん好きではない。しかし、彼等のために出来ることはないか。そう考える程には嫌いでもないらしい。アルはすぐに決めた。そしてミアさんに一応連絡しておく。


「僕、探しに行きます。今日のカバンの中身、もうここに全部出しちゃいますね。査定しといてもらえますか?」


アルの中で他の新人冒険者とバド達の間に特別違いはない。しかしバド達相手ならば辿れる手段がある。シオンを見ると彼女はアルの考えを肯定する様に軽く頷いた。


「では今からすぐに行ってきます」

「あ、アル君!この件でもうすぐ応援も来るらしいの。だから、無茶はしないで。この前みたいな………」


二日前のあの時の事を思い出していたのか、ミアさんの表情が曇る。


「分かりました。なるべく無茶しないように頑張ります」


アルのその言葉は、ミアさんの心配を払拭は出来なかっただろう。しかしミアさんは柔らかに微笑み、アル達を見送ってくれた。


個人相談室を出ると、そういえばバド達を最後に見たローラと言う受付に話を聞いておこうかと思い付く。そこでアルはローラを探すべく【鑑定】を使った。しかし、その結果はまるで予想外のものとなる。



………え?

なんだろう?

どういう事?


アルには何が起こっているのか分からなかった。【鑑定】が出来ない。スキルが発動していないのだろうか?いや、他の冒険者のステータスは【鑑定】できる。受付嬢の何人かだけが、【鑑定】できないのだ。


その瞬間。頭の中にいつかの会話が断片的にフラッシュバックされる。


"今の受付の子の半分は…"

"顔を見る事が条件…"

"新人冒険者ばかり…"

"ダンジョンの出入りに不審な点はない"


まさか………。そういう事だったのか。いや、そうだ間違いない。やはりバド達はまだ…ダンジョンの中にいる。


「シオン、やっぱりバド達はダンジョンだ。そしてバド達はきっとまだ生きてる。匂いを追える?」

「何か気付いたのか?ならばダンジョンに向かうとしようぞ。あ奴らの目撃は最後が一昨日。まだ、生きておれば匂いは少なからずあるはずじゃ。あの女子(おなご)のつけておる香水がかなりきつめじゃったからの」


シオンの答えを聞くと、アル達はダンジョンへと急いだ。







アルとシオンはダンジョンの中でバド達の匂いを追っていた。


「こっちじゃ」


シオンがはっきりと方向を示したのは九層だった。他の層よりも強い匂いがするらしい。一応十層まで下りてみたが、やはり九層が一番匂いが強いとの事。

そこからはシオンの嗅覚を頼りにかなりゆっくり進む。すんすんと鼻を鳴らすシオンを先頭に、アルはオーク等の魔物を出来るだけ出血が少ない様に倒していく。血の臭いがシオンの邪魔になるかも知れないからだ。そして、二人がダンジョンに入ってから二時間ほど経った頃。二人は行き止まりの前に立っていた。

いや、行き止まりの様に見える、隠し部屋だ。しかも他の部屋よりもかなり分かりにくい。


「僕から入るから、後ろ頼むよ」


行き止まりを覗き込むと、やはり細い通路になっていた。ギリギリ一人が通れる程の狭い道。その隙間を進む。


十メートル程で部屋に着いた。部屋に入る前にこっそりと様子を伺う。かなり広い隠し部屋だ。三十メートルはありそうな円形の部屋。オーガの時の二倍、いや三倍はあるだろうか。


ちょっとしたホールみたいになっているその部屋の奥に、誰かがいる。それも八人………いや九人だ。全員が俯いたまま座り込んでいる。よく見えないが、そのほとんどが下着姿、裸同然の格好。どうやら"アタリ"の様だ。


彼等の表情は虚ろげで、生気を感じられない程だ。彼等の回りには空の小瓶が大量に落ちている。そしてその中に一人だけ、甲冑を着込んでいる奴がいた。甲冑の人物は裸の人達の前まで行ってはしゃがみこむ。そして立ち上がり、また違う人の前でしゃがみこむ。何かを話しかけている様だが、内容までは到底聞き取れない。


それは突然だった。甲冑の人物が、目の前の女の子を殴ったのだ。女の子は弾かれるように倒れる。甲冑の人物はすぐに彼女を引き起こし、そして何と、抱きしめたのだ。彼女の頭を撫でながら、殴った箇所に回復薬をかける。大量の空の小瓶はその行為を多数に繰り返した産物らしい。

具体的に何をしているのかはアルには分からない。しかしその行動には何故か嫌悪しか抱かない。アルの目には、まるで禍々しい行為にしか映らなかった。腸が煮えくり返る様な怒りがアルを支配する。


「今なら背後から先手を取れる。シオンは背後を警戒して」

「待て。相手は一人とは、待てアル!」


シオンの返事もそこそこに聞き流し、アルは通路からスルリと抜け出た。男までの距離は二十メートル。あと数歩分近寄れば【瞬間加速】から【斬撃(スラッシュ)】で一気に勝負がつく。

