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幼女転生  作者: デブリ
四章・日常編
58/203

第四十三話 『友達できるかな?』


 ショッピングから三日後。

 ついに件の六歳児(♂)と対面する日がやって来た。


「名前はウェインっていうのよね。なんかちょっと気難しい子って話だけど、大丈夫かしら……」 

「サラ、緊張してるんですか?」

「べ、べつに緊張なんてしてないわよっ」


 そう言いながらも、落ち着きなく手櫛で前髪を整えるサラ。

 対してリゼットの方に緊張は見られず、ただ期待感に満ちた笑みを浮かべている。


「よーし、三人とも準備できたわね? それじゃ行くわよー」

「いっくぞーっ!」


 俺たちの部屋を訪れたセイディが気軽に手招きをして、リゼットが元気良く応じる。サラも覚悟を決めたのか、ムッと顔を引き締めて部屋を出る。

 ちなみに今日のサラはこの前買った髪飾りを着けて、服もなかなか可愛いものだし、スカートを穿いている。そんな気合い入ってる姿を見せられると、心中複雑になるよ……。

 

「セイディはそのウェインって子と面識あるんですよね? 気難しい子ってことですけど、具体的にどんな感じなんですか?」

「うーん、そうねー……」


 地下の転移盤までの道すがら、俺も最後の確認をしておく。

 事前情報は偏見の元になるとはいえ、やはり可能な限りは色々と知っておきたい。


「口数はそんなに多くないわね、そのくせちょっと生意気かな? まあでも、根は悪い子じゃないから、仲良くしてやって」

「そ、そうね、相手は年下なんだし、仲良くしてあげましょう。わたしの方がお姉さんだからね、ちょっとくらい生意気でも大丈夫よ」


 地下室に入って転移盤に乗り、四人で転移する。

 この転移時特有の感覚にももう慣れちゃったな。


 地下室の階段を上がり、ヘルミーネ邸に出ると……いた。黒髪巨乳の美女と並んで、一人の少年が巨大椅子の足下に突っ立って、こちらを見ている。


「よ、よし……行くわよ、リーゼ、ローズ」

「こんにちはーっ、あたしリゼットー! よろしくねー!」

「あ、ちょっ、リーゼ待ちなさいよ!?」


 リゼットは俺たちを置いて、ウェインとかいうガキンチョの側に駆け寄っていき、サラは妹の独走に戸惑っていた。

 俺たちも走ってその後を追い、件の六歳児(♂)と間近からご対面する。

 さて、このガキは俺にとって敵なのか敵なのか……。


「…………」


 ウェインはどことなく不機嫌そうに俺たち三人を睥睨している。

 背丈は俺以上サラ以下と普通で、体格もまあ平均的だが、なかなか将来有望そうな面構えをしてるな。癖っ毛なのか紺色の髪は毛先がややはねており、くっきりとした顔立ちは気の強さを窺わせる。

 それだけなら、俺も特に思うところはなかったが……こいつ、六歳児にしては目が荒んでやがる。ガキがするような目じゃねえぞ。

 なんか厄介そうな予感がするんだが……。


「それじゃあ、まずはリーゼたちから自己紹介しよっか。リーゼ、もう一回、今度はちゃんとしてみて」

「わかったー!」


 クレアの言葉に意気揚々と応じ、リゼットは真っ正面から真っ直ぐにウェインを見た。


「あたし、リゼット! ごさいで、まじょ! とくいなまほーはね、ひまほーだよっ! よろしくねウェインっ!」

「…………」


 こ、このガキ、リゼットの愛くるしい挨拶に対して無反応とか、いい度胸してんじゃねえか。

 テメしばくぞコラ。

 

