1話 夢見る少年
初めまして、樹と言います。
異世界物が大好きで、他の方の作品を読んでたら、ふつふつと血が沸き立ったので書くことにしました。
書いてるうちに、あれも入れたいこれも入れたい!これを入れとけば後で逃げ道になりそう…等と、設定がごちゃっとしてるかも知れません。
主人公はオラオラ系ではなく素直でかわいらしい感じに書いていく予定です。
あと本作品には以下の内容が内容が含まれます。苦手な方はご注意下さい。
・準ハーレム要素
・転移魔法
・魔物召喚
・スキル吸収
また公開中の内容は、作者の無計画故の都合により、随時変更させて頂く場合がございます。設定に負けないよう頑張って文章書いていきますのでよろしくお願いします。
時期は、秋の終わり頃。
まるで冬の足音が聞こえてくる様に、寒さが迫った季節。
秋特有の色に染まった山の中を、足元に気を配り、しかし周囲に目を凝らすことも忘れずに進んでいく。ここ何日かで急激に寒くなってきており、美しい紅の木々も少しずつその実や枝を落としている。
そのため道なき道を行く中で、下手に枝などを踏まないように歩くのも一筋縄ではいかない。
だがこちとら、こんなことを始めたのも昨日今日ではない。
足の運びも慣れたもので、普段歩くスピードよりもやや速いくらいだ。
今日の収穫はほとんどない。ほとんどというと誤魔化した所があるが………
実のところ零だ。つまりゼロだ。ZEROなわけである。朝から一日歩いているが、未だに獲物と出会えていない。
確かに寒くなるにつれて見つけにくくなってはくるのだが。にしても今日はツイてない様だ。こうやって山に繰り出し始めて、ボウズ…つまり獲物が一匹もとれないと言うのはかなり久しい。
――――――ドクンッ。
心臓が跳ねあがる。
見つけた。
良かった、どうやらボウズは回避出来そうだ。
足音を立てないように気を付けながら、目の前の茂みの影へと身を隠す。いつものように、呼吸を殺しながら、こちらに背を向けているその姿を補足する。
大きさは五十センチ程。
兎だ。ただしそのデカさは普通の兎の三倍はある。
この朱色に染まる風景には場違いな程に白い体毛に全身を覆われており、お尻にはふわふわの可愛い尻尾がついている。そのチャーミングな尻尾をふるんふるんと振るわせながら、どうやらウサギさんはお食事中の様だ。
多分こちらにはまだ気付いていない。
流石に枯れ葉を食べているわけではなく、木の根元にある青草を食んでいるらしい。そんなに美味しいのか彼は夢中のようだ。
ところで、なぜ"彼"だと言い切れるのか。
その兎の名はホーンラビット。
体長は大きい個体で七十センチ。滑らかな白い毛を持つ。肉はやや固めであるが、一般的な家庭でもよく食されるほどポピュラーである。
そしてその最大の特徴とは、雄のみが有する、額から伸びる最大四十センチにもなる一本角。
今目の前で青草をはむはむしている兎も、立派なモノがついている。
おそらく三十センチ程だろう。身体の割には角が大きい。まだ成長途中の若い個体と言うことだ。
さて、いつまでも草葉の陰から見ているわけにもいかない。なんせ今日初めての獲物だ。絶対に成功させたい。
保険の意味も兼ねて足元に罠を設置する。
さぁ先制攻撃だ。
肩に掛けていた弓を静かに外して持ち変えると、矢を一本つがえる。
矢筒は外してその場に置いていく。矢を使うのは初手の奇襲のみだからだ。
矢の根元近くを左手に軽く乗せると、丁寧に引き絞る。弓を使うのもかなり慣れてきたが、それでも未だド素人の域を出ない。目や首など急所を狙うが当たる確率は一割に満たない。何故なら、そもそも身体に当たるのが五割程だから。
息を止め―――――射る。
結果を確認する前に弓を投げ捨て、左腰に吊るしてあった短剣を抜いて兎の前に躍り出る。
矢は左の脚に当たっていた。いや、刺さってはいない。かすっただけだ。血は出ているため多少の肉は抉っているだろう。これで少しは機動力を削げたはずだ。そうであって欲しい。
ホーンラビットはすぐにこちらに気付いて臨戦態勢をとる。距離は五メートル程で、お互いにベストポジションだ。
ホーンラビットの攻撃は単調だ。角を使った突進。単調だからこそ、その動きは素早くそして強い。ホーンラビットの角が僅かに下がった。それが突進の予備動作だ。
ホーンラビットが跳んで突進してくる。
ホーンラビットの脚の筋肉は身体全体の七割を占める。まさにその身体は弾丸の様に打ち出され五メートルの距離を刹那で埋めた。
それを上半身と体幹を目一杯使い、捻って避ける。ホーンラビットが跳ぶよりも早く動作を始めていた事もあり、回避行動には余裕がある。
右手に持った短剣が煌めく。ホーンラビットの軌道上に短剣を滑り込ませると、布を裂くような断裂的な感覚が手に伝わる。
互いの位置が入れ替わって着地。身体を捻った勢いのままに一回転してから再度向き合う。
ホーンラビットの右側面には顔から腹部にかけて大きな裂傷が出来ている。特に首からの出血が多い。大きな血管を傷付ける事に成功した様だ。
途端に、ホーンラビットが背を向け逃げだした。
恐らく命の危機を察したのだろう。そのまま逃げ切れても生き延びるのは難しいかも知れないが、確かにそのまま闘うよりは勝算があるかも知れない。
しかし一番手前の草むらを越えて、ホーンラビットの姿が見えなくなった所で、ギギッと鳴き声が上がる。
油断せず短剣を構えたまま近寄り、そこを覗き込む。
すると保険として置いていた罠にかかって、身動きの出来ないホーンラビットがこちらを睨んでいた。
戦闘時の立ち位置、その後の逃亡の可能性。その逃走ルートを考えて置いた罠だ。上手く機能した事に安堵する。
息を緩めることなく、頭側に周って角に足を乗せて動けなくする。
そして素早く首を一突きにした。
*
ホーンラビットの死骸を担いで歩くこと十分程。
木々を抜けると目の前には広大な草原が広がっている。時刻は夕暮れ前。数㎞先には村が見える。逆にそれ以外は何も見えない。
あの小さな、何にもない辺境の村。村の名はミレイと言う。
それが僕、アルフォンスが十六年間過ごしてきた村である。
本日の収穫は一匹だけ。
足取りは決して軽くはないが、早く帰ろう。