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幼女転生  作者: デブリ
二章・道中編
21/203

第十三話 『こまけぇこたぁいいんだよ!!』


 のんびりと馬で歩くこと、一時間くらい(陽の位置と俺の勘)。

 いくつかの丘を越えると、遠目に茶褐色の建造物が見えた。


「あれがクイーソね。ようやく着いたわ……」


 後ろの猫耳ツインテ美少女が少し疲れた声を漏らした。

 フラヴィ曰く、昨日の深夜にセミリア山地(俺がいた工場一帯の地名らしい)で悪者退治をした後、すぐに現地を出発したそうな。それから馬を走らせた末、朝方にこの丘陵地帯に抜け出て、しばらくしたら俺が起き出したとか。


 ちなみに、この辺りはセミリア山地の北側に位置しているらしい。とはいっても、セミリア山地なる場所がどこにあるのか、そもそも帝国全体の地理すら俺は知らない。それどころかエノーメ大陸がどんな形をしていて、世界のどんな位置にあるのかも、何も知らない。

 いつか地図が見られる機会があれば、是非見てみたい。


「あれは……壁ですよね? 町って普通、壁で囲まれてるんですか?」

「壁のある町とない町があるわね。市壁で守られてる町は都市とか城塞都市って呼ぶわ」


 まあ、町をぐるりと囲む壁を建てるのも大変そうだからな。でもクイーソという目的地に壁があるということは、栄えている大きな町なのだろう。

 実際、遠目に見ても大きな壁なのが分かる。この世界では都会的な場所のはずだ。色々とこの世界に関することを知れるチャンスだろう。


 そんな風に期待を膨らませながら、クイーソの町に近づいていく。壁が大きくなってくるにつれて、次第にただの草原が畑に変わってきた。畑にはよく分からない植物が植えられていて、ちらほらと老若男女が農作業に従事している。ボロい服装からして、奴隷なんだろうか? やけに女が多い気がするが……

 

「あの、フラヴィさん、あの塔みたいなのは何ですか?」


 俺は三階建てほどの円柱形をした建物を指差した。直径はそんなになく、五リーギス強くらいだろう。


「あれは監視塔ね。魔物なんかがやって来ても、すぐに見つけられるように建ってるのよ」

「なるほど」


 壁があるのは魔物の脅威から身を守るためなのだろうが、それでも尚、防備は怠っていないようだ。畑の中に建っていることだし、畑泥棒だったりの警戒も兼ねているのだろう。あるいは農作業に精を出す彼ら彼女らの監視という目的もあったりして……

 まあともかく、現代人だった俺からすれば中世的にファンタジーなこの世界は色々と興味深い。


「あれ、でもさっきのグレイモールのような魔物はどうするんですか? 壁はあっても地下から侵入されそうですけど」

「グレイモールはわざわざ人里を襲うほど凶暴でもないからね。せいぜい街道や人気の無い場所で、少人数の獲物を群れで襲う程度しかしないわ」


 つまりロックの言うとおり、まさに雑魚ってわけだ。


「あ、そうだ」


 ふとフラヴィが思い出したように声を上げた。なんだと思って振り返るが、それと同時に美少女から俺の細腕を掴まれた。


「ちょっとジッとしててね」


 フラヴィはそう言って、俺のシャツの袖をまくると、右の二の腕に包帯を巻いていく。約一月前に刻まれた印があっという間に包帯に隠れ、ダボダボのシャツでその包帯まで覆い隠される。


「おまじないよ」


 のんびりと気怠く笑うフラヴィ。

 俺は彼女を見上げながら、言い得て妙だと思った。おそらく俺が奴隷――しかもあのセミリア工場という場所にいた幼女だと、余人に知られるのは不味いのだろう。


 そんなこんなで、市壁の近くまでやって来る。壁は高くそびえ立ち、少なくとも五階建てのビル以上はありそうだ。見上げていると首が痛くなるな。

 市壁の周辺には木造の家々が雑多に立ち並んでいた。たぶんさっき見た農民たちの居住地なのだろう。身形からしてあまり裕福そうには見えないので、奴隷の可能性もある。露店なんかも散見され、なんかいい匂いが漂ってくる。


