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15話 天狗にならないように気を付けよう

冒険者ギルドまで帰ってきたアル達は、扉の前で一回立ち止まると、呼吸を整えてから中に入る。


「まったく、メンタルの弱い奴じゃ」


とは、シオン先生のお言葉だ。二人がギルド内に入ってきた事は、まだ誰も気にも留めていない。


時間帯は冒険者達が完全に()()()()()にはまだ早く、喧騒もそこまでである。アル達が受付に向かって歩き出すと、二人に気付いた冒険者達の視線が集まる。しかしその視線も数秒で外れていく。中にはこちらを見ながらボソボソと話している冒険者もいるが、今となっては極少数だ。

アルが受付の近くまでたどり着くと、ミアさんがこちらに向かって手を上げて挨拶する。そして対応中だった冒険者に頭を下げ、"専属対応中"の立て札を出した。アルとシオンはそれを見届けると奥の部屋に入っていく。後からミアさんが二人を追ってきた。


「お帰りなさい。アル君、シオンさん。お怪我はないですか?」

「ふぅー。はい大丈夫です。また買い取りお願いします」


やっと呼吸が出来る様になった気がした。これまでの二週間は毎日こんな感じだ。特にミアさんが専属となった事がバレた次の日などが一番酷かった。アルのレベル、ランクが共に低いという事も既に知られているのだろう。声も隠さずに野次ったり、煽ったりされた。特にミアさんのファンであろう冒険者からの中傷が酷かった。それも最近ではかなりマシになった方だと言える。もともとファンまではいかなかった人達からの興味は薄れ、それにより熱狂的なファンも大声でアルを中傷できなくなった。


アルはテーブルの上に今日の戦果を出す。もちろん魔力袋っぽくである。オーク肉とポイズンフロッグの毒消し薬。そしてゴブリン銅貨だ。魔力を削られるほどに【保管(ストレージ)】に荷物を入れていた為、初日の倍ほどの量が出てくる。

それをミアさんがクリップボード片手に数え始める。

スーツ姿の女性が、かがんだり、しゃがんだり………。ついつい目のやり場に困ってしまう。シオンの視線が痛い。


「えーとですね、本日のオーク肉買取り金額は千六百五十ギルです。そのお肉が四十一個で六万七千六百五十ギル。毒消し薬が一瓶千ギル、十五瓶で一万五千ギル。ゴブリン銅貨が十八枚で九千ギル。全部で九万千六百五十ギルですね」


ミアさんによって一万ギル金貨が机に積まれた。最近は平均してそれくらいは稼げるようになってきている。二週間みっちりダンジョンに通ったおかげで、財布もかなり潤った。


「まぁオーク肉だとここら辺が限界じゃの」

「そうだね。これ以上効率的に狩ろうとすると、あの地獄をみることになるし。ミアさんありがとうこざいます」


"あの地獄"とは、シオンの声で魔物を集めるあの方法である。

ダンジョンでも集まってくるのかは知らないが、あの閉鎖空間で試す気にはならない。アル達が大丈夫でも他の冒険者を巻き込んでしまうかも知れないため、一度もやっていない。ミアさんはそんな呑気なアル達にため息をついた。口調も砕けた物へと変わる。


「あのねぇ。二人とも言っておくけど、オーク肉なんて普通の四人パーティで一日頑張ったとしても、二十個がせいぜいよ?そもそも二十個お肉がドロップしたとしても持って帰るのが大変なんだから。そもそもアル君達みたいにレベルに余裕もって挑んでる人達が少ないから、そんな数倒してるパーティもいないんだけどね。

それに冒険者の人は、だいたい三日に一日は仕事をせずに休むけどアル君とシオンさんはこの二週間休んでないでしょ?」


他の冒険者ってそんなに休んでるのか。そりゃそこの酒場で呑んだくれる時間も有るわけだ。と言うか、四人でお肉二十個って。一人当たり八千ギルくらい?まぁそれで休みなく働けば月二十五万ギルくらいか。でも三日に一日は休んでるって言ったよな?


