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110話 最後の地

翌日。

アル達は武器と防具をマルコムさん、ガブリエルさんの店に整備に出すと、それの出来上がりを待つ事なく出発した。


とりあえず移動中に関しては派手な戦闘は起きないだろうから、また出来上がった頃に【空間転移(テレポート)】で取りにくればいい。

アル達は前に使っていた武器や防具があるし、ガルムなんて【装備換装】のスキルで何種類も持っている。


「ここは相変わらず乾燥して埃っぽいの」


「確かに。冬だけどだいぶあったかいし」


「手前はやはり、寒いより暖かい方が安心する」


三人はクープの街に来ていた。

空間転移(テレポート)】で来れる一番東に位置する街がここだった。


サラン魔法王国の玄関口と言われるこの街から、首都セレーヌまでが馬車で四日。そしてセレーヌからさらに最東端の港町ボーディングまでが三日かかるらしい。


と言う事で、ここでも最初に冒険者ギルドへと向かう。

セレーヌや、もし可能ならボーディングまで、どうせなら護衛の依頼があれば自分で馬車を雇わなくて済む。


「お!?アルフォンスじゃねぇか!」

「あん!?マジかよ!」


冒険者ギルドに入ると、またしても名前を呼ばれ、見覚えのある巨漢が近づいてきた。


「久しぶりです、ベルモンドさん、メッツさん」


二人はここの冒険者ギルドの元締めみたいな存在だ。

今からダンジョンに行くところだったのだろう。

フル装備で気合も充分と言った様子だ。


「という事は、皆さんまたここのダンジョン再開したんですね?」


「がっははは!いつの話してんだよ!?たとえマンティコアが出ようが火竜が出ようが、今度こそ俺たちの手でぶち殺してやるってなもんだぜ!なぁ!?野郎ども!!!」

「「「「おぉおおおおぉぉぉおおお」」」」


何故か冒険者ギルド全体が呼応して盛り上がっている。もともとそうだったが、あのマンティコアの一件以来、ここの冒険者達は一体感がすごい。


「それより聞いたぜ!お前等クランに入ったんだってなぁ!?」

「しかもあの有名なクランによぉ!?」


やっぱり"災転(さいころ)"クランに関しての関心は高い。知り合いに会うたびに話題に上がる。

そして最近知ったのだが、"災転(さいころ)"クランはその人気の高さから、グッズ販売などもやってるとかなんとか…。もっと早く知ってたら僕も買ったのに…。


「今日はどうした?また何日かいるのか?」

「いえ、残念ながら、これから首都の方に向かうところなんです。なので護衛依頼があればと思って…」

「まぁそうだよな。お前等はもうここのダンジョンには用はねぇわな。もうレベルもあの頃よりすっかり上がってんだろ?どれくらいなんだ?こっそり教えてくれよ…?」


レベルについてはなんとかかわしながら、今日もガラガラの受付嬢、もといギルド長であるシャルロットさんのカウンターに向かう。


「すっかり時の人になってるわね。聞いてるわよ。クランの話も、テンゴールのダンジョンの話も。で、次はどこのダンジョンを救いに行くのかしら?」


シャルロットさんは以前より顔色も良く、元気そうだった。体つきも、以前に増して筋骨隆々となっている気がする。


「そんなことより身体の調子はどうじゃ?まだ飴玉を食べておるようじゃが、以前のものとは匂いが違うのう」


「えぇ、この飴玉は凄いわよ。みるみる体が良くなっていくのを感じるわ。もうほぼ治ったと言っても過言でないくらいに。あとは二週間ごとにエルサの診察を受けて、あと二ヶ月くらい何の問題もなければ完成って感じらしいわ。ただ、利権の問題でサランの王族が口を出してきて、一悶着あるかもだけど…」


「それはまたややこしくなりそうだね」

「全て取り上げられんかっただけマシじゃの」

「何にせよ、できるだけ早く普及してもらいたいものだな。今にも苦しんでる人がいるわけであろう」


ガルムの意見に賛成だ。

誰かが得をするために、その薬の普及が遅れるなんて事は絶対にあってはならない。


「あなた達なぜそんなに人ごとなの?あなた達も関係してる事なんだけど」


「え?ど、どのあたりがですか?」


シャルロットさんの思いがけない一言に動揺が隠せない。

マンティコアの毒袋に関しては、アレクサンドリア伯爵からの依頼が既にあったため、納品して依頼達成と言う形になっている。それ以上の何かは無い。


「あなたたちはあの依頼の報酬をまだ受け取ってないでしょう?」

「いや、五十万ギルも貰いましたよ?」


そうなのだ。

アレクサンドリア伯爵が出していた依頼書の報酬の所には、要相談的な事が書いてあった。それでアレクサンドリア伯爵から、とりあえずはこれだけしかないが…的な事を言われつつも五十万ギルも貰ったのだ。


