20話 それこそ直感
「ぜ、全部達成したの?」
「ハハハ…。ミア君。確か君は、彼等が出て行ったのは昨日と言わなかったかい?」
ワーグスの森から帰ってその日の内に、二人は冒険者ギルド内の個人相談室に来ていた。ミアさんとルイさんの前に並べた、依頼に関係する魔物の討伐証明部位と薬草。そしてそれよりもかなり多い、依頼と関係のない魔物達の素材。机の上に載せきらなかったので、半分は床に置いてある。
目の前の二人は、初めてアル達のステータスを見た時と同じくらい驚いていた。ミレイ村の森で初めて、【保管】を使って素材を持ち帰った時のダングを思い出す。
あ、ステータスと言えば、【鑑定】を使ってみるの忘れてた…。試しに使っておこうかな………。
方法がよく分からなかったが、口に出す訳にもいかないので、アルはとりあえず頭の中で【鑑定】と念じてみた。すると、どうやら使い方は正しかったらしい。アルの頭の中に情報が直接流れ込んでくる。
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名前:ミア
職業:冒険者ギルド、アルテミス支部、ギルド職員
Lv:13
生命力:1350
魔力:1400
筋力:1250
素早さ:1350
物理攻撃:1250
魔法攻撃:1350
物理防御:1350
魔法防御:1350
スキル:【直感】【料理Lv3】【達筆】
武器:ミスリルのナイフ【剣術Lv2】
防具:ギルド職員の服【念話】
その他:金のネックレス【変身Lv1】
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おぉ…。なんか凄いなこれ。いやステータスの内容も面白いんだけど、なんというか覗き見してる感じがすごい罪悪感…。でもこの二人にはこちらのステータスもある程度は見せてるし、お互い様って事にしとこう。
ミアさんのレベルは13。冒険者以外でこのレベルはどうなんだろうか?正直アルは他の人のステータスをあまり知らないため、レベル13が高いのか低いのか分からない。スキルで気になったのは【直感】だ。もしかすると、ミアさんが見初めた冒険者は成功すると言うジンクスにも関係しているのかもしれない。
そしてかなり羨ましいのが、ミスリルのナイフ。普段から、勿論今もだが、ナイフなんて持っている様には見えない。どこに隠し持っているのかにもビックリだが、付与されているスキルにも驚きだった。
………【剣術Lv2】。きっとかなり高価な物に違いなかった。剣術スキルは剣を使う者にとっては喉から手が出るほど欲しいスキルだ。それが武器に付いているなんて、金貨百枚くらいしてもおかしくないはずだ。きっと護身用と言う事なのだろう。
アルは続いてルイさんにも【鑑定】を使う。
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名前:ルイ・グラナス
職業:冒険者ギルド、アルテミス支部、ギルド長
Lv:41
生命力:3950
魔力:4200
筋力:3950
素早さ:3950
物理攻撃:3900
魔法攻撃:4150
物理防御:3900
魔法防御:4150
スキル:【カリスマ】【瞑想】【洞察力】
【光魔法】…【光】【光壁】【暗闇】【聖光】【鏡像】【断罪】【聖域】
武器:なし
防具:ギルドマスターの服【念話】
その他:ミスリルの指輪【地獄耳】
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ルイさんのステータスも中々に面白い。やはりギルドマスターだけあって、レベルがとにかく高かった。スキルは【光魔法】は知っていたが、それ以外では【カリスマ】と【瞑想】、そして【洞察力】。残念ながら【鑑定】スキルではそのスキルの説明までは見ることが出来ないみたいだ。それでもある程度は予想出来るが、後でシオンにも聞いてみよう。
そしてミアさんの防具もそうだが、ギルド職員の服には【念話】のスキルがあるらしい。文字から察すると、ある程度離れた距離でも会話できると言うものか。【地獄耳】についてはこの人の趣味だろうな。
「魔物の素材なんですが量が多くてすみません。計算してもらえますか………?」
「あぁ、ちょっと待ってね。すぐ計算するから」
ミアさんが依頼の報酬と、その他の魔物の素材を数えにかかる。普段のオーク肉と比べて種類が多いために、少し時間がかかりそうだ。
「ところで、例の依頼の件なんたが。何か気になる事はあったかなぁ?」
例の、とは誘拐の調査の件だろう。ルイさんも浮かない顔だ。
「いえ、特に不審な物は見ませんでした。この三週間で行方不明のルーキーがいるんですか?」
ルイさんの表情が更に曇る。
「あぁ。それが実はハッキリ分かってないんだ。行方不明の新人パーティは何組かいなくなっている。それが誘拐された可能性もあるが、ただ単にどこかで死んでしまったのかもしれない。特にダンジョンで死ぬと取り込まれるから分からないんだよねぇ」