 縦長に口を開ける門には門番らしき野郎共が数人立っており、門の脇には小さなテントが張られている。イベントテントってやつだな。学校の運動会とかで使われる感じの。門の向こう側にも同じようなテントが設営されているのが見えた。

 門番たちは出て行く連中や入っていく連中を止めてテント前まで誘導し、何やら確認を取っているようだ。


「いい? ローズちゃん。これから怖そうなオジサンがじろじろ見てくると思うけど、口は開かないで黙っててね」

「は、はい」


 なんか分からんが、とりあえず頷いておいた。

 前を行くオーバンが門の前で下馬したのを切っ掛けに、他の三人も馬を下り始める。もちろん俺もね。

 そうして門番の誘導に従い、テントの近くまでやって来た。


「何人だ、通行証を見せろ」

「四人だ。あと奴隷が一人。通行証はこれだ」


 オーバンが何やら紙(羊皮紙かも)を馬に括り付けた鞄から取り出し、門番の男に差し出した。門番はそれに目を通した後、今度は俺に視線を向けてくる。

 門番の男は胴部と腰回りにだけ簡素な鎧を装備しているが、頭には何も付けていない。半袖半ズボンの格好をしているし、たぶん暑いから軽装なのだろう。

 それにしても、目付き悪いなこの門番。

 俺が言われたとおり黙っていると、門番野郎は偉そうに頷いた。


「滞在目的と期間は?」

「その許可証にあるとおり、俺たちは猟兵だからな。こっちの支部に仕事をしに来た。滞在期間は五日ほどを予定しているが、依頼によっては前後するだろう」

「では全員、猟兵協会の会員証を見せろ」


 猟兵。

 そういえばリタ様の講義で北ポンデーロ大陸には猟兵協会の本部があるとか教えてもらったな。というか、エリアーヌたちって猟兵だったのか? 猟兵ってのはたしか魔物討伐を主とする連中だったと記憶している。


 今更の話、エリアーヌたちはそれぞれ腰に武器を引っ提げている。

 オーバンはやや大ぶりの剣で、ロックはたぶん普通サイズの剣。エリアーヌは細身の剣、そしてフラヴィは短剣だか短刀っぽいのを両腰に携えている。


 四人の男女はそれぞれが免許証ほどの金属板を取り出し、野郎に手渡した。目付きの悪いオッサンは羊皮紙とカード四枚をそれぞれ見比べる。それからオーバンに纏めてカードを返すと、今度は俺を見てきた。


「で、そっちの奴隷のガキはなんだ?」

「雑用見習いだ。まだ物心ついて間もないが、色々と教え込んでいる」

「ふむ、なるほど。だがもう少し上等な服を着せた方がいいな。奴隷の身形は主人の品と格を表す。中級猟兵として周りから低く見られたくなければ、奴隷の服一式くらい用立てたらどうだ」

「忠告痛み入る」


 門番男は勝手に納得して頷きながら、上から目線で講釈を垂れている。

 猟兵ってのは頭が悪いとか思われてるのかもしれない。まあ、十中八九戦う連中だから、脳筋が多いのかもな。


「こちら、お願いします」


 門番男はテント下で欠伸を漏らしている若い男に対し、丁寧に声を掛ける。若造の身形はなかなかに良く、門番男がへこへこしているところを見ると、この場で一番偉い奴なのだろう。

 これだけ立派な壁のある都市には貴族が住んでいるかもしれないし、そうなると当然都市の仕事にも従事しているはずだ。大方、若造は下級貴族の末っ子坊ちゃんか何かに違いない。一日中テントの下に座っているだけの簡単なお仕事ってか?


 門番男は若造から何か紙を受け取ると、一転して俺たちに手を突き出してきた。

 掌を上にして、如何にも寄越せと言わんばかりの仕草である。


「通門税は一人につき500リシアだ。奴隷は一人250リシア。しめて2250リシアとなる」

「分かった」


 オーバンは懐から革袋を取り出して、銀貨と銅貨らしき貨幣を門番に手渡す。すると貨幣と引き替えに、若造を経由した紙が渡される。


「うむ、ちょうどだな。よし、これが滞在許可証だ。宿を取るときには提示して、門を出るときに返却するように。無くせば不法滞在の容疑と罰則がかけられるから、注意しろ」

「あぁ、分かっている。ありがとう」


 オーバンは滞在許可証なるものを受け取ると、一度俺たちを振り返ってから、門の内側へと歩き出した。オッサンと同じくフラヴィたちも騎乗せずに歩き出したので、俺も追いかける。ちょっと小走りにならないと置いていかれそうだ。少しは気を遣って欲しいものだが……いや、それだと奴隷にならないか。


