間話 『彼は幼女に恋をする』
今回の話は人によって相当な不快感を覚えると思うのでご注意ください。
直接的な描写はありませんが、内容が年齢制限に引っ掛からないか心配なので、アウトなら教えてもらえると助かります。
■ Other View ■
とある一人の男がいた。
彼はオールディア帝国の地方都市カヴォロに根を張る商家、その次男として生を受けた。カルミネと名付けられ、幼少期から読み書き計算はもちろん武術から魔法まで、家庭教師に付きっきりで貴族顔負けの英才教育を施された。
その結果、十五になって成人する頃には立派な青少年となっていた。勤勉、実直、誠実、温厚の四拍子が揃った素晴らしい男だ。
一方で、商家の男として隙なく頭が切れ、他人の機微にも聡く、魔法という力まで備えている。内面が浮き出ているかのように容姿は整い、端整な相貌と美声は男女を問わず人を惹きつける。
そんな完璧超人めいた男となったカルミネだったが、彼にも一つだけ欠点があった。
女性が苦手だったのである。
カルミネはその人格や能力、類い希なる眉目秀麗さから、都市内では有名人だった。当然、多くの女性たちから引く手あまただったわけだが、彼は女性と上手く接することができないでいた。
幼少期の頃はそうでもなかったのだが、成長するにつれて男女差を意識し、羞恥するようになってしまっていた。
そこで、カルミネの父は考えた。
息子は優秀で商人としての未来も明るいが、しかしこのままでは女性が弱点となり得てしまう。
このままでは不味い。
というわけで、息子を娼館へ連れて行き、女性への耐性をつけようと一計を案じた。……それが息子の運命を大きく変えるとも知らずに。
言われるがまま、カルミネは父一押しの高級娼館で新人の生娘を抱き、処女を奪って童貞を喪失した。生娘を抱かせたのは、女を征服するという快感を顕著に味わってもらうためだった。百戦錬磨の娼婦が初めての相手だと、気後れして症状を悪化させかねない。演技してもらうこともできたが、カルミネの父は金を惜しまず、現実味を追及した。
そうしてカルミネは女性への免疫を付けた。
……と思われたが、そう上手くはいかなかった。カルミネは相も変わらず、女性に対して無様な隙を見せまくる。それを見て、父は息子を三日に一度の頻度で娼館へ連れて行き、今度は経験豊富な女を抱かせに抱かせた。
しかし、一年に及ぶ耐性訓練を経ても、カルミネは女性に対して免疫を持つ気配を見せない。
それもそのはずで、カルミネは故意にそう見えるよう父を欺いていた。
童貞喪失時に経験した未知で劇的な快感と、女を犯すことで得られる征服感に酔いしれ、もっと女を抱きたいと思ってしまった。
そこでカルミネはまだ治っていないふりをして、父の金で娼館に通い詰めた。商家の息子として隙なく頭が切れ、他人の機微にも聡いカルミネには実父を欺くことなど朝飯前だった。
カルミネは一年のうちに女を抱きまくった。
ベッドの上では誠実で温厚な人格は反転していたため、娼婦たちは既にカルミネに耐性が付いていることを知っていたが、他言してみすみす金蔓を逃がすような真似はしなかった。
カルミネは半年も経たないうちに、町にある全ての娼館にいる女たちに飽きてしまい、商売女はたまにでいいかと思いつつ町娘たちにも手を出し始めた。
女を知らなかったカルミネが桃色生活を送るようになって、二年。
町の娘たちの噂によって、ついに父親に嘘が露見してしまう。
父は実の息子から盛大に騙されていたことに激怒した。あるいは腹の探り合いを常とする商人ならば、自分をそこまで騙し抜いた息子を褒め称えてもおかしくはなかったが、なにせ娼館通いの代金は全て父持ちであり、信頼していた息子からの裏切りは父の逆鱗に触れてしまった。
カルミネは呆気なく勘当された。
口八丁手八丁で言い繕ったが、父は腐っても商人だ。たとえ息子といえども、一度騙された相手の嘘を見抜けないほど鈍感ではなく、言い訳をするその姿勢が帝国紳士の在り方に反し、気に食わなかった。
