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幼女転生  作者: デブリ
序章・転生編
2/203

第一話 『クズニートと賢者の石』★


 俺の未来に希望はない。


 それを悟ったのは今から三十分前のことだ。

 聖夜たる今宵は『性の六時間』という腹立たしい時間帯が存在する。

 俺はその非情な現実から目を背けるため、例年通り夕方からエロゲをプレイし続けることにして、画面の向こう側にいる金髪ツインテの美少女とイチャラブした。

 無論、プロの引きニートエロゲーマーである俺はプレイの最中にフットペダル(足でクリックができる便利機器)を活用して自家発電に勤しむことを忘れず、自宅警備員としての職責をしっかりと果たした。

 が、そのせいで否応なく賢者になってしまい、悟ったのだ。


 俺の未来に希望はない。


 まるで天啓を得たかのように、突然悟りを開いてしまった。ちょうど三十歳を迎えた深夜零時のことだったから、きっと魔法使いになったせいだ。

 そう、遂に俺は童貞のまま三十路を迎えてしまった。


 な、なんてこった……人生ヤバいよどうすんだよっ!?


 そんな不安から目を背けるためでは決してないが、断じて違うが、俺は都市伝説の信憑性を検証するついでに、試してみることにしたのだ。


「……んしょっと」


 軽く踏ん張って椅子から腰を上げ、机の引き出しから昔どこかで買ったパワーストーンを取り出し、体脂肪率四十パーセント以上の肥満体で部屋の真ん中に立つ。

 そして念じた。イメージした。

 想像力は大事だ。勉強にも運動にも自家発電にも活用できる万能の力だからな。

 俺はクソッたれな三十年間を振り返ることで負のエネルギーをたぎらせて、パワーストーンに魔力をチャージし、マジックストーンに変えた。

 十二月二十五日、零時三十分……準備は整った。


「……………………」


 足を肩幅に開いて、顎を引き、曲がった背筋を真っ直ぐに伸ばす。

 魔法石を握りしめた右手を突き出し、長年のエロ妄想で鍛え上げた想像力を遺憾なく発揮する。

 時空魔法だ。時をかけるニートだ。

 新生児とまではいかなくとも、せめて三歳児……いや、五歳児くらいまででもいい。とにかく、バックトゥザパストだ。

 俺の未来に希望はない。

 そうして大きく息を吸い込むと、万感の思いを込めて呪文を唱えた。


「バルスッ!」


 …………違うな、これは空飛ぶ島を滅ぼす破滅呪文だ。

 俺はまだ死にたくない。人生をやり直したいのだ。

 性夜を堪能するリア充共への憎悪は忘れよう。今は時空魔法だ。

 というか、久々に声出してみたけど、だいぶかすれてたな。

 一瞬誰の声だと思ってビックリしたわ。


「あー、あいうえおー……よし、いける」


 軽く発声練習をしてから、適当な呪文を唱え始めた。

 オタク知識を総動員して、とにかくあらゆるワードを詠唱し続けた。

 我が家は壁が薄いから近所迷惑になるかもしれなかったが、今日は俺のバースデイだ。いつも静かなんだから、今日くらい大目に見てくれや。

 にしても、声帯を使うの久しぶりだから喉が痛いな……。


「……はぁ……はぁ」


 息が切れた、もう限界だ。奮闘した時間はだいたい一時間くらいか。

 自分でもよくやったと思うよ、うん。

 当然のように何も起きなかったね。

 魔法使いは都市伝説だったよ。


「…………ふぅ」


 この世に魔法はない。

 つまり魔法少女もいない。

 ついでに神もいない。


「い、いや……いや待て」


 まだ諦めるには早い。

 すっかり失念していたが、俺はまだ正確には三十歳ではないのだ。

 俺が生まれたのは十二月二十五日の午前三時頃らしい。

 まだ一時間半ほど早かった。

 まったくもう、これだから早漏は困る。


「さて、とりあえず……」


 椅子に腰掛けて、PCディスプレイに映る金髪ツインテ美少女とご対面した。

 それから一時間半、俺は更なる賢者となるため、とにかく煩悩を身体から抜きまくった。賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になって賢者になった。

