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13話 趣味の悪い男

個室と言っていた部屋はいわゆる客室だった。装飾や置いてある椅子なんかは今までアルが座ったことの無い様な良いものだ。


「どうぞお座りください」

「は、はい」


ソファに促されて座ると、やっぱりふかふかだ。アルの実家のベッドよりも柔らかいかもしれない。そんな幼稚な感想を抱くアルとは裏腹に、対面に座ったミアさんは至って真剣な顔だった。


「失礼ですが、お答え出来る所だけお答えください。ちなみにここでの会話は全てギルド長に報告致しますので、そのつもりでお願いします」

「ほんに………趣味の良いことじゃのう」


隣のシオンが、部屋の中にある本棚を眺めながら言った。

シオンでも家具やら装飾品に興味は有るんだな。意外だ。


「二人のレベルはどちらも18でしたね?」

「はい」

「ダンジョンに挑むのは今日が初めてでしたね?」

「はい」

「本日は二人で、六層まで行ってこられたんですよね?」

「えぇ、まぁ」

「二人だけで?」

「まぁ…二人だけで」

「どこかお怪我は?」

「いえ、してませんが」


なんだか、言葉を選びながら質問されている気がする。


「それは良かったです。次にダンジョンに行かれる時の計画などを教えていただいてもよろしいですか?六層以上に行かれますか?」

「うーんどうですかね?今日のドロップ品の買い取り金額と、六層以降の敵の強さとドロップ品によりますかね?レベル上げの効率と稼ぎのバランス次第です。シオンはどう?」


シオンは何も話さず、肩をすくめるだけだった。


「そうですか………。あの、もし差し支えなければ、あなた方のステータスをお見せ頂く事は可能でしょうか?」


うっ………これは、いくらミアさんには良くしてもらったからと言っても、なかなか難しいお願いだ。ハッキリ言ってしまえば、それは大いに()()()()()()()事だった。シオンはと言うと、目を瞑っている。アルに任せるという事なのであろう。


前々からこうなる可能性は考えていたが、対する選択肢は四つだと思う。

一つ目。見せない。

二つ目。見せるが【隠蔽】スキルで、全て誤魔化す。

三つ目。全部話す。

四つ目。見せるが、部分的に【隠蔽】スキルで誤魔化した上で、ある程度話す。


まぁ四つ目が妥当な所だろうか。今後ミアさんにずっと不審に思われるのは困るし動きにくい。だからと言ってミアさんに関わらないようにするにしても、他の受付の人の所に行っても今日の二の舞だ。そもそもギルドとは関わりを持たないと素材買い取り等の面で面倒だし………。


「シオン。ギルドと関わっていく以上、ミアさんには多少話しておいた方が良いと思う。ギルド長にまで話すかどうかは後で説得する。とりあえずステータスを見せようと思うけど、僕達の事情についてはどこまで話そうか?」


シオンに問う。事情についてどこまで話そうか、とはどの部分に【隠蔽】スキルを使おうかという意味も込められている。

このスキルの便利な所は、ステータスを偽造できると言う事だ。見えなくしたり数字を弄ったり、思いのままである。

早いうちにこのスキルを得られたのは僥倖だろう。


「アル、話すのは良いがそういう事なら少し待て。なにせ、今話せば全てギルド長へと筒抜けとなるぞ」

「いや、だからそれはミアさん次第ってことでし

「まさか!いやぁお見事。これがバレたのは本当に久しぶりですよ」


アルは我が耳を疑った。

ミアさんから男の声が………!え?どういうこと!?

しかしミアさんもビックリした表情で、必死に顔を横に振っていた。そして背後を振り返って誰もいない空間に向かって怒鳴った。


「ち、違うよ!アルフォンス君!今のは私じゃなくて!もうギルド長ですか!?ふざけないで下さい!」

「あははは。ごめんごめん。いやぁミア君とそれにアルフォンス君も、面白い反応を見せてくれるねぇ」


やっぱりミアさんから声がする。なんだこれ?まるで腹話術を見せられてる感じだ。と思った次の瞬間、ミアさんの背後に男の人が急に現れた。


「えっ!?い、い、いつからそこに?」

「いつからと言われると………実は最初からだったりするんだけどね?もっと言うと君達が入ってくる前からかなぁ?」

「筒抜けってことは、この人はまさか………」


ミアさんに確認する。彼女は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。


「はい、この人がアルテミス冒険者ギルドのギルドマスター、ルイ・グラナスです。ごめんなさいアルフォンス君。実は彼から、君達に事情を聞くようにと言われて…。でも私もまさかギルド長がいるなんて知らなかったんです」

「まったくもって信用ならん小娘じゃ」


シオンがここぞとばかりに責め立てる。

この慌てようは本当に知らないのではないだろうか?

