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109話 次の目的地

意識がシオンの記憶の中から戻ってくる。


一瞬だけ、自分の身体が自分のものでない様な不思議な感覚に陥るが、その違和感はすぐに消え去った。

そして残ったのは酷く後味の悪い疑問だった。


「え…おわり………?それから……?それからどうなったの………?」


シオンは一度だけ鼻をすすると、少しだけ首を振った。シオンも一緒に今の記憶を追体験していたという事だろうか。


「わからぬ………。そこからまた【召喚】されるのを待っておった。アリアが無事であったなら、また呼び戻してくれるであろうと。しかし何年、何十年、何百年待とうと、ついには【召喚】されることはなかった」


森の中であてもなく待ち続けるシオンを想像すると、胸が締め付けられる。


「じゃがあの時、キースは間違いなくもう死んでおった。つまりはキースのスキルも解除されたじゃろう。となれば、結局、【腐食の呪い】によって数日内にアリアも息を引き取ったであろう事は想像できる。であれば、わざわざもう一度【召喚】して死ぬところを見せることもないと、アリアなら考えたじゃろう」


話を聞く限り、彼女は本当に強い人だった。

本当にそう考えて、一人で息を引き取ったというのも十分に有り得る。


そして、この記憶からシオンが伝えたいことも、なんとなく理解できた。同時に、今までアルが人を殺した時には、常にシオンはアルの事を案じてくれていた事を思い出す。


「シオンは、僕がアリアさんみたいになるのが怖いって事?」


シオンと真っ直ぐ見つめ合う。彼女は確かに、それを口に出すのを躊躇っていた。


「そうじゃ。アリアは、復讐心に囚われた。そして、強くなるために、人を殺した。人殺しを、自らが強くなる手段とした。そして彼女は、その言葉通り、人類最強と言えるまでに強くなった。しかし彼女は確かに。最期にこう言ったのじゃ。"ずっと後悔してきた"と。

妾はお主が復讐のために力を欲する様になるのが怖い。力を欲するあまり、人を殺すのでさえいとわなくなるのが怖い。お主が、お主のままでいられなくなるのが、どうしようもなく怖い」


シオンは初めて、アルに涙を見せた。


その涙はきっと、アルに向けてだけではない。彼女が一人で過ごした数百年もの間、溜めてきた涙だった。

自然と、アルの頬にも涙が伝っていた。


「話してくれてありがとう。シオン。確かに最近、人の生死が身近で多くて、自分の中でもちょっと分からなくなる事が多かったんだ。

はっきりと誓うよ。僕は復讐には囚われない。積極的に人を殺してレベルアップをすることもしない」


はっきりとそう口に出して、シオンに約束し、さらには自分への戒めとする。

復讐に人生を費やしたアリアさんの様に、後悔しないために。


「………さっきのリアムさん。僕に頼みがあるみたいだった。たぶん、【空間転移(テレポート)】でナディア教の追撃をしたかったんだよね?

正直、あのままだったら協力してたんじゃないかと思う。でもシオンが正直に話してくれてよかった。踏みとどまれたと思う」


アルの言葉に、シオンは少しは安心した様子だった。

力なく笑うと、アルの手を握った。


「感謝するのはこちらじゃ。お主の、人の助言を聞き入れることの出来る素直な所が、妾は大好きじゃ」


「それには手前も同感だ」


突然話に戻ってきたガルムに少しびっくりしながらも、アルは嬉しかった。


「リアムさんはもう出発したかな…?」


「わからぬ。少し時間がかかったからの。あと、そうじゃ。今回は悪いことばかりではないぞ。昔話をしておったら、ユグドの葉を使った治療薬について、心当たりを一つ思い出した。可能性は僅かじゃが、まったく当てがないよりはよかろう?」


「本当に!?なら急がなくちゃ!」


そこからアル達三人は、リアムさんを探しに外に走った。


エルフの里はいまだに混乱の最中だったが、リアムさんの行方はすぐに分かった。追撃の部隊を編成していて、今まさに出発しようかと言うところだったのだ。


「リアムさん!」


「アルフォンス君!あの、先ほどはすみませんでした。告白します。たとえ一瞬でも、貴方を復讐の道具にしようとしました」


リアムさんは、本当に急いでいるタイミングだと言うのに、アルに向かって誠心誠意の謝罪をしていた。


「リアムさん、分かってます。僕だって、シオンと話して一度落ち着かなければ、先頭切って追撃に向かっていたかもしれません。

友人の権利を失ったなんて悲しい事を言わないでください。貴方はすぐに思い直して、その頼みを口にする前に謝罪してくれました。それが何よりの友情の証じゃないですか。これ以上僕は手をお貸しできませんが、僕はこれからもリアムさんと友人でいたいです」