ルイさんのその言葉で、アルの背筋を寒気が貫く。アルは倒した後でダンジョンに引きずり込まれる魔物を思い出していた。きっとそう言う事で間違いないだろう。恐らく、ダンジョンで死ねば死体も残らないのだ。それは恐らくアルが知らなかっただけで、周知の事実なのだろう。アルの他には誰も反応を示さない。
「待て。それならそもそも誘拐と言うのはどこから出た話なのじゃ?新人パーティがダンジョンから戻ってこないなどありふれた話。それこそお主等が一番良く知っている筈であろう」
ルイさんの表情が強ばり、ミアさんでさえも素材を計算する手を止めた。シオンの言うことはもっともだ。何を以て誘拐かも知れないと言っているのか。
「ここ三、四ヶ月の間で新人パーティの行方不明者数が急増してるんだよねぇ」
「それはあまり当てにならぬな。ここ三、四ヶ月と言えばちょうど暖かくなってきた頃じゃ。それを目処に新人は街へと出てくる。妾達だってそうじゃ。それと共に新人の行方不明者数も増えるものじゃろう」
ルイさんは今度は黙ってしまった。申し訳なさそうに、ミアさんの方をチラリと見やる。そこでアルは、ミアさんがルイさん以上に思い詰めた表情をしているのにやっと気が付いた。
沈黙に気がついてミアさんがその顔を上げると、アルと目が合う。事情を知らないアルには、何と声を掛ければいいのか分からない。しかし、ミアさんは軽く頷いた。
「ギルドマスター申し訳ありません。彼等に話します。
…実は、その行方不明者数が増加する先駆けとなったのが、ギルド受付嬢の誘拐だったんです」
「ほぅ。同じ問いになるが何故"誘拐"と?」
「彼女は責任感が強く、勝手にいなくなる様な人間ではありません。それに自宅には旅路の準備等した形跡もありませんでした。と、色々と理由はありますが、最終的には………私の"直感"です」
ミアさんはシオンの目を見て言い切った。
「………ふむ。そこから続いた新人冒険者の行方不明も、誘拐の可能性があると、お主の"【直感】"は言うておるのか?」
ミアさんはシオンの目を見たまま、力強く頷く。シオンは顎に手を当てて十秒程思案すると、ルイさんに向かって言った。
「妾達ももう少し積極的に調査するとしようかの。まさか妾達だけに調査を依頼している訳でもあるまい。他で得られた情報を寄越せ。
今までの行方不明者のレベル帯や可能な限りのステータス、そして最後の足取り。それから他のパーティからの不審な情報と、現在既に調査を済ませた所等…」
ルイさんはアル達の欲しい情報を全て教えてくれた。行方不明者にはレベル帯以外に目ぼしい共通点はなし。行方不明となる前の足取りとしては、宿泊中の宿から朝いつも通りに出ていったのが最後。
半年前の誘拐組織撲滅の際に、組織の活動範囲だったスラム街や裏路地等には調査をやっているが、それらしき情報は皆無。
残る場所としてはそこ以外の街中か、街の外か。
「街の外で、という可能性はないんですか?
あ!そういえば!依頼でワーグスの森に行った時に、ちょうど僕達も盗賊に襲われたんです。その内の一人が、僕を見て"奴隷として売れるからあまり傷つけるな"と言ってました」
「アル君盗賊にあったの!何で言わないのよ!?怪我は?」
「い、いえ、怪我は無いですけど。すみません少しアルテミスから離れた所の話だったので、勝手に関係ないと思い込んでたみたいです………」
「い、いや、怒ってる訳じゃないんだけど、その…何と言うか。そんな大事なことをだね………」
そんなに僕達の事を心配してくれてたのかな?そこまで真剣になってくれて、嬉しいのと同時にくすぐったい感じもする。そんな事を考えていると、パンッパンッと乾いた音がする。ルイさんが手を叩いていた。
「ハイハイ。今は少し桃色な雰囲気になるのは置いといてねぇ。盗賊に捕まったとなると、恐らくギルドの依頼中となるだろう。しかし今回の冒険者達は、宿を出て依頼を受ける前に居なくなってるからねぇ。
………ただ確かに、冒険者ギルド外での個人依頼は少しずつあるみたいなんだ。もしかしたらそれで街の外に誘きだしているのかも知れないなぁ。そちらに不審な物がないか探させてみるよ。アルフォンス君、情報ありがとう」
「なら残すところは、やはりダンジョンじゃのう。ほら見てみい。もう見つけたも同然ではないか」
「いやシオン、ダンジョンって言ってもこの街くらいの広さが十八層分もあるんだよ?それに、あそこには入り口に見張りの人が立っていたハズですよね?」
「あぁ。あそこには二十四時間、騎士団の者が立っている。それに最近では、出入りの人数を数えさせているのと、人相もチェックさせているよ。一日に出入りする冒険者は五十組以上いるから、なかなか完璧にとはいかないだろうが、彼等もプロだからね。