「次は……ローズ、お願いね」

「あ、はい」


 とりあえず気を取り直して、俺はなるべくフレンドリーかつ礼儀を忘れず、笑顔で挨拶してみる。


「はじめまして、私はローズといいます。リゼットと同じく、五歳で魔女です。よかったら仲良くしてください」

「…………」


 野郎は灰色の瞳を俺に向けるだけで、口も開かず、頭を下げ返したりもしない。

 ただ性格の気難しさが見え隠れする不機嫌そうな面をしているだけだ。


「最後はサラね」


 サラは軽く深呼吸をすると、片手を腰に当て、堂々な姿を装って口を開く。


「わ、わたしはサラよ、八歳で魔女。あんたより二つ年上だけど……その、な、仲良くしてあげるわ」

「……べつに、なかよくしてとかたのんでねーし」

「え……?」 


 ウェインの無愛想な呟きに、サラの表情が固まった。


「アハハー、ウェインは恥ずかしがり屋だなー、こいつー」

「そういうんじゃねーし。ていうかなんで、なかよくしてあげるとか、えらそうなんだよ」


 セイディが場を取りなそうとするが、ガキはどこを見るでもなく憮然と呟く。

 笑みを引き攣らせる天使に反して、大和撫子の方は穏和な表情のまま少年の肩に優しく手を置いた。


「ウェインも自己紹介してもらっていい?」

「……おれはウェインだ。べつにともだちとかいらねーけど、なかよくしろっていわれたから、してやってもいい」

「じゃー、なかよくするぞー!」

「…………」


 愛嬌の欠片もない嫌々そうな挨拶を聞いて、嬉しそうに反応したのはリゼットだけだ。俺もサラも無言のまま、ウェインという名のクソガキを見つめる。


「そ、それじゃあ、ほらっ、早速四人で遊んでみる?」

「おーっ、あそんでみるー! まずはかくれがりからだっ!」

「私とセイディはその辺で見ているから、あとは四人で仲良くね? ローズとサラも、大丈夫?」

「大丈夫です」


 サラが無言で頷くのを確認すると、クレアは少々心配そうな様子を見せながらも、セイディと一緒に俺たちの側から離れていく。

 今日は初顔合わせということで、気を遣ってくれたのか、ヘルミーネもユーハもいない。この広々とした家なら十二分に走り回れるので、かなり自由に遊ぶことができる。


「じゃーじゃんけんだ! サラねえ、ローズ、ウェイン、じゃんけんしよっ!」

「おれ、かくれがりはきらいだから、やらねー。ていうか、あそびたくなんてねーし……」


 どことなく哀しげに、そして気怠げにウェインは言って、そっぽを向いてしまう。やる気満々だったリゼットは不思議そうに小首を傾げ、その横ではサラが眉根を寄せて一歩を踏み出した。


「ちょ、ちょっと、なによあんた。せっかくリーゼが提案したんだし、そんなこと言わなくたっていいじゃないっ」

「…………」

「なに無視してんのよっ、こ、こっち見なさいよ!」


 サラが強気に告げると、ウェインは子供らしくない荒んだ眼差しを返した。


「なんで睨んでくるのよ……言いたいことあるなら言いなさいよねっ」

「おれはあそびたくねーし、かくれがりはしねー。あとおまえ、いちいちうるせーよ」

「お、お前ってなによっ、わたしの方が年上なんだからね!」


 相手が年下だからか、人見知りなサラもそこそこ話せている。あるいは俺たちの前だから、お姉ちゃんらしく振る舞おうとしているのかもしれない。

 ウェインの方はそんなサラの言葉に舌打ちを溢し、如何にも不機嫌そうな面になって、不満を吐き出すように呟き始める。


「としうえだからなんだっていうんだよ……うるせーやつだな。おれはババアにいわれて、いやいやきてやったんだ。なのになんで、おまえからそんなこといわれなきゃいけねーんだよ……」

「ババアって、まさかクレアのこと言ってるんじゃないでしょうねっ!?」

「ちげーよ、ばか。うるせーっていってるだろ」

「馬鹿ってなによっ、年下のくせに生意気言うんじゃないわよ!」


 気になってクレアとセイディの方を見てみると、二人とも俺たちを見守っているだけで、介入する気はないようだった。

 ここは俺が取りなした方がいいかな……と思って口を開きかけたとき、ウェインがまたしても舌打ちして、苛立ち混じりにサラを睨んだ。


「なんだよ、おまえ……いちいちえらそうにしやがって……まじょだからってちょうしのってんじゃーねよ、ボケ。へんなつばさしやがって、きもちわりーんだよ」

「――ッ!?」


 バサッと両翼を広げて眦を釣り上げ、やにわに魔力波動を放ち始めるサラ。

 だが俺が何か言う前に、魔力はしぼむように収まり、涙目でウェインを睨み返し始めた。かと思いきやバッと身を翻し、駆け出してしまう。


「あっ、サラ!」


 サラは地下へと続く階段に姿を消し、間もなく地面の入口から金色の光が漏れ出してくる。

 俺はサラを追いかけたかったが、その前にクソガキに言ってやらねばならない。

 しかし俺より先に、リゼットが尻尾を逆立てて威勢良く叫んだ。


「ウェインのばかーっ、サラねえはきもちわるくないもん! かわいーもんっ! ちょーしにものってないし、ボケじゃないし、サラねえはサラねえなんだもんっ!」


 そして幼狐はサラの後を追いかけて行き、入れ替わるようにクレアとセイディが駆けつけてくる。

 