いや、女は皆女優だと前にダングに聞いたことがある。わからないからとりあえず黙っていよう………。


「ごめんねアルフォンス君。そしてシオン君。彼女は本当に知らなかったんだ。許してあげてくれたまえ」


ルイ・グラナスと言う彼。苗字を持っていると言う事は、彼は貴族だ。服装も紫を基調とした滑らかな生地の物であり、高級そうに見える。背が高くスラッとしており、ブロンドの髪の毛を輝かせながら屈託なく笑う人だった。いわゆる、いや、どこから見ても紛れもないイケメンだ。


「さぁ、私も会話にいれておくれ。

私の秘術を見せたのだ。是非君達のステータスも拝見したいところだねぇ。そうしてくれたら秘術の種もこっそり教えてあげよう」

「何を戯けたことを」


すぐにシオンが噛み付いた。


「ちょっとシオン駄目だよこの方は多分貴族さ

「勝手に見せて勝手に見破られたのであろう。それに種などない。【光魔法】の一つ【鏡像(ミラージュ)】。【光魔法】自体も珍しいが、それよりも【光魔法】のレベルをそこまで上げた奴の方がよほど珍しいがの」


シオンの言葉に、ルイさんの目が細められる。射抜かれる様な視線は、無意識にアルの背筋を伸ばさせた。彼の中でのアル達の評価や警戒が一段階上がったのが分かる。


「いや、アルフォンス君いいんだよ。私を貴族として扱う必要はない。もともとグラナス家は男爵だし、加えて私はその三男だ。そしてここのギルド長になる前は冒険者だったからねぇ。友人くらいの気持ちで接してもらえると嬉しいなぁ」


盗み聞きしておいて、友人とは………?と思わなくもないが、まぁ悪い人ではなさそうだ。いろいろと隠している事はありそうな雰囲気だが。


「それで、一体何を聞かせてもらえるのかなぁ?」


ここからが本題だ。ミアさんの隣に座ったルイさんは脚を組み、その上に組んだ手をのせた。何というか、口調は柔らかいが、彼の声には得も言えぬ威圧感がある。


「妾は何も喋らん。アルに任せる」

「だ、そうだよ?」


ルイさんがアルへと視線で促してくる。切れ長の目に、鋭く問い詰められている様な気になる。腹を決めるしかなさそうだ。


「わかりました。それではステータスをお見せします」


つまり選択肢としては、四つ目だ。アルは、普段から既に【隠蔽】スキルで偽装してあるステータスを開き、それをそのまま二人に見せた。

そのステータスとは、こうだ。


―――――――――――――――

名前:アルフォンス

職業:短剣使い

Lv:18


生命力:1750

魔力:1650

筋力:1700

素早さ:1900

物理攻撃:1750

魔法攻撃:1900

物理防御:1800

魔法防御:1800


スキル:【空間魔法】…【斬撃(スラッシュ)】【(シールド)


武器:コーク鉄の短剣【魔力量増加Lv2】

防具:リザードの防具

その他:なし

―――――――――――――――



「ほら、シオンも」

「………ステータスオープン」



―――――――――――――――

名前:シオン

職業:魔法使い

Lv:18


生命力:1850

魔力:1900

筋力:1600

素早さ:1650

物理攻撃:1850

魔法攻撃:1950

物理防御:1650

魔法防御:1650

スキル:【風魔法】…【風鎧(ブースト)Lv2】【風加護(プロテクション)

    【雷魔法】…【感電(スタン)】【(スパーク)


武器:サーベルナイフ

防具:ダイアボアの革防具【軽量化】

その他:なし

―――――――――――――――


まず、数字を全体的に少なく修正。そして【召喚】に関するものと、シオンの共通スキルも消している。それだけ【隠蔽】しても、ルイさんとミアさんの口が空いていた。まぁ、これだけでも驚くんだろうな。さぁ………どう言い訳するか。


「………ミア君、【空間魔法】ってスキル聞いたことあるかい?」


ルイさんが僕のステータスから目を離さずにミアさんへと問い掛ける。それに対してミアさんも、シオンのステータスから目が離せない。


「いえ知りませんし、聞いたこともないです。それにこっちのシオンさんのステータスも見てください。【風魔法】と【雷魔法】で魔法スキルが二つ。複数魔法使い(デュアルマジシャン)なんて、元Sランクのニコラス・ミラーくらいしか聞いたことないですよ」


やっぱりまずかったかな………?