 そんなこんなで、俺たちはクイーソという都市に足を踏み入れた。

 にしても、やっぱり前世の世界とこっちの世界って全然違うのね。




 ♀   ♀   ♀




 都市はだいぶ賑々しかった。

 フラヴィ曰く、俺たちが入ったのは南門だそうだ。門から中へと入ってすぐのところはロータリーのような円形広場になっていた。広場には荷馬車なんかが多く、たぶん出て行く連中やら入ってくる連中やらで混雑しないようになっているのだろう。

 三つの道が門前広場からは伸びていて、北、北東、北西へと二車線道路くらいの大通りがそれぞれ見られる。


 俺たちは北の通りへと直進し、町中を歩いて行く。まさに雑踏という言葉が相応しく、肩が触れあうほどではないにせよ、人の気配に満ち満ちている。


「人が多いですね……」

「そう? 帝国の都市ではこれくらい普通だけど」


 フラヴィは何でもないように言うが、元引きこもりにとっては結構身に堪える状況だった。転生して以来初めての町なので相応に興奮もあるが、前世の呪いが発動しかけて辛い。

 それでも好奇心が上回っているのか、自分でも意外なほど人混みに忌避感を感じない。あるいはこれもロリボディによる浄化作用のおかげだろうか。


 通りには種々様々な店舗が軒を連ねており、所々には露店も見られる。

 建築様式は……なんだろ? 基本は石造りのようだが、所々に木材も使用されているハイブリットな感じで、セミリア工場に通ずる意匠が感じられる。壁面の色調に統一感はなく、暗色系から暖色、パステルカラーまで幅広い。


 すれ違う人も様々で、耳や尻尾の生えた獣人や翼の生えた翼人が普通に歩いている光景には戸惑いを隠せない。獣耳を持った野郎はあの工場の監督役にもいたが、むさ苦しいだけで可愛さは皆無だ。通りではイケメンの獣人も見かけるが、凛々しく立った耳が格好良いだけでやはり可愛さは皆無だ。

 グラサンと思しき黒眼鏡を掛けてる野郎を見かけたときは驚いた。確かに陽光はギンギラギンに強いとはいえ、まさかこの世界にもグラサンがあったとは……

 俺の身長はたぶん百レンテもないくらいなので、周囲の人やものが大きく見えて、現実味の伴わない光景と相まって圧倒される。


「あの、どこへ行くんですか?」

「まずは宿ね。馬を預けて寝床を確保するの」


 フラヴィも大概小さいが、俺より五十レンテくらいは上背がある。彼女だけに限らず、エリアーヌたちも特に緊張や物珍しさは見せず、落ち着いて歩いていた。


 その後、宿にはすぐに着いた。門から歩いて五分も経っていないと思う。

 大通りから一本逸れて、少し落ち着いた通りに入ったところにあった。宿はコンビニを三階建てにして三角屋根をドッキングしたような建物で、似たような家々が辺りには多い。それに旅装っぽい格好の人が多いところを見ると、たぶんこの一帯は宿が多いのだろう。


 まずオーバンが宿の中へ入っていき、しばらくすると中年のおばちゃんと若い姉ちゃんの二人を連れて出てきた。女二人が四頭の馬の手綱を持ち、馬たちと一緒に宿の脇道へと消えていく。たぶん厩に連れて行ったのだろう。


「部屋は三階だ。行くぞ」


 相変わらず愛想もクソもない顔と声でオーバンに言われ、俺たちは宿に入った。

 内装は簡素だ。右手に受付らしきカウンターがあり、左手はラウンジっぽくなっていて、椅子やテーブルが置いてある。奥の方は食堂になっているのか、丸テーブルがいくつも並んでいた。


