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幼女転生  作者: デブリ
八章・渡航編
201/203

第百三十六話 『海洋都市国家シティール』

 

「おー、よちよちー、いい子でちゅねー」


 両腕で抱えた小さな命に笑いかけると、「あー、あー」と声を上げながら、両手足をもぞもぞと動かして反応してくれた。しかもちゃんと俺の顔を見上げて、青い瞳でじっと見つめてくるのだ。

 何だか愛おしくて、より一層顔がにやけてしまう。


「うーん、エステルちゃんは可愛いでちゅねー」

「あーうー」


 やっぱりさ、赤ちゃんってのはこうして自分の腕で抱いてみないと、可愛さを実感できないね。ローレルでエステルの面倒を見ることになってから、右腕を治してもらうまで、俺は世話らしい世話ができていなかった。

 腕が治ってからはおしめを取り替えたり、ほ乳瓶でミルクをあげたり、軽く入浴させたりしているうちに、自分でも意外なほど加速度的に可愛く思えてくるんだ。

 何なんだろうな、この感じ……この幼女体に秘められた母性が反応しているのだろうか。エステルは赤い髪に青い瞳と身体的特徴は俺に似ているから、本能を抜きにしても、妹のように思えて可愛いんだよな。


「ローズ、そろそろエステルは中に入れましょうか」

「あ、はーい」


 クレアの声に応じて、甲板にいた俺は船内に戻った。エステルはまだ生後五節ほどなので、あまり長く日差しや潮風を浴びさせるのも良くない。基本的には屋内で寝かせて、おしめを替えた後などに軽く日向ぼっこをさせる程度にしている。


「ふふ、ローズは最近よくエステルの面倒見てるわね」

「可愛いですからねぇ。それにこうして抱っこしてると癒されます」


 この純真で無垢な命と向き合っていると、心がほっこりするんだよな。火竜の赤子のメリアを思い出すよ。シティールに到着して落ち着いたら、様子を見に行こう。ティルテたちがどうしているかも気になるしね。

 エステルを柵付きのベビーベッドに寝かせると、相変わらず「あー、あー」などと言葉にならない声を発しながら、手足をばたばたと動かしている。まだ首も据わっていないからねがえりを打つほどでもないが、最近はよく手足が動くようになった。毎日顔を見てるから確証はないが、生まれた直後と比べると目鼻立ちも少しずつはっきりしてきたように思う。これは将来美人になる顔だな。ユスティーナも美少女だったし間違いない。


「はいはいするようになるのは、早くても生後半年くらいでしたっけ?」

「そうね。リーゼは半年と三節くらいだったわ」

「人の名前とか簡単な言葉を話すようになるのは一歳くらいって話でしたよね」

「個人差はあるだろうけれど、だいたい一歳くらいみたいね」


 以前に聞いた話によると、リーゼが最初に話した言葉は『あるあ』らしい。アリア、つまりアルセリアのことだ。その次にクレアの名前を呼ぶようになったらしい。

 リーゼのことをこんな赤ちゃんの頃から育ててきたなら、クレアのリーゼに対する思い入れは相当なもんだろうな。エステルを可愛いと思いながら面倒見てる今の俺なら、それがよく分かる。


「この子もリーゼみたいないい子にちゃんと育てないといけませんね」

「そんなに張り切らなくても大丈夫よ。みんなで育てていけば、きっといい子になってくれるわ」


 クレアは穏やかに微笑んでおり、エステルの今後の育児について心配している様子はまるでない。俺も殊更に心配する必要はないと思うが、いい加減な気持ちで子育てに関わることはできない。子供ってのは育て方次第で、天使にも悪魔にもなるのだ。人には生まれながらの性格もあるが、その上に築かれる人格は育った環境次第で大きく変わってくる。

 人は、ただ歳を重ねるだけでは、大人にはなれない。それは前世の俺だけでなく、ルーシーの叔父にあたるデラックス野郎も証明していた。ローランみたいな良識ある貴人だって子育てに失敗するのだ。人を一人前に育て上げるってのは簡単なことではないはずだ。

 俺もまだ一人前とは言い難いけど、だからこそ子育てに関わることで、俺自身の人間性を磨けることにもなると思う。エステルのため、自分のため、俺はしっかりとこの子を教育してやるつもりだ。

 だから、何も考えず可愛がって甘やかせるのは今だけなんだよなぁ。エステルが言葉を話すくらいになったら、俺は飴と鞭を使い分けなくちゃいけなくなる。


「あーっ、見えたー! シティールだーっ!」


 クレアと一緒にエステルを見守りながら談笑していると、どこからかリーゼの声が耳に届いた。だいぶ興奮しているのが伝わってくる。


「いつも通り、ユーリも中に入れた方がいいですよね?」

「そうね。シティールなら大丈夫だとは思うけれど、騒がれても面倒だし、ユーリにはとりあえず船内にいてもらいましょうか」


 エステルのことはクレアに任せて、再び甲板に出た。

 昨日はやや曇り気味だったが、今日は快晴だ。青空に雲はほとんどなく、昼過ぎの日差しは温かい。しかし、風は少し冷たいので、上着がないと肌寒さを感じる。

 どうやらシティールのあるオルダー島は橙土期が夏期で、紅火期が冬期になるらしい。現在はその間にある翠風期だが、もう終わりに近い第八節七日なので、既に暑気は過ぎ去り、寒気が徐々に増している段階にあるようだ。昨日の朝晩は少し冷え込んだ。


「おぉー、なんかもーすっごいでっかいのが分かる!」


 リーゼは帆柱上部にある物見台ではしゃいでいる。遠目にも大きな港町なのが見て取れるのだろう。生憎と甲板上からではまだ見えないが、物見台から見える距離なら到着はすぐだ。

 甲板では少年と男の娘がくんずほぐれつの組み手をしていたようだが、二人とも動きを止めて海原を見遣っていた。


「やっとか……長かったな」

「ボクとお姉ちゃんはローレルからですけど、それでも長旅だったと思います。皆様は魔大陸からですから、きっと凄く感慨深いものなんでしょうね」


 しみじみと呟くウェインにラスティが頷きながら応じている。

 俺はそんな二人の間に割って入るように駆け寄って、右腕をウェインの、左腕をラスティの肩に回してもたれ掛かった。


「うおっ、なんだいきなり!?」

「あははは、いやー、本当に感慨深いなぁと思いまして。ウェインなんて船旅始まって半期くらいは引きこもってましたからね。それが今ではこんなに元気になって……お姉さんは嬉しいですよ」

「何がお姉さんだっ、俺の方が年上だろ! ていうか、おま……顔近い離れろ……」

「あれあれぇー、年上のくせに照れてるんですかぁ?」

「照れてねえっての! 暑苦しいんだよっ!」


 ウェインは俺の腕を振り払って数歩ほど距離を取った。よく見ると前髪が額に少し張り付いているので、確かに汗は掻いている。まあ、運動直後なら当然か。でも相手が美幼女なら多少暑苦しかろうが、からかわれようが、我慢するだろ普通……とは思うが、あれでこそウェインだな。

 ティムアイ島でバカンスをした時点で、ウェインが完全に以前までの調子を取り戻していることは確信できていた。でも、遂にシティール到着ってことで、念のため改めて確認してみたんだけど……うん、やはり問題なさそうだな。


「ローズ様っ、ボクは暑苦しくないのでお好きにどうぞ!」

「うーん、ラスティはいい子ですねー。よしよし」

「ん……えへへ」


 肩に腕を回したまま、右手で獣耳ごと頭を撫でてやると、ラスティは嬉しそうに笑った。ウェインとは正反対の反応といい、その可愛らしい姿はどう見ても男には見えない。こうもキュートだと、カールした尻尾をモフるついでに小さなお尻も撫で回したくなっちゃうぞぉ。


「テメェ等もさっさと離れろ! おらラスティ続きやるぞ続き! ローズはもうあっち行ってろ!」


 ウェインは怒鳴りながら俺とラスティを引き離した。

 まったくもぉ……努力家なのはいいけど、せっかちだなぁ。二人の監督役として先ほどからトレイシーが俺たちの様子を見守っていて、彼女は何が面白いのかにやにやと笑っていた。

 俺はその場を離れて船尾に向かい、灰色の巨体にもたれ掛かるようにして眠りこける銀ピカな幼竜に歩み寄る。


「ユーリー、船の中に行きますよ-、起きてくださーい」


 カチカチの鱗に覆われた身体を揺すってみるが、全く起きない。


「ピュェッ」


 アシュリンがいい加減邪魔だとばかりに嘴で突くと、薄らと目を開けた。しかしすぐに目蓋を閉ざして、ぐっすりとした心地良さげな寝息を再開する。これも真竜という最強種の貫禄だと思えば凄味も感じられるが、この子はただ単に怠け者なだけだ。


「……仕方ないですね」


 俺はユーリを抱き上げるべく、腰を屈めて両手で持ち上げようとしてみるが……やはり重すぎて無理だった。ユーリとメリアが生まれたのが去年の翠風期の第五節七日なので、既に生後一年が経っている。メリアが生まれた頃は俺でも抱き上げることができていたが、もう無理だな。


「ローズ、ユーリはわたしが運ぶよ」


 幼女の非力さを見かねたのか、メルが来てくれた。つい先日十八歳になった彼女は、軽々とはいかないまでも幼竜を抱き上げて、危なげなく歩いていく。

 こうして日常の何気ない場面で大人と子供の筋力差を見せ付けられると、この身体がまだ未成熟な子供であることを改めて実感させられるな。片腕生活の不自由からは解放されても、幼女体の非力さは如何ともし難い。


