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幼女転生  作者: デブリ
三章・邂逅編
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第三十九話 『よろしい、ならば攻略だ -小悪魔編-』


 リゼットが詠唱省略に成功して、数日後。

 俺は幼狐に文字の読み書きを教えていた。


「ねえほらローズ、こんなかんじでしょっ」

「ええ、そうですね。あ、でもここが間違ってますよ」


 二階にある広々とした勉強部屋の机で、俺と幼狐は隣り合って勉強していく。

 リゼットは俺の指摘したところを見て「あっ」と声を上げた。


「あぁーうぅー、またまちがえちゃった……はやくクラードごのべんきょーしたいのにぃ」


 なんだかんだ言いながらも、リゼットは投げ出そうとはしない。詠唱省略のときも思ったけど、彼女は意外と根気があるのだ。

 リゼットはペンを板に走らせていく。勉強道具は薄い金属板と金属ペンであり、これらは魔法具らしい。名前は魔筆板まひつばんというそうだ。だいたいA4用紙ほどの黒い板にペン先を走らせると、白い筆跡が残る。板の上部にあるボタンを押すか、一定時間が経てば、筆跡は消えるという道具だ。

 ただ、欠点としてペンには魔石に魔力を込めるように、常に魔力を供給し続けなければならない。リゼットは俺が館に来る何日か前に、魔石への魔力充填ができるようになったらしいので、まだ不慣れだ。しかし、字の練習と共に魔力の扱いにも習熟できるので一石二鳥だった。使い始めの頃は結構集中力を必要とするが。

 ちなみに魔力はあまり必要としないので、魔幼女でも長時間使用が可能だ。案の定、高級品なので乱暴な取り扱いは厳禁である。これがあれば俺のリリオにおけるスタディデイズももっと効率的になっただろうに……。


「ねえ、ローズはなんでそんなにべんきょーできるの? サラねえよりもできるよねっ」

「私は……私も、勉強しましたので」

「あたしもべんきょーしたら、ローズみたいになれるかな?」

「なれますよ。だから頑張って勉強しましょう」


 幼狐は「うんっ」と元気良く頷いて、ペンを動かしていく。

 今まさにリゼットがしているのは文字の書き取りだ。六節ほど前から、リゼットはエノーメ語の読み書きを習っていたらしい。なので、少しは字が読めるし、書けもする。

 しかし、十分ではない。クラード語を習う前に、まずは日常で使う言語を一定レベルにした方がいい。その点はクレアたちも同意見だった。


 クレアたちによると、クラード語は五歳から教えるつもりだったらしい。それまでにエノーメ語の読み書きをある程度できるようにする予定だったそうな。ちなみにリゼットの誕生日は橙土期の第八節目である。


 さて、リゼットはともかく、俺も勉強する。

 今の俺に足りない知識は……挙げればキリがない。が、とりあえず必要だと思われるのは、やはり魔法関係のことだ。

 魔法具や《聖魔遺物》はもとより、魔力とは何なのか、どんな魔法がどれくらいの種類あるのか、疑問は尽きない。そして今現在、最も知りたいことは例の謎感覚についてだ。

 俺はなぜか他人の魔力の動きめいたものが分かるようになった。現に今も、隣に座るリゼットから微かな"波"が感じられる。これはリゼットが魔法具たるペンに魔力を供給しているからだろう。


 この第六感のことは誰にも言っていない。

 はじめは急に不快さを感じたりして意味不明で、何かの病気かと思って滅茶苦茶心配したが、メカニズムにはすぐ気付けた。日常生活でも火や水の魔法はクレアたちがよく使っていたからな。

 一応、この謎感覚のことを婆さんに相談しようか悩みもした。しかし、これ以上俺が変な幼女だと思われるのは避けた方がいい。ただでさえ超幼女級の頭脳と振る舞いをしているのだ。その上で更に他人の魔力活性を察知できるとなると、さすがに不気味がられそうだ。