 過去最高記録を更新した。今ならば据え膳でも手を付けない自信がある。どんなご馳走でも俺はスルーできるだろう。

 ……うん、もう息子が痛がってるからね。

 さすがにこれ以上の無理はさせられんよ。


「よいしょっと」


 再び立ち上がった。今度は全裸だ。賢者修行に明け暮れるあまり、衣服は邪魔になって脱ぎ捨てていた。

 現在時刻は三時二分。

 あと五分待とう……いや、念のために三十分待とう。

 全裸待機だ。

 今のうちにマジックストーンへと魔力を込めよう。


「…………………………………………」


 目を閉じ、直立不動で三十分間の魔力充填を行った。

 瞑想するかのように精神を落ち着かせ、物音一つ立てないで集中する。

 精神一到何事か成らざらんの意気で全精神力を傾ける。

 賢者になりすぎたせいか、『さっさと服着て寝ちまおうぜ』と正気よわきな俺が囁いてきたが、気合いでスルーした。


 そうしてついに、時はきた。


 パソコンのディスプレイだけが光る、仄暗い部屋の中。

 俺は再び足を肩幅に開き、最大の魔力が充填された魔法石を握りしめ、腕を前に突き出した。そして生まれた姿のまま口を開――


「――――」


 ガチャっと音がした。

 口ではなく扉が開いた。

 母親も俺も絶句する。廊下の電灯は点いていないので、ディスプレイの明かりだけが光源だった。おかげで母親の表情はよく分からない。薄暗いし、直視できないからな。

 俺は「ぁ、きゅぇ……」と変な声を漏らした後、キモい悲鳴を上げた。


「な、ななななに勝手に入って来てんだよっ!?」

「…………」


 母親は答えない。表情も分からない。

 俺は硬く目を閉じて、顔を俯けているからな。マッパで。心音がバクバクうるさいから、たぶん何か言い返されても聞こえなかっただろうけど。


「んぁ……?」


 それは、突然だった。

 急に、何の前触れもなく、腹部を違和感が襲った。

 反射的に目を開けてみると、薄闇の中に鈍い輝きが見えた。

 そいつは俺の腹と繋がっている。


「え……?」


 ゆっくりと視線を上げてみると、いつの間にか目の前に母親がいた。

 能面のような無表情をした母親と目が合った。

 いや、目は合ったが、向こうは俺を見ていなかった。

 焦点が合っておらず、どこか遠くを茫洋と眺めているような目付きだった。


「ぅ……がっ、あ」


 不意に、鈍い輝きが全て、俺の腹に押し込まれた。

 たまらず一歩後ずさる。

 腹に熱が広がり、耐えがたい痛みが襲いかかってきた。

 へその上あたりには、黒い棒が肌と水平にくっついている。なんだか妙に滑稽に映った。瞬間接着剤で固定しても、こうも安定してくっつきはしまい。俺の腹はタプタプだからな。


「ぁ……う、え……?」


 黒い棒には見覚えがあった。

 つい最近、冷蔵庫に入っていたボンレスハムを勝手に切ったときに使った、アレだ。包丁の柄だ。刃渡りはたしか……二十センチくらいあった。

 それが、ない。

 刃が見えない。


「――――」


 なんだこれ、意味分からん。

 いや確かに俺の腹はボンレスハム同然だけど、なんで包丁が?

 痛い、熱い、寒い、というか俺なんでマッパなんだ?

 今日はクリスマスだろう? 聖夜だろう? 俺の誕生日だろう?

 なにやってんだ俺? なんで母親が包丁を俺に?

 もしかしてプレゼントか? 三十路祝いか?

 メリーハッピーバースデスなクリスマスってか?