「そうね。それでアレクサンドリア伯爵は、赤毒病の治療薬が完成した場合、その利権の一部が、貴方達にもあるとして国へ報告したのよ」

「え!?何でそんな事を!?」

「礼はまた追って必ずする的なこと言われてたんでしょ?」

「そりゃ、言われましたけど、晩御飯ご馳走になるくらいで良かったのに」


利権の一部とか正直ややこしい事になりそうだ。かなり。


「はぁ。晩御飯って…。本当にあれの価値を分かってないのね」


「いや分かってますよ。赤毒病の人が治るんですよね?」


アルが将来、赤毒病になってもこれで安心だろう。


「それじゃ、その赤毒病になってる人って言うのはどんな人?」


「えっと、高ランク冒険者が多いって事でしたね?」


「ふむ。つまりは難病で死を待つしかない高ランク冒険者を甦らせる薬という訳だな。それで国が出張ってきていると言う事か」


と言ったのはガルム。


「そうなればそれによって得られる富はケタ違いとなると言う訳じゃの」


これはシオン。


「待って待って。話についていけてない」


ガルムとシオンはどうやら理解できたみたいだが、アルはさっぱりだ。それに丁寧に答えてくれたのはシャルロットさんだ。


「赤毒病の患者は、各国に二十人ずつはいると言われているわ」

「各国二十人ですか?それは、何と言うか、思っていたよりも少ない…ですね」


人口比率からしたら何パーセントなんだ。

そんな一部の人だけが対象なのか。


「その数字だけ見ればね。でもその二十人が、全てBランク以上の冒険者、中にはSランク冒険者もいるとしたらどう?彼等が復帰すれば、一番恩恵を得られるのは彼等が所属する国よ。彼等が国にもたらす利益は計り知れない。さらには、高ランク冒険者の存在自体がその国の軍事力に直結するとも言われている。

さぁ、ここまで話してあなたがロザリオ王国の王様ならどうする?サラン魔法王国は赤毒病の患者を治して国力を増強、さらには今後永久に赤毒病に倒れる冒険者はいない。もっと言えばあなたの国で赤毒病にかかっている冒険者までサラン魔法王国に所属を変えると言い出すかもしれない。

さぁ、その治療薬、またはその製法、いくら出すかしら?」


なんだか、想像していた百倍とんでもない話だった。

高ランク、特にA級以上の冒険者は、単なる冒険者とは違う。その国の軍事力に数えられる事になる。


たった二十人?………とんでもない。

それだけで一国を滅ぼせる程の戦力が復活するわけだ。


「ようやくことの重大さが分かったようね?あなた達がマンティコアの毒袋を持ったまま一ヶ月音信不通になった時には、肝が冷えたわ」


「本当にすみませんでした」


「またアレクサンドリア伯爵に会って、その件について話をしておいてちょうだい。今はセレーヌの方にいるから。ジュリアも一緒にね。まだ薬が完成するまでは時間があるけど、なるべく早めにね」


「はい…」


ぐううう。ボーディングに行きたいだけなのに、やる事が増えてしまった…。


「それでシャル、ボーディング方面に行く護衛依頼はないか?」


「あぁ、ちょうどいいじゃない。セレーヌにも寄って行きなさい。あと護衛依頼、あるわよ。ねぇちょっと!ジョーに、ようやく出発できるわよって言ってあげて!」


シャルロットさんが声をかけたのは酒場の方だ。

どうやらジョーさんと言う方が依頼主らしい。


「ジョーの奴なら、痺れ切らしてついさっき出発しちまったぜ!」

「…だって。残念だったわね」


「ついさっきならまだ間に合いますよね。先に下に行って待っときます」










「あ!きたきた!あれかな?おーい!」


アルはクープの螺旋通路を降りてきた荷馬車に声を掛ける。止まってくれるかどうか分からなかったが、アル達の少年少女と竜人と言う風貌で盗賊などではないと判断された様だった。


