仲良しカレー
――四年前。
小六の冬。俺は家族のためにカレーを作った。なぜなら今日は、両親の結婚記念日。美波家ができた日だ。
カレーは両親も妹も大好きだし、学校の調理実習で作ったことがあるから選んだ。出来上がったカレーは、具の大きさがバラバラで見た目がちょっとへんだったけど、市販のルーで作ったから味は完璧だ。きっと、みんな喜んでくれるだろうと楽しみに夜を待った。
でも、仕事から帰ってきた両親は冷めた表情で口もきこうとしない。雫も部屋に篭ったままずっと出てこない。とても結婚記念日を祝うという雰囲気ではなかった。
でも、このまま今日が終わるのは嫌だった。俺は三人を呼んで来て言った。
「あのさ、今日カレー作ったんだ。だから、みんなで食べよう!」
作ったカレーを差し出すと、三人は少し驚いたように俺を見た。
「…これ雪斗が作ったの?」
「そうだよ」
そう言うと、両親は少しだけ表情を和らげた。
四人で食卓を囲む。まだ少し重い空気の中、最初に口を開いたのは父さんだった。
「シーフードカレーか。久しぶりだな」
上にのったエビやイカを見て言う。そして一口食べると首を傾げた。
「ん?これ、何の肉だ?」
「あら、鶏肉ねこれ。他にもいろいろ入ってるみたい」
母さんも少し食べると不思議そうに言った。
雫も何かを考えているのか俯いてあまり手が動いていない。
食器の当たる音だけがリビングに響く。こんな静かな食卓は初めてだ。
みんなの反応が気になって、俺は全然手が進まなかった。スプーンを握る手にぎゅっと力が入る。
「そういえば、どうして急にカレーなんて作ったんだ?」
父さんがそう言うと、母さんも俺の方を見た。失敗だっただろうかと少し心配になって、俺は俯きながら答えた。
「えっと…今日、結婚記念日でしょ。美波家ができた日で…だからみんなでお祝いしようと思ってカレー作ったんだ。でも、何のカレーが良いか迷って買ってきた肉全部入れちゃったんだ」
反応はない。
ゆっくりと顔を上げると、両親は目を丸くしてこっちを見ていた。そして、二人は顔を見合わせると、くすりと笑った。
「雪斗は欲張りだなぁー」
「ふふ、でも美味しいわね」
「そうだな!ありがとな雪斗」
「ありがとう雪斗」
そう話す二人の表情には、少しずつ笑顔が戻っていた。
――よかった。
俺は嬉しくてたまらなかった。
雫も、そんな二人を見て安心したのか表情が和らいでいた。
「これ何カレーって言えば良いのかしらね?」
ふと、母さんが言った。
たしかに、こんなでたらめなカレーに名前なんてない。
「ごちゃ混ぜカレーだな!」
「お父さん、それじゃおいしくなさそうよぉ」
「あ、そうか?じゃぁ…」
名前の案を出し合う二人は、さっきまでが嘘みたいに楽しそうに話していた。
そのとき、雫が立ち上がって言ったのだ。
「仲良しカレー!!」と。