「ぐ、っ……ガァ!」


 包丁の柄が皺のある手に掴まれ、一息に引き抜かれた。それは乱暴な、どうでも良さげな手つきだった。そのせいか、ちょっと回転が加えられていて、内臓が引きずり出されるかと思った。

 俺の腹には歪な直線が刻まれた。縦線ではなく、横線だ。左手で触ってみると、やけに熱くて、ヌメっとして、赤かった。

 暗くても尚、赤かった。


「ぅぶえっ!?」


 食道を逆流した血液が口から溢れ出し、俺は倒れた。

 激烈な痛みが――三十年生きてきて経験したことのない激痛が、情け容赦なく襲い掛かってきた。腹からドクドクと命が漏れ出ているのが分かる。

 これは、ヤバい。

 あまりの混乱に一周回って落ち着いたのか、俺は冷静にそう思った。

 そのとき、背中に何かが倒れ込んできた。なんか妙に温かい。久々に感じる人肌の温もりだ、少しヌメっとしてるけど。


「ぁ……」


 直感的に悟った。

 これは母さんだ。母さんの温もりだ。


「ぅ、あ……あ、ぁ…………」


 否応なく感慨深い何かを思っているうちに、視界が薄れてきた。

 微かに残る右手の感触で、未だに魔法石を握りしめているのが分かる。


 …………ハッ、馬鹿か俺は。


 三十歳。童貞。魔法使い。時空魔法。魔法石。

 人生をやり直す?

 ふっざけんな、そんな奇跡起きるわけねーだろーが。魔法が使えてれば、ガキの頃にクソッたれな兄貴をまずどうにかしてたっつーの。

 でも……あぁ、そうだよ。

 俺にもっと強い意志があれば、暴虐者を撃退バルスできたんだ。我慢せず、誰憚だれはばかることなく、俺は俺の意志を貫くことができたんだ。


 俺にもっと勇気があれば。

 俺がもっと賢ければ。

 俺がもっとイケメンなら……いや、顔は関係ないか。

 人間は中身だ。そう、全ては人格。

 人生なんてもんは、本人の意志次第で案外どうにでもなるのだ。

 ま、かなり今更な話だけどね。


「……天国、行けると……いいなぁ……」


 それが俺の遺言となった。




 ♂   ♂   ♂




 死んだ。

 あの命が尽きる瞬間はよく覚えている。

 まるで砂時計の最後の一粒がポロっと落ちるかのように、生命力が底を突いた。

 俺は、絶命したのだ。

 よりにもよって聖夜という誕生日に、実の母親の手で。


「貴様は流刑に処す」


 まず聞こえた声がそれだった。

 野太く、威厳に満ち、ゆったりとした口調をしていた。

 ガキの頃にポックリ逝った近所の偏屈ジイさんの声に似ている。年長者はそれだけで無条件に偉いとか勘違いしてそうな、老害特有の無駄に頑固そうな声だ。


「ほう、ワシを老害呼ばわりするか」


 周囲は真っ白で、俺は真っ裸だ。

 立っているのか、横たわっているのかすら分からない。上下左右の方向が不明だからな。おそらく無重力とはこういう感覚のことを言うのだろう。


 ――貴方は誰ですか?


 そう問おうとしたが、声が出なかった。

 ついに声帯が長期不使用でイカれたか。

 いや、死ぬ直前までは使えてたな。


「ワシは神だ。不出来なクズよ」


 神、ですか。

 まあ驚くまいて。

 声を出せなくても俺の声を聞き届けた。まさに神だ。それならショタ期の俺が発した心の悲鳴を聞き届けて救って欲しかったものだが……いや、今更の話か。


 目の前には、純白の世界が広がってる。

 ここが天国だとすれば、実に素っ気ない風景だ。というか、無という単語を想起させるほど、何もない場所だ。

 しかしまあ、案外天国なんてこんなもんかもしれない。


「貴様は最大の罪を犯した。貴様に命を分け与えた者を絶望死させたことだ」


 うん、それについては反省してます。

 ごめんよ母さん。たしかにね、分かるよ?