「おう、坊主どうかしたか?何してるこんなところで」


「ジョーさんですよね?今からボーディングまで行くと聞いてここで待ってました」


ジョーさんは恰幅の良い中年男性だった。

一見して人の良さそうな感じだが、その柔和な雰囲気に反して目の奥には鋭い光がある気がする。


「聞いて待ってた…って。誰に?いつ聞いたんだい?」


「ついさっき、クープの冒険者ギルドで。そしたらもう護衛なしで出発したって言うから、ここに先回りして待ってたんですよ。はい、これがボーディングまでの護衛依頼の簡易依頼書になります。僕達はC級の冒険者パーティです。護衛に雇ってもらえませんか?」


ジョーさんはひどく混乱した様子だったが、一応シャルロットさんに一筆書いてもらったものが有り、それを渡したら快く雇ってもらえる事になった。


「助かったよ。困ってたんだ。ただでさえ予定より遅れてるからね」


「それなら心配は要らん」


シオンが荷馬車を引く四頭の馬に近寄ると、新しく習得した魔法を使った。


「お主も聞いた事が有ろう。【疾駆(マラソン)】の魔法じゃ」


「おおおお!まさか【疾駆(マラソン)】が使えるのかいお嬢ちゃん!こりゃ遅れた分を取り返せる!こりゃ報酬にも色をつけなきゃなぁ!ささ、早く乗ってくれ!出発しよう!」


シオンが使ったのは今回習得した風魔法だ。

レベル40で習得する。効果は、周囲にいる生き物の持久力を向上させる。効果時間は一時間。


この効果は馬などにも適用されるため、だいたい予定よりも早く到着できる。護衛任務では重宝されることが多い。わざわざ依頼書に【疾駆(マラソン)】持ちは優遇、など追加で書いてあることもあるくらいだ。


アル達が荷馬車に乗り込むと、すぐに出発した。


この荷馬車はボーディングまでの直行だ。途中でサラン魔法王国の近くの街は通るが、素通りの予定。アレクサンドリア伯爵の所には帰りにでも寄ろう。まだ赤毒病の治療薬も完成していないと言っていたし。


今はシオンの心当たりって奴に最速で向かいたい。

先程、アルテミスを出発する前に会ってきたセシリアさんは、また一段と痩せている気がした。


「シオン、そろそろ教えてよ。ユグドの葉の手がかりって何のことなの?」


「む?あぁ、そうじゃの。あまり期待させたくはないから言わんかったのじゃが。まぁもう良いじゃろう」


ガルムも、興味深げに眉を持ち上げている。


「そもそも数百年前。アリアに召喚されていた時代には、ユグドの樹はまだ存在していた。その治療薬も、かなり高価じゃったが、手に入らないほどでは無かった。そしてそのユグドの葉を使った万能治療薬は、精霊薬(・・・)と呼ばれた」


「え!?精霊薬ってたしか、フローラの病気を治療するのに使った薬じゃ…」


「そうじゃ、よく覚えておったの。そしてその段階で、アリアはまだ数本の精霊薬を【 保管(ストレージ)】に持っておったのじゃ。

そして知っての通り、それ以降、妾達はキースとフローラと一緒に住んでいた。しかし妾達は各国から追われる身であった故、もしも妾達の誰かに何かがあった時のために、ある場所に回復薬やら金品を少しだけ隠しておいたのじゃ。その中に精霊薬も一本あった」


アルはその話を聞いて興奮していた。

リアムさんが言っていた。ユグドの葉を使用した薬は完璧な回復薬で、何百年経とうとその効果は失われないと。


「それって…それって凄いよ!!!よく思い出したねシオン!」

「数百年越しのタイムカプセルとは、洒落が効いているな」

「じゃが、確実にあるとは言えぬ。あれからアリアかフローラが持ち出した可能性もあるし、そうでなくとも数百年の月日で無事かも分からん」


いや、ある。

絶対にある。なぜか、アルはそう確信できた。


「どこにあるか分からないユグドの葉をイチから探すよりよっぽど可能性は高いよ!それで?それはどこに隠してあるの?」


シオンはそこで初めて言い淀んだ。


「あれ?シオン…?」


数秒の後、意を決した様に言った。


「最後の地。妾とアリア、キースとそしてフローラの四人で住んだ。あの屋敷の床下じゃ」

ここらで一回更新止まります。


『職業"ゲーマー"でも、努力すればチート高校生達に勝てますか? 』という作品もよろしくお願いしまーす!

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