「お前はあっという間に大きくなったよなぁ」

「ピュェェェン」

「……ま、中身の伴わない成長ほど虚しいものもないしな。ゆっくり身体が大きくなるのは好都合か」


 俺は三十年以上生きてきたという自己認識こそあるが、自分がクレアたちほど立派な大人だとは思えない。今度こそ立派な大人になるためにも、焦らず少しずつ成長していこう。


「そういえば首輪着けないと」


 アシュリンは魔物なので、街では白い首輪を着けて調教された個体であることを識別できるようにしておかないといけない。首輪なしに人里に連れて行って攻撃されても、その非は首輪をしなかった飼い主にあるとされる。

 船倉から首輪を取ってくると、嫌がるアシュリンに白い皮の首輪を巻き付けておいた。まあ、シティールに到着しても、こいつはしばらく船で留守番だけどな。

 他にやることもなかったので、俺もシティールの遠景を眺めることにした。海からシティールを一望することなんて今後はそうそうないだろうし。


「ローズほらっ、あんなでっかい建物がいっぱい並んでるのなんて初めてだ!」


 帆柱の梯子を登って物見台に出ると、リーゼが興奮したようにぴょんぴょん飛び跳ねながら海の向こうを指差している。そちらに目を向けると、確かに大きな建築物が目に付いた。それに海上には船が多い。


「ここからでも結構な高層建築なのが分かりますね」

「昨日の港より凄いのが分かる! 凄い街だ!」


 リーゼはシティールの偉容にはしゃいでいるが、俺はあまり感動できなかった。

 シティールのあるオルダー島には港町が四ヶ所ある。いや、島の面積を考えれば四ヶ所しかないというべきか。東西南北に一つずつあり、シティールは北部に位置する。ベイレーン内海に入るにはシーハンネル海峡を通る必要があり、これを抜けるとオルダー島の南西部が目と鼻の先に来る。そこから島をぐるりと西回りに迂回してきたので、昨日は西側にある港――西オルダー港という味気ない名前の港町に寄港こそしなかったが、近付いて海上から遠巻きに眺望した。西オルダー港にも背の高い建物が多く、それを見たときは少し驚いたものだが、二十一世紀の日本の都市部には遠く及ばない。

 それはシティールであろうと同様みたいなので、やっと到着したという達成感と安堵感はあっても、この世界では珍しい類いの街並みから受ける衝撃はほとんどなかった。


「はい、突然ですがここで問題です」


 セイディがわざとらしい真面目面で何か言い出した。

 本当に突然だな。


「昨日の港もシティールも、他の国ではあまり見掛けないような背の高い建物が多いですが、それはなぜでしょうか?」


 なるほど、復習か。

 昨日、西オルダー港を見ながら、シティール基礎知識講座とか言われて色々教えられた。それを覚えているかどうか確認しようってことなんだろう。


「土地がないからだ!」

「はい、正解。それじゃあローズ、どうしてシティールには土地がないの?」

「シティールは環ベイレーン同盟の盟主として、そしてオルダー島を委任統治する存在として、大きくなれないからですね。今以上に都市面積を広げずに人口の増加に対応しようと思えば、居住空間を上に伸ばすことになります」

「よーしよし、ちゃんと覚えてたわねー」


 セイディは満足げに頷きながら俺とリーゼの頭を撫でてきた。

 通常、シティールと呼称する場合は今まさに見えているあの港町――港湾都市を指すが、島全体を指してシティールと呼ぶ場合もある。これは多分に政治的な理由による。

 シティールは海洋都市国家とされているが、実際的な統治権の及ぶ領土は都市部のみならず、オルダー島全域に及ぶ。都市国家というのはベイレーン内海の複雑な政治的均衡を保つための名目に過ぎないからだ。

 あくまでも海洋都市国家シティールの領土はこれまでもこれからも都市一つだけであり、シティールを除いたオルダー島の土地は環ベイレーン同盟の管理下にあるとされている。要するに、オルダー島はみんなのものだから、みんなの代表として管理してくれって感じに同盟がシティールに統治権を与えているわけだ。

 オルダー島は地政学上あまりに重要すぎて、どこか一国が支配すれば、内海に面する他の国々は必ず安全保障上の危機感を覚えるし、領土的野心も掻き立てられざるを得ない。実際、今の形に落ち着くまで、ベイレーン内海の情勢はかなり荒れていたらしい。だから、都市一つだけしか領土のない最も弱く小さな国に統治権を委任するという形をとった。

 シティールは弱く小さな存在でなければいけないから、今以上に都市を拡大することはできない――許されないのだ。しかし、シティールという港はベイレーン内海の国々にとって経済の要衝だ。物が集まり、金が集まる以上、人口の増加は避けられない。だったらマンション作るしかないだろってことで、シティールには高層建築が多いのだ。

 ちなみに西オルダー港や東オルダー港といった他の港町にも、シティールのような都市面積の制約がある。しかしシティールほどの要衝ではないため、人口もそれなりのようだ。それでもマンションが建つほどってのは相当な人口密度と言わざるを得ない。


「セイディ、浮遊双島の高層建築と比べてどうですか? シティールより凄いんですか?」

「まあ、そうね。まだ遠目に見えるだけだから断言はできないけど、トリム島の方がもっと背の高い建物あるわね。大陸の普通の街で平屋や二階建ての住宅が、トリム島の街では十階建ての集合住宅になるってくらい高層建築が当たり前だし」


 この世界でも文明の絶頂期にはエレベーターくらいあったと思うけど、今この時代にはそんな代物の話は聞かない。にもかかわらず、高層建築物を建てられるだけの高度な建築技術が確立しているのは、翼人と浮遊双島の存在によるところが大きい。

 空に浮かぶ島という絶海ならぬ絶空の孤島において、土地は貴重だ。そこに暮らす人々が翼人ばかりともなれば、住居としてマンションが一般化するのは至極当然の流れだろう。この世界には魔法があるのだから、高層階に貯水槽を設置して魔法士を常駐させれば、水には困らない。高層階に住んでいても、何か重い物でも運び込まない限り、翼人なら普段階段は使わない。日常生活で困ることは特にないのだ。

 マンションの建築技術は主に浮遊双島で進歩したわけだが、大陸では土地不足になることなんてそうないし、あまり高層すぎても翼人でないと利便性が低くなるから、浮遊双島以外ではほとんど見掛けないようだ。実際、ここ半年ほどの旅で見た一番の高層建築物はローレルの八階建て高級ホテルだった。何か特別な事情がない限り、エレベーターのない文明ではマンションの需要は低いだろう。普通の平屋とか二階建てと比べて、施工費や維持管理費だって馬鹿にならないだろうしな。


「シティールに到着したから、次は浮遊双島に行こー!」

「ま、それはいつかね」

「《黎明の調べ》に浮遊双島に行ける転移盤ないかなー?」


 良くも悪くも旅慣れちゃったせいか、リーゼはどこか一ヶ所に大人しく定住する気があるのか心配になるな。子供のうちから旅という刺激的な非日常に慣れてしまうと、ルーチンワークになりがちな日常を大人しく過ごせなくなるかもしれない。

 シティール魔法学園は全寮制の学校らしいから、そういう意味でも俺はともかくリーゼだけは入学させた方がいいかもな。そうしないと世界を旅するとか言い出しかねん。可愛い子には旅をさせよとは言うけど、せめて成人してからでないと心配だわ……。


「セイディ!」


 ふと上空から青い翼の少女が降りてきた。彼女は物見台の手摺の上に器用に降り立つと、シティールの方を指差して言った。


「やっぱり波止場の形が少し変わってるから、念のためどこに停泊していいのか訊きに行こうと思うんだけど、一緒に行ってくれる?」

「それはいいけど、空いてるとこに適当に停めるのはダメそうなの?」

「そんな感じする。だから念のため確認しておきたいんだよね」

「ま、分からないときは確かめておいた方がいいか。んじゃ、ちょっと行ってくるわね」


 セイディはソーニャの言葉に頷くと、身軽く物見台から飛び立っていった。こうして翼人が空を飛んでいく姿を見ると、本当に羨ましくなるな。


「あーっ、ずるいー! あたしも行くぞー!」


 リーゼは叫ぶや否や物見台から帆桁の上に飛び降りた。


「ちょっ……何やってんですかリーゼ!?」

「うおおおおおおおっ、アシュリィィィィィィン!」


 丸太同然の帆桁の上を右舷側に駆けながら叫ぶ幼狐。そのあまりに突然すぎる奇行に俺は唖然としつつも、何とか〈霊引ルゥ・ラトア〉の魔力を練る。


「でゅあっ!」


 などとウルトラなマンみたいに声を上げながら矮躯が帆桁の端から盛大にジャンプした。俺は〈霊引ルゥ・ラトア〉を行使しようとしたが、視界の右端に灰色の巨体が映ったことで、まさかという思いから行使を一瞬躊躇する。


「ピュェェェェッ!」


 アシュリンはリーゼが落下し始めた直後、小さな身体を大きな背中で受け止めた。そしてそのまま一人と一頭はセイディとソーニャの後を追うように一直線に飛んでいく。


「うっそだろお前……」


 リーゼの声に即応したアシュリンも凄いけど、あの獣畜生を信じてあんなジャンプができる幼女も大概だわ。ちょっと格好良いと思っちゃったじゃないか。でも後でちゃんと注意しないとな。あれは危なすぎる。