しかし実はここだけの話。数日後から、ダンジョンに出入りする者をもっと厳しく記録しようと言う事になっているんだ。それが機能すれば、恐らくダンジョンで勝手な事も出来なくなるし、本当に新人がダンジョンで命を落としているのかどうなのかもハッキリとするはずだ。だから君達もそんなに血眼になって調査する必要はないよ。君達の様な冒険者達からの情報を統合して指示を出すのが私の仕事だからね。誘拐が無かったら無かったで良いんだ。別の問題があるのは確かだがね。どちらにせよ君達が必要以上に気負う必要はないよ」
ルイさんはいつもの間延びしたような喋り方と違って、ハキハキと言ってのけた。それはギルドマスターとしてか、一人の大人としてか分からないが、アルの心を落ち着けるのには十分だった。こう言う所が【カリスマ】なのかもしれないな。
そこから今後の行動等、一通り話を終えた後。ミアさんから今回の報酬が渡された。依頼十二件分の報酬が二十四万ギル。そしてその他魔物二十体分の素材が六万ギル分で、合わせてだいたい三十万ギルだ。二日でこれならば、やはり依頼の方がお金稼ぎには良いらしい。報酬金を受け取ってから帰ろうとした時、ミアさんがシオンを呼び止めた。
「あの、シオンさん。何故………私の"直感"を信じてくれる気になったんですか?」
ミアさんからの直球。その言葉にどういう意味が込められているのか、表情からは読み取れない。正直に言えば、こちらはミアさんが【直感】のスキルを持っている事を知っている。しかしそれを知られてはいない。知られるわけにもいかない。
「それこそ妾の"直感"じゃ」
シオンはそう不敵に笑った。
*
それから一週間後。
アルテミスダンジョンの入り口には行列ができる様になった。
ダンジョンに出入りする際に、身分証明が必要となったのだ。
一人一人ギルドカードを取り出し、騎士団員がギルドカードと本人を確認する。その後、騎士団員の横に置いてある水晶にギルドカードを翳す。出るときも同様だ。
ちなみにこれをせずに出入りした場合、ギルドから厳しい処罰が下るとのお達しである。裏の事情を知る者としてはそれも仕方ないと思うのだが、それを知らない一般の冒険者はかなり不満そうだった。アルとシオンの二人も、またダンジョンでのオーク狩り生活へと戻っていた。
ただいつもと違うのは、ダンジョン探索のルートだ。今までは八層まで行くのに階段までの最短ルートを突っ切っていたが、最近はわざと遠回りするようにしている。その中で新人冒険者のパーティを見つけては【鑑定】し、何か異変がないかを見て回った。
今日も今日とて、アル達はお昼前にまだ三層をウロウロとしていた。いつもであれば既に七層までたどり着き、半分くらいは【保管】を埋めている筈なのだが。
しかし、そんな中でもアル達の稼ぎは落ちていなかった。
その理由が………。
「ふむ。またこっちの方に何かあるのう………」
シオンがひくひくと鼻を膨らませる。この仕草は何度見ても可愛いらしい。シオンがどんどんと、階段から遠ざかる方へと進んでいく。辿り着いたそこは、遠目から見ると行き止まりだった。しかしシオンは構わず近付き、"壁をすり抜けた"。
アルもこの光景を見るのは二、三度目になっており、最早そこまで驚かなくなってきている。シオン同様にアルも壁に近づくと、行き止まりかと思わせるような所に"通路"があった。ダンジョンには、どうみても行き止まりだろうと言う所にこんな通路があったり、はたまた壁だと思っていた所がすり抜けられたりと、巧妙な隠し部屋がある。
今回もかなり細めの通路であり、人が一人やっと通れるくらいだ。明かりもまばらなその道をずんずんと進んでいく。そして五メートル程進むと広い空間に出た。隠し部屋だ。今までの隠し部屋よりもかなり広い。幅五メートル、特に奥行きが十五メートルもありそうだ。
そして、その部屋の奥には、木製の箱が置いてある。装飾も特にない、単なる箱。しかしそれがダンジョンが生み出す"宝箱"であることをアルはここ数日の経験から知っていた。
今回の箱はかなり小さい。ゴミ箱ほどの大きさだが、小さいからと言って価値がないとは限らない。一昨日なんかは、もう少し大きい箱から金貨が二十枚出てきたのだから。
「…ふむ。宝箱なのはいいんじゃが。これはどうしたものかのう」
シオンの言葉の意味はアルにも分かった。二人の通ってきた狭い通路から声がするのだ。
「あぁクソッ!先に誰かいるじゃねぇかよ!」
三人の人影が現れると同時に、そんな声がした。その姿を見てアルは小声で悪態をつく。
「まったく、なんでこうタイミングが悪いんだ………」
「ん?お前、まさかアルフォンスか!?」
アル達の前に姿を現したのは、アルと同郷で幼なじみ。
クリスとソフィア、そしてバドの三人だった。
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