 この謎感覚(とりあえず視覚や聴覚のように魔覚と仮名する)は、あるいは転生者特有の感覚なのかもしれない。だがそうなると、なぜ初めから機能していなかったのかが不明だ。魔覚が覚醒した時期的に、あの魔剣グラサン白髪女が俺をブッ刺した件が無関係とは思えない。なぜ俺が生きているのかという謎もあるし。


「ねえローズ、これなんてよむんだっけ?」


 リゼットの勉強を見る傍ら、俺も本を読んで知識を蓄えていく。

 そんなことを一時間ほどしていると、勉強部屋のドアが開いた。


「あっ、サラねえ」


 振り返ると、褐色肌の美幼女がいた。

 サラは俺とリゼットにくっきりとした大きな双眸を向けてきたが、すぐに逸らした。


「サラねえもいっしょにべんきょーしよ? あっ、やっぱりみんなであそぼー! あたしとね、サラねえとね、ローズとね、あとクレアたちでかくれんぼするんだーっ!」


 リゼットが無邪気にそう提案すると、なぜかサラは俺を睨んできた。が、ややもせずに視線を外すと、そそくさと壁際の本棚へと歩いて行く。


「ごめん、わたし抜きで遊んでて」

「なんでぇー、さいきんサラねえ、べんきょーばっかりー」

「リーゼだってそうじゃない」


 サラは背中の紫翼しよくを向け、本棚に目を走らせている。気の強さが窺える凛とした声音には、同時に姉が妹に対するような柔和さも感じ取れた。


「じゃあサラねえといっしょにべんきょーすーるー!」

「それも無理なの。これからおばあちゃんに新しい魔法の練習見てもらうから」

「おぉ、あたらしーまほーのれんしゅー! あたしもあたらしーまほーしたいっ、いっしょにいく!」

「ダメよ、リーゼはまだクラード語まったく分からないでしょ」

「むぅぅんー」


 クレアたちの教育方針はエリアーヌたちのそれと大差はない。

 まずは初級魔法を教え、それから蓄魔石への魔力供給の練習をさせて魔法適性を見極めた後、クラード語を習わせるようだった。詠唱の意味だけ教えるようなことはせず、自分の力で魔法を覚えさせようというのだ。だからこそ、こうしてクラード語習得のために、エノーメ語の練習をしている。


「……ない」


 サラはポツリと呟きを溢したかと思いきや、こちらに近づいて来た。

 俺とリゼットの机の前まで来ると、嫌悪感丸出しの目で俺を見下ろしてくる。


「…………」

「…………」


 しばし見つめ合う俺とサラ。

 綺麗な若葉色の瞳を前に、我が豆腐メンタルは心臓を超過駆動させ始める。


「それ」


 短く強気な声で言って、サラは手を突き出してきた。

 彼女の視線が俺の手中にある本だと気が付き、恐る恐る差し出してみると、サラは乱雑な手つきで受け取り、「ふんっ」と鼻を鳴らして去って行った。


「…………ねえ、ローズ。サラねえとなかよくして?」


 先ほどまでの溌剌とした顔に影を落とし、リゼットが二の腕に触れてきた。

 俺はその手を握り返しながらも、苦笑することしかできない。

 

「私もそうしたいんですけど、サラは私のことを嫌っているようなので……」


 この三節ちょっとの間、俺はサラとまともに話せていない。

 サラは露骨なまでに俺を避けていた。初日以降、頑なに一緒に入浴しようとはしないし、同じ部屋で寝ようともしない。彼女は以前までチェルシーが使っていた部屋のベッドで寝ているのだ。唯一、食事だけは全員で食べる決まりなので同席するが、目を合わせようとはせず、口も利いてくれない。


「うーん……なんでサラねえ、ローズのこときらいなんだろ」


 リゼットがこういったことを言ってくるのは初めてではない。

 俺とサラを見て、何度か似たような応酬はしてきた。


「……大丈夫ですよ、リゼット。そのうちきっと仲良くなりますから」

 

 俺はいつもこう言って、話を流してきた。

 とはいえ、そろそろ何か手を打った方がいいだろう。さすがに三節以上経っても俺を受け入れてくれる予兆がないのはマズい気がする。


 今はまだ露骨なまでに嫌悪感を示してくれているからいい。いや、決して良くはないんだけど、無関心よりは百倍マシだ。サラは俺のことを、幼女リゼットの目から見ても明らかなほど、嫌っている。