 セイディとソーニャがいれば俺が追い掛ける必要はないだろうが、シティールでは調教された魔物の扱いがどうなってるのか分からない以上、アシュリンが突然攻撃される恐れはある。

 どうせセイディが叱っても今更船には戻って来ないはずなので、念のため俺が側に付いていた方がいいだろう。今のリーゼはテンション上がってて何をしでかすか分からんし不安だ。


「ローズさん」


 今度はイヴが物見台に姿を見せた。翼人らしく梯子は使わず、自前の翼で下から飛び上がって来たようで、彼女は訝しげな顔でシティールの方を見遣っている。


「今し方アシュリンが急に飛び立っていきましたが、どうかしましたか?」

「セイディとソーニャが港の様子を見に行くのにリーゼがついていったみたいなので、私も念のため行ってきます。イヴは何かあったときのためにここで待っていてください」


 本当はイヴに抱えてもらって追い掛けてほしいところだが、一時的だろうと翼人が全員船を離れるのは良くない。サラはまだ飛行面に不安があるからな。

 俺はイヴの「分かりました」という声を聞きながら、ぶつぶつと詠唱を始めた。〈瞬転リィロ〉の無詠唱化はまだなので、あまり詠唱して使いたくはないが、今期中にはものにできそうなくらいには順調なので、一回くらいは誤差の範囲内だ。


「――〈瞬転リィロ〉」


 視界がホワイトアウトしたかと思えば、次の瞬間にはリーゼの背中が目の前にあった。毎日練習しているだけあって、狙い通りアシュリンの背中に転移できたし、ちょっとバランスは崩しかけたが転げ落ちたりせず乗ることができた。

 〈瞬転リィロ〉について色々実験して分かったんだが、どうもこの魔法は転移前の慣性とかを一度リセットするのだと思う。転移前にどれだけ高速で動いていようと、空中に転移すると真下に落下するのだ。しかし、航行中の船上から同じ船上に転移した場合、転移前と慣性に変化はない――船体の速度に身体が置いて行かれるようなことにはならなかった。

 それならばと、同じく航行中に甲板から一リーギスほど離れた空中に転移してから甲板に着地するとどうなるかを試してみたら、着地するまでの間は船体が高速で動いているように見えた――船体と俺の間に速度差が生じていたが、着地しても全くよろけることはなかった。

 つまり、転移直後の何秒かの間に物体に触れると、俺の身体はその物体と同じ速度になる――慣性だか何だかが最適化されるのだと思う。もしくは、最適化される対象は自分よりも大きな質量の物体に触れたときだけに限定されるのかもしれないが、そこまで詳細にはまだ実験できていない。


「ピュェッ!?」

「ん? うわっ、ローズ!?」


 俺は背後を振り返って驚くリーゼの額をデコピンした。


「リーゼ、一人で勝手に行っちゃダメですよ」

「それはもーセイディに言われたぞー!」

「アンタ全然反省してないでしょ! 後でお姉様にも叱ってもらうからね!」

「うーん、やっぱりローズのその魔法かなり便利だよね……もう服が脱げることもないみたいだし」


 翼人二人はアシュリンを挟み込むように横一列に並んで飛んでいる。

 俺は驚嘆したようなソーニャの声で少し不安になり、念のため装備品を確認してみた。腰元のポーチに、魔剣に、上着に……うん、問題ないな。この分なら無詠唱化ができてすぐに、誰かと一緒に転移する練習を始められる。人体実験になるから練習相手をどうするかという問題はあるが……。 


「まったく……港の人にはアタシが一人で訊いてくるから、リーゼは上空を旋回してなさい。ローズとソーニャはこの子がどっか行かないか見張ってて」


 セイディの言葉に俺とソーニャが頷くと、リーゼは不満そうだったが、天使とは思えない形相で睨まれると大人しくなった。

 有翼の二人と一頭はかなりの速さで飛行していき、あっという間にシティールの波止場を真上から見下ろせるところまで来た。セイディは降下していき、俺たちは大きく旋回して滞空しつつ港の様子を観察していく。


「すっごい数と大きさだね……この半年で色んな港町見てきたし、昨日の西オルダー港でも同じ形の波止場はあったけど、シティールは規模が違うね。こんな大きな港と立派な街並みは想像できてなかったよ。世界は広いね」

「やっぱり船着き場が木みたいだ! 枝に葉っぱがついて木みたいになってるよーに見える!」


 少女は感嘆の声を上げており、幼女はアシュリンの背から落ちそうなほど身を乗り出して眼下を見回してはしゃいでいる。俺も圧巻の光景に見入ってしまった。ソーニャの言うように西オルダー港でもたぶん同じ形の波止場は見たが、規模はこちらの方が数段上だし、何よりこうして上空から眺望すると、その圧倒的な巨大さに感動すら覚える。

 リーゼの例えは言い得て妙で、確かに木のような波止場と言えた。

 通常、港町には桟橋があるが、シティールではこの桟橋の数と大きさが尋常ではない。まず海岸線から垂直に一メトほど、真っ直ぐに太い桟橋が伸びている。この幹とも言うべき桟橋には枝に相当する部分があり、それは百リーギスほどの等間隔で、左右対称に同じ長さの桟橋が垂直に真っ直ぐ伸びている。幹の根元に最も近い枝は長さ五百リーギスほど、幹の先端に最も近い枝は五十リーギスほどで、枝は根元から先端に向かうにつれて徐々に短くなっている。これら二十本の桟橋に船が停泊している様子は、まさに枝と葉のようだ。上空から見ると全体が針葉樹のような三角形に見えるので、木のような波止場というわけだな。

 加えて、その木の上――二百リーギスほど沖の方には緩く弧を描いた防波堤がある。いや、防波堤というよりも防壁に近く、市壁のように高さがあり、横幅は五百リーギスほどもある。その防壁の中央部と両端には塔まで建っており、西オルダー港で見た限り灯台のようだったが、あの壁の偉容からして物見用でもあるのだろう。つまり、あの壁は防波堤であると同時に、軍事的な防衛設備でもあるというわけだ。

 巨木のような桟橋と壁はワンセットで、それが海岸線に何セットもずらりと並んでいる光景は壮観という他ない。魔大陸のクロクスやボアなんて比較にすらならん。こんな規模と設備の整った港町は前世でもなかっただろう。


「えーっと、全部で……十七ヶ所だね。十七本の木が生えてる。見た感じ四本くらいは軍港っぽいから、民間用は十三本くらいなのかな?」

「となると、一国に一本ずつ割り当てられてそうですね」


 環ベイレーン同盟は十ヶ国からなる。あれだけの数の船着き場があるのなら、国ごとに使用する巨木型桟橋を分けていると考えるのが妥当だ。とはいえ、あの規模の桟橋だと一本丸ごと一国で使うにしても持て余しそうなものだが……ざっと見た感じ、どこも空きスペースは半分もないように見える。環ベイレーン同盟の十ヶ国はいずれも海に面しているから、どの国も海洋貿易には力を入れているのだろう。


「一国に一本ずつでも三本は余るから、この分だと同盟国外の船というか、外洋からの船はそれ用の場所がありそうだね」

「そんなことよりこの景色をみんなにも見せてあげよー! 後で順番にアシュリンに乗ってシティール観光するんだっ!」

「そうですね、これは上空から一望する価値ありますよ」

 

 今回は怪我の功名というか、リーゼのおかげでいいもの見れたな。

 波止場のみならず、陸まで目と鼻の先の上空から街の方を見てみると、巨木型桟橋に負けないだけの街並みなのがよく分かる。整然と並ぶ倉庫群の向こうにはマンションだかビルだかが林立し、その間を翼人が飛び回り、地上では人々が蠢き、馬車が行き交っている。ここだけ時代というか文明レベルおかしくねえかってくらいの発展具合で、遠目に見ているだけでも都会の喧噪ってやつが伝わってくる。人口密度も凄そうだ。

 先ほど物見台からシティールを見たときはあまり感動しなかったが、これは素直に感動できるわ。この世界であんな大都会は初めてだし、海にも陸にも人工物が林立する様は人類が自然を圧倒しているようで、ある種の優越感を覚える。


「おーいっ、聞いてきたわよー!」


 景色に見とれていたせいか、存外に早く美天使が合流してきた。

 ドラゼン号に戻りながら話を聞くと、どうやらソーニャの予想通り、巨木型桟橋は国ごとに分けられていて、同盟国以外の船が停泊する用の桟橋があるらしい。


「こっからだといまいち見辛いけど、あの灯台とか防波堤に国旗が掲げられてるみたいね。同盟認可外の船は国旗のない六番港か八番港に停めろってさ」


 なるほど、意外と分かりやすいな。わざわざ聞きに行かなくても、国旗の有無で察することができただろう。ちなみに軍港には十ヶ国の国旗が掲げられているらしく、大きな軍船も停泊しているようなので、そちらも上京してきた田舎もんだろうと判別は容易そうだ。


「あぁぁぁぁぁっ、わくわくしてきたー! 早く上陸してみんなで街を探検しよーっ!」


 リーゼは興奮のあまりアシュリンの上で身体を揺すって叫んでいる。また突発的に暴走しそうで心配だが、あの景色を見ては高揚するのも無理ないと思えるし、何より楽しそうなので、注意は後ほど改めてすることにした。