「あーもー、いきなりこうなっちゃったかぁ」

「セイディはサラたちの方をお願い」


 天使は地下へ走っていき、クレアはウェインの傍らで腰を屈めて、困り顔を見せた。


「ウェイン、あらかじめお願いしたわよね? サラの翼のことを嫌な感じに言わないでって」

「……べつに、あいつがしつこいから」

「サラに謝って、仲良くしてくれる?」

「…………」


 ウェインはしかめ面を背けて、無言のまま突っ立つだけだ。

 するとクレアは仕方なさげに一息吐き、優しい――優しすぎる笑顔になった。


「それじゃあトレイシーには、ウェインがサラに悪口言って泣かせたって伝えるわよ?」

「……っ」


 ガキンチョはびくりと肩を震わせ、顔を強張らせた。

 だが野郎は開き直った感じに鼻を鳴らして、偉そうに腕を組みやがる。


「べつに……すきにすればいいだろ」

 

 クレアは笑顔を苦笑に変えて、少し考え込むようにウェインから視線を逸らす。

 そして傍観する俺に目を向けてきたので、今度こそ俺は先制して口を開いた。


「クレア、少しウェインと二人で話してもいいですか?」

「……ええ、いいわよ」 


 割とあっさり了承してくれた。

 だが俺は本当に二人きりになりたいので、腰を上げる黒髪美女に続けて告げる。


「クレアはリゼットたちの方を追いかけてください」

「え、でも――」

「ウェインと二人で、子供同士の話があるんです。大人がいると、話ができません。大丈夫ですクレア、私を信じてください」


 俺はクレアの目を見つめて、普段より数割増しに理知的な素振りを意識してみた。そのおかげか、あるいは普段の行いのおかげか、クレアは躊躇いがちにではあるが頷いてくれた。


「分かったわ。でも、何があっても魔法は使ったりしないでね。ウェインも、絶対に暴力はふるっちゃダメよ」

「分かりました」

「…………」

「ウェイン、返事は?」

「……わかってる」


 クレアは心配そうな様子を見せつつも、地下へ降りて行った。


「で、なんだよ、おまえ」

「ちょっと待っててください」


 ウェインの胡乱げな視線はとりあえず置いておいて、俺は地下階段へと駆け寄った。先ほども転移盤起動時に発生する光はきちんと見られたが、クレアの姿がないことを目視で確認し、念のために地下への扉を閉めておく。

 床に魔力を込めると通路が閉ざされて、この場には完全に俺とウェインだけとなる。


「…………」


 六歳児(♂)と向き合うと、野郎は無言でこちらの様子を窺ってくる。その荒んだ双眸にリゼットのような純真さは見られず、猜疑心やら警戒心やら気怠さなんかが混交しており、実にガキらしくない。


 このウェインに対して、俺がすべきことは明白だ。

 サラに謝らせて、リゼットと一緒に遊ばせて、もう今後二度と暴言を吐かせず、良好な友人関係を築いてもらう。本当はこのまま放置して、こいつをサラとリゼットから遠ざけたい思いもあるが、二人は友達を欲している。

 二人の願いを無碍にはできん。

 まあ、つまりはウェインに、サラとリゼットが惚れない程度の良い子ちゃんとして振る舞ってもらえるようにすればいいのだ。

 

 それをどうすれば実現できるのか、考える。

 こういうひねたガキにはどうアプローチするのが最良なのか。

 説得するか、脅迫するか、懐柔するか……俺にショタを攻略した経験はないので自信はない。

 だが意を決して、俺は生意気な六歳児に笑顔を作って話しかけた。


「ウェイン、少し私とお話しませんか?」

 