「おい!リアム!準備はできてる!行くぞ!」


リアムさんを急かしにきたのは、ジェロームさんだ。リアムさんは手で合図すると、もう一度こちらに向き直る。何か言おうとしたところで、いきなりガルムが割って入った。


「リアム殿。すまぬ。一つ耳に入れておきたい事がある。先ほどのナディア軍の中に紛れて、"適合者(サバイバー)"の者がいた。今回ナディアを焚き付けたのはそいつらの様だ」


その報告に、リアムさんだけでなくアルやシオンも驚いた。そしてリアムさんは、苦虫を噛み潰した様な表情になる。


「あとリアムさん、シオンがユグドの葉に心当たりがあるみたいなんです。可能性は高くないらしいですが、僕達はこれからそこに行ってみようと思います」


「本当ですか!?」


これには、リアムさんの心も動いた様だ。

はっきりと表情に希望の光が見える。


「リアム!早くしろ!」


またしてもジェロームさんの催促の声がした。

追撃隊の中には、クレイさんの姿も見えた。


リアムさんの葛藤は、まるで透けて見える様だった。

追撃に行くべきだが、ユグドの葉を探しに行く必要もある。


アルからは何も言えない。リアムさんの決断だ。

彼はエルフだ。この追撃は単なる復讐と言うだけでない。彼の行動一つが、今後のナディアとの戦争に大きく関わってくる。


「皆さんすみません…。私は、エルフの里を、こらから失われるかもしれない命を守る事を、今は優先させてもらいます」


「分かりました。とりあえずこっちの事は僕達に任せてください。高難易度ダンジョンに行くわけではないので、僕達だけでも大丈夫です」


リアムさんはまたしても深く頭を下げてから、追撃隊の元へと走っていった。



そこから、アル達三人は里の長であるラウルさんの所に向かった。

事情を話し、すぐに出発しなければならない事と、里の復興を手伝えない事を謝罪する。しかし、ラウルさんから帰ってきたのは感謝の言葉だった。


「聞けば敵兵五百人の内の百人近くを、お二人で倒して貰ったと言うではありませんか。見ず知らずのこの里のために命をかけて下さった貴方がたはまさに英雄です。またいつでもいらして下さい。その時の情勢にもよりますが、精一杯のもてなしをさせていただきます」



深く頭を下げるラウルさんに、アルは恐縮してしまう。


「ラウル。感謝というのなら、妾からも礼を言わねばならぬ。お主の小言のおかげで、最悪な事にはならんかった様だ」


それは何の話かは分からないが、二人にはそれで十分だったみたいだ。ラウルさんはシオンの言葉に、軽く頷いただけだった。









まず三人が【空間転移(テレポート)】で向かったのは帝国の首都イージスだった。


ちなみにシェイラに関しては、先にゴールドナイツへと送り届けている。

「またあそこに戻そうって?アンタほんとにいい性格してるよ」

と泣き言を言っていたが。


なぜイージスかと言うと、ラウルさんからイージスの冒険者ギルド、ギルド長であるエイブラハムさんに手紙を預かってきているからだ。


手紙には、今回の件に関しての経緯が書いてある。

エルフの里には伝達に割く人手も惜しいだろうからせめてもと、こちらから申し出た。


ついでにエルフの里に入る時の手形のお礼も言おうと思っていたのだが、エイブラハムさんはナディアが攻め込んで来たと知るや否や、火山が噴火したかのごとく、窓から飛び出して行ったのだ。

往年は里の警護隊長をしていたと言うので、その怒りも仕方ない事かと思った。あの怒りを一体どこに持っていくのかは、知らない方がいいだろう。



そして次に向かったのは、アルテミスだ。



久しぶりに冒険者ギルドへと入ると、ギルド内が静まり返る。


「おい、あれが…」

「"災転(さいころ)"に入団が認められたって言う」

「"古の咆哮(エンシェント・ロア)"だ」

「Cランクで、だろ?」

「あの"災転(さいころ)"に…」

「最年少で、六年ぶりとか」


以前に絡んで来てガルムの悪口を言った冒険者は見当たらない。たまたまいないのか、他の街に移ったのか。

それにしても、やはり"災転(さいころ)"の名前は伊達ではないみたいだ。アル達と揉める事になれば、最悪の場合、S級冒険者のグランさんが出てくると言う訳なのだから、さすがに今度は絡んでくる人達はいない。

