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2話 傷が増えるほど価値が出る


「おぅアル!今日も来たか!………ん?今日は一匹だけかい?あぁ…そうか。いやなんでもねぇ」


「…?。今日はなかなかいなくって。いつも通り買い取り頼むよ」


アルとはアルフォンスの愛称だ。本名が長いからという理由で、大体の知り合いがそう呼ぶ。

アルが仕留めたホーンラビットを作業台に乗せると、熊のようなおっさんが手早く見定め査定していく。


このおっさん、名をダングさんと言う。身長は、アル(最近伸びてきてようやく百七十センチに届こうかと言う所)が目一杯見上げるほど。顔には大きな傷がある代わりに髪の毛はない。ちなみに作業台で見えない右脚は膝から下が義足だ。外見はかなり怖いが、結構チャーミングに笑うため女性からの人気は意外と高い。


「おう、そんなら毛皮が三百ギルの………角が大きいな。角が八百ギルでいい。肉は三百ギルで、全部合わせて千四百ギルだ」


「ありがとう、おやっさん」


彼はこのミレイ村で店を構える唯一の存在だ。

定期的に街へ行きそこの商人と、村で獲れた魚や動物等の素材、生活用品等をやり取りしている。よってこの村では獲れたものは何でもダングさんに売るというシステムが確立されている。彼については、昔は名のある"冒険者"だったとか、実は元貴族であるとかの噂はあるが、本人に聞いてもいまいち教えてくれない。

ダングさんからお金を受け取り、財布にしまい込む。財布には一万ギル金貨が八枚と千ギル銀貨が七枚、別ポケットに五百ギル銅貨と五十ギル鉄貨が幾枚か入っている。合わせて十万ギルに届かないくらいか。


ちなみに"冒険者"として活動する人達の平均収入は月二十五万ギルといわれているらしい。つまりウサギちゃんで換算すると百二十五匹も狩ってこないといけない。


まぁでもよしよし、また少しずつ貯まってきたな。

一回防具を揃えた時に減っちゃったんだよなぁ。


「あ、そういえば、次のアルテミスへの仕入れはいつ?」


「次はそうだな。四日後の予定だが。人数もあと一人ならいける。おぉ、なんだ?さてはお祈り(レベルアップ)か?」


「うん、一週間前が十六歳の誕生日だったんだ。それに、もう半年もホーンラビットを相手に頑張ったからね」


ダングさんは、多い時で半月に一度、近くの街へと仕入れに行く。だいたいが最寄りのアルテミスという大きな街だが、半年に一度は違う街にも行っているらしい。仕入れの商品の隙間に挟まれて半日過ごさないといけない為、決して快適とは言いにくいが片道五百ギルで連れていってもらえる。


「あぁ………もうそんななるのか。お前達もいつの間にか育って行くんだなぁ。いいだろう。その日はまた朝イチに出るからな。遅れたらほっていくぞ。朝六時に出る予定だ」


「ありがとう、寝坊しない様にするから!」


そう残して、ダングさんの店を後にする。

店と言っても、アルテミスの街のような立派な物でもなく、二階建ての一階を改造した商店の様な質素な物だ。しかしこの小さな村にとっては唯一の物資供給源であって、ミレイの村民はみんなダングさんには感謝している。


その外見からは想像できない程に温厚で面倒見のいい性格も、皆の人気を集めている一つだ。恐らく四日後にアルが寝坊したとしても、家まで起こしに来てくれるだろう。


何故そう言い切れるのか。

半年前に街についていった時がそうだったからだ。


ダングさんの商店はミレイの中心近くにある。中心といっても小さな村だ。せいぜい家が二十件ほど建っているくらいである。平屋と二階建てが半分ずつくらいの割合だが、建物はどれも総じて古い。これと言った名産品があるわけでもないのに、ダングさんはよく物資を仕入れて来れるものだ。


「おい、アルフォンス!」


突然後ろから声がかかる。

その声が誰のものか解っている。アルが前を通り過ぎるのを家屋の陰からずっとニヤニヤ見ていたのには気付いていた。


あえて気付かないフリをしてたってのに………。

アルは大きなため息を一つ吐きながら振り返った。


「何?バド。あぁ、いい防具だね」


金色に近い髪の毛を肩まで伸ばした男の子。同級生のバドだ。

つり目で、顔のパーツも整っているが、いかんせんやや太い。革で拵え、胸の部分が金属と言うハーフアーマーを着けている。この前までは違う装備だったハズだ。きっと新しい装備を自慢したいのだろう。