最初に理解が追い付いたのはルイさんの方だった。


「いやはや。恐れ入ったよ。

シオン君のステータスは、本当に驚いた。成長次第ではきっとこの国のトップに立てるほどの力を得るだろう。

そして、アルフォンス君。君のスキルである【空間魔法】がどんな魔法なのか、私は今までに見たこともなければ聞いたこともない。出来ればどんなスキルなのか教えて頂きたいんだが?」


やっぱり、そこだよね………まぁ狙い通りではある。

アルはあえて、【空間魔法】を隠さなかった。やはりアル達の事を怪しいと思った二人を騙すには、ある程度の真実は必要だからだ。しかし、【空間魔法】の真髄とも言える【召喚】については一切話す気はない。


「えぇ、いいですよ。もちろんまだ僕にも解っていないところは多いですが、今のところ【空間魔法】で使えるのは【斬撃(スラッシュ)】と【(シールド)】です。【斬撃(スラッシュ)】は斬撃によって空間を斬る魔法で、斬撃の物理攻撃に魔法威力が上乗せされる様です。

また【(シールド)】は防御に使う魔法で、剣や手で指定した空間に壁の様な物を作り、物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ防御的な魔法です」


急に懇切丁寧に説明を始めたアルに、二人ともキョトンとしている。


「ちょっと、ちょっと待ってくれアルフォンス君。つまり、【空間魔法】とは、近接戦闘用の魔法と言うことでいいのか?」

「まぁそうですね」

「なるほど……………。今までに近接戦闘用の魔法スキルは聞いたことがない。君達がステータスの漏洩を警戒するのも納得だよ」


ルイさんの問いかけに頷く。アルはまだこのルイ・グラナスと言う人物を信用したわけではない。しかし、今後の事を考えるとこれぐらいは仕方ない。実際に戦闘している所を見られたらすぐにバレてしまう程度の事だ。


「このことは他言無用でお願いします。僕にはスキルがこれ一つしかないので、知られると非常にまずいですから」

「あ、あぁ分かっている。スキルは強みと共に弱点でもあるからねぇ。それは私も重々承知しているよ。この事はミア君も決して口外しないように」

「はい。ギルドマスター。アルフォンス君、シオンさん。誰にも言わないと誓います」


その二人の言葉は、本当の様に思えた。アルだって話した時点で、この情報が洩れると言う事は覚悟している。そうでなければ知り合って数日、ルイさんに至っては十数分、の人に話さない。話してはいけないのだ。だからもしもこの二人から情報が洩れたとしても、別に怒らないし、仕方ないことだと割り切るしかない。もちろん今後の付き合い方には影響するけど。


「実は何故、今回君達に興味を持ったかと言うとだね。半年程前に"烈火"と言うパーティのセシリアと言う冒険者から頼まれたんだ。もしもアルフォンスという名の十六歳の男の子が来たら、目をかけてやってくれ。とね。

私はもう五年も彼女の気を引こうと頑張っていると言うのに、全くもって成果が得られなくてね。一体どうすれば彼女の関心をそこまで買えるのかと疑問に思っていたんだけど、理由が分かったよ。

………君は酷く人を惹き付ける魅力みたいなものがあるね、アルフォンス君。いや、その特別なスキルももちろんそうなんだが、何というか。君の人柄も………なのかな?」


最後のルイの言葉はウインクと一緒にアルに向けられた。あれ………なんだろう。背筋が寒くなる。何故か半年前のスキンヘッドを思い出した。ミアさんもそんなルイさんを軽蔑した目で見ている。



「と、とにかく。

まぁスキルに助けられてですが、ダンジョンに挑むのに問題は有りません。こんな時間ですし、もうお(いとま)しても?」

「いや、待ってくれ。そう言う事なら君に依頼があるんだ。冒険者ギルドからの指名依頼だ。報酬と、ランクへのポイントも弾むよ?」


ルイさんがここぞとばかりに身を乗り出した。と、同時にアルも身を出来る限り身を引く。


指名依頼。それはギルドまたは要人、貴族等から、名指しで冒険者またはパーティに依頼が向けられる事を差す。一般的には高い実力、特殊な技能等を必要とされることが多いため、高ランクにならないと指名依頼など来ない。