その後、十七歳になって間もないカルミネは世界を放浪し始めた。
頭脳も容姿も魔法力も全て並以上のものを持っているだけあって、食うのには困らなかった。父の教育のおかげで、エノーメ語の他に二言語と魔法言語も習得していたので、どこへ行っても大抵は上手くやれていた。
一時期は魔物討伐を主とする猟兵協会に身を置き、今度はその腕前と評判を認められて遺跡管理機構《セントゥルム》の一員に加えられた。
世界各地に点在する古代魔法文明期の魔窟に潜り、ときに守護人形と戦いながら遺跡内を探索する。途中で発見した《聖魔遺物》は回収し、同時に数々の歴史資料を収集して、《セントゥルム》という国際組織を足掛かりに社会的な地位を獲得した。
無論、この間も毎日のように様々な女を抱いていた。
童貞喪失時の快楽を想起させられることから、カルミネは特に生娘を犯すことを好んだ。世界最大の信徒を持つエイモル教では清廉やら清貧やら貞淑やらが是とされていることもあり、たいていの町娘は未姦通だった。
ときに権力を振りかざして純潔を散らし、
ときに野盗に扮して処女を奪い、
ときに奴隷を買って開通工事を施し、
ときに口説き落として破瓜の血を流させた。
しかし当然、ハズレだったときもあった。処女を奪い取ることは快感だが、処女だと思って犯した女が既に貫通済みだったときには落胆した。
落胆しつつも犯したが。
そんな順風満帆とも言える性活を続けること、五年。
カルミネは種々様々な女を抱いた。
年齢でいえば五歳から六十二歳までと幅広い。
おかげで四十歳以上の女は守備範囲外だと確信した。
身分でいえば奴隷から貴族令嬢あるいは夫人、聖職者など多岐にわたる。
特に魔女を力尽くで犯したときは興奮した。彼女らは女だてらに並の男共を凌ぐ魔法力を有しているだけあって、大抵は自尊心が高い。しかし、それをへし折った後に蹂躙するのは生娘を犯すことに通ずる支配欲の充足があった。
種族でいえば、人間はもちろん、獣人、翼人、魚人……と、遺憾ながらも、それだけだ。巨人は体格差的に無理があったので諦めざるを得なかった。
魔人はそもそも人里には滅多にいない。彼らが引きこもっている三日月島へ行こうにも、強力な結界によって近海にすら立ち入れなかった。
竜人も、魔人ほどではないが人里で見かけることはまずない。竜種の住まうカーウィ諸島に命懸けで辿り着き、郷を訪ねてはみたものの、慇懃無礼に門前払いをくらった。ならばと密かに侵入して事を為そうにも、竜人には同族に対して働く強力な共感知能力がある。そのせいか仲間意識が非常に強く、戦士としても一流揃いなので、竜種の警戒で精一杯だったカルミネは報復を恐れて撤退した。
鬼人とは出会う機会すらなかった。北ポンデーロ大陸北部の地底都市に住んでいるらしいので、北部地方に足を伸ばしてみたが、いくら探しても地底都市など影も形もなかった。もともと存在するのか否か不確かな種族なので、無理もない結果だった。
四種族の女こそ抱けていないカルミネだが、しかし彼は二十二歳にして真理を悟った。
幼女こそ至高だと。
数多くの女を抱いてきて、処女を奪うことに執心し、遅まきながらにたどり着いた結論がそれだった。
当然といえば当然の帰結だ。よほどのことがない限り、大抵の幼女は処女だ。加えて、処女という要素だけでなく、幼女はあらゆる意味でも純真無垢なのだ。未だ成熟しきっていない穢れなき肢体はもとより、その精神すら純白だ。
それらを自らの色で穢し、蹂躙する征服感はカルミネを大いに満足させる。
悟りを開いて以降、カルミネは幼女だけを抱いてきた。
否、犯してきた。世間では真理を悟った者が少ないことをカルミネ自身もよく分かっていたので、幼女の処女率は格段に高かった。
しかし、カルミネは幼女狩りに熱中しすぎるあまり、それまで続けてきた保身工作を疎かにしてしまった。彼の所業の一部(よりにもよって幼女狩りだけ)が《セントゥルム》に知れ渡り、機構から除名された。
