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106話 腐食の呪い

箸休め的に書いてた

『職業"ゲーマー"でも、努力すればチート高校生達に勝てますか? 』という作品を公開し始めました!

40話くらい書き溜めてるんで、それが切れるまで今日から毎日更新予定です。ぜひ暇つぶしにどうぞ。


そこからユキはアリアを担いで、出来るだけ早くその場から離れた。本当であれば斧盾男の死体を宣言通りに始末したかったが、アリアの方が優先だ。


逃げるに当たって教徒達の追手も多少あったが、それこそS級冒険者でもなければ、ユキの足を止める事すら叶わない。すぐに撒いて、目的地へと向かう。



それより、アリアは何故気を失ったのか。

アリアの左腕は最上級のポーションにより、傷は塞がっているはずだ。


血を失い過ぎたか、もしくは余程腕を失った事がショックだったか。はたまた何か違うスキルの効果を受けたか…。



ユキがアリアを連れてきたのは、ゴライアスの街中に密かに作っていた拠点だ。


密かにと言っても、実際にはただの宿屋。

借りている二階の部屋に窓から侵入する際、人目につきにくいと言う理由でここを選んでいる。


今回はそれが功を奏し、アリアを窓から運び込むのは容易だった。


部屋の中にはそれこそ最上級の回復薬(ポーション)やら、精神回復薬(マナポーション)。非常食とか、応急手当てに必要な物など揃えてある。


ユキはアリアをベッドに寝かせると、左腕の傷口を観察する。


どうやら、傷口は(いびつ)ながらも塞がっている様だ。


脈は………そこまで早くない。唇や爪を見てみると、多少色は悪いが紫色とまではいかない。

あの時、床に流れ出ていた血の量から考えても、失血での意識消失とは考えにくい。


あとは精神面でのショックが強過ぎたか。


それか…。


ユキはアリアを【鑑定】する。

そして悪い予感は的中したのだ。



「状態異常…。【腐食の呪い】………?」




それは、アリアのステータスにはっきりと追記されていた。

今までこんな物は無かった事は確実だ。つまり、奴等の内の誰かのスキルか、はたまたどれかの武器に何かしら特殊なスキルが付与されていたか。


同じ様にユキも彼等からダメージを受けているが、ユキにはそんな状態異常は付いていない。

条件は部位の切断か、一定以上のダメージか。


何にせよ、この状態異常(バッドステータス)が原因で意識が昏倒しているのであれば、そのうちには目を覚ますだろう。さすがに植物人間になる様な内容のものでは無さそうだ。


そして、アリアが目を覚ますまで、ユキにできる事はあまりに少ない。



【腐食の呪い】とは、どんな効果なのか。

考えうる最悪の物としては…。いや、もしもそうだとして、何が出来るのか。


ユキはアリアの服を全て脱がす。

そして、身体の隅々まで綺麗に清拭しながら、全ての傷を治療して観察した。


どの傷口にも、いわゆる"腐食"の症状はない。

しかし、そこでもう一度左腕をよく観察することにした。先程は単に"歪"と表現したが…。


よくよく目を凝らして見てみると。

傷口がほんの僅かにジュクジュクとしている。

やはりおかしい。最上級のポーションをかけたのだ。いくら切断の傷と言えども、皮膚がこの様に完治していないのは不自然。


ダメ元で、もう一つ最上級ポーションをかけてみる。

しかし結果は一緒だった。


見つけた。

きっとこれが、【腐食の呪い】だ。


しかしそれが分かったところで、ユキにはどうすることも出来ず、アリアはその日は目を覚さなかった。



「【腐食】が、侵蝕しておる………」



それが、翌日にユキが傷口を再度確認した際に感じた感想だ。僅かにだが、ジュクジュクとした部分の面積が増えてきている。


それは、確実に悪い兆候だった。



さらに翌日になって、ようやくアリアが目を覚ました。



「ゔっうぅぅ…んん……ここは?ユキッ?ユキ!?あぁ、いたの、良かった…」



痛みに顔を歪めながらも、アリアはすぐにここが拠点の宿屋だと把握できた様だ。



「アリア!心配したぞ!」



彼女は上体を起こした所ですぐに左腕が無いことに気が付いたが、それについては一切辛そうな様子を見せず、ユキに笑いかけた。



「ユキ。無事で良かった。気を失ってしまってごめん。ここまで運んでくれてありがとう」


「何を言っておる!礼を言うのは妾の方じゃ!アリアのお陰で、妾達はこうして命があるのじゃ!」


「まぁ、それについてはお互い様でしょ?だから礼を言い合うのはここまでにしましょ。それから、この左腕について謝るのも止めてね?それより、この左腕をどうするかを一緒に考えてくれたら助かるかな?どうやら厄介な事になってるみたいだから…」



アリアは、【腐食の呪い】の事を言っているのだろう。

すでにステータスで確認したとは考えにくい。やはり何か違和感等があるのか。


そこから、ユキは自身の観察と考察を一通り説明する。


そしてアリアはものの数秒で、現状でできる唯一の治療の可能性に至った。ユキも考えてはいたが口にするのを躊躇っていた方法だ。



「分かった。やりましょ。早いうちがいい」


「まだ何も言ってないが」


「分かってるわ。【斬撃(スラッシュ)】が一番良さそう。ユキはポーションの方をお願い」



アリアはそう言い放って手近な布を折って分厚くすると、それを噛んだ。


「まったく…」


ユキがポーションを取って来て戻ると、アリアは座って左腕の(そで)を捲り上げる。


目で一度合図すると、アリアは右手で【斬撃(スラッシュ)】を発動。左腕の切断面より五センチ程近位を、()()()()()()