「ギルド長待って下さい。彼等はまだ普通の任務も受けたことが無いんですよ?」

「おっと……………そうだったね。まぁ指名依頼と言っても、普通の依頼とそんなに大きくは変わらないし、ダンジョン探索の片手間に出来るくらいの物だ。そんなに気負わなくても大丈夫だよ。これと言ったノルマもないしねぇ。依頼の受け方や報告等は、ミア君を専属につけるから教わると良い。こちらとしても君達の将来性を考えると、関係性は太くしておきたいしねぇ」

「え、わ、私が専属に!?………ですか?」

「なんだい?嫌だったかい?君もそろそろ一度担当くらい持ってみると良いよ。これ以上の機会は無いと、僕は思うけどねぇ?」

「いえ、あの…その…。はい…まぁ、良いですけど」


ルイさんに急に役目を押し付けられ、歯切れの悪いミアさん。目が泳いでいる様な気さえする。なんだかミアさんに迷惑かけるのも申し訳ないな。

いや、違う。違うよ、そう言う事じゃない。ちょっと待って、そっちで話を進めないで………。シオンはうとうとし始めたし、こいつ本当に真面目な話は聞かないな。


「あの、ちょっと待って下さい。指名依頼って、僕達に受けるかどうかの選択権はあるんですか?もし有るなら、内容を聞いてから決めるとかでも大丈夫なんですか?」


二人の間に割って入る形で尋ねる。その答えはどちらも可能との事。もし僕達に話を聞く気があるなら、また明日ギルドに来た時にでも話そうという事になった。明日もダンジョンには行こうと思っていたが、まぁギルドに寄るくらい何でもないため話を聞く事を了承する。

何だか急展開にため息が漏れた。シオンは聞く気が無いどころか、もはや夢の中だし。


「では帰る前に、素材の買い取りだけお願いします」

「あぁ。そうだねぇ。もうこの場でしてしまおう、出してくれたまえ。ちなみにゴブリンから出た銅貨も、国に報告しなければならないので出してもらわないといけないよ」


アルは【保管(ストレージ)】から、銅貨を合わせた素材を全て取り出す。オーク肉が二十五個。ゴブリンから出た銅貨が三十五枚。そしてポイズンフロッグのドロップ品である毒消し薬が六瓶。出てきた量にミアさんとルイさんがかなり驚いた表情をした。


「あ、魔力袋を持ってるんです」


すぐさまアルは言い訳する。これも決めてあったことだ。魔力袋とは、【保管(ストレージ)】と同じ様に沢山の物を入れることのできる袋の事だ。かなり珍しい物で、その利便性は言わずもがな。行商人ならそれを持っているだけで必ず成功すると言われ、売ってもかなりの財産となるらしい。アルも実は本物は見たことがないのだが。

なので机一杯に並んだお肉を、アルはわざわざ鞄から出すフリをした。


「そ、そうなんですね。私もセシリアさんが持っているのを拝見した事はありますが、やはり便利なものですね。これでは買い取りの事も含めてますます専属が必要ですか」


あぁ、セシリアさん確か、鉄の剣やらローブやらを一瞬で出したりしまったりしてたっけ?あれが魔力袋なのか。

ミアさんは机の上に並んだ素材を査定し始める。どのくらいの金額になるのだろうか。きっとぼったくられる事は無いと思うが、これからのアル達の生活に関わるのだ。

銅貨だけで三十五枚つまり一万七千ギル程あるのは確定だ。なのでそこまで深刻でないどころか、かなり余裕がある方なのだが。


「はい。それでは、まずオーク肉からですが、ダンジョンドロップだとこれ一つで三キログラムになります。今日の買い取り額が一つ千七百五十ギルなので、二十五個で四万三千七百五十ギル。毒消し薬が、一瓶千ギルで、六千ギル。ゴブリンからドロップした銅貨三十五枚一万七千五百ギルと合わせて………六万七千二百五十ギルになります。ちなみに手数料は抜いた金額になります」


アルは思った。

半年間、森で死ぬほど頑張った甲斐があった………と。

そして無意識にシオンの頭を撫でていた。

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