アルは音を立てないように慎重に歩をすすめ


「後ろ!!」


跳ねる様に前方に回避行動をとった。アルを呼ぶ声はシオンの物だった。かつて何度もそんな場面があったために、後方を確認するよりも先に回避行動を取るように反射付けられている。前方に転がりながら受け身を取ったアルは、背後を確認する。そこには、大きな斧を持った、スキンヘッドの大男だ。そして今度は前、大勢の人達がいる方へと視線を投げる。


やはり、下着姿まで身ぐるみ剥がされた人達は、大半がアルと同年代から二十歳くらいまでの新人冒険者だ。その中にはバド達三人もいた。彼等はこの場に突然現れたアルに反応する事もなく、ただ中空の何かを見つめている。

そしてその前に座っていた甲冑の人物は立ち上がり、長剣を抜いていた。どうやらすぐに攻撃してくる訳では無さそうだ。


そこまで確認してから、アルは背中の傷に意識を集中する。薄皮一枚斬られただけみたいだ。出血も少ない。ちなみに、アルはちゃんと胸当てを着けている。背中も護られているはずだ。スキンヘッドの大男は、そのプレートを易々と切り裂いたと言うことになる。



「おやおや。誰かと思えば。アルフォンス君じゃないか。こんな所でどうしたんだい?迷っちゃったのかな?」


青い長髪をかき上げながら、甲冑の長剣使いは言った。



「こんにちは、やっぱりあなたでしたね」


そこにいたのは、ダリウスさんだった。ギルドで見かける時と何ら変わらない、髪の毛を気にする様な仕草でこちらに語りかけた。


「ん?やっぱり?と言う事は君達はたまたまここに来たわけではないと?

まぁ、そんなことよりもまずは………シオンちゃ~ん?いるんだろ?入っておいで?逃げられたら困るんだよね。今ならアル君を俺達二人で挟んで確実に殺せるけど君はどうする?逃げてみるかい?逃げられるかな?逃げられるといいねぇ!

それよりも、こっちに来てアルフォンス君と一緒に我々と戦ってみるのはどうかな?我々に勝てたらそのまま帰れるけどどうする?」


シオンは迷わず部屋に入ってきた。スキンヘッドの男を見向きもせず、アルに近付いてくる。ダリウスさんはそれに満足そうに舌なめずりすると、くつくつと笑いだした。


「くく…ハハハハ!ようこそシオンちゃん。君の事は本当に喉から手が出るほど欲しかったんだよ。僕は紳士だから、奴隷には手を出さないんだけど。でも君を売るのは躊躇われるなぁ。本当に君は美しいからね。もしオークションに出したとしても金貨千枚は下らないだろう!」

「ふふ…それはまたお褒めに預り光栄じゃの。お主が奴隷として売られていたとしても妾は鉄貨一枚も出せんがな」


シオンの言葉にダリウスさんの顔がひきつる。この状況でビビっていないどころか挑発できる余裕のあるシオンに、ダリウスさんは完全に気圧されている。

この隙にダリウスさんを【鑑定】する。


―――――――――――――――

名前:ダリウス

職業:長剣使い

Lv:23


生命力:2350

魔力:2250

筋力:2200

素早さ:2100

物理攻撃:2450

魔法攻撃:2250

物理防御:2100

魔法防御:2050

スキル:【剣術Lv2】【体術Lv2】【挑発】【魅了Lv1】


武器:グリッド鉄製の長剣【筋力上昇Lv2】

防具:ミスリルのフルプレートアーマー【魔法耐性Lv2】

その他:金のネックレス【変身Lv1】

―――――――――――――――


レベルは前にこいつ自身が言っていた時よりも1上がっている。ステータスは平均するとアルと同じか、アルの方が僅かに下か。戦闘系スキルは【剣術Lv2】と【体術Lv2】、【魔法耐性Lv2】、そして【筋力上昇Lv2】。パワーもある前衛型。しかし剣術スキルも持っていて、意外と純粋な剣士タイプだ。


「オイ。どうした」


その言葉は半分呆けているダリウスさんへと向けられたものだが、発したのはアルでもシオンでもない。ダリウスさんと反対側にいる大男だ。


―――――――――――――――

名前:グリフォン

職業:斧使い

Lv:24


生命力:2450

魔力:2300

筋力:2300

素早さ:2050

物理攻撃:2750

魔法攻撃:2100

物理防御:2200

魔法防御:2050

スキル:【筋力上昇Lv4】【看破】【もぐら叩き】


武器:黒桜鉄の大斧【筋力上昇Lv2】

防具:黒桜鉄のプレートアーマー【筋力上昇Lv2】

その他:金の指輪【筋力上昇Lv3】

―――――――――――――――


こいつ、脳筋すぎ!既に【筋力上昇Lv4】持ってるのに、何さらに【筋力上昇】を三つも着けちゃってんの!?しかも【もぐら叩き】ってまた要らないスキル持ってんな!


何故か精神的なダメージを受けた気分となるアル。

表面下では、既に闘いは始まっていた。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございます!


もしも、続きが少しでも気になる!おもしろい!まぁもうちょっと続けて頑張ってみたら?と思っていただけたのであれば、感想、レビュー、評価など応援をお願いします!


評価の方法は下の☆☆☆☆☆を押すだけです!

あなたのその清き1ポイントが、筆者のモチベーションとなり、ひいてはなろう全体の活性化にどうたらこうたら。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません!


是非ともよろしくお願いします!

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