「んんゔゔゔんんんんん!!!」


すぐにユキが傷口にポーションをぶちまける。

さらに短くなった左腕が、じゅうじゅうと音を立てて治癒していく。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…ふぅ、ふぅ、ふぅ…ふぅ………どう?」


アリアの顔は蒼白だったが、今度は気を失ってはいなかった。

ユキは差し出されたアリアの腕を確認すると、首を横に振って見せる。傷口には、まだ【腐食の呪い】は残っていた。


「"呪い"というだけはあるみたいね。とりあえず今は忘れましょう。命があっただけ拾いもんだわ。何か栄養を摂らないと。血が足りなくなっちゃう」





しかしそこからが、またしてもアリアにとって苦痛の日々の始まりだった。


【腐食の呪い】はかなりタチの悪い物だったらしく、組織の壊死が傷口からだんだんと根元に向かって進行してきた。


呪いを受けてから二週間で、左肩関節まで進行していた。


その呪いが進行するタイミングでは激痛が伴い、まともに眠れない事もしばしばだった。



勿論(もちろん)、その間に二人が何もしなかった訳ではない。


まずは【腐食の呪い】のスキルを受けた武器について特定をした。


切断面より生じたと言う事は、十中八九、あの斧盾男の使っていた片手斧に付与されていたスキルだろう。


そしてアリアとユキは、あの片手斧があの男の所持品ではないと言う事も突き止めた。


あの男自身はやはり有名な冒険者だったらしく、情報は集めやすかったのが幸いした。あの男の名はヨーク。確かにSランクの冒険者で、パーティメンバーは他に三人。パーティ名は"黒熊(ブラックベアー)"。普段は片手剣を使っていたらしく、片手斧を使っていると言う話は出てこなかった。


となれば、次はパーティメンバーに聞くしかない。


二人は"黒熊(ブラックベアー)"の残りのパーティメンバーの所へ赴き、事情を聞いた。

事情を聞いたのが、暗い夜道で、なおかつ断れない方法でだったのには、特別罪悪感は無かった。

もともとあのクソったれのパーティメンバーなど(ろく)なものではないと想像はつくが、その時にはちょうど酒場から無理やり女の子の髪の毛を引っ張って歩いている所だったのだ。


だからと言って命までは奪わない。

二度と女性にそんな真似が出来ない様に、三人全員の指を全て落とした程度だ。殺してスキルを【吸収(ドレイン)】したって良かったのだから、慈悲を与えた方ではないだろうか。


それで、そいつらから得た情報によると、ヨークは二週間ほど前にこう零していたらしい。


「任務に当たって、ブル帝国皇帝陛下から国宝級の武器を下賜された」と。


なれば、皇帝陛下に直接聞きにいくしかない。

しかないと言うより、手っ取り早いし、言いたいこともある。


そこで二人はブル帝国にある皇帝の皇居に潜入した。


しかし、そこにいたのは影武者だった。どうやらアリア達の暗殺に失敗した事がもう伝わっている様で、身を隠しているとか。

たまたま近くにいた臣下に問い詰めた所、信じられないほど簡単に吐いたのでその場所に行ってみると、今度こそ皇帝本人がいた。


「いや!待て!儂とてそんな事はしたく無かった!しかしそなた達を放っておくわけにもいかなかったのだ!なにせそなた達の【空間転移(テレポート)】は脅威だ!ゴルゴンの教皇の次は、我が国かも知れん!それには他の三国も同意見じゃった!持ち手のいない斬れ過ぎる剣は、壊しておかねばならんのだ!それが、国のトップにあるべき姿だ!それが政治なのだ!」


「べらべらとうるさいわね。確かにそのよく回る口だけは国のトップに相応しいわ。でも私達が知りたいのは、あんたが言う政治とやらじゃないの。ヨークにやった片手斧よ。あれについて分かっている事を全部喋りなさい。良かったわね。喋るのはあなたの得意分野でしょ?」


「片手斧!?あれは我が国の宝物庫の中からあやつが選んで持って行っただけで、その性能についてなどは何一つ…」


「では誰に聞いたら分かるの?…いい?私達は、たとえあなたが何人を替え玉にしようと、どこに隠れようと、絶対に貴方を探し出して殺せるの。わかるでしょ?

だから、あの片手斧にまつわる話や関わりのある人物を、何でもいいから出来る限り喋りなさい。それを私達が調べている間だけ、貴方は長生きできるのよ。わかった?」


そこから急に従順になった皇帝は、関係がある事ない事を、べらべらと、垂れ流す様に喋り続けた。


まず確かそうな話としては、あの片手斧は、高難易度ダンジョンから出てきた遺物級(アーティファクト)の装備だと言う事。それには、【腐食】のスキルが付与されており、切断面に【腐食の呪い】がかけられると言う事。


それが分かった所でどうしようもなかった。解除方法についてはあまり手がかりになりそうな物は無かったのだ。



どうしたものか、二人は途方に暮れてしまった。



実際に、数多(あまた)のスキルを【鑑定】してきた二人だが、【腐食】なんてスキルは見た事がなかったし、最上級のポーションで解除できない状態異常(バッドステータス)なんて聞いた事もない。



そんな事をしているうちに、アリアの【腐食の呪い】は首や、左胸まで侵蝕して来た。


既に左肩は動かせなくなっており、左胸の【腐食】も、心臓まで達してしまうと、おそらく死んでしまうだろう。


ここまでで、一ヶ月。


【腐食】の進行具合から見て、あと一週間。二週間持てば御の字か。



そんな時だった。

あの少年キースに出会ったのは。

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