バドの巨体の後ろから、取り巻きの男の子と女の子が一人ずつ姿を見せる。男の子の方はクリス。バドの三分の一しかないような痩せた男の子。眼鏡をかけていて、いかにも魔法を使いますと言ったローブを着ている。

女の子の方はソフィア。こちらはややぽっちゃり。の割にはなかなか露出の多い革製の防具だ。バドと同じ素材で出来ている様に見える。


三人ともアルとは同級生だ。昔から事あるごとにアルをいびるのが好きなのだ。

まぁそれには僕にも多少の原因があるんだけど…。


「ほー解るか。これはストーンリザードの革と鋼で出来ててな。胸当てだけでも三万ギルする。ホーンラビットの素材で稼ぐとなると、少し大変かな?」


「ぐっ………三万。それは、素直に羨ましい。」


アルが今着けているのは牛の革と鉄で出来ている防具だ。重さや装着感はそこまで変わらないが耐久性という点では全く勝ち目はない。ちなみにアルの防具は胸当て、籠手、脛当て、靴まで入れて三万ギルくらい。


みるみるうちにバドの顔が満足気なドヤ顔へと変わる。ついでになぜか後ろ二人の顔もドヤ顔になる。


「でもよく考えてみなよ。新品ピカピカでまだ傷ひとつない防具を自慢するなんて、ガキ臭くないかい?」


「おい…お前。馬鹿にするなよ。これは両親からの祝いの品なんだ」


一瞬でバドの顔が真っ赤になる。

まずい、あんまり怒らせると良いことはない。 


「バド君の両親を馬鹿にしたわけじゃないんだけど………。まぁそれは君の両親に次に会ったら謝っておくよ。それにしても、お祝いって………?」


お祝いと言いつつ、太りすぎて前のが着れなくなったのが原因では………等とは思っても口に出さない。


わーなんだろう。わくわく。と言った顔をしておく。

あー早く帰りたい………。


「俺達は四日後にこの村を出てアルテミスに行く。アルテミスのダンジョンに挑むんだ。つまり冒険者になるのさ」


自信に満ちた顔はバドだけではない。クリスもソフィアもバドの同様に、怖じ気などは見られない。


その言葉にアルは正直驚いた。そして焦っている。脈拍が急に上がり、嫌な汗が背中にぶわっと出てきたのが解る。


「ダンジョン?アルテミスにあるダンジョンの適正レベルは17~23じゃなかった?そんなにレベルアップしたの?防具がちょっと良くったって流石にレベル差は危ないよ?」


そのアルの質問に帰ってきたのは一言だった。


「ステータスオープン」


バドの正面空中に、青色の四角い窓(ウィンドウ)が現れる。


―――――――――――――――

名前:バド

職業:剣士

Lv:12


生命力:1250

魔力量:1150

筋力:1350

素早さ:1100

物理攻撃:1350

魔法攻撃:1000

物理防御:1350

魔法防御:1000

スキル:【剣術Lv2】【筋力上昇Lv1】【暗算】【ダンス】【*****】

    

武器:水の剣【水鉄砲】

防具:ロックリザードのハーフアーマー

その他:ソフィアの御護り

―――――――――――――――


"ステータスオープン"。

それは誰もが使える一種の魔法だ。

人は誰しもステータスを持っている。そして一言「ステータスオープン」と口にするだけでそれを表示できる。


バドのステータスを最後に見たのは確か、一年程前だ。その時はレベル10だったはずだ。まだスキルの最後の一つは解放されていないらしい。


それにしても、ソフィアの御守りって何だ?名前からすると横にいるソフィアの手作りってこと?と言うか、素人の子供が作った物でも装備してたらちゃんとステータスには表示されるんだなぁ。

別に欲しいとは思わないが、何となく苛立ちを覚える…。


「へぇ、やっぱり良い防具なんだね。

それに武器も新しいのか………って何?【水鉄砲】って………?」


武器欄の一部に目が止まる。今まで見たことがなかった。

バドは自慢気に剣を抜き放つ。長さは地面からアルの腰ほどもあり、ロングソードに分類されるだろう。まだほとんど使っていないようなツルツルテカテカの剣が夕日を受けて輝っている。


バドはその剣を高らかに構えると声高に言った。


「見るがいい…!【水鉄砲】ッ!」


チョロチョロチョロ…。

言葉で現せばそんな感じだと思う。それでもちょっとオマケしたくらいだ。

………バドの剣の先から水が出ている。


つまり、剣自体に何かしらのスキルが付与されているのだ。

スキルの内容はともかく、付与付きの武器はかなり高いと聞く。きっと武器だけでも金貨十枚は下らないのではないだろうか。


「どうだ解ったか」


どの部分についての"解ったか"なのかさっぱり解らないが、どうやらここまで装備を揃えたとなると、本気でダンジョンに挑む気らしい。確かにクリスはダメージディーラーとしての魔法使い、ソフィアは回復魔法を使えるヒーラーの為、この三人のバランスはかなり良い。