「他の冒険者ってだいたい一日にどれくらい稼いでるんですか?」

「うーんランク帯にもよるけど、アルテミスで活動してる冒険者なら平均して月十五万ギルくらいじゃないかな?だから月に二十日働いたとして一日七千ギル稼ぐくらい?もちろんAランクとかになれば月に数百万ギル稼ぐ人達もいるけど。

ってちょっと待って………。アル君は一日九万ギルでしょ?二十日換算したら………一人あたり月に九十万ギルもあるの!?Fランクで!?どうなってるの?」


あぁ確かに………。最悪これだけでも、十分に食べていけるのか。でもこのお金も装備に当てないとだし、エマさんにも仕送りしてもっと楽させてあげたい。何よりこんな所でオーク相手に一生を終えるなんてまっぴらごめんなのだが。


「それにしても、休みかぁ………。確かに、当面のお金の心配をしなくて済むようになったから週に一度くらいなら良いかもね。身体を壊したら元も子もないし」

「妾はどちらでも良いぞ。一日寝て過ごすというのも悪くはない」


こいつはまた、寝ることしか頭に無いのか………。でもアルの意見としては、一日寝てるくらいならダンジョンにいった方がまだマシだった。アルは多分一日だらだらと過ごすというのは向いていない。


「うーん僕はせっかくだから街をぶらぶらと見て回ろうかなぁ。でも休みの日なんて今まで無かったから、結局武器屋とか防具屋とかに行くハメになっちゃいそうだけど」

「アル君は村の出身って言ってたもんね。それなら、何ヵ所かおすすめの場所を教えてあげるよ」

「ミアさんありがとうございます。よし!それならちょっと急だけど明日を一日休みにしようか」

「明日か、それはまた急じゃの。しかしまぁ良い。もし今日レベルアップしたら、身体を慣らす時間にもなるじゃろうからな。そうと決まれば、早い所神殿に行くぞアル。今日は早く帰って、早く寝るとしようぞ」


そうして明日は初めて休日を取ることが決まった。







「レベルアップを祝して!かんぱーい!」

「うむ乾杯じゃ」


アルはなみなみと注がれたジョッキを、シオンのジョッキにぶつける。中身はお酒…ではない。ジュースだ。"竜の翼亭"へと戻ってきたアル達は、お祝いをしていた。そう、レベルアップのお祝いだ。


二人の、もといアルのレベルは19になっていた。僅か二週間で一つ。魔物の討伐数で言えばミレイの森でレベリングしていた時と比べてそんなに変わっていないので、まぁ予想通りではある。森でのレベリングの時は、一度に多くの魔物を倒していたが、その大量の魔物から素材だけを捌いて持って帰るのにかなり時間がかかった。その点ダンジョンでは素材を全部剥ぎ取れない代わりに、一部を剥いで吐き出してくれる。死体を解体する必要がない。それが森と同じ効率のレベルアップを実現していた。


アルとシオンの現在のステータスはこうなっている。



―――――――――――――――

名前:アルフォンス

職業:短剣使い

Lv:19


生命力:2100

魔力:2150

筋力:2050

素早さ:2200

物理攻撃:2100

魔法攻撃:2150

物理防御:2000

魔法防御:2100

スキル:【空間魔法】…【斬撃(スラッシュ)】【(シールド)】【保管(ストレージ)】【召喚(サモン)

召喚:妖狐


武器:コーク鉄の短剣【魔力量上昇Lv2】

防具:リザードの防具

その他:なし

―――――――――――――――

名前:シオン

Lv:19


スキル:【筋力上昇Lv5】【変身Lv5】【吸収(ドレイン)

    【風魔法】…【風鎧(ブースト)Lv2】【風加護(プロテクション)

    【雷魔法】…【感電(スタン)】【(スパーク)

              