「宿屋って普通、一階は酒場とかじゃないんですか?」


 ファンタジー系のRPGとかではだいたいそんな感じだった気がする。


「そういうところもあるけど、落ち着けるところを選んでるの」


 俺の疑問にはエリアーヌが親切に答えてくれたが、更なる疑問が生まれた。

 選んだという割りに、そんな素振りは見せていなかったと思うのだが……

 ま、いいか。


 幼女の短い足でえっちらおっちら階段を上がる。途中からロックに抱えられたが、どうせならエリアーヌに抱っこして欲しかった。

 部屋は三階にあり、二部屋に分かれていた。当然か、年頃の男女だしな。俺は幼女だから当然エリアーヌ&フラヴィと相部屋だろう。

 部屋の前で立ち止まると、オーバンがチラリと俺を見下ろしてから口を開く。


「ここからは別行動だ。エリアーヌとフラヴィはローズの身形を整えろ」


 と言って、今度はエリアーヌに意味深な視線を向け、当の美女は小さく頷く。

 だからそういうアイコンタクト止めてくれって。

 

「それじゃあローズちゃん、部屋に入りましょうか」


 エリアーヌが手を引いてきて、俺は部屋の中に連れ込まれるが、フラヴィは後に続かず、廊下でオーバンと向き合ったままだ。何か子供(部外者)には聞かせられない話でもあるのだろう。


 なんだか状況に流されてるなぁ……とは思うが、仕方ない。

 俺は無力な幼女なのだ。それは厳然たる事実で、紛う事なき現実だ。前世で三十年に及ぶ童貞人生を送ったおかげかどうかは知らんが、女でも魔力があるという希少な存在――魔女らしいとはいえ、俺は魔法の使い方を知らない。エリアーヌたちがしていた詠唱は覚えてるものの、どうせ以前のように詠唱しただけでは使えないのだろう。

 仮に、今ここで試して魔法が使えても、コントロールできずに宿を壊せば、無一文な俺は賠償金をこの身で支払うことになる。

 もう奴隷生活は御免だからな、うん。慎重に行こう、慎重に。


「さて、と」


 エリアーヌは一息吐くように荷物を下ろすと、今度は俺の両脇に手を入れて正面から抱っこしてきた。美女のそこそこ豊満な胸部が鼻先まで迫るが、ぎりぎり接触することなく、俺は椅子の上に降ろされた。

 おいなんだこれは、何の寸止めだおい!


「ローズちゃんはここで座って、少し待っててね。荷物を整理したら、身体を綺麗にしてから一緒に服を買いに行こうと思うんだけど、いいかな?」

「え、ええ、いいですけど……でも、いいんですか?」

「いいって、何が?」

「いえ、その……」


 エリアーヌたちは俺を教会に引き渡して金を得るはずだ。

 なのに、俺に服を買い与えたりしていいのか?

 と思わず訊きそうになったが、買ってくれるというのだから貰っておこう。ここで突っ込んで、念願のパンツを買ってもらえなくなるのも嫌だからな。


「……………………」


 それから俺は一人、床に爪先さえ届かない椅子の上で足をプラプラさせながら、エリアーヌの荷物整理を観察していった。




 ♀   ♀   ♀




「ローズちゃん、どこか痒いところない?」

「い、いえ……」

「子供の肌って、ほんとスベスベね」

「い、いえ……」


 俺はエリアーヌとフラヴィの言葉に対し、ほとんど無意識で返事をしていた。

 今はそうすることしかできなかった。

 なにせ現在進行形で、俺は美女と美少女に身体を洗われているのだ。


 あの後、フラヴィは大きな桶を持ったロックと共に入室してきた。フラヴィが魔法で生み出した水で桶を満たし、俺は全裸でタライめいた木桶の中へ放り込まれた。

 そして、洗われている。エリアーヌは後ろから俺の頭を。フラヴィは前から俺の身体を洗ってくる。


 気温は少し暑い程度なので水が冷たく気持ちいい。

 全開となった木窓から吹き込む風も気持ちいい。

 なんかよく分からんけどとにかく気持ちいい。


 頭頂から足先の隅々まで触れられて泡まみれになり、恥もへったくれもない。これで二人とも服を着たままじゃなかったら、ここは宿という名のソープなランドだったのだと本気で思っているところだ。