 だが、それは俺という存在を意識している証左でもある。

 これが無関心になると、もう嫌悪感すら示してくれなくなるのだ。

 前世での俺とクソ兄貴との関係がそうだった。人間関係における末期状態は、互いに無関心になることだ。相手のことでいちいち心を動かされるのが億劫になり、いないものとして扱うようになる。そうなったら、サラと良好な関係を築ける可能性は絶望的になる。


 時間は解決してくれない。

 サラは俺を受け入れるどころか、一層嫌っているように思う。

 こうなったら、自分でどうにかするしかない……とは思うが、正直怖い。

 自分を嫌っている相手と仲良くしようだなんて、そんなことは未経験なのだ。


 前世において、俺は誰にも嫌われないように努力していた。

 だから、あそこまで明確な嫌悪感を示されたことなど、喜劇的な悲劇を演じてしまった当時のクソ兄貴からされたくらいだ。いや……高校でのいじめでも少しは経験したが、どちらもまともに向き合うことなく、俺は自分の殻に閉じこもって逃げ出した。


 嫌ってくる人にこちらから歩み寄るなんて、そんな勇気も積極性も俺にはない。

 いや、なかった。

 今は違う。俺は新生したのだ。リリオでもテレーズ相手に頑張った。

 今回だって、きっとサラと仲良くなってみせる。


 まあ本当は、サラと絆を育むことに対して、俺の理性的な部分が警告を発してはいる。後々のことを考えると、サラと仲良くなれば互いに辛い思いをすることになるのだ。

 しかし、俺がこの館に残ったのはリゼットのためだ。彼女の愛らしい笑顔を曇らせる原因が俺にあっては元も子もない。


「ローズ、リーゼ」


 決意を固めていると、今度は勉強部屋にクレアがやってきた。相変わらずエロティックな雰囲気を漂わせている美女だ。特に、最近は妙に色っぽいフェロモンをひしひしと感じる。三節以上経って、俺もクレアに慣れてきたはずなんだが……リゼットとサラのことに気を取られすぎて、どうにも欲求不満になってるらしい。

 これは早く問題を解決せねば。


「今日は畑の手入れを手伝ってって、今朝言ったこと覚えてるかしら?」

「――あ」


 俺とリゼットは思わず顔を見合わせた。

 館の裏には菜園があるので、幼女も手伝いとして駆り出されることが間々ある。

 あるいはそれも情操教育の一環なのかもしれないが。

 

「勉強は少し休憩にして、一緒に畑に行きましょう」

「はーいっ」


 リゼットはペンと板を放り出してクレアの元まで走っていく。家庭菜園の手伝いとはいえ、リゼットは幼女らしく外が好きだ。特にこの館では、たとえ裏庭でも勝手に外に出てはいけないからな。 

 俺もリゼットに続いて立ち上がり、クレアと一緒に菜園へと向かう。今日は日差しが強いらしいので、幼女と一緒に麦わら帽子を被っての作業となる。


「ローズ、リーゼが間違えないように見ててくれる?」

「任せてください」


 リゼットはよく間違えて雑草ではなく生育中の芽なんかも摘み取ってしまう。

 俺がしっかり見ていてやらないといけない。


「あのね、それでね、タイラントボアのおにくはね、ランドブルのおにくより、にくじゅーがすごいの! すごいおいしーんだよ!」


 幼女と汗水垂らして畑仕事に従事している最中、俺はリゼットの他愛ない話に相槌を打ちながら、サラをどうやって攻略しようか考える。

 が、策なんて思いつかない。

 生憎と俺はロリコンというわけではなかったので(今も違うが)、エロゲでもロリキャラを攻略した経験が少なく、知識も足りない。嫌悪感丸出しの幼女と仲良くする方法が分かり、実際に打ち解けられるほどのコミュ力があれば、俺は前世で引きこもってなどいなかった。

