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幼女転生  作者: デブリ
七章・黄昏編
141/203

第九十四話 『彼女の事情』

 

 翌日から、俺たち四人は船上の人となった。

 イヴの買い物をした際に、二冊の本と大量のドライフルーツは仕入れてある。

 読書をして、ベル先生のネイテ語講座を受講して、魔法の練習も怠らず、美女と歓談でもすれば、退屈な船旅生活もかなりマシになるだろう。


「あの、お答えしたくなければ構わないのですけど……ローズさんは以前、奴隷だったのですよね?」


 出港して間もなく、俺は船尾甲板に移動し、そろそろ風魔法ブーストを始めようとした。その矢先、ユーハと一緒についてきたイヴがそんなことを訊ねてきた。


「そうですね、もう五年くらい前のことですし、期間も短かったですけど」

「魔女なのに、奴隷だったのですか?」

「まあ、そうなりますね。自分でも不思議だとは思いますけど」


 俺の言葉を信じてくれているのか、あるいは疑っているのか、イヴは小難しい顔で「そうですか」と頷いている。

 誰が聞いてもおかしな話だとは思うし、仕方がない反応だが……。

 魔女なのに奴隷だったって、もし俺が他人から聞いたら嘘としか思わんだろうな。


「にもかかわらず、そのお歳で特級の魔法を詠唱省略できるのですよね? それにどこの国にも属しておられないとか」

「私は自由にやっていきたいので。魔女であることも普段は秘密にしてますし」


 適当に答えながら中級の風魔法〈颶風流リート・ドィウ〉を行使した。

 船員たちが突然の風に何やら声を掛け合い、大きく張り詰めた帆の調整に取り掛かり始める。


「この風は……もしかして、ローズさんが?」


 俺は「はい」と頷きつつ、甲板上に腰を下ろした。

 するとユーハが無言でドライフルーツの入った革袋を手渡してくれるので、俺も無言で受け取り、お礼代わりの微笑んだ。

 オッサンも口元を緩め、頷きを返してくれる。

 

「……本当に、凄いですね」


 風魔法の余波にセミロングの髪を小さく揺らし、イヴは感嘆の吐息と共に呟きを漏らした。そんな彼女にドライフルーツを手渡すと、律儀に礼を口にして食べてくれる。

 俺もゆっくりと噛み締めるように食べていくが……やはり旨い。癖になる。

 ドライフルーツはラヴィとルイクを思い出すな。


「この問いも、お答えしたくなければ構わないのですけど……もしかしてローズさんは《黎明の調べ》の方なのですか?」

「――ぶはっ!?」


 新たに口に放り込んだばかりのドライフルーツを思わず吹き出してしまった。

 隣に立つイヴの顔を見上げると、先ほどまでと変わらぬ表情で俺のことを見つめてきていた。穏やかな顔立ちの中に凛々しさを秘めた、なんとも魅力的な美貌を俺は数秒だけ見つめ返した後、小さく頷く。


「そうです……よく分かりましたね。というか、よく知ってましたね、《黎明の調べ》のこと」

「ネイテ大陸を旅していた頃、魔女の方にお世話になったことがありまして。その方から《黎明の調べ》のことを少々教えて頂きました。ローズさんがどこの国にも属しておられないと聞いて、もしやとは思っていたのですが……やはりそうだったのですね」


 美女は何やら思案げに頷いている。

 本当は適当に誤魔化そうか迷ったが、イヴにはあまり嘘は吐きたくなかった。

 彼女とはこの船旅だけの付き合いとはいえ、裸で一夜を共にした仲だし、この美女は真面目な人だ。お願いすれば黙っててくれるだろう。


「あの、できればこのことも他言しないでもらえますか?」

「はい、承知しています。私も女ですし、これで魔女の方には二度も助けて頂きました。ローズさんのことは他言しないとお約束します」


 イヴが《黎明の調べ》のことを知っているということは、俺が元奴隷だった話は信じてくれている可能性が高い。たぶん彼女は奴隷の身にあった俺を《黎明の調べ》が助け出したとか、そう考えてくれていることだろう。


「ところで、決してその代わりというわけではないのですが、少しローズさんにお願いしたいことがありまして……」

「ん、なんですか?」


 緑翼の美女は俺の側に片膝を突いて屈み込み、物理的にも物腰を低くしてきた。

 機能性重視の服装といい、帯剣姿といい、こうして見るとまるで俺に仕える専属騎士みたいだ。

 そう……思えば俺は、イヴのような穏やかさの中に凛々しさを秘め、スタイルも性格も良い、そんな翼人美女を専属騎士にしたかったんだ。


「《黎明の調べ》が知る、魔大陸における《黄昏の調べ》の情報を頂きたいのです」

「え……それはまた、どうしてですか?」

「私の探している人は《黄昏の調べ》に属している男を探しています。なので《黄昏の調べ》のことを調べてゆけば、自ずと彼の情報も手に入るものかと思いまして。実際、これまではそういう方策を幾度も執ってきました」


 この美女、命知らずすぎるだろ……。

 あのエネアスとかいう金髪イケメンのクソ野郎みたいな物騒な連中相手にこれまで一人で探りを入れてきたとか、勇者すぐる。

 いや、でもそうか。だからイヴは以前にも《黎明の調べ》の魔女さんに助けられたのだろう。

 