 旅の目的地であるシティールに到着したといっても、まだ油断はできない。それでも、無事に旅を終えて新天地に足を踏み入れる喜びくらいは素直に味わってもいいだろう。




 ♀   ♀   ♀




 ドラゼン号に戻ると、リーゼはクレアに叱られた。だが興奮していたせいか、あまり反省した様子はなく、早く上陸したいようでうずうずしていた。

 セイディが聞いてきた情報によると、巨木型桟橋は東から順に、一番港から十三番港まであるらしい。軍港は東端と西端、四番港と五番港の間、九番港と十番港の間にあり、十三番港は漁港のようだ。

 俺たちはシティールの西側からやって来たため、六番港よりも近い八番港を目指した。ずらりと並んだ巨木型桟橋から大小様々な船が出入りしているが、さすがに接触事故を起こすほどの混雑ぶりではなく、危なげなく悠々と八番港の防壁横を通過した。

 その直後、どこからともなく現れた一人の翼人が甲板に降り立った。


「どうも、シティール入出港管理局の者です。船長さんはどちらでしょうか?」


 生真面目そうな顔をした四十代ほどのオッサンだった。役人の制服なのか、洒落っ気のない小綺麗な格好をしており、胸元には筆記板を抱えている。


「アタシよぉ」

「あ、これはどうも。入港に際して幾つか確認させて頂きたいのですが」


 立派なマッチョボディに化粧をした角刈野郎が現れても、翼人のオッサンは表情一つ変えることなく、役人らしく事務的な調子で続けた。


「こちらの船は国旗や同盟旗が見当たりませんので、同盟認可外の船ということでよろしいですね?」

「ええ、たぶんそうよぉ。アタシたち、シーハンネル海峡を通って来たの」

「ではシティールは初めてですか?」

「ええ」


 みんな何事だと甲板に集まってきて、ベルと役人の遣り取りを少し離れたところから見守っていく。俺も風魔法ブーストは一旦やめて、会話に耳を傾けた。


「今回シティールにいらした目的は?」

「シティールの知り合いを頼って引っ越しに来たってところねぇ」

「ではこちら商船ではないですね?」

「ええ、積荷も私財ばかりで商材はないわねぇ」

「こちら、停泊する場所によって停泊料が変わってきますので、積荷の上げ下ろしがそんなにないのであれば、埠頭の先端付近が安くておすすめですね」


 やはり桟橋ではなく埠頭か。

 俺もここまで来る途中で気付いたけど、あの巨木型の船着き場、どうも埋め立てみたいなんだよな。上空からではよく分からなかったし、あの規模の構造物を全て埋め立てて作るとは思えなかったら、支柱による桟橋だろうと考えていた。しかし、どうやら枝に当たる部分まで全て埋め立てのようで、見るからに石造りの重厚感溢れる立派な佇まいなのが見て取れた。巨人と魚人がいれば、未熟な文明でも大規模な埋め立てはそう難しくないんだろうな。


「なら先端付近の空いてるところに停めさせてもらおうかしらねぇ」

「では案内しますね」


 翼人のオッサンはそう言って飛び立って行き、巨木型埠頭の幹先端から二本目にあたる枝、その先端部に降り立って手を振り始めた。

 そちらに船を進めていくと、枝の根元近くに船を横付けするように指示された。この枝は百リーギスほどの長さがあり、他に停泊している船は枝の両側合わせて一隻だけだ。こんな陸から遠いところに停泊するのは、あの役人の言うとおり荷揚げの少ない客船くらいで、貨物船の類いは陸に近いところに停めるのだろう。俺たちも荷物はあるけど、各人の荷など一人用の台車に乗る程度だ。全員で台車を借りれば一往復で済むと思う。


「こちらの停泊地は八番港の十八の四になります。こちら入港申請書です」


 埠頭にいた巨人の助けも借りて係柱に縄で船を繋いだところで、翼人のオッサンが再び甲板上にやって来て、ベルに一枚の紙を手渡した。


「こちらに必要事項を記入して、あちらの中央埠頭の先にある八番港管理所の方に提出してください。その際に入港税と停泊料をお支払い頂くことになります。適切に申請されませんと我々の方で船を差し押さえることになるのでご注意ください」


 それから役人は入港税の金額などを簡単に告げると飛び去っていった。

 これまでの船旅で分かったことだが、入港する際の役人の対応を見れば、その街の行政や治安の程度が知れる。シティールは普通にしっかりしている印象だ。

 ユーハが船と埠頭の間に渡し板を架けると、ベルが感慨深そうに笑った。


「遂に到着したのね……無事にみんなで上陸できると思うと、喜びもひとしおだわぁ」

「うわあああああっ、あたしが一番乗りだー!」

「リーゼ、待ちなさい」


 クレアは駆け出したリーゼの腕を掴んで引き止めると、甲板に集合している全員に向けて、真面目な顔で告げた。


「みんな、本当にありがとう。ここまで無事に来られたのは、みんなのおかげよ。ひとまず、みんなでキロスさんたちにお礼を言いましょうか」


 俺たちは船縁に並び立つように集まって、海面を見た。


「お疲れーっ、ようやく到着したなー!」

「キロスありがとー! みんなありがとー!」


 魚人のオッサンたちは海面から顔を出して手を振ってきたので、リーゼの声に続くように俺たちも礼を口にしながら手を振り返した。

 魔大陸からここまで、何度も魔物には襲われた。結局、船上にまで乗り込んできたことはボアからチュアリーまでの間くらいなもんだったけど、それ以降も海面下では昼夜を問わず、魚人護衛たちが魔物を撃退してくれていた。彼等の尽力なしに、こうして船も俺たちも無事に到着することはできなかったはずだ。

 オッサンたちへの挨拶が一通り済んだところで、クレアは再びみんなに声を掛けた。


「さて、到着して喜んでいるところに水を差すようで悪いけれど、上陸前に少し注意させて」


 美女の落ち着いた様子を前にして、俺は軽く深呼吸した。俺もリーゼほどではないけど喜び勇んで上陸しようとしていたから、ちょっと冷静になろう。


「シティールには《黎明の調べ》と《暁闇魔侠ぎょうあんまきょう》がいるから、何かあっても私たちを助けてくれると思うけれど、あまり気を緩めすぎないようにね。シティールは大きな街――いえ、大都市だから、何があるか分からないところがあるわ。浮かれて羽目を外しすぎないように気を付けて。念のため、落ち着くまで一人で行動することはしないようにね」


 そうだな、その通りだ。特に子供たちにはしっかりと伝えておく必要のあることだな。大人であっても初めて訪れる大都市であれば、おのぼりさんだと見抜かれて変な奴に声を掛けられたり、迷子になったり、厄介事に巻き込まれたり、何かしら面倒なことになる可能性は否めない。

 俺もしっかり気を付けて、みんなの様子にも気を配らないとな。


「《黎明の調べ》には明日挨拶に行って、今後のことを話し合うつもりよ。今日これからの予定としては、ひとまず宿を取ってから、軽く街を見て回ろうと思うわ。夕食はここで、みんなでお祝いしましょう」


 本当は都市内の食事処でシティール名物でも食べながら盛大に祝いたいところだが、この船を放ってはおけない。船内には魔大陸から持って来た私財があり、まだ住居が決っていない以上、荷を下ろすこともできない。そもそも荷があろうとなかろうと、停泊中の船に留守番要員は必要なので、上陸してお祝いすると留守番メンバーが参加できなくなる。全員で到着したことをお祝いしないと意味がないから、祝宴はこの船で行うというわけだな。それに、船に積んである食料がまだ残っているから、それを片付けないといけない。

 そういう意味では、周囲に停泊中の船が少ないここは好都合だ。多少うるさくしても苦情は来ないだろう。もう当分はドラゼン号どころか船に乗ることはないだろうし、盛大なパーティにして旅の最後を締めくくる良い思い出にしよう。


「それじゃあ申し訳ないけれど、ユーハさん、イヴさん、ツィーリエさん、留守番とエステルのことをお願いしますね」

「うむ、任されよ。こちらは気にせず、皆で街の様子を見て回ってくると良い」


 既にユーハたちには話を付けていたのか、不満そうな様子もなく頷いている。留守番メンバーとしてあの三人を選んだところに、クレアは全く気を抜いていないことが分かり、俺も身が引き締まる思いだった。

 まあ、気が緩みそうになったときが一番危ないからな。最後の最後に船が強盗に襲われでもしたら、これまでの旅で発揮してきた警戒心が全て無駄になるってもんだ。


「子供たちは必ず大人と手を繋いでね。もしはぐれたときは、この船に戻ってくること。リーゼは私の手を離しちゃダメよ、分かった?」

「分かったー!」

「それじゃあ、行きましょうか」


 クレアがみんなの顔を見回して宣言すると、リーゼは美女の手を引っ張って駆け出した。クレアは仕方なさげな微苦笑を覗かせつつも、引っ張られて小走りになる姿からは確かな喜びが伝わってきた。

 周りを見てみると、早くもペアができ始めていた。トレイシーに手を繋がれたウェインは渋々といった面持ちをしており、セイディはサラに声を掛け、ミリアはルティの手を取っている。メイド服から私服に着替えた双子はもじもじする大柄なオンナから両手を差し出されていた。ライムとソーニャは姉妹仲良く手を繋いでいる。

 うーむ……出遅れたか? 誰も俺と手を繋ごうとしないのは、俺なら大丈夫だと思って他の子たちを優先しているからだろうけど……なんか、ちょっと、おじさん寂しくなっちゃうよ……?


