第2話 ダムやめました。
平和は長く続かない
元の世界に戻った俺はダムのままだった。ダムのまま元の店に戻ったものだから店が木っ端みじんになった。俺の貯水池は死体で一杯だ。もう一杯一杯だ。ダムとしての生活に限界を感じている。元の世界ではダムに人権が無いのだ。狂っている。この世界は狂っている。ダムに人権を認めないこの世界は俺が変える。俺はレボリューションだ。手始めに天然ガスの出前を頼んだ。すぐに着た。パイプで送られてきた。すごい!物流革命だ。俺は物流レボリューションだ。物流レボリューションと化した俺は軽く地盤沈下していく。ああ俺の身体が沈んでいく。どこまでもどこまでも沈んでいく。星の深淵には俺が居た。俺が星になった。星ダムだ。俺が星ダムだ。何度でも言おう。俺が星ダムだ。右手から大量のマグマ観光大使を放出する。
くらえ!≪悠久の劫火≫
狂った世界は滅び去り、全てが無かったことになった。
平和な世の中になり、数百年の時が経った。俺のダム生も限界を迎えようとしていた。コンクリートはひび割れ、大地もひび割れ、俺の心もひび割れていた。貯水池も枯れ果てていた。癒しの雨が降らない。俺の心はカサカサになっている。そうなのだ、もはや大地は荒廃し、俺の後輩も先輩になっていった。そして何よりもサンタクロースが俺のもとを訪れることは無くなったのだ。全てが消滅に向かっているのだ。俺の心が叫ぶ。
「お茶碗一杯のお米が食べたい。」
俺の右足が叫ぶ。
「辛子明太子!」
この新月の夜のように昏く軋む世界を守るため、幾度も押し寄せる波のような滅びの潮流をせき止めるダムは役目を終える時がきたのだ。
さようなら世界。
さようならサンタクロース。
そしてこんにちはサンタクロース。
「このダムが決壊したらサンタクロースと結婚するんだ。」
かつて、そう言って戦場に向かった若者がいた。俺は人知れず奴を消した。根拠のない自信からくる大言壮語は嫌いではないが、言って許される事と許されない事があるのだ。奴はそのボーダーを超えてしまったのだ。ゆえに奴には消えてもらった。
ダムとしての一生は悪いものでは無かった。楽しいこともつらいこともあった。毎年、新年を祝うことができた。毎年、サンタクロースを貯水池に貯めることができた。楽しかった。
つらい事もあった。友人の母親が万引きで捕まっているのを見た時はどうすればいいのかわからなかった。あれはつらかった。とりあえず、翌日学年中に広めておいた。友人の友達は俺だけになった。可哀そうだった。とても見ていられなかったので、俺は奴を人知れず消した。あいつが消えても誰も悲しまない。何故なら友達がいないからだ。
あぁ、もう俺の命が終わってしまう。
最後の力を振り絞ってライ麦パンに戻った。
懐かしい感覚だ。
一緒に窯に入った可愛いあの子の事を思いながら俺は眠りについた……
命は儚い