最近は冒険者ギルドに入るたび、変な目で見られる事が増えて本当に鬱陶しい。


「おーい!アルフォンス!それからシオンとガルムさんも!」


と思ったら、遠くから呼びかけてきたのはロバートさんじゃないか。人の間をかき分けて近づいてくると、少し大袈裟にハグしてくる。


「やぁロバートさん。元気そうですね。またレベル上がってるじゃないですか。もうすぐここの迷宮も制覇ですか?」


ロバートさんの現在のレベルは24だ。

かなり良いペースでレベルを上げてきている。


「あぁ、調子いいぜ!お前は…なんだか元気ねぇな?大丈夫か?あと、何だって…?あぁ、迷宮主(ボス)か!そうだな!いつかは挑まなきゃだよな!ただ、俺はソロだろ?どっかのパーティに混ぜてもらわねぇといけねぇんだが、迷宮主に挑むパーティもなかなかいねぇからな…」


「あぁ、なるほど。今は少し忙しいですが、今度まだ行けてない様でしたら僕と行きますか?」


「え!?いいのか!?そりゃお前最高だぜ!天下の"古の咆哮(エンシェント・ロア)"のアルフォンスにお願いできるなんてな!?」


「アルが忙しければ、妾がついて行ってやろう。お主がどれだけできるようになったか見てやるわ」


「え!?は、はい…。それも、あの。是非とも…!光栄です。………アル!助けてくれ!また殺されちまう!」


「聞こえておるぞ」


久しぶりに、アルは声を出して笑った。

ロバートさんは、なんだか人を元気にする力を持っている。また今度、本当にダンジョンに一緒にいきたいものだ。


ロバートさんに別れを告げると、アル達は相談室へと向かう。その部屋の前で、ミアさんが既に待ってくれていた。


「シオンちゃんが元に戻れたと言う事は、エルフの里に入れたのね?ユグドの葉については収穫はあった?」


まだナディア教国とのことについては情報が入ってきていないのだろう。どうせ伝わることだからと、アルの口から事の顛末を説明した。


「そんな事が…。あなた達は無事だったのね?」


「まぁ、そうですね。シオンも元に戻れましたし、ユグドの葉についてもいくつか光明が見えてきたので、まぁ成功と言えるのかもしれません」


「そう!それはいい知らせね!それじゃ次はどこに行くの?」


「サラン魔法王国です。王都よりさらに東、海岸に近いところに街がありますか?」


話を聞くと、どうやら最東端に、ボーディングと言う港町があるらしい。そこが次の目的地に決まった。


あと、今回の事でレベルアップもしていたので、それについても報告しておいた。



―――――――――――――――

名前:アルフォンス

職業:双剣使い

Lv:40


生命力:4150

魔力:4300

筋力:4150

素早さ:4250

物理攻撃:4200

魔法攻撃:4200

物理防御:4250

魔法防御:4350


スキル:【空間魔法】…【斬撃(スラッシュ)】【(シールド)】【足場(ステップ)】【共有(ユニフィケイション)Lv3】【支配者(ドミネーター)】【保管(ストレージ)】【空間転移(テレポート)】【召喚(サモン)

召喚:妖狐


武器:火竜の双剣【魔法威力増加Lv3】

防具:魔桜鉄の革防具【軽量化】

その他:ダイアモンドの指輪【魔力消費軽減Lv5】

―――――――――――――――

名前:シオン

Lv:40


スキル:【筋力上昇Lv5】【変身Lv5】【吸収(ドレイン)

    【風魔法】…【風鎧(ブースト)Lv3】【風加護(プロテクション)】【風刃(ブレード)】【竜巻(トルネード)】【疾駆(マラソン)

    【雷魔法】…【感電(スタン)】【(スパーク)】【雷光(フラッシュ)】【電気罠(トラップ)】【電撃(ライトニング)

              

共通スキル:【剣術Lv2】【槍術Lv1】【弓術Lv1】【筋力上昇Lv2】【素早さ上昇Lv3】【物理攻撃耐性Lv2】【魔法攻撃耐性Lv3】【異常状態耐性Lv3】【魔力回復上昇Lv1】【火耐性Lv1】【瞬間加速】【威圧】【運上昇Lv1】【ステータス成長率上昇】【隠蔽】【鑑定】【追跡】【解体】【裁縫Lv1】【器用】【暗算】


武器:サーベルナイフ

防具:魔桜鉄の革防具【軽量化】

その他:ミスリルの指輪【徒手空拳Lv3】

――――――――――――――


前回のレベルアップから、僅か一週間ほど。

それで4つもレベルアップ。


確かにグランさんと戦ったり、ガルムと組み手をしたりと、収穫の多い一週間ではあった。

ただやはり一番の“経験値"は、ナディア教国の兵隊をシオンと合わせて百二十人ほど殺した事だろう。


その数字は、"魔物よりも人を殺した時の方が経験値は多い"と言う事実を裏付けるには十分だった。


そしていつも以上にミアさんに驚かれた後、レベル40と言う上級冒険者の仲間入りをお祝いされるが、素直には喜べなかった。

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