 そして俺は仕方なく、嫌々ながらも、愛しき幼女二人のためにウェインというクソガキを攻略していった……。




 ♀   ♀   ♀




 ウェインを説き伏せた俺は一緒に転移盤で館に飛んだ。

 まずはサラに謝らせないといけないからな。


「お兄ちゃん、サラに会う前に、とりあえず聞いてください」

「だからへんなよびかたすんなっていってるだろっ」


 あらやだ、この子ったら恥ずかしがっちゃって。

 本当は嬉しくて嬉しくて堪らないくせに。

 俺なら幼女から「お兄ちゃん」とか呼ばれたら悶死する自信あるぞ。


「実は私、兄という存在には少し思うところがありまして……今後は私の気が向いたときだけ、お兄ちゃんって呼んであげますね」

「あげますねじゃねーだろっ、だれもたのんでねーよ!」


 ウェインは怒った風に言いながらも、俺への嫌悪感は見せていない(と思う)。

 攻略が上手くいった証とはいえ、サラのときは半ば失敗したのに、熟女や野郎が相手だと成功するとか虚しすぎるな……と密かに落ち込みながらも、俺は館地下の廊下でひとまず立ち止まり、ウェインに言い聞かせていく。


「いいですか、ウェイン。サラは年上ぶったり強がったりしますけど、本当はとても繊細で優しい子なんです。きちんと誠意を込めて謝れば、たぶん許してくれると思いますけど、適当だと許してはくれないでしょう」

「……べつに、おれはゆるしてほしいとかおもってねーよ」

「でもさっき、私と約束しましたよね? サラに謝って、仲良くして、友達になってくれるって」

「…………くそ、ちゃんとあやればいいんだろ」


 苦々しい顔で笑顔の俺から目を逸らすウェイン。

 こいつは生意気で口も良くないし、擦れて捻くれたところもあるクソガキだ。

 だが、さっき話を聞いた限り、そういう性格であるのにも理由があって、クソガキなのも仕方のないことだと一応は納得できた。それに俺との約束を律儀に守ろうとするあたり、根はいい奴なはずだ。

 まあ、良くなくても、今後俺が教育してやるから問題ない。


「それじゃあ、行きましょうか」


 俺たちは階段を上がり、一階ホールに出た。

 館は基本的に男子禁制だから、六歳児とはいえウェインを立ち入らせるのはどうかと思ったよ。でもウェインは既に地下室だけなら訪れたことがあるらしかったし、今回は特別にいいだろう。

 

 二階の幼女部屋の前まで行くと、開きっぱなしの扉から中の様子が確認できる。

 ベッドに俯せになったサラに、クレアとセイディとリゼットが慰めの言葉を掛けている。相手が年下のガキとはいえ、男から正面切って気持ち悪いと言われれば、落ち込むのも無理はないだろう。