「ローズ、わたしと手繋いでくれる?」

「もちろんですっ」


 幸いにもメルが声を掛けてくれたので、俺は彼女の左手に指を絡めた。十八歳の可愛い女の子と恋人繋ぎをしても、にこっと微笑んでもらえる。改めて幼女の特権ってやつを実感するな。


「ゼフィラさんも私と手繋いでくれていいんですよ?」

たわけ」


 フード付きのローブを纏った少女は鼻で笑うと、一人で渡し板を歩いていった。

 ちぇっ、なんだよ、一人あぶれてたから声掛けてやったのに。いや、ゼフィラは誰が相手でも手なんて繋がないか。誰にもデレない女というのは、裏を返せば凄く貞淑な乙女ということだ。そう考えれば処女厨も俺もにっこりだな。


「ゼフィも手繋ご」

「好きにせよ」

「うん」


 ルティが白い手袋に覆われた手を取っても、ゼフィラは振り払わず、むしろ握り返していた。幼女が嬉しげに繋いだ手を前後に振っても、少女の手はされるがままだ。


「かぁーっ! 見んねメル! 卑しか女ばい!」

「ロ、ローズ……?」


 ちっくしょう、露骨に差別しやがってぇ。

 まあ、ゼフィラは俺がモノホンの幼女じゃないことに気付いてるっぽいことを除いても、ルティにだけは甘いとこあるからな。そして俺だけ扱いがぞんざいだ。

 いいもんいいもん、俺にはメルがいるんだから。


「みんな、遅れずについてくるのよ」

「ほら、ローズ、わたしたちも行こう」


 俺はメルと共に渡し板を渡り、埠頭に降り立つ。

 こうして、遂に俺たちは新天地シティールに足を踏み入れた。




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 埠頭の幹にあたる部分は道幅が三十リーギスほどもあり、かなり広々としていた。


「軌条が敷かれてるから、台車が通るみたいだね」

「上空から見たとき、巨人が大型の台車を押していました」


 メルの言葉に応じながら、付近にあまり人気の少ない埠頭をみんなでぞろぞろと歩いていく。

 路上には十リーギスほどの間隔で二本の白線が引かれ、幹が縦に三等分されていた。その白線の間にレールが敷設されており、レールの幅は二リーギスほどもある。台車に轢かれないように白線が引かれているのだろう。

 幹の中ほどまで進んだ頃には、大型の台車を押す巨人がのっしのっしと歩いていたり、通常サイズの台車を押す男たちを何人も見掛けた。それらと擦れ違ったりしていると、広すぎると思った道幅も程良く感じられた。

 物珍しかったこともあって、おそらく一メトほどの距離もあまり苦になることなく、幹の根元に着いた。昼下がりの晴天下で、割と忙しげに人々が動き回っている。今日は上着がないと肌寒いほどだが、荷役に勤しむ男たちは半袖半ズボンな格好ばかりだ。

 八番港管理所とやらは殊更に探すまでもなく見付かった。壁面にそう大きく書かれた平屋建てが岸壁からほど近いところに建っていたのだ。管理所の中にベルとクレアが入っていったので、俺たちは待っている間、出入り口の脇に設置された大きな案内地図板を眺める。


「でっかい街だな!」

「超でっかい! 今通って来た船着き場がこんなにちっちゃい!」


 ライムが腕組みして頷く横で、リーゼが地図を指差して興奮した声を上げている。

 地図として全体を見る限り、シティールはほぼ正六角形と言って良い形をしているようだった。この港湾部はその一辺に相当する。巨木型埠頭が国ごとに分かれているだけあって、各埠頭から真っ直ぐに伸びた道の先に、各国の大使館のある街区がそれぞれあるようだ。例えばルーシーの祖国であるクアドヌーン王国であれば、クアドヌーン街区といった具合だ。

 俺たちのいる八番港から真っ直ぐ伸びた道を進むと、ベイレーン街区という一際大きな区画に出るらしい。七番港がシティール用の埠頭で、六番港と八番港が同盟国外の船が停泊する埠頭なので、三区画分を一緒くたにしているようだ。

 これら各国ごとの街区は纏めて北区とされており、他に中央区、東区、西区、南区、港湾区があり、シティールはこの六区に大別される。シンプルで分かりやすいな。


「今日の宿は北区で取るのが良さそうね。というより、北区は訪れた外国人の滞在地として作られたんでしょうね」


 ミリアが地図を見ながら一人頷いている。

 確かに地図を見る限り、北区はいわばシティールにおける各国の活動拠点のようなエリアなのだろう。各街区はそれぞれの国の文化風習が色濃く現れた街並みになっていそうだな。それらが入り乱れることになる中央区はどうなっているのか、少し楽しみだ。


「この様子だと北区は外貨が普通に使えそうですし、とりあえず両替はしなくても良さそうですね」

「そうね。ベイレーン街区は外洋から訪れる諸外国の人が多いだろうし、大丈夫そうね」


 俺が誰に向けるでもなく呟くと、ミリアが同意してくれた。

 地図には中央区にシティール中央銀行ってのがあるようなので、両替に関してはそちらで行えばいいだろう。去年ベルとユーハと旅していた頃ならともかく、今はクレアたちがいるので俺が金勘定について気を回す必要はないが、金銭感覚を養うためにも気にするようにはしていた。


「トレイシーはしばらくシティールで暮らしてたんだろ? 当時と比べてなんか変わったとことかありそうか?」


 ウェインの問いに対し、トレイシーはどこか遠い眼差しで地図を見ながら首を傾げていた。


「うーん……もう十五年以上前だしねぇ。そこの船着き場のアレコレもすっかり忘れてたというか、そういうことは全然意識してない年頃だったし……でも、たぶんそんなに大きくは変わってないと思うけどなぁ」


 俺たちの中でシティールに来たことがあるのはクレアとトレイシー、それにゼフィラだけだ。当時クレアは十歳から十一歳だったという話で、トレイシーは俺たちに年齢を教えてくれないがクレアとそう大差ないだろうから、まだ子供だったはずだ。あまり覚えていなくとも無理はない。


「ゼフィは? 五十年くらい前と比べて、変わった?」

「主だった区画や通りは大して変わっておらぬようだの。ま、都市計画に基づいて開発された以上、地図を見て分かるほどの変化はそうあるものではない」


 ゼフィラが訪れたのは半世紀も前とのことだったが、懐かしんでいる様子は全くない。三千歳のお婆ちゃんにとっての五十年なんて、俺たちにとっての一年か二年くらいのもんだろうし、懐かしむほどではないのだろう。


「お待たせ。何か気になることでもあった?」


 クレアとベルが管理所から出てきたので、改めてみんなで大きな地図を眺めてアレコレ雑談した。クレアは地図を前に懐かしそうにしていたが、やはりトレイシーと同様、地図から得られる情報では当時との差異などはよく分からないようだった。


「みんな色々興味があると思うけれど、まずは宿を取って一息吐きましょう」


 俺たちは雑談もそこそこに歩き出した。

 すぐ近くに乗合馬車の停留所があったが、せっかくなので徒歩で移動することになった。北区のベイレーン街区はすぐそこだし、今後はここがホームタウンになるなら、一度は自分の足で都市の様子を見て回った方がいいだろう。

 波止場から三百リーギスほどは倉庫街で、広くて真っ直ぐな道の両脇に同じ形をした倉庫が整然と並んでいた。倉庫街は南北の長さこそ三百リーギスほどだが、東西には巨木型埠頭の数だけ――二十メトほども広がっている。おかげで倉庫街を出入りする馬車も多く、道を渡るときは気を付けないといけない。

 倉庫街の南には巨人街が隣接していて、道の両脇にそこそこ大きな建物が林のように建ち並んでいた。大きさはいずれも五階建てのマンションくらいだが、これくらいの巨人ハウスは魔大陸にもあったし、どこの港町でも見掛けたので物珍しさはない。珍しいのは一階二階と階層分けされた高層の建築物だ。先ほど地図で見た限り、巨人街も倉庫街と同様の総面積がありそうだった。荷揚げのみならず建築などの力仕事では巨人が重用されるし、これほどの港がある大都市なら巨人の人口も相当だろう。

 巨人街の南には大きな運河が東西に流れており、橋が架かっている。全長は二百リーギスほどだ。シティールはあちこちに大小様々な運河が張り巡らされ、北区の各街区は運河が境界線を兼ねている。

 大きな橋を渡り終えると、ここからがベイレーン街区になる。


「おぉぉぉ……空から見たときより凄い」


 リーゼは街並みに圧倒されているのか、一周回って大人しい。他の子供たちも半ば呆れているような面持ちで、都市の偉容を前に口をポカンと開けている。


「地図で見るのと実際に歩いて見てみるのとでは全然違うね」


 手を繋いでいるメルは最寄りの十数階建ての高層建築を見上げて感嘆の吐息を零している。

 先ほど地図で確認したところ、北区の各街区は東西に一メトほど、南北に三メトほどの面積があるようだった。つまりベイレーン街区はおよそ三メト四方の広さがあり、現在地はベイレーン街区の西大通りの北端付近にあたる。

 この西大通りは道幅が五十リーギスほどもあり、馬車用の車道と歩行者用の歩道にきちんと分けられている。この道自体は波止場からの延長上なので、さほどの新鮮味はないが、綺麗に石畳で舗装された大通りが三メトも一直線に伸びているともなれば、さすがに感嘆せざるを得ない。地図にはこの真っ直ぐな大通りが各街区に必ず一本あった。ここベイレーン街区は三街区分がひとまとまりになっているので、東大通り、ベイレーン通り、西大通りの三本があるようだ。