「お前はきっと、まだひとつもスキル解放されていないんだろうが、せいぜい頑張れよ。あ、お前スキル一つしかないんだっけ?じゃあ解放されても無理かー。三才になったばかりのうちの弟ですらスキルが四つあるんだから、まだ希望があるよなー。

でもまぁ、あと五年くらいホーンラビットでコツコツレベル上げすればまぁダンジョンに挑めるくらいにはなるかもな。そこでもお前とパーティー組んでくれるやつなんていないだろうけど」


バドの言葉に、後ろの二人も合わせてニヤニヤしている。

こんな感じの()()には慣れっこだ。もうバドにはずっとこの手の嫌みを言われ続けている。聞き流す事は得意になった。


今の言葉の中で頭に留まったのは、バドの弟が三才になったという事だけだ。


「弟さん大きくなったんだね。家族が悲しむから死なないように頑張れよ」


それだけなんとか絞り出し、アルはその場を後にした。

バドのステータスについても、装備の数々についても、自分のステータスについても、彼らが先にダンジョンに挑むことについても、アルは考えないようにした。


「またなアルフォンス!あ、そうだ。今日はホーンラビット狩れたか?

わりぃな!昨日俺達が十匹近くも狩ったから今日はいなかったろ!」





「あら、おかえり」


家に帰ったアルを優しく出迎えてくれたのは、エプロンをつけた恰幅の良い女性だった。髪の毛は茶髪。歳は今年で四十五歳になる。彼女の微笑みは柔らかで、心が暖まる。


「ただいま。エマさん。はいこれ今日の分」


先ほど手に入れたお金のうち、銀貨一枚をエマさんに渡す。不満顔ではあるが、一応は受け取ってもらえる。


彼女はエマ。アルが本当に小さな頃から面倒みてくれている人だ。実の親ではない。アルには両親の記憶はなく、意識が芽生えた時から母親はエマさんだった。実際に十二歳の時に打ち明けられるまで実の母親と思っていた。


確かその時からだ、母さんではなくエマさんと呼ぶようになったのは。


エマさんは野菜を作って売り、生活している。アルも毎日その手伝いをしていた。しかし半年前からエマさんにお願いし、二日に一回程のペースで山に出掛けている。エマさんはそんな事は気にしなくて良いと言ったが、ホーンラビットを売って出来たお金はほとんどを家に納めていた。


「今日はどうだったの?怪我しなかった?」


エマさんが念入りにアルの身体を四方八方から確認する。彼女はとても心配性だ。

彼女は回復魔法のスキルを持っている。アルが少しでも怪我をしていれば、すぐさま治してくれる。


「大丈夫だよ。

なんか昨日バド達がホーンラビットを十匹も獲ったみたいで、今日は一日かけて一匹しか見つからなかった」


アルの言葉に、エマさんはため息とお叱りで返す。


「まったく………あなた達と言ったら。

お金稼ぎやレベルアップが命の危険を冒してまですることかしら?全く、変なとこだけ父親似ね」


そう言い残してエマさんはキッチンへと引っ込んで行った。ここ半年間の彼女の口癖である。


アルは装備を手早く外すと、傷や留め具のチェックを始めた。バドの新品の装備と比べると、傷だらけでへこんでたりもする。しかしそれは防具が身を守ってくれた事の証であり、そして自分の経験の一部だ。その傷やへこみがアルを護り、そして成長させていると思っている。

一通りチェックが終わると、いつも使っている布を濡らしに水道へいく。装備を拭くための布だ。


途中で鏡の前を通った。

そこには痩身の男の子。かなり背は伸びてきているのだが、縦の伸びに体重があまり追い付いていない気がする。この半年間で筋トレもしているし、かなり筋肉質になった。しかしそれでもダングさんなんかと比べるとまるで爪楊枝の様だ。

髪は黒髪。ここまで真っ黒は結構珍しい様で、気に入っている。母親はブロンドだったが、父親が黒髪だったらしい。顔立ちもまずまずだと思う。変な所もないが、全体的にキリッとした感じもあまりない。未だ幼さは抜けないが、それでも少しは凛々しくなってきたハズだ。


"変なとこだけ父親似ね"


エマさんの言葉を思い出して、何故か嬉しくなる。


「ご飯もうできるわよー」


そんな声に慌てて水道へと走るのだった。

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