「私が奴隷となった経緯はローズさんもご存じですよね?」

「たしか、南ポンデーロ大陸南部の港町タウレルで、町の有力者の館に侵入して暴行したとか何とかですよね」

「はい。その館の住人は《黄昏の調べ》の関係者でした」

「……なるほど」


 無意味に犯罪を起こすような人には見えないと思ったが、そういうことだったのか。

 いや待て、でも一つだけおかしな点がある。

 決して無視できない、非常に重要な点だ。


「あの、でも捕まったんですよね?」

「はい。捕まって奴隷に堕とされました」

「……えっと、その、乱暴なこととか、されなかったんですか?」


 思えば、魔女を狩るような非道な連中がこんな美女を捕まれば、一発どころか何発もお楽しみするだろう。

 だが、イヴは処女だという。

 まさかあの中年店員、嘘吐きやがったのか。

 処女詐欺だ。


「いえ、あの、殴られたり蹴られたりはしましたよ」

「そういうことではなく」


 俺の真剣な眼差しから彼女も俺の言いたいことを理解してくれたのか、「あっ」と声を漏らした。

 そして微妙に頬を赤らめ、話しづらそうに答えてくれた。


「えっと、ですね……どうにも館の者たちは、その……女性に興味のない連中だったと申しますか……」

「つまり男色だったと」 

「そ、そうですね、そうなります。ですから私も助かりました、本当に」


 イヴは俺の発言にやや驚いていたようだが、すぐに肯定した。

 当時のことでも思い出しているのか、なんだか遠い目をして深く安堵の吐息を零している。

 

 しかし……そうか、野郎共はホモだったのか。

 でも可能性としては大いに考えられたな。

 《黄昏の調べ》には男尊女卑的な思想もあるようだし、女性そのものに嫌悪感を抱いている奴とかはいそうだ。

 何はともあれ、俺としても安心したよ。

 今の俺は女の身だから生々しく想像できてしまうが、もし俺自身が野郎共に強姦されたら一生立ち直れないかもしれない。

 イヴが酷いことをされていなくて、本当に良かった。


 そういえば俺、こんなことを本人に真正面から訊ねるとか、デリカシーもクソもなかったな。今は側にユーハもいるし。

 まったく、これだから元クズニートは……。

 仮にも女の身なんだし、今度から気を付けよう。


「すみませんイヴ、変なこと聞いてしまって。少し心配だったんです」

「いえ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。それで、先ほどの件なのですが……」

「あぁ、はい、《黎明の調べ》から連中の情報が欲しいって話でしたね」


 イヴがあまり気にしていないことを確認し、一息吐いてから、俺は脱線しかけていた話を元に戻した。


 さて、どうしようか。

 《黎明の調べ》のことは俺一人では決められないし、イヴが欲しているのは魔大陸東部の情報だ。魔大陸東部の常識系のことはともかく、生憎と俺は《黎明の調べ》ザオク大陸東支部のことや《黄昏の調べ》の動きについてはほとんど何も知らない。構成員の一人がウルリーカであることと、ラヴルの町を拠点にしていることくらいか。


「私は下っ端ですから、すみませんけど私の一存では決められません。それに実を言うと、私は以前まで魔大陸西部の支部で暮らしていたので、東部のことはあまり詳しくないんです」

「あ、そうだったのですか……しかし、それではなぜ東部に? ご自宅へ戻るとのお話でしたが」

「あー、なんといいますか、《黎明の調べ》という組織そのものが私の家ですから。今回は色々あって、魔大陸東部の方の支部にお邪魔する必要がありまして……」


 さすがに転移盤のことは話せないから、誤魔化しておいた。

 イヴは納得してくれたのか、追及はしてこない。

 

「イヴを直接みんなに会わせる訳にはいきませんけど、私の方から話を通すことはできます。それでよろしければ、協力しますよ」

「では、どうかお願いします」


 美女からお願いされたので、俺は快く引き受けた。

 これでまたイヴの好感度が上がった。

 この船では女性部屋と男性部屋に分かれて雑魚寝するので無理だが、魔大陸の港町ボアに着いたら、また全裸添い寝をしてもらおう。

 なんかアレ、心地良すぎて癖になるんだよね。

 

 正直、イヴが嘘を吐いている可能性は否めない。

 実は《黄昏の調べ》の構成員で、《黎明の調べ》の情報を収集するために俺を騙しているのだ。が、四年前にリリオで出会ったことやこれまでのことを考えれば、それはまずあり得ないだろう。

 ……クソ、キモオタ風デブタヌキ獣人のせいで美女のことまで疑ってしまう。


「ローズさんは、とてもお優しい方ですね」

「うむ……ローズは素晴らしい魔女である」


 イヴの言葉に、なぜかオッサンが誇らしげに同意している。

 褒めてくれるのは嬉しいが、調子に乗りそうだからほどほどにしてね。


 それから俺はイヴと雑談しながら、風魔法を行使して魔大陸へと船を進めていった。




 ♀   ♀   ♀




 出港して十四日目。

 日に何度か魔物共に遭遇しては魚人や翼人、船上の魔法士が攻撃して撃退している。ここ数日は襲撃頻度と戦闘時間が長くなっていて、着々と魔