 にしても、テレーズのときもそうだったが、どうせなら年頃の美少女を攻略したいな。俺も少女になればそのうち機会が訪れそうだから、今はまだ我慢か。


 まあ、とりあえずは情報収集だな。サラがどんな幼女なのか、これまで一緒に暮らしてきた人たちから、詳しく聞いておいた方がいいだろう


「あの、リゼット。サラはどんな人なんでしょう?」

「ん? サラねえはサラねえだよ?」


 ……前途は多難そうだが、俺は諦めないぞ。

 諦めたら、そこで攻略失敗なのだ。

 必ずデビル可愛い金髪褐色翼人美幼女と仲良くなってやる。

 



 ♀   ♀   ♀




 と決意はしたが、その前に幼狐との心癒されるひとときを堪能しておく。

 

 普段、俺はリゼットと一緒に風呂に入っている。風呂には毎日入るので、毎日幼女の裸が見放題だ。まあ、さすがにリゼットはまだ小さすぎるから興奮しないけど……代わりに癒される。ほっこりする。

 たぶん父親が娘と一緒に入浴するとき、こんな気持ちになるのだろう。


「ローズはかみながいねー」


 リゼットに背中を洗ってもらっていると、不意にそんなことを言われる。

 絶賛ヒーリング中の俺は「あ~、そうですね~」と間延びした声を返した。


「きらないの?」

「う~ん、どうしましょうね~」


 俺は前世において、もし結婚して子供が生まれるなら断然娘がいいと思っていた。純真無垢な幼女が一生懸命に背中をごしごし洗ってくれる。考えただけでも心が癒される。

 無論、前世ではそんなこと天地がひっくり返っても無理だとも思っていたが、最近の俺は癒されまくりだ。無限のヒールパワーがどこまでも俺の心を解していく。


「おわったよっ、つぎはローズのばんね!」


 リゼットは元気良く言って、俺に背中を向けてくる。

 よし、今度は俺が洗う番だ。


「あははっ、もーローズくすぐったいよ!」


 リゼットはまだ幼女だから、脇の下や腰回りが敏感だ。きゃいきゃい言って身をよじりながら、俺に洗われていく。

 俺の身体もまだまだ幼いから、洗われると妙にくすぐったさを覚えたりする。そして意志に反して笑ってしまう。今ここでリゼットに可愛らしい声を上げさせると、明日復讐されるので故意にはせず、真面目に洗っていく。


 さて、リゼットは獣人だ。しかし背中に毛は生えておらず、普通に柔らかく滑らかな素肌が広がっている。

 聞いたところによると、獣人ハーフは背中に毛がないことが多いらしい。場合によっては尻尾もないとか。つまり、リゼットは獣人ハーフということになり、ラヴィも同様だ。


 幼狐の両親や出自について聞いてみたかったが、自重している。この館に獣人はリゼット以外いないし、どころかみんな種族や顔立ちなんかはバラバラだ。リゼットだけに限らず、みんながどういう事情で《黎明の調べ》にいるのか、気にはなる。

 しかし、リゼットは最近ようやく安定してきたのだ。両親のことはタブーかもしれないし、容易に触れられなかった。


「次は尻尾を洗いますね」

「うんっ」


 そうして幼女と仲良く身体を洗い合っていると、風呂場の戸が開いた。


「あっ、セイディおそいー」

「ごめんごめん、ちょっとマリリン様に叱られちゃって」


 全裸で現れたセイディは右手に酒瓶、左手に瀟洒なグラスを持っている。

 入浴前、セイディは服を全部脱いだ後、思い出したように「お酒とってくるから先入ってて」と言い、全裸で飛び出していったのだ。いくら自宅だからって妙齢の美女が全裸でうろついてたら、そりゃ婆さんも注意するわな。