 いや、前世でも行ったことはないんだけどね。

 素人は魔法使いになれませんよって。


 まだ子供だからか全身が敏感で、もの凄くくすぐったい。

 だが、もはや俺の脳はオーバーフローを起こし、呆然としていた。前世では考えられない状況に、ただただ立ち尽くすしかない。おかげで膀胱が緩んで立ちションしてしまったが、フラヴィは「仕方ないわね」とでも言いたげな顔でスルーする。


 そうして全身の洗浄が終了し、俺はタオルで全身を拭かれる。

 されるがままである。

 エリアーヌに櫛で髪を梳かされ、先ほど来ていたデカいシャツを再び着せられる頃には俺も理性を取り戻した。爪の間に挟まっていた土まで綺麗にとれて、マイボディの肌は瑞々しく輝いている。

 

「綺麗になったことだし、まずは服を買いに行くわよ。ローズちゃんもお腹すいてると思うけど、お昼は服を買ってからね」


 フラヴィは低血圧気味にそう言って、頭を撫でてきた。

 もう俺は彼女らに対してなら、今後は恥ずかしがらない自信がある。相手が幼女なら未だしも、美女と美少女に全裸立ちションを見られたのだ。今なら彼女らの前で全裸阿波踊りも余裕でできる。

 いや、やらないけどさ。

 

「それじゃあエリー、ローズちゃんを抱えて」

「はい」


 エリアーヌは俺を抱っこしてきた。左腕で小振りな尻を支え、右腕は背中にそえられている格好だ。おかげで俺の頭はエリアーヌよりもやや高い位置にある。

 だが、しかし、我が膝頭が彼女の胸部に当たり、服の上からでも膨らみがたわんでいるのが分かる。

 柔らかい。なんだこれは、意味不明だ。

 できれば手で触りたい。もっと感触を確かめたい。


 というわけで触ってみた。もう辛抱たまらんかった。


「…………」


 俺は無心で揉む。

 エリアーヌは絶句しているようだが、知らん。

 手が離れなかった。無限の吸引力に吸い込まれていた。もう俺の指は意志に関係なく動いている。服越しでも神懸かり的な感触が分かる。この世のものとは思えない。

 手が小さいのがもどかしいな。なぜ俺の手はもっと大きくないのか。せっかく伝説の領域に手が届いたというのに……というか、服が邪魔だな。こいつがなければ、きっと俺は更なる秘境へ至ることできるだろう。


「なんか、すごい真剣な顔で鼻息荒くしているわね。いったい何が――って、エリー!?」

「ぅわ!?」

 

 襟元に手を突っ込んだ瞬間、急に俺の全身が宙を泳いだ。

 伝説の地が否応なく遠ざかる。俺はまだ彼の地の真実を確かめていないのに。奇跡の突端に触れていないのに。


「――――」


 エリアーヌが顔を青くし、胸元を両手で押さえながら一歩後ずさる。

 それを見て、俺はようやく理性を取り戻した。


「ちょっとエリー、何してんのよ。危ないでしょ」

「……え、あ、はぃ……すみません……」


 俺はエリアーヌに放り出されたが、幸いフラヴィが受け止めてくれたので痛みはあまりない。


「ま、この子に怪我はないみたいだから良かったけど」

「はい……すみません、つい」


 エリーは悄然と翠眼を足下に落とし、申し訳なさそうに声を漏らす。その姿がなんだか酷く痛ましく見えて、俺は途轍もなくいけないことをしてしまったのだと悟った。


「あ、あの、ごめんなさい」

「……ううん、ローズちゃんは何も悪くないわ。私の方こそごめんね」


 恐る恐る謝ると、エリアーヌが屈み込んできて頭を撫でてくれた。

 その手は微妙に震えていた。


「そうですよね……まだこんなに小さいし、記憶がなくて、昨日まで奴隷で……辛かったんですよね。きっと無意識のうちにお母さんを想っていたんですよね」


 独り言のように呟くエリアーヌの声には同情の念が籠もっていた。

 だが俺は申し訳なさで一杯で、どうしていいのか分からなかった。


 再びエリアーヌは俺を抱え上げてくれたが、俺はもう彼女の胸を触ろうとは思えなかった。とはいえ、俺の中で目覚めかけた冒険心はなかなか抑えられず、膝頭に当たる感触だけは卑しくも味わっていった。

 ……男の子なんだもん、しょうがないよね。


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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、確かにハァハァしながら乳揉んでくる幼女はキモいよね。
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