共通スキル:【瞬間加速】【運上昇Lv1】【ステータス成長率上昇】【隠蔽】


武器:サーベルナイフ

防具:ダイアボアの革防具【軽量化】

その他:なし

―――――――――――――――


これが、現在の二人のステータスだ。


「初めはどうなることかと思ったけど、かなり順調な滑り出しだな」


半年前と比べたら、レベルも上がったし。諦めかけていた冒険者にもなってアルテミスにも来ることが出来た。


「当たり前じゃ。妾が一緒じゃからの」


そして何より"仲間"が出来た。シオンのためならば、アルは命をかけることが出来る。そう思える仲間に。

ジョッキを煽りながら自信満々に言い放つシオンはいつも通りだ。彼女のそんな自信家な所も。たまに言葉遣いが悪い所も。その言葉の端っこの方にある思いやりも。本当に大切な存在だ。

【召喚】スキルによってシオンと出会ってから、全てが百八十度変わった。変えてくれたのはシオンだ。



「そうだな。シオンには本当に感謝してるよ」

「なんじゃ急にしみじみとしおって。死期が近いのか?」


シオンが縁起でも無いことを言うが、きっと照れ隠しだろう。アルコールを呑んでいる訳でもないのに顔が赤い。


「だってシオンと出会ってから、人生が大きく変わったんだからな。今こうやって冒険者をやれてるのも、全部シオンのおかげだよ」


その言葉に、急にシオンの表情が曇る。


「それは違うぞアルよ。妾はお主の"魔法"によって導かれたのじゃ。始まりは全てアルフォンス。お主じゃ。妾こそ数百年振りにこの世界に来ることが出来て嬉しく思うておる。新たな主も優しいしの。だからと言って天狗にはなるでないぞ。だいたいお主はもうちっと妾を敬わんか。齢千二百歳を越える妾にとっては、お主なんぞ子狐も同然じゃぞ?」


「せ、せんに!?」

「へい!お待ち!肉盛り定食二つね!」


マイさんによってドンッと置かれたお盆のせいで、その話題は強制的に終了した。香ばしいタレの匂いが、一気にアル達の食欲を刺激する。お昼は未だにマズい干し肉を食べているため、アルは朝御飯と夜御飯が楽しみで仕方無い。勿論シオンの千二百歳発言についてもかなり言及したい所ではあるのだが、シオンは既にお肉に夢中になっている。噛まれるのも嫌なので、今は話しかけない方が良いだろう。

机の傍にはまだマイさんがいた。料理を置いてからもそこにいたらしいマイさんは、ニヤリとしてアルに顔を寄せる。


「そういえばアル君聞いたよ?なんでもうちのお姉ちゃんが専属になったんだって?すごいじゃん。あの人どんなに頼まれてもやらなかったのにねぇ。これは本当にもしかするともしかするかもよ?

アル君は歳上好き?そういえばシオンちゃんとは恋人なの?ん?ほら、ちゃかさないからお姉さんに言ってごらん?」

「何がもしかするんですか!マイさんみたいな口の軽そうな人には何も話しません!って。あれ………?」


アルは目をこする。幻覚か?マイさんの後ろにもう一人マイさんが見える。いや………違う。ミアさんだ。ミアさんが震える拳を抑えながら立っている。


「マイ?あなたって人は本当に………」

「え?ね、姉さん………!」


ミアさんは、先程の会話を聞いていてらしい。耳元でのヒソヒソ話だったのだが、何という聴力だろうか。そんなスキルを持ってたりするのかも?アルが呑気にそんな事を考えている間も、マイさんはピンチを迎えていた。


そこからミアさんのお説教が始まった。かなりいろいろと溜まっていた様で、最近の話から数年前の話まで出てくる出てくる。アルはその間に黙々と肉盛り定食を食べながら、たまに同意を求められるタイミングで、ミアさんに加勢する様な言葉を投げ掛けなければならなかった。