 この西大通り沿いには十階建て以上の高層建築が当たり前のように乱立している。倉庫街も巨人街も、それぞれ建物の高さはほぼ均一だったが、ベイレーン街区の建物は高さがてんでばらばらだ。二階建てで横長のずんぐりとした建物もあれば、横幅が短い十数階建ての細長い建物もあり、地上から見ただけでもでこぼこしているのが分かる。それでも視界に入る高層建築物の占める割合は五割を優に超え、道と建物の規模だけなら前世の日本でも大都会でなければお目にかかれないレベルだ。


「これは……正直ちょっと舐めてたわね。北区だけでこんな大通りが十本以上あるとなると……ザフィロに勝るとも劣らない街並みじゃない」


 ふと耳に入ってきた呟きの主はミリアだ。

 オールディア帝国は現代において世界一の領土を誇る大国で、ザフィロとはその首都のことだ。元お姫様なら帝都をよくご存じだろうし、彼女が認めるならシティールが世界有数の大都市なのは間違いないだろう。


「――ひゃっ」

「あ、ローズ、大丈夫?」


 街の様子を見回すのに夢中で、人にぶつかってしまった。なんかちょっと可愛い声が出ちまったじゃねえかこの野郎……。

 幸い、メルと手を繋いでいたので転倒はしなかったし、ぶつかった野郎も特に気にした様子もなく通り過ぎていった。ちょっとぶつかっても何事もなかったかのように歩みを止めない……大都会の住人らしいと思った。

 この大通り、道や建物の大きさに相応しく人通りも結構なもので、ぼさっとしていると今みたいに人とぶつかってしまいかねない。車道には馬車が行き交い、頭上を見上げれば翼人たちも飛び交っており、街並みには活気がある。


「物珍しくて周りを見回しちゃうだろうけれど、みんなもちゃんと前を見て歩くようにね」


 俺の失態を見てクレアがみんなに注意を促していた。

 いかんな……俺だけでなく、ゼフィラやクレアといった一部の大人以外も、端から見れば完全に上京したての田舎もんオーラ丸出しだろう。俺たちは女子供ばかりなわけだし、いいカモだと目を付けられて絡まれてもおかしくない。さっきだってぶつかった相手が変な奴なら慰謝料寄越せと難癖つけられただろう。都会の悪人を舐めちゃいけない。

 最低限の警戒心は保っておかないとな。

 改めて気を引き締めつつ、大通りを歩いていく。まずは宿泊先を決める必要があるので、みんなで良さげなホテルを探すことになった。


「宿はでっかいとこの一番上の階がいいなー!」

「そうね、一度くらいは高層階に泊まってみてもいいかもしれないわね。みんなはどう思う?」


 反対意見は特に出なかった。むしろみんな高層階に泊まってみたいようで、背の高い建物を指差しては「あそこが良さそう」「いやいやあっちの方が」と楽しげに宿選びをしている。

 高層階は階段が面倒なのでゼフィラは嫌がると思ったが、何も言うことはなかった。まさかルティが期待した様子を見せているから空気を読んだのではあるまいな……いや、そういえば夜ならゼフィラも空飛べるか。


「ここがたぶん一番でっかいから、ここがいい!」


 大通りを一メトは歩いただろうか。ひときわ大きな高層建築の前まで来たところで、リーゼがそこを指差した。ガラス張りの玄関口の上には小洒落た切り文字看板で『旅荘・蒼海の子守歌』と書かれている。横は百リーギスほど、縦は二十階以上はありそうなホテルだ。


「この通りの中じゃ一番高級そうだけど……ま、今後しばらくは宿に泊まることもないだろうし、最後くらいは奮発しちゃいます?」

「そうね。これまでみんな大変だっただろうから、全員無事シティールに辿り着けたご褒美ってことで、贅沢しちゃいましょうか」

「やったあああああっ、一番上の部屋にするんだー!」


 セイディとクレアが笑みを交わして頷き合うと、歓声を上げたリーゼが今にも走り出しそうな勢いで繋がれた手を引っ張り先行していく。他の面々はその後を追うように、立派な玄関口からホテルに足を踏み入れていった。




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「最上階の特等室になりますと、一泊4万ペンリーとなっております。こちらは四名様までご宿泊いただけます」


 俺たちは大都会の高級ホテルを舐めていた。


「あ、レクタでございますか? それでしたら42000レクタとなります」


 レクタというのはボーダーン群島国の通貨だ。シティールの通貨であるペンリーとあまり価値の違いはなさそうだが、今重要なのはそこではない。

 クレアもセイディも想定していた以上の高額だったようで、真顔で固まっていた。ベルだけはあまり驚いた様子もなく「あらぁ」と困ったように呟いている。


「……すみません、ちょっと失礼」


 セイディが引き攣った笑みでフロントに立つ姉ちゃんに告げ、クレアとベルと共にフロントから少し離れて、ひそひそと話し出す。他の面々はというと、先ほどから一階ロビー中央部にあるソファに腰掛けたり、魔石灯のシャンデリアを見上げたり、物珍しげに豪奢な内装を見回したりしている。

 俺は美女たちの相談に興味はあったが、ここは幼女らしい無垢な無知さを装って情報収集に励んだ方がいいだろう。


「お姉さん、一番安い部屋はいくらですか?」

「四等室となりますと、8400レクタとなります。こちらは二名様までご宿泊いただけます」

「なるほど……高いですねっ」


 無邪気な振りして無遠慮に本音をぶっちゃけてみると、割と美人な姉ちゃんは上品に微苦笑した。

 子供なら多少の無礼も許されるが、大人なら変な客扱いされて追い返されかねないだろうな。特にこういう高級ホテルだと。


「そうですね。当宿は一般的な宿と比べると、どうしても高くなってしまいますね」

「シティールの普通の宿だと、一泊いくらくらいなんですか?」

「正確なところまでは分かりかねますが、この大通りにある宿でしたら、最も安価な二人部屋で一泊5000から6000レクタほどが相場になるかと思います」


 とすると、ここの最安部屋は相場の1.5倍くらいすることになる。

 うーん……ちょっと計算してみるか。

 ボーダーン群島国では、露店や酒場なら一人一食あたり40から50レクタほどで事足りた。間を取って一日あたりの食費を135レクタとすると、一期(九十日)あたりの食費は……約1.2万。食費をボーダーン群島国の平均一期収入の15%と仮定すると……平均一期収入は8万レクタとなる。

 つまり、このホテルのロイヤルスイート的な最高級部屋は一泊するだけで庶民の給料半期分もすることになる。前世のように月収換算すると、給料一ヶ月半分だな。この大通りの最安相場でも、庶民は一泊するだけで五日分くらいの給料を要する。

 正確な数値ではないだろうが、大きく間違ってもいないはずだ。


「それでもかなり高い方ですよね?」

「そうですね。ただ、他の街区でも大通り沿いとなると、どこも同じような相場になるかと思います」

「大通りから何本か中に入ったところだったら、もっと安いですか?」

「それでしたら、一泊1000レクタほどのところもありますね。特にこだわりもなく最安値をお求めでしたら、500レクタほどのところもあるかと思います」


 1000レクタでもまだ高いと思う俺の金銭感覚は庶民レベルなんだろうな。しかし、さすがに500レクタの宿はどうかと思う。これまでの旅で泊まってきた宿のグレードは中から中の上くらいだったので、今更安宿に泊まりたくはないよ。


「当宿は立地もさることながら、貴族様でもご満足頂ける快適な空間、おもてなしをご提供できると自負しておりますので、宿泊料金の方もそれに見合ったものになっております」


 相手が幼女だからホテル業界の相場もペラペラ教えてくれるのかね……と思っていたが、何のことはない。高級ホテルの従業員らしく、自らの勤めるホテルに自信があるのだろう。あるいは暗に貧乏人は余所へ行けと言われているのか。


「すみません、お待たせしました」


 クレアたちが戻ってきた。三人とも気まずげな表情ではないから、やっぱり余所のホテルにすると言い出すような雰囲気ではなさそうだ。


「特等室を一部屋、あとは五人部屋、三人部屋を一部屋ずつ、二人部屋を二部屋で、ひとまず一泊だけお願いします」

「かしこまりました。そうなりますと――」

「クレア、いいんですか?」


 思わず横から口を挟むと、黒髪巨乳の美女は穏やかに微笑んだ。


「もうこんな機会はないだろうし、ローズたちには色んな経験をしてほしいから、一度くらいどういうものか泊まってみる価値はあると思ってね」

「……ありがとうございます」


 逡巡したが、変に遠慮はせず素直に礼を言っておいた。

 長旅の有終の美を飾るという理由に加えて、子供の見聞を広めるためであれば、クレアとしては惜しくない出費なのだろう。前世では親孝行できなかったから、将来はクレアたちにちゃんと恩返ししないとな。

 それから手続きと支払いを済ませると、俺たちはそれぞれの部屋に案内されることになった。とりあえず今日は俺とリーゼとルティ、それに保護者としてクレアが最上階の部屋に泊まることになり、他の子供たちは明日以降ということになった。