 引きこもりクズニートの息子が三十路の誕生日に全裸で変なポーズをとっていた。

 そりゃショックだろうさ。

 でも、なんであのとき包丁持ってたんだい?


「貴様の叫びを聞いて、彼女は決意を固めたのだ。息子を殺して、自分も死のうと。実に嘆かわしい話である」


 なるほど。

 息子がバルスって叫んだのを聞いて殺意を固めたと。

 もしかして、破滅呪文を聞いて俺が死にたいと勘違いしちゃったのかな?

 そして俺が寝静まるまで待って、こっそりプレゼントをぶっ刺そうとしたのかな?

 ごめんねサンタさん、まだ起きてて。


「貴様はクズだ」


 ええ、はい、よく分かってますよ。

 兄からもよく『腐っている』だの『消えろ』だの、散々言われてましたからね。

 その程度の罵詈雑言、俺には柳に風ですよって。


「実の母親を、息子の貴様が絶望のどん底に叩き落とした挙句、死なせた。ワシは断じて貴様を許さん」


 あぁ、そッスか。

 でもね神様、あのクソ兄貴には何の処罰もないんスか?

 奴が諸悪の根源なんスよ?


「あの元クズは既に更正している。だが、貴様は違う」


 更正すれば過去の罪状はなしってことッスか……。

 おいおい神さんよぉ、それはおかしいんじゃねーですかね?

 更正すれば許されるって?

 ふざけるなよ、罪は罪だろうが。


「そう、罪は罪だ。理由がどうあれ、貴様は母親を絶望死させた」


 ……そうですね。たしかに母さんは絶望してたんでしょうね。

 なにせ俺を刺殺するとき、包丁を横に寝かせてましたもんね。

 身体を縦に走る大動脈を断つには、縦より横に刺した方が効果的ですもんね。

 アレは本気でる気がないとできない発想ッスよね。


「よって、流刑である。貴様は天にも獄にも行かせられん。そんな価値すらない」


 流刑って、つまり島流しのことッスよね?


「流刑は流刑、次元間放流である」


 まあ、よく分からないんですけど、そういう人って結構いるんですかね?

 世の中には俺以上の、真性のクズっているでしょう?

 ほら、例えば俺のクソ兄貴みたいな。


「アレは既に獄行きが決定している。本来、貴様も獄行きのはずだったが、最後の最後で決定的な罪を犯した故、急遽きゅうきょ変更された」


 なるほど。

 俺は実の母親を無理心中に追い込むほど絶望させた。

 たしかにそれは大罪でしょうとも。

 で、流刑って具体的になんなんスかね?

 中卒の馬鹿でも分かる説明をお願いしたんスけど。

 それってよくあることなんスか?


「流刑とは次元の狭間へクズ共を放流し、永劫の時をもって贖罪させることだ。そう珍しいことではない」


 次元の狭間。

 永劫の時。

 うん、RPGとかによく出てきそうなフレーズだ……って、え……?

 

「貴様が犯したその罪、永劫の時をもって贖うが良い」


 傲然とした声が俺の意識に届くと同時に、足下に虹色の穴が開いた。

 突然だった。何の前触れもなく、ポッカリと開いた。

 レインボーホールは渦潮のように波打ちながら回転している。綺麗だが、如何にも不気味で怪しい。この純白の世界との対比も相まって、あまりのカラフルさに毒々しささえ覚える。


「最後にワシと話せたことを、せめてもの誇りとするが良い。それが貴様への最大限の慈悲だ」


 そうして俺は、ダ〇ソンもビックリな吸引力により、サイクロンさながらに回転しながらレインボーホールに吸い込まれていった……。




 ♂    ♂    ♂




 俺は彷徨っていた。

 相変わらずマッパである。

 

 SFもののアニメや映画に出てくるワープホールみたいな空間にいた。上下左右は光の川になっており、種々様々な色彩が高速で流れていく。いや、流れているというより、俺が流されてるのか?

 まともに見ていると酔いそうだった。


 しかし、これは……どうすればいいんだろうか?