そして、アル達が既に食べ終わって十五分が経った頃。ついにシオンが観念した。眠気の限界が来たのだ。こそこそと部屋へと戻っていくのにアルもついて行こうとした所、マイさんに泣きつかれた。


「お願い独りにしないで」


普段の彼女に言われたのなら胸踊る発言ではあるが、今の彼女は涙と鼻水と嗚咽でぐしゃぐしゃである。

仕方無い………僕も早く寝たいし。助け船を出そう………。


「ミアさん。いろいろと言いたい事もあろうかと思いますがそのくらいにしてあげたらどうでしょう?」

「でもアル君。この子はしっかり言い聞かせないと。ここで働いている以上はこの店にも迷惑がかかるんだから。だいたいよ、その髪型は何?」


依然として怒りのおさまらないミアさんは、放っておくとまだかなり長いこと続きそうだ。アルは背中の方でマイさんにここから去るように合図する。


「まぁまぁミアさん。とりあえずこちらの席に座って下さい。お酒飲みますか?…ワイン?いやぁ流石、大人の女性ですね。マイさん持ってきてあげてください。僕がご馳走しますので」

「あ、まぁ………そう?いいの?」

「いいんですよ。ミアさんにはお世話になってますからね。そういえばミアさん。アルテミスダンジョンのボスなんですけどね。何か今からできる対策とかってありますか?やっぱり早い内から意識しといた方が良いと思うんですよね」

「あ、あぁ、それなら………アルテミスダンジョンのボスはオークキングで、普通のオークの五倍くらいの巨体なんだけど基本的な動きはオークと変わらないから………」


そこから、ミアさんの怒りが紛れるまで、十分程度の勉強会が開かれた。マイさんも無事に逃げられた様で、お酒とミアさんの食事を運んできたのは彼女達の母親だった。お母さんもかなり綺麗な人で、二人が美人姉妹となった理由も頷ける。お母さんは、ミアさんがアルと二人でいるのを見て、ミアさんに何か耳打ちした後、肘で小突いてから去って行った。


「お母さんたら…!」

「………?。あ。そういえばなんですが、街の中でオススメのお店を何ヵ所か教えて頂けるとか?明日ギルドに改めて伺おうかなとも思ってたんですが、ちょうど良かったです」


酔ってきたのか顔が少しだけ赤くなるミアさんは、アルの言葉に驚きの表情を見せた。そして何故か、もじもじし始めた。


「あ、あの。そのことなんだけど。明日ね。実は私も急遽休みになっちゃって………。その、良かったら案内…しようか?」


……………え?

それってつまり…………………デート!?


いやいや、まさか。勘違いするなアルフォンス。ミアさんは僕の専属だってことで仕事熱心だから、親切心で言ってくれてるだけだ。そうに決まっている。


「あ!いやその、私も初めての専属だからね?なんか張り切っちゃって!アル君が一人で回りたいって事なら全然場所だけ教えるし!」


アルの様子に慌てたミアさんが、急いで付け加える。ふぅ、やっぱりそうか。専属としていろいろと気を使ってもらえてるらしい。でも一瞬デートって思ったのバレたよな?勘違い男だと思われただろうな。かなり恥ずかしい………。"天狗になるな"と。先程のシオンの言葉が脳内再生される。


しかし、ミアさんの申し出はアルにとってかなり魅力的だった。ただ単に場所を教えてもらうだけより、二人でいろいろと話しながらの方が勉強になるし、何より楽しそうだ。まだ、どこかもじもじしているミアさんに、アルは頭を下げた。


「ミアさんさえ良ければ、是非お願いします」


頭を上げると、ミアさんは嬉しそうに笑っていた。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございます!


もしも、続きが少しでも気になる!おもしろい!まぁもうちょっと続けて頑張ってみたら?と思っていただけたのであれば、感想、レビュー、評価など応援をお願いします!


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません!


是非ともよろしくお願いします!

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