「それでは、こちらの昇降機で上階までお送りいたします」


 一階ロビーには伸縮する金網みたいな扉があったので、先ほどからまさかとは思っていたが、やはりエレベーターのようだった。


「昇降機ってなんだ?」

「上や下に運んでくれる乗り物のことね」


 クレアに驚いた様子はないが、リーゼなど子供たちやメルなどは訝しげだった。俺もこの世界でエレベーターとか初めて見たから、ちょっと戸惑っちゃう。


「あの、これって動力というか仕組みはどうなってるんでしょう?」

「地下に巨人がおりますので、そちらで昇降機に繋がった鋼線を巻き上げさせております。安全には十分に配慮した設計となっておりますので、どうぞご安心ください」


 ま、まさかの人力エレベーター……。

 魔力を利用した魔法的な技術でどうこうしているのかと思ったのに、ローテクすぎる。しかし、まあ納得ではあるか。エレベーターを魔力で動かせる仕組みがあれば――それほど便利な動力機があれば、もっと色んな分野で利用されてるはずだしな。

 地下労働に勤しむ巨人に感謝しつつ、乗せてもらうことにした。事故が怖いけど、これだけの高級ホテルなら細心の注意で安心安全な運用をしているはずだ。大丈夫だろう。


「まずは八階の三等室へ向かいます」


 エレベーターにはエレベーターガールならぬボーイなイケメンが常駐しているようだった。

 搭乗定員が十名までだったので、俺たち最高級部屋のメンバー四人の他に、ウェインとラスティとベル、それにホテルマン二人で乗り込んだ。

 指定階を地下の巨人にどうやって伝えるのかと思ったら、前世みたいに各階ごとのボタンが付いていて、イケメンがそれを押していた。アレは魔石灯のスイッチと同じ仕組みっぽい気がするな。導魔線が地下にまで伸びているのだろう。


「少々揺れますのでご注意ください」


 その言葉通り、初動は少し揺れたが、意外にも快適に昇り始めた。

 金網扉の上には半円形のメーターがあって、時計のように針が動いている。円周上に数字が書かれているから、あれで今何階かが分かるわけだな。


「この箱が上に行ったり下に行ったりするのかぁ」

「階段より凄く楽」


 リーゼは感嘆の吐息を零しており、ルティも未知の体験に感じ入っている様子だ。俺はまさか人力エレベーターに乗ることになるとは思わなかったから、ちょっと困惑だよ。

 針を眺めてたら、僅かな揺れと共に八の数字のところで止まった。そして金網扉の横にある魔石灯が青く光り、イケメンが金網扉を開ける。


「お待たせいたしました、八階です」

「マジかよ……もう着いたのか。この宿やべーだろ……」

「こ、こんな凄い宿に泊まれるなんて……」


 ウェインとラスティが唖然としつつも、ベルとホテルマンと一緒に降りていった。

 俺たちは再びエレベーターで上階へと昇っていく。メーターの針が左から右にどんどん動いていき、やがて二十五と書かれた右端で停止する。


「お待たせいたしました、二十五階、最上階です」


 俺たちは同行しているホテルマンと共にエレベーターを降りた。

 エレベーター前は少し開けたエントランスになっていて、そこに帯剣した人間のオッサン二人と、ホテルマンもとい男女のホテリエが一人ずつ、姿勢良く立っていた。すぐ近くに扉と椅子が二つあるので、エレベーターが来ることを知って待ち構えていたのだろう。一階にもこの階にも、乗り込み口の上にはエレベーター内にもあったメーターがある。この辺りは前世とほとんど変わらないようだ。まさか転生者が作ったんじゃねえだろうな……?


「異常はありませんか?」

「はい」

「こちらは本日特等室にご宿泊されるクレア様御一行です」

「了解です」


 オッサン二人は警備員なのだろう。万が一にもVIP客の泊まる階に不審者が入り込まないように、見張っているわけだ。階段はエレベーターのすぐ隣にあるので、ここで見張っておけば屋内からの侵入者には対処可能だろう。

 ホテリエ二人の後ろにある扉には控え室とプレートが掛かっているので、最上階に常駐しているようだ。


「どうぞ、こちらです」


 先導するホテルマンに続き、俺たちは廊下を歩いていく。一定間隔ごとに設置された魔石灯は硝子細工の装飾が施され、煌びやかな光を放っている。

 重厚そうな両開き扉の前でホテルマンが立ち止まり、解錠して扉を開けた。


「靴はこちらで室内履きに履き替えてください」


 どうやら土足厳禁らしい。

 俺たちは室内に入ってすぐに、やけにふさふさのスリッパに履き替えた。


「何かありましたら、こちらの魔石灯を下げて頂ければ先ほどの従業員が参りますので、遠慮なくご活用ください」


 下駄箱の隣の壁に、瀟洒なレバーが生えていた。ホテルマンがそれを下げると、レバー先端の魔石灯が光り、上げると消えた。こんな呼び鈴みたいな仕掛けのある宿は初めてだ。


「あっ、階段がある!」

 

 そこらの一軒家よりよほど広い室内の中心部には螺旋階段があった。リーゼが走り出し、階段をぐるぐると駆け上がっていったので、俺とルティもその後を追うことにした。クレアは何やらホテルマンに説明を受けていたようだったが、ここは彼女に任せておけばいいだろう。


「二階のある宿の部屋なんて見たことない」

「そうですね。さすが最高級なだけはあります」


 前世でも一室が上下階に分かれたホテルなんて泊まったことなどなかった。

 どうやら一階部分は主にリビングスペースになっているようで、二階部分は寝室と広大なルーフバルコニーになっていた。寝室は一階にもあり、どちらもベッドは二つずつだ。トイレと風呂も上下階それぞれにあった。


「おー! やっぱりシティールはごちゃごちゃしてるなー!」


 はしゃぐリーゼと共にバルコニーから都市の様子を眺める。この辺りでは一番高い建物なので、付近に視界を遮るものはなく、北側以外の三方向を一望できた。リーゼの言うとおり、全体的にごちゃっとした景色で、二十六階からでも見渡す限り広がる街並みは圧巻だ。いずれの方角にも、このホテルより背の高い建物があり、改めて大都会だと実感する。


「あっ、ふかふかを確かめないと!」


 リーゼは思い出したように叫ぶと室内に駆け戻っていく。これまで宿を取ったときはまず最初にベッドに飛び込み、その品質を確かめていた。俺もこの最高級部屋のベッドのふかふか具合は気になった。


「広くてすっごいふかふかだ!」


 ベッドの上ではしゃぐリーゼを横目に、俺も大きなベッドに全身を投げ出すように飛び込んだ。心地良い反発と肌触りの良い生地の感触をしっかりを味わうべく、子供らしくごろごろと転がってみる。

 うーむ、これはあの入り江のコテージのベッドに勝るとも劣らぬ寝心地だな。


「……ん?」


 ふと、何か違和感を覚えた。

 一人用とは思えないサイズのベッドの上で、左右にごろごろと転がっていた動きを止めて、考えるより先に動いた両手が腰元を探る。

 あるはずの感触がなかった。


「……………………」


 上体を起こして上着の前を大きく開き、目視で確認してみる。

 左腰になければおかしいアレが、ない。


「二人で寝ても、まだ広い」

「新しー家はこーゆーとこがいーなー!」


 隣のベッドで幼女たちがはしゃぐ声がどこか遠く聞こえた。


「……え……あれ? 魔剣が……あれ?」


 俺は唐突に背筋が薄ら寒くなり、しばし思考が停止した。




 ♀   ♀   ♀




 人生ってのは浮き沈みがあるもんだ。

 寄せては返す波のように、上手いこといくときもあれば、どう頑張ったところで全く振わないときもある。そもそも世界は自分を中心に廻っているわけではないのだから、自分に都合良くいかないのがデフォだ。

 頭ではそう分かっていたし、これまでに何度も実感したことではある。

 しかし、最近は何だかんだ割と好調で、すっかり油断していた。


「探しものは魔剣です~、見つけにくいかもですね~」


 日が沈み、港にあった活気は落ち着き、波音だけが穏やかに響く中、俺は歌いながら踊っていた。だって、今日はシティールに到着した目出度い日だからな。


「カバンの中もお船の中も~、探したけれど見つからないよ~」


 今はドラゼン号の甲板で、みんなで無事に到着できた祝宴の最中だ。船倉に残っていた食料をふんだんに使って、大いに飲んで食ってお祝いするときなんだ。


「まだまだ探す気ですよ~、それより今は踊りましょうよ~」


 だというのに、みんないまいち盛り上がりに欠けるな。どことなく気まずそうな顔で、何か痛ましいものでも見るように俺を見てくる。ルティだけはリュートで明るくポップな感じの伴奏を弾いてくれている。軽く打ち合わせしただけなのに、この子やっぱ才能あるよ。


「夢の中へ夢の中へ~、逃げてみたいと思いませんか~」


 誰も相の手すら入れてくれない中、それでも一人で熱唱してオタ芸みたいなクソダサダンスを披露していると、美天使が椅子から腰を上げて近付いて来た。

 さすがセイディだぜ、空気を読んで一緒に踊ってくれるらしい。


「……ローズ、もういいから。そんな無理して盛り上げようとしなくていいから」 


 なんか気遣わしげな声で言いながら、そっと優しく抱きしめられた。

 ルティの伴奏が止み、一転して物悲しい静けさが漂う。


「な、何言ってるんですかセイディ、べつに無理なんてしてないですよ」

「そんな見るからに泣きそうな顔で、本来は陽気そうな感じの曲を歌われても逆効果だから。まだ素直に泣いてくれた方がアタシらも楽ってもんよ」

「…………すみません」


 ちくしょう……せっかく頑張ったのに、どうやら顔に出てしまっていたらしい。

 一人前の大人なら感情を上手く隠して、何事もないかのように振る舞って、空気を壊すようなことはしないだろう。つまり俺はまだまだ未熟で、そんな間抜けだから大事な魔剣をくしてしまうんだ。


「ほら、泣きたきゃ泣いていいんだからね」


 さすがにみんなの前で泣くのは恥ずかしいから我慢するけど、美女に抱き付いて、その胸に顔を埋めた。まあ、埋めるほどの膨らみなんてないんだけどさ。でも、セイディの平らな胸が、今は何だか凄く柔らかく感じるよ。


「明日から魔剣探しだー! 盗んだ奴も見付けてお仕置きしてやるんだー!」

「でも、シティールは凄く大きい」

「そうね。現実的に考えると、魔剣もスリも見つけ出すのはかなり難しそうだわ」


 リーゼは張り切ってくれているし、俺もそのつもりではあるけど、ルティとサラの言い分は至極もっともだ。こんな大都市の中から、そう簡単に見つけ出せるとは思えない。いや、まず無理だろう。

 ホテルで魔剣がないと気付いた後、俺はすぐにドラゼン号に転移した。だが、船内を探しても、留守番のユーハたちに尋ねてみても、行方は知れない。ホテルに戻ってみんなにも確認してみたが、当然の如く知る者はいなかった。

 俺は確かに魔剣を携帯していた。少なくとも下船する前にシティールを上空から眺めたときには腰元にあったのを確認している。船に戻るまでの間に、上空から落とした可能性は完全に否定できないが、万が一にも落としてしまうような方法で携帯なんてしない。これまでだって一度も落としたことはなかった。

 だから、盗まれた以外には考えがたく、その心当たりだってある。あのホテルこと蒼海の子守歌の面する大通りに入った後、人にぶつかった。きっとたぶん間違いなく、あのときにスラれたのだ。俺は上着の前は閉めていなかったから、風か何かで裾がはためいたりすれば、腰元の魔剣がチラリと見えることだってある。スリは目敏くそれを目にして、相手が幼女なら楽にスレると踏んで、犯行に及んだのだろう。


「着いて早々に大都市の洗礼を受けるとは、さすが小童だの」


 みんな俺に対して同情的な態度で接してくれるのに、ゼフィラだけは平常運転だった。むしろ俺の無様さを酒の肴にしているようにも見える。

 それが腹立たしくて思わず呟きを零した。


「……あのときゼフィラさんが私と手を繋いでくれていれば、スラれることもなかったのに」

「己が油断を棚に上げ、人に責任を押し付けるとは、随分と卑しいの」


 卑しいという部分を強調して言われた。仕返しのつもりだろうか。

 だが、正論だった。

 魔剣を盗まれたのは他ならぬ俺自身の失態だ。


「ローズは何も悪くないからね。悪いのは盗んだ人なんだから」


 クレアはそう慰めてくれるが、心は全く晴れない。

 あの魔剣が完全に俺の私物だったなら未だしも、アレは婆さんがくれた魔剣だ。俺が魔剣を習いたいと言ったとき、魔剣術の教本と一緒に与えてくれた。以降は自分のものとして扱ってはきたけど、婆さんからのプレゼントであるという認識は常にあったし、今となっては婆さんの形見みたいなもんでもある。

 特にここ一年以上の間は、ほぼ毎日ずっと携帯していた。俺にとって、形ある物としては一番愛着のある品だった。強い思い入れがあったんだ。謂わば相棒みたいなもんで、練習期間も含めると長いこと一緒にやってきた。

 い、いかん……改めて考えるとマジで泣きそう……。


「だ、大丈夫よ、《暁闇魔侠》はシティールの裏社会を掌握してるから、盗品の行方だってきっと知ってるわ」


 セイディに抱き付いたまま、思わずプルプルと肩を震わせて泣くのを我慢していると、クレアの焦ったような声が耳に届いた。


「さて、それはどうかしらね」


 かと思えば、今度はミリアの嘆息交じりな声が聞こえた。


「《黎明の調べ》の本拠地たるシティールで、魔女から魔剣を盗んだのよ? それをシティール内で捌くとは思えないわ。まともなスリなら魔剣と一緒に他国へ渡って、そっちの闇市場に流すでしょうね。ローズの持ってた魔剣は最高級の一品なんだから、そこまで手間暇掛ける価値は十分すぎるほどあるわけだし」

「アンタねぇ、落ち込んでるとこに追い打ち掛けるようなこと言うんじゃないわよ」

「下手に希望を持たせる方が残酷でしょう? 諦めるのも早計だとは思うけど、犯人も魔剣も見付からない前提で探さないと、後で余計辛いわよ」


 ミリアの言葉は全面的に正しいと思う。

 というか、この元姫様の言うことはいつも正論だ。

 たぶん探しても見付からないだろう。スリなんてやってる奴なら身軽だろうし、既に犯人は今日出航する船に飛び乗って高飛びキメてても不思議はない。アレはそれほどの一品だ。

 これまでは感覚が麻痺してたけど、俺はそんなブツをいつも腰に携えていたんだよな。普段持ち歩く魔剣はもっと安物にしておけば……でも魔剣の品質は切れ味に直結するし、命を預ける道具に妥協はできない。

 結局、今回のことは俺の警戒心のなさが招い――いや、待てよ?

 そういえばあの狂信者共、ローレルで接触してきて以来、出てきていない。だが、こうして俺が旅の目的地に到着し、定住しようというからには、再び現れるだろう。いや、そのはずだ。そしてまた俺に何かさせようとしてくるに違いない。

 そうだ、そうだよ、そうなんだ。

 そう考えれば、今回の相棒誘拐事件にも得心がいくってもんだ。


「……ミリアさん」


 俺はまな板のような柔らかさから顔を離すと、青白い髪が美しい美女を見た。彼女は特に悪びれた素振りもなく、こちらの視線を受け止めている。


「今日泊まる部屋を替わってくれませんか?」

「泊まる部屋を? でもローズは最上階の一番良いところでしょ、こっちは一番安い二人部屋よ?」

「いいんです、お願いします」


 我ながら力強い眼差しで真っ直ぐに見つめて、断固たる意志を込めて告げた。するとミリアは怪訝そうながらも思わずといった様子で頷いた。


「まあ、いいけど……でもクレアさんは子供たちのために最高級の部屋にしたわけだし、アタシはサラが泊まる部屋にお邪魔するわ。代わりにサラが例の部屋に泊まるってことで……いいわよね?」


 ミリアは言いながらクレアとサラにも視線を向けると、美少女の方が小首を傾げた。


「わたしもべつにいいけど、急にどうしたのローズ?」

「いえ、少し思うところがありまして……クレア、すみません。せっかくですけど、今日はあの部屋に泊まるのはやめておきます」

「……変な気を遣わなくてもいいのよ?」


 さすがというべきか、クレアの懸念は的外れというわけでもない。

 確かに、同室となるクレアとリーゼとルティに対する遠慮がないわけではない。優しいみんなはきっと俺を気遣うだろうし、俺がいることで今この場のように空気が悪くならないとも限らない。リーゼたちにはせっかくの最高級部屋を存分に満喫してもらいたいから、今日はあの部屋に泊まらない方がいいという気持ちが全くないと言えば嘘になる。

 しかし、そうじゃない。

 そうじゃないんだ。


「大丈夫です、分かってます。ただ、今日は私も心の整理が付かないですから、こんな状態ではせっかくのあの部屋を満喫できそうにないんです。それはもったいないですから、別の人に楽しんでもらいたいんです」

「ほう、つまりお主はこう言うわけか小童? 相部屋となる相手が妾であれば、辛気くさい状態でも迷惑にはならぬと?」


 このメンバーの中では、ゼフィラ相手が一番遠慮なく迷惑を掛けられるのは事実だが、それは口が裂けても言えない。


「そんなわけないじゃないですか。お望みとあらばさっきみたいに歌って踊って盛り上げますよ。だから、お願いします。私との相部屋を受け入れてください」

「ふむ、そんな今にも血涙を流さんばかりに懇願されては無碍にもせぬが……お主、何か都合の良い思考でもして現実から目を背けておらぬか?」

「私はいつだって現実と向き合ってますよ」

「なら良いがの……まあ好きにせよ」


 ゼフィラは呆れたような口振りながらも、ふっと笑みを零して頷いた。

 どうやら彼女は俺の考えに気付いたらしいが、それならそれで好都合だ。どうせ面白いことになるとでも思って、敢えて邪魔をするような真似はしないだろう。

 本当はこの船に泊まることも考えたが、夜番としてユーハがいる。ユーハは気配とか分かる人だし、警備員としての能力は確かだろうから、船に泊まることはできない。

 その点でいえばゼフィラはユーハ以上だが、彼女は連中と面識がある。となれば、奴らも遠慮せず接触してくるだろう。最上階は警備が厳重だが、ゼフィラの泊まる二人部屋は最も安い四等室だ。最上階よりは警備も薄いため、あいつらなら容易く侵入できるはずだ。


「ふふふ……まったく、人をイライラさせるのが上手い奴らだ……」


 今回の俺はフリ○ザ様並に容赦しねえぞ、カス共が。

 人の大事な相棒を人質に取って言うこと聞かせる算段なんだろうが、そうは問屋が卸さねえ。

 シティールに無事到着できた喜びに水を差しやがったことだし、この落とし前はきっちりと付けさせてやるぜ。

 

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