「さーてと」


 快活な笑みを見せる美天使は両手のそれを湯船の縁に置くと、俺たちの方へやってきた。


「ちょうど二人とも洗い終わった? なら今度はアタシを洗ってくれない?」

「やっ、セイディあらうのたいへんだもん!」

「まあまあ、リゼット、そう言わずに。一緒に洗ってあげましょう」


 確かにね、セイディを洗うのは大変だよ。

 なにせ背中の両翼があるからね。

 でもさ、美女のお誘いは断っちゃいかんのですよ。


「さすがローズはいい子ねー。あー、リーゼにも洗って欲しいなぁー」

「それじゃーねっ、アレのませてくれたらいいよ!」


 リゼットの指差す先には……酒瓶。

 セイディは「んー」とやや逡巡した素振りを見せた後、頷いた。


「ちょっとならいいわよ」

「ほんと!? やったーっ!」

「いやいや、ダメですよセイディ」


 この世界は十五歳で成人するそうなので、酒も十五歳から飲める。飲めるというか、酒は十五からという暗黙の了解――もとい慣習があるらしいのだ。

 べつに十五歳未満でも普通に飲んでいる人もいるっぽいが、幼女に酒はダメだろう。アルコールってのは言ってしまえば毒なのだ。


「えー、ローズもいっしょにのんでみよーよー」

「ダメですよ、リゼット。クレアもアルセリアさんもお婆様も、みんなダメって言ってるじゃないですか」

「大丈夫よ、すぐ解毒魔法かければいいし。それより、ほら、早く洗ってくれる?」

「うんっ」


 リゼットは俺を無視してセイディの背中と翼を洗っていく。

 まあ、今はとりあえず天使を洗ってやろう。


「ん、ローズ、べつに前はいいわよ?」

「いえ、洗うからには全身きちんと洗います!」

「そう? 洗ってくれるなら、任せちゃうけど」


 セイディは笑顔で全身洗浄を任せてくれた。

 さすが姐さん、サービス精神が半端ない。

 にしても、やはりセイディの胸部は哀愁を誘う大きさだな。直に洗っても膨らみがほとんど感じられない。いや、確かに他の部位と比べて柔らかいには柔らかいんだけどね、うん。俺も将来こうならないか、今から心配だ……。


「翼はやっぱり大変ですね」

 

 セイディの身体を堪能した後、背中に回ってリゼットと共に翼を洗っていく。

 美しい白翼は結構大きい。ピンと翼端まで広げると、翼開長は三リーギスくらいある。普段は折りたたまれているから、そんなに大きくは感じないが。


 幼女二人でえっちらおっちら翼を洗った後、俺たちは広々とした浴槽に身を浸した。セイディは酒瓶からワインっぽい赤々とした液体を少しだけグラスに注ぐと、リゼットに差し出す。


「舐めるだけよ」

「うんっ」


 リゼットは瞳を輝かせて頷いた。

 これまで俺はセイディはもとより、クレアやアルセリア、婆さんともそれぞれ一緒に風呂に入ってきた。今日はセイディと一緒に入ることになったが、彼女はよく風呂で酒を飲むらしい。というか、風呂だけでなく普通に飲んだりもしている。一人で飲んだり、クレアと飲んだり、アルセリアと飲んだり、色々だ。

 そのせいか、リゼットは前々から酒に興味津々だったようで、クレアたちの目がない今このとき、ついに酒を口にしようとする。もう俺が止めても聞きそうにないので、とりあえず解毒魔法の準備だけしておく。


 リゼットは小さな唇をグラスに近づけ、まずはスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。すると少し眉をひそめ、首を傾げた。