《セントゥルム》の母体は永世中立国を謳う宗教国家イクライプス教国であり、教国は聖神アーレを戴くエイモル教発祥の地にして総本山だ。教えに背く穢らわしい強姦魔は涜神者も同然だった。
猟兵協会は粗野な者たちが多いが、さすがに子供を無理矢理犯す悪逆非道な変態野郎を容認できるほど、懐は深くなかった。
カルミネは猟兵協会の一員としても、遺跡管理機構の一員としてもそこそこ名の知れた男であり、両組織は世界各地に支部を持つ。一年もしないうちに、カルミネは危険人物として世界中にその名を知られることとなった。
カルミネは保身工作の関係で猟兵協会にも《セントゥルム》にも数多くの人的繋がりを有していたが、協力者たちもさすがに幼女偏愛者の変態を庇うような真似はしなかった。
後ろ盾を失い、追われる身となったカルミネ。
しばらく逃亡生活を送っていると、彼はある組織から接触を受け、勧誘された。
《黄昏の調べ》と呼ばれる魔女狩り集団である。彼らは主に男尊女卑を謳い、世の魔女たちを私刑に処していると噂されている悪逆非道な連中だった。
幼女でも魔女なら容赦なく拷問したり惨殺するらしい愚者たちでもあったため、賢者カルミネは当然誘いを突っぱねた。
それから間もなく、今度は故郷のオールディア帝国から接触された。
カルミネを軍に招き入れたいというのだ。
近年、帝国は新兵器たる魔弓杖の力によって隣国のグレイバ王国を征服し、更には海を隔てたフォリエ大陸のスタグノー連合に、プローン皇国侵略のための軍事的支援まで行っている。
カルミネは元猟兵であり元遺跡管理機構の一員――つまりは古代魔法文明期の遺産たる魔法人形との戦闘経験すらある遺跡探索経験者という強者だ。
更には教国から追われていた関係で教会騎士との戦闘経験まであり、その経歴は異色ながらも並の戦士や魔法士を凌駕して余りある。
知識と経験が非常に豊富で、才能と実力も兼ね備えている若い男。軍拡している帝国が、多少危険とはいえ優秀な人材を欲していても、別段おかしなことではなかった。
無論、ただの勧誘ならば彼の心は動かなかったが、しかし提示された条件が魅力的に過ぎた。カルミネは一も二もなく帝国へ舞い戻り、軍に迎え入れられた。
帝国と教国は表向き良好な関係を保っているが、昨今の帝国は遺跡管理機構《セントゥルム》もとい教国のやり方に反抗的で、密かに協定違反を犯して無断で遺跡探索を敢行しているという噂がある。
よって、世界的に強い影響力を持つイクライプス教国の指名手配犯カルミネは、その存在を秘匿され、名前を変えられ、一般的な部隊へは配属されなかった。
任地は帝国の内陸部――セミリア山地。ほとんど年中、蒸し暑い気候と突発的な豪雨が特徴的で、木々や草花が鬱蒼と生い茂る一帯だ。
そんな場所の只中に立つ工場の警備がカルミネの任務となり、彼は逸る息子の怒張を抑えつつ、意気揚々と任地へと赴いた。
そこで、カルミネは齢二十三にして、未知の衝撃に襲われた。
川原で未発達な身体を洗い清める全裸の幼女たち。そのうちの一人を目にしたとき、カルミネは胸を魔弓杖で撃ち抜かれたような錯覚に見舞われた。
それは不快な感覚ではなく、むしろ痺れるような衝撃は心地よいものだったが、息苦しさに似た胸の締め付けをも感じさせた。
抱いてきた女は四桁に達し、かつ散らした純潔は三桁を優に超える。女は己の欲望を満たすためだけに存在するのだと信じていた幼女偏愛者カルミネ。
それまで情け容赦なく、数々の非人道的あるいは変態的所業を平気な顔で為してきた性犯罪者に、どのような心境の変化があったのかは本人を含めて誰にも分からない。
しかし、それは間違いなく恋情だった。
二十三年間、一度も抱いたことのない、青臭い感情であった。
工場を警備する代わりに、数多くの奴隷幼女たちを好きに犯しても良いと帝国から許可されていたのだが……そんな思惑は吹っ飛んでいた。
着任早々、カルミネの目には一人の幼女しか映っていなかった。
そうして、彼は幼女に恋をした。