 生憎とまだ色々と整理が付かなくて、ちょっと困ってる。

 とりあえず、状況を整理してみよう。神によれば時間はたっぷりあるらしいし。

 永劫ね。


 まず、俺は母さんに殺された。そして気が付くと天国らしき純白の空間にいて、神を名乗る不可視の輩から流刑を言い渡された。

 ふむ……なるほど。

 これは、夢だな。

 刺されたときの痛みはマジモンだったから、たぶん殺されたところまでは本当だ。しかし、俺はまだ死んでいない。たぶん神も、今いるここも、全ては走馬燈めいた、人が死ぬ直前に見る夢幻の類いなのだろう。

 つまり、死ぬまでの猶予ゆうよだ。ここは脳内世界だ。

 今このときに生前を振り返って懺悔し、心安らかに死ねということだろう。

 人間の身体もなかなか高性能である。


 さて……そうなると、次々と過ぎ去っていく光の流れが過去の光景に見えてならない。目を凝らすと、人とか動物の姿なんかが見える気がするし。

 しかも、なんだ?

 俺の右手はマジックストーンを握ったままだ。

 まさか夢にまで出てくるとは。

 さすが元パワーストーンだ。


 しかし……うん、石だな。

 ただの白っぽい石ころだな……って、あれ?

 この石ってガラス玉みたいに透明じゃなかったっけか?

 ま、なんでもいいや。こいつがショボいクズ石であることに変わりはない。


 俺はこんなもので時空魔法を発動させようとしていたのか。

 それも本気で。

 ……認めたくないものだな。自分自身の、クズニート故の過ちというものを。

 幻想に縋るなど、惰弱な証じゃないか。

 まあ、甘ったれた幻想は母さんが殺してくれたから、もうすっかり目は覚めたけどな。所詮、この世には魔法も魔法少女も神もいないのだよ。


 俺は後悔しかない人生を生き、そして間もなく死ぬ。

 死は無だが、仏教では輪廻転生という考えもある。

 もし生まれ変わることができたら、次はもっと強く生きよう。

 たとえハエや豚に生まれ変わっても、懸命に生きよう。

 賢く、慎重に、堅実に、ときには大胆にね。


 きっと石ころを手放せば、この夢は終わるはずだ。

 時空魔法こそが、俺の未練の象徴なのだ。

 未練を手放し、断ち切れば、俺は無に帰すことになる。

 あるいはクズニートらしくハエか豚にでも転生する。

 

 ふぅ……まったくもって、クソったれな人生だった。


 俺は感慨深くそう思ってから、石ころを指先で掴み、振りかぶった。

 最後くらいはと格好を付けて、アンダースローの構えである。

 メタボな身体を限界まで引き絞って、力を込めた。

 そして溜めに溜めて……解き放った。というと微妙にエロいけど、全力で投げた。俺のクソな人生の全てを乗せる勢いで投擲した。


 だというのに、すっぽ抜けた。最後の最後でミスった。

 石ころが明後日の方向へ飛んでいく。

 人生最後の一投だ。

 夢とはいえ、如何にも俺らしいラストと言える。


 石ころは光の川へ吸い込まれるように、あっさりと消えていく……かと思いきや、消失点から爆発さながらに虹色の極光が生まれた。光はやはり俺の視界を埋め尽くすと同時に、意識までも刈り取っていく。


 これで、本当に終わりだ。

 グッバイ、マイライフ。

 三十年間、お疲れさん。


 そうして、俺は魔法使いになって間もなく、死亡した。

 

 

 

 

 

 

 

本作の表紙イラストとして、読者の方に頂きました。

挿絵(By みてみん)

企画:Shintek 様

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] クソ童貞ニートがトラックに轢かれずにママンに殺されちゃうのは現実的だし丁寧な流れで良き。
[良い点] 30にもなってバルスと叫んだり魔法云々を試しちゃうところがヒキニートするような人間ならいかにもやりそうなことでリアルだなぁと思いました
[良い点] 刺された描写が丁寧で、読んでる時お腹がムズムズした。
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