「うぅー、やっぱりにおいはなんかへん」


 しばし匂いをかぎ続けた後、リゼットは一気にグラスを傾けた。

 実に男らしい飲み方だ。と思ったのもつかの間、小さく喉を上下させるや否や、幼狐は思い切り顔をしかめた。


「ばずび~」


 だらりと舌を出し、泣きそうな声で言う。

 そんなリゼットも可愛らしかったが、俺はすぐ獣耳の間に手を置いて下級解毒魔法を掛けた。そして水魔法でグラスに水を注いでやる。

 リゼットはやはり水を一気飲みすると、セイディにグラスを突き返した。


「あはは、やっぱりリーゼにはまだお酒は分かんないかー」

「セイディへんっ、なんでそんなのおいしそうにのむの!?」

「んー? だって美味しいんだもん」


 セイディはグラスに並々と酒を注ぐと、一口飲んで満足げに頷く。


「ローズも飲んでみる?」

「私はいいです」

「のまないほーがいーよローズ!」


 前世の俺は酒があまり好きではなかった。異世界の酒に興味がないといえば嘘になるが、いつか飲むとしても今はまだ飲まない。

 俺はこの身体を大切に育てていきたいのだ。


「あー、いい気持ちぃ……」


 セイディは脱力した様子で吐息を溢すが、ふと遠い眼差しになった。


「……はぁ、早くもっと気持ちよくなりたいなぁ」


 しみじみとした呟きからは心からそう切望しているのが伝わってくる。

 発言の意味がよく分からず訊ねようとしたところ、幼狐に腕を引かれた。


「ローズ、セイディはほっといてあっちであそぼ!」

「ええ、いいですよ」 


 湯船はかなり広いので、幼女なら十分に泳ぐことができる。

 俺は反射的に頷いたのだが、ふと思い出した。


「そういえば、リゼット。お昼にも言いましたけど、サラのことを教えてくれませんか」

「サラねえのこと?」

「サラと仲良くしたいので、色々と知りたいんです」


 そう言うと、リゼットは嬉しそうに頷き、サラのことを話してくれる。

 しかし、やはり幼狐の話はあまり要領を得ないし、何よりすぐ脱線する。魔法がどうこう、お肉がどうこう、アルセリアがどうこう、取り留めがない。


 もちろん、リゼットとのヒーリングタイムを堪能するのもいいが、やはり今はサラのことが気掛かりだった。今こうしているように、サラとも一緒に笑って入浴できるような、そんな関係に俺はなりたいのだ。




 ♀   ♀   ♀




 リゼットに始まり、クレア、セイディ、アルセリア、婆さん、ヘルミーネに詳細かつ入念な聞き込み調査を行った。

 そして俺主観の情報と合わせて纏めてみると、こうなる。



〈名前〉サラ

〈年齢〉七歳(になって間もない)

〈種族〉翼人

〈身長〉121レンテ

〈性格〉ツンデレ(だと思いたい)

〈好きなこと〉勉強?

〈嫌いなこと〉遊び?

〈好きな食べ物〉くだもの系

〈嫌いな食べ物〉苦いもの系

〈好きな人〉家族全員(ただしローズ以外)

〈嫌いな人〉ローズ

〈適性属性〉闇

〈魔法力〉魔女の中でも高い方らしい


〈サラの一日(一例)〉

 六時頃……起床、朝食

 七時頃……家事手伝い

 八時頃……自習

 九時頃……クレアと菜園の手入れをする

 十時頃……セイディと剣の練習

 十二時頃……昼食

 十三時頃……婆さんに魔法の練習を見てもらう

 十四時頃……読書中リゼットに絡まれるも、あしらって継続

 十五時頃……おやつ、その後に昼寝

 十七時頃……アルセリアに勉強を見てもらう

 十九時頃……夕食

 二十時頃……セイディと入浴

 二十一時頃……少々の勉強後、就寝


〈備考〉

 どうやらサラはまだ飛ぶことができないらしい。 



 三日も掛けて、必要十分だと思われるくらいには攻略情報を集めた。

 後は実際にアクションを起こしてコミュニケーションを図っていけばいい。

 が、やはりどう接していけばいいのかは分からない。


 いや、あるいは考えないことこそ、最善なのかもしれない。

 相手は幼女だ。その心は純真であり、こちらの打算に塗れた行動など見透かされる恐れがある。大人が子供と話すときは目線を合わせると、子供は安心するという。俺の中に残るピュアな心に従って、自然体に接してみれば、あるいは……。


 うん、まあ、それは最後の手段にしよう。

 せっかく情報を収集したのだし、まずは頭脳的に攻めてみる。

 かつてベテランエロゲーマーだった俺はロリキャラの攻略経験こそ少ないが、反して姉キャラの攻略実績は結構なものだ。

 それに、なんだかんだ言っても、結局は幼女なのだ。そう気構えることはない。

 ツンデレヒロインとは得てしてちょろインなのだ。

 うん、そうだ、ちょろインでも攻略するつもりでいってみよう。


 というわけで、サラお姉ちゃんと仲良くなってみる。


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