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横でいっきにコーヒーを飲み干して、先輩が話しだした。
「答え合わせがひと段落したみたいだし、邪魔者はこの辺で失礼するよ。」
コーヒー代だと千円を私の手に包むよう握らせ、
「梨乃、さっきの涙は、まだ君の気持ちが続いているってことだったのだろう?君の僕に対する答えは、今の段階で、もう出ているね。」
そう語りかける先輩を私は見つめた。
先輩は優しい。
私の気持ちを考えて、私が嫌な思いをしないように動いてくれたのだ。
「はい、先輩。ごめんなさい。そして、ありがとうございます。」
と、心を込めて言った。
「うん、分かった。」
そう先輩は呟くと、野球部の彼の方に向き合い、
「お前、俺より梨乃を幸せにしろ。分かったな。そうじゃなかったら、奪いに行くからな。あと、その邪魔していた女、厄介なようだから、何をしてくるか分からないぞ。絶対に梨乃を守り抜け!泣かせたらタダじゃおかないからな!」
「分かってる。幸せにするし、絶対に守る!」
先輩は私の耳元で、
「梨乃、何かあったら相談にのるから、すぐに話すように。」
と、優しく囁いた。
チラッと彼を見て、ニヤリとした。
「ありがとうございます。先輩。」
それから、じゃあと言って、颯爽と先輩は帰っていった。
残された私と彼は、しばらく沈黙していたが、ポツポツと、これまでどんな気持ちであったのかを、お互いに話し始める。
ゆっくり思い出の話と共に、誤解や、すれ違いを、ひも解きながら。
今までの距離を取り戻すかのように、ふたりでおしゃべりをした。
***
数日後、やはりと言うか、彼の予想が的中したらしいのだが、クラスの仲良しグループから、ハブられた。
SNSは全てにおいて反応無しだ。
「はぁ、みんなからの強制退出、ブロック、無視は、悲しいな。」
そう考えていると、高校ではクラスの違った小学校からの親友から、電話が掛かってきた。
私のことで変な噂を聞いたのだと、心配になったようだ。
その噂の内容は、梨乃が瞳の彼氏を強引な手段で奪い取ったという事らしい。
いきさつを説明すると、親友が激高し、
「やっぱりあいつ、そういうやつだったのか、私に任せておけ!」
と、言い放ち電話を切ってしまった。
翌日から、クラスの仲良しグループの友達から、チラホラ誤りの連絡がくるようになり、SNSも、いつの間にか復活していた。
友人を除いた新たなグルーブが作られていて、トークに招待を受けたので、入室すると、みんなから謝罪の嵐が始まり、弁明があったので、私もこれまでの事といきさつを話し、みんなに謝罪し、和解した。
こんなに早く根回しが出来たのには理由があった。
実は、野球部の彼が私を好きだという事は、私のグループを除く人達には、周知の事実であったようで、協力していたクラスの男子、その友人達や彼女、その友人など、かなりの人が知っていたらしい。
私達が両思いになったことを、彼は彼等に報告したようで、先輩の助言もあり、もし、何かあったら対応してくれるように頼んでいたそうだ。
そんなに協力者がいたのに、微塵も気が付けなかったなんて、その状況に少し驚いた。
さらに、私の親友が追い打ちをかける様に、仲良しグループの友達に掛け合ってくれたらしく、早い段階で、誤解が解けて、沈静化という結果になったようだ。
とても、ありがたかった。
全部の話を聞いたグループの友達が、友人に詳しく話を聞いたところ、意外な話が返ってきたというのだ。
最初は佐々木君の事を何とも思っていなかった。
野球で活躍し、注目される彼が、自分に好意を持っているのだと感じ、友人もその気になっていた。
しかし、ずっと近くで仲良くして居て、チャンスもあるのに、全く告白をしてこない。
親しくなるにつれて、おかしいと思い始めていた。
ここまで信じて来たのに、自分のモノにならないのは悔しい、次第に意地でも彼氏にしたいと考えるようになっていったのだとか……。
私が佐々木君を好きであったなんて、全く知らなかったのは本当で、むしろ、佐々木君の事を避けていたから嫌っているのだと、勘違いしていたらしい。
それは、私の態度が、悪かったので、そう思われても致し方無いことだ。
だから、私のことをイベントに誘うように言われても、彼が来るのであれば、梨乃は楽しめないだろうと、誘わなかったのだと言っていた。
友人は、私と別れた後に、自分ではなく私の事をずっと好きであったと、彼から聞いて、相当悔しくて、カッとなって、彼を取られたと酷い嘘の話を勢いでバラまいてしまったと、今は深く反省しているそうだ。
酷いことをしてしまったと、激しく後悔している様子だったと。
それに、2人の邪魔を無意識だけれど、ずっとしてしまっていたことに、申し訳なく思っているとも言っていたそうだ。
それを聞いたグループの友達は、私の話も踏まえ、今は、嫌な思いをさせられて、許せないだろうから、連絡を取らなくていいといった。
けれども、気持ちが落ち着いて、許せる時が来たら、友人に連絡をしてあげてほしいとも言っていた。
友人に謝る機会をあげてほしいと、友人は、ずっと待つ気でいるのだと教えてくれた。
私は直ぐにでも連絡を取るつもりでいたが、彼や親友が何だかとても怖かったので、数日置き、ほとぼりが冷めた頃、友人と落ち着いて話し合いたいと連絡を取ることにした。
やはりというか、悪い噂を打ち消すのに、友人が私を貶めようとしたという悪い方向へ話が広まってしまっていた。
自業自得だと、彼は言ったが、私は申し訳なく思っていた。
一か月もすればそんな噂も無かったこととなり、彼も同席という条件を付けられ、友人と会うことになった。
まだ大学時代。
先輩イイ人。




