第1話 ダムになりました。
俺、雷麦パン太郎はどこにでもいる小麦から産まれたライ麦パンだった。でもある日、店のおじさんと喧嘩してお客さんを皆殺しのラプソディーにしたところ、気づいたら見知らぬ家電量販店にいたんだ。周りを見回しても家電、家電、家電。どうやらここは日本じゃないらしい。なんとなく中世ヨーロッパな感じがする。なんでかって?それは店員が金髪の白人だったからだ。しかも背中にサイクロプスを背負っている。あれは最新式のアラビアンサイクロプスだ。俺が昔ハマっていたゲームの雑魚キャラだった。アラビアンサイクロプスは目から鱗を積極的に飛ばしてくる。中々に厄介な敵だ、でもチャクラを練りこんだ栗羊羹をあげるとテイムできるB級モンスターだ。
「なんだ君は、私のサイクロプスのセリーヌに何かようか?ちなみに私の名前はグッドモーニング斎藤だ。」
「これはどうもご丁寧に私はパン太郎です。気軽にセリーヌと呼んでください。」
「あぁ、わかったよセリーヌ。ところで君は珍しい格好をしているね。どこから来たんだい?」
「私は東の遠い遠いところから、高い高いしてもらっているうちに、いないいないばぁされてしまったので、このあたりに詳しくありません。」
「そうかセリーヌ、困っているようだね、これを持っていくと良い。これはサバ缶といって、中から放射性物質を取り出すことができるんだ。これを使うと大抵のデリケートな話題は避けられる。私は舞踏会に行かねばならないから失礼するよ。もし困ったら冒険者ギルドを頼ると良い。あいつらは歯ざわりが滑らかだ。それでは失礼。」
「ありがとうございます。サバ缶は大事にアイテムボックスに入れておきます。」
ちなみにアイテムボックスとは異次元にアイテムをしまい込むことができる魔法の箱だ。入れたものは二度と取り出すことはできないが、不用品を処分するのに役立つ。俺は早速、グッドモーニング斎藤をアイテムボックスに入れて、町が見える方角に歩き出した。しかし、どうにも歩きづらい。どうやら俺はダムになってしまったらしい。そりゃ下半身がずぶぬれになるわけだ。ダムの俺は果たしてここから動いて良いのだろうか?いや良いだろう。俺の自由意思を束縛するような輩はいないはずだ。なぜならここは異世界。そして俺はダム。そこから導き出されるの答えは一つサンドウィッチよりもハーレムが好き。つまり精霊の力を借りれば魔法が使えるようになるんだ。俺は早速、貯水池から魔力を下流に放水して魔法を放った。すごい!街が消し飛んだ。チートだ。一瞬で何万もの命が失われてしまった。なんて極悪非道な行いなのだ。きっとこの世界には魔王的な存在がいて、あの町を焼き払ったに違いない。そして俺がここにいるのも、そいつを倒すためなんだ。俺はそう確信するとアイテムボックスから勇者をクラスごと召喚した。
30人程の黒目黒髪の少年少女がおろおろしている。そのうちの一人が戸惑いながら喋りだす。
「こ、ここは?あなたは誰なのですか?」
「ええい黙れ!俺は王様だぞ!お前たちは勇者で魔王を倒して俺は王様だぞ!頑張れ!」
「急に魔王を倒せだなんて、僕らはただの高校生ですよ。」
「うるさい!これ以上口を開くとお前らまとめてセリーヌにしてやる!」
「ひぃわかりました。魔王を倒してきます。」
「わかればいいのだ俺は王様だぞ!」
そう言って俺は勇者たちをまとめてアイテムボックスにしまい込んだ。短い命だった。俺のような強大な存在からすれば、勇者などカゲロウのような存在なのだ。つまり魔王は実はこの世界がゲームの世界だと知っていて勇者を見逃した可能性がある。同じ管理者として、パスワードの定期的な変更を要求せねばならない。そうしなければ脆弱な人間どもはスルメイカのようなグッドスメルを出してしまう。早くスキルを覚えてスラッシュのリキャストタイムをフィーバーしなければこの星の人間たちは下流に放流されてしまう。時間が無い、宇宙に飛び立った奴らが浄化されたこの星を取り換えっこしにくる。クソ!長い時間の中で俺には自我が芽生えてしまった。こんなことになるなら最初から最後まで楽しめる映画を探しておくべきだった。俺は貯水池の水を全て放流し、最期の魔法を放った。空に輝く大輪の花。それはとても綺麗でトイレの芳香剤の匂いがした。実家の香りだ。そうか俺の実家は魔法でできていたのか。今明かされる真実。催す尿意。全てが混然一体となって口の中でハーモニーを奏でる。
「魔物がこんなにおいしく食べられるなんて、知らなかったわ。」
謎の部外者が口を挟む。こんな状況ではコンビニに行くこともできない。ニートで引きこもりのおっさんの俺にはコンビニすら気が重い。やり直せるならミジンコあたりからやり直したい。ミジンコをアイテムボックスにしまい込む。短い命だった。命とは短いものなのだ。それは俺も同じ、全てを放流してしまった影響で俺の身体はガタガタのボロボロのカスカスだ。
「ご主人様!死なないでください!」
謎の奴隷が口を挟む。耳が頭の上についている。怖い。生理的に受け付けない。
「ええい!黙れ奴隷の分際で!俺は王様だぞ!」
すると奴隷の首輪が締まって、苦しそうにツナ缶を食べている。俺はその姿を模写しながら、新しい魔法を覚えるのに必死だった。必死すぎて、手から糸がでる。しかも自在に操れるのだ。すごい!俺はダムだったのか。糸はミスリルでできていて、世界は俺でできている。そしてその糸で敵をからめとったりカラメルになったり万能なのだ。万能ねぎなのだ。これは凄い発見だ。いち早くギルドに報告しなければ。そう思った次の瞬間、馬車が盗賊に襲われているのが見えた。あれは間違いなく野生の盗賊だ。野生の馬車と野生の盗賊はたびたび縄張り争いを繰り広げる。おれはすかさずダンジョンを経営し始めた。ダンジョンにはダンジョンマスターとダンジョンスレイブがいる。ダンジョンマスターのライフポイントがゼロになると自動的にターンエンドなので、ダンジョンスレイブを全て生贄に捧げてとりあえず様子を見ることにした。するとすぐに動きがあった。なんとダンジョンスレイブがいなくなったのだ!流石にマスターと言えども命を粗末にする奴はあまり感心できない。仕方が無いので俺が代わりにスレイブになる。くそなんてこった。俺が奴隷になるなんてきいてない。ふざけるな!こんなことが許されるわけがない。俺は勇者なんだぞ!何度も泣きわめいたが許してもらえない。こんなことになると分かっていればあの時エントロピーを増大させなかったのに。しかしそこで名案が思い付いた。すぐに貯水池に水魔法を打ち込んでみる。すると水位が上がったのだ。やった神様は俺を見放さなかった。革命だ。エネルギー革命だ。俺は革命を起こした。こうして裏で世界を操る女神を倒した俺は近代都市を建設することに成功し、元の世界に戻ることができたのであった。
めでたしめでたし。
気が向いたら、何かが続くかもしれません。