「あっ、ローズ……ウェインっ、なんでここにいるんだ!? またサラねえをいじめるきかっ!?」


 俺がウェインを引き連れて入室すると、リゼットはやにわに身構えて叫ぶ。横になっていたサラの身体がビクッと震えて、ちらりとこちらに目を向けてきた。


「リゼット、違いますよ。ウェインは謝りに来たんです」

「ほんとーに?」

「本当です」


 リゼットに笑みを返し、俺は野郎にも殊更に微笑んでやり、無言で行動を促した。するとウェインは悔しげに俺を睨んだ後、憮然とした顔でベッド脇に歩み寄る。

 サラは身体を起こして逃げ出そうとしたが、俺が背中から抱きしめて引き留めた。


「ちょっとローズッ、なにするのよ放して!」

「その……さっきはごめん」


 ベッドを挟んだ向こう側で、ウェインは実に気まずそうに頭を下げた。

 その姿をクレアとセイディは意外そうに見つめている。肝心のサラもクソガキの後頭部を驚いたように見て、しかしすぐに顔ごと目を背けた。


「あ、あんたなんか嫌いよ、どっかいきなさいよ」

「…………」


 なんだよウェイン、こっち見んなよ。

 どうにも奴は俺にお伺いを立てているらしいが、ここで帰ることは許さん。

 という意味合いを込めて、俺はにっこりと微笑み返してやった。


「おれと、と、ともだちに、なってくれ……ください。もうひどいことはいわないから……その、おねがいします」

「……わたしと友達になりたいの?」

「まあ、たぶん……」

「たぶんってなによ」


 俺は微笑んだまま眼力を込めて、ウェインを睨み付けるように見つめた。

 届け俺の想い。


「いや、なりたい……です。おねがいします、なかよくしてください」

「そ、そこまで言うなら、仲良くしてあげなくもないわ。その代わりっ、次ひどいこと言ったらただじゃおかないんだからね!」


 サラは腰に手を当てて強気に言い放つ。が、表情には未だに少々の怯懦や羞恥や悲哀が見て取れる。それでも相手が年下の男だからか、頑張って虚勢を張っている感じだった。


「ちゃんとあやまったから、あたしもゆるしてやる!」

「なんでおまえにゆるされなくちゃいけねーんだよ……」

「なんだとーっ、かぞくにひどいことするやつはてきなんだ! だからほんとーはゆるさないんだぞっ! でもウェインがともだちになりたいってゆーから、なってやるっ!」


 怒ったような上から目線の台詞に反して、仁王立ちするリゼットの尻尾は左右に激しく揺れ動いている。

 ウェインはどうでもいいと言わんばかりに溜息を漏らした。


「あっそ……もうかってにしろよ」

「じゃーみんなであそぼーっ! まずはかくれがりからだ!」

「あ、リゼット、ちょっと待ってください」

 

 水を差すのもどうかと思ったが、ここはきちんと言っておく必要がある。

 

「隠れ狩りは嫌いだって、さっきウェインが言ってましたよね。友達になったんですから、相手が本気で嫌なことを強制するのは良くないと思うんです。ですから、別の遊びにしましょう?」


 なんかウェインが目を見張って俺の顔を見てきた。

 こいつは俺をなんだと思ってるのかね。

 俺ほど気遣いのできる優しい幼女もいないというのに。


「ウェイン、ほんきでいやなの?」

「……まあ、いやだね」

「そっか、じゃーしょーがないね! じゃーかくれんぼしよーっ!」


 リゼットは嬉し楽しそうに元気良く声を上げる。

 サラはまだ少し硬さが残っているようだが、口元には淡い笑みが浮かんでいる。

 ウェインもなんだかんだで先ほどの初対面時に比べて、幾分か表情が柔らかくなっていた。


「それじゃあミーネの家に戻るわよ。うちには男を入れちゃダメなんだから」


 サラは仕切るように言って、率先して部屋を出て行く。リゼットは飛び跳ねるように後を追いかけ、俺とウェインも続いていく。

 部屋を出る間際、クレアと目が合う。にっこりと微笑みかけてきたので、俺も笑顔を返しておいた。


「おい、おまえ」

「…………」

「おまえだよ、むしすんな」


 廊下を歩いていると、肩を掴まれたので仕方なくウェインに目を向けてやった。

 こいつは礼儀作法が全くなってないな。


「私の名前はお前じゃなくてローズですよ」

「どうでもいいだろ、そんなこと。それより――」

「どうでもよくありませんよ。人に声を掛けるときは名前で呼ばないと。私より年上のくせに、そんなことも分からないんですか?」


 スマイルを見せつつ、さも子供に言い聞かせる大人ような口調で言ってやった。

 するとウェインは悔しそうに歯噛みして、苛立たしげに睨んでくる。

 だが俺はそれを華麗にスルーし、サラたちの背中を追った。


「おいローズッ、もうよけいなことすんなよな!」


 先ほどの隠れ狩りの件を言っているのだろう。

 今度は名前を呼ばれたので、俺はきちんと足を止めてウェインと向き合ってやった。


「さて、それはウェイン次第ですね」

「――っ、くそ、なんだおまえ!」

 

 耳まで顔を赤くして、肩を怒らせながらずんずんと先に行くウェイン。

 どうにも怒らせてしまったっぽい。

 今度からは男の子のプライドも考慮して接してやろう。

 いやでも、それはそれで面倒くせえな。


「ローズ何してるのっ、置いてくわよ!」

「あっ、待ってくださいサラッ」


 こうして、ちょっとした衝突こそあったものの、ウェインという男友達ができてしまった。実際に話してみると、ガキンチョの相手もなかなか新鮮で面白いからいいのだが、やはりハーレム問題には多大な不安が残る。

 今後はサラとリゼットが野郎に惚れないように注意しつつ、可能な限り仲良く連んでいくとしよう。


 次回はウェインの心情を描いた間話です。

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