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初投稿の作品です。
手直ししました。
高校2年の春、母校の野球部が春の選抜に出場した。
母校の野球部が、結構強いとは聞いていたが、甲子園に出場するまでとは思わなかったので驚いている。
学校から全校生徒での一回戦の強制応援がなされ、遠足気分もまじりながら甲子園球場まで行くこととなった。
野球部に知り合いの居た私は、強制が解かれた二回戦以降も、応援に行った。
組み合わせで強豪校に当たり、すぐに負けるのではと言われていたが、予想していたよりも勝ち進む。
準々決勝まで応援に行き、そこで敗退を期した。
野球部の部員達が、甲子園の砂を自分のスパイク袋に入れ、悔しそうにかき集め、持ち帰っていたのが印象的であった。
私の野球部の知人も、目に涙を滲ませながら、砂を必死で集めていた。
その光景を私は、距離のある応援席から、ただ眺めていた。
野球部の知人の男が、私と仲の良いクラスの友人に、その砂を渡しているのを目撃したのは、まだ甲子園の熱気の冷めやらぬ、数日後の事であった。
甲子園の熱戦が続いている中であったのだが、敗退したので一時帰宅し、彼は学校へ報告に来ていたのだと、あとになって、その友人から教えられた。
その日の私は、茶道クラブの先生に少しだけと、放課後の手伝いをお願いされたのだが、作業を終えたのが夕方近くなっていた。
かなりの時間を待たせてしまったと、教室で待っている友人のもとへ急いで戻る。
友人の声とは別に男の話し声が教室から聞こえてきたので、友人の他にも誰かがいるのだと分かった。
誰だろう?と、駆け足を止め静かに歩き、息を整えて、後ろのドアからそっと覗きこむ。
するとそこには、あの光景があったのだ。
夕日のオレンジ色が広がる教室で、野球部の彼が夕日にあてられているせいではなく、真っ赤な顔をして友人に砂を渡していた。
そして、友人はそれを受け取った。
彼が前側のドアに向かい急ぎ足で歩き出し、友人は彼へと手を振っていた。
直ぐに彼が教室から出てくるので、このままだと私が廊下で覗き見していたことがバレてしまうと思い、とっさに隣の教室に身を隠す。
その時、知ったのだ。
彼が、友人の事を好きなのだと……。
私が彼と知り合ったのは、高校に入った直後に行われた研修合宿がきっかけである。
その合宿で、私は彼と同じ班になったのだ。
入学直後の研修なので、クラス内での班分けかと思いきや、学年の生徒の苗字をあいうえお順に並べて、八人ずつ分けたものであった。
彼と私はサ行で一緒だったので、同じ班になった。
その時に、彼から夢の話を聞くくらい、親しくなったのだ。
彼は、スポーツ科で、野球部に所属している。
入学前からここの野球部に練習しに来ていたそうだ。
この学校の野球部は、以前は強かったそうだが、県でも決勝まで行けたのが最高で、今の強さはソコソコのレベル止まり、未だに甲子園への出場はないのだと、その時、彼から教えられた。
彼は、自分がこの野球部でプレイ出来る間に活躍して、甲子園に出場を果たしたいのだと、強く語っていた。
その時に甲子園の砂の話をした。
甲子園への出場を果たしたら、砂を持ち帰ると。
その想いの詰まった特別な砂を、想い人に渡したら素敵だね なんて……私も話にのっかった。
そう、その夢を現実にしたのだと、その場面を目撃し、悟った。
そして、彼の想い人が誰であるのかを、私は知ることになったのだ。
私は気持ちを落ち着かせ、友人がいる教室へと足を踏み入れた。
教室へ戻ると、友人が、
「遅いよ。」
と言ってむくれたので、作業が思っていたよりも大変で、てこずってしまったことを謝罪した。
そこに、部活動を終えた、私達と仲良しグループの二人が、荷物を取りに教室へ戻ってきた。
こんな時間まで私達が学校にいるのは珍しい、一緒に帰ろうと話していると、砂を貰った友人が突然言い出した。
「さっき、野球部の佐々木君から甲子園の砂を貰ったけど、みんなも欲しい?分けようよ!」
その言葉に私は驚いた。
あの砂は、彼が気持ちを込めて、友人に送ったものであると、私は知っていたから。
皆に分けようだなんて、友人は彼の事を何とも思っていないのであろうか……。
その思考を、すぐに変える。
もしかしたら、この砂の意味を彼は友人に伝えずに渡してしまったのかもしれない。
友人は彼の想いを知らないままなのではないのか?
「それって、特別なものじゃないの?人にあげてしまって、かまわないの?」
私は咄嗟に声に出し、大切なものであると伝える。
友人は少し考えてから、
「私はかまわないわ。梨乃もいるでしょ?」
と聞かれたので、思わず、
「欲しい。」
と、口に出してしまっていた。
私は彼の事が好きだったから……。
私へ、ではないけれども、彼の想いのこもった特別の砂。
……欲しかった。
砂を手にした後、もし、この砂の想いを友人が知って、返してほしいと言われたら、すぐに返そう。
それまで、私が大切に保管しておこうと、そう言い聞かせて手の中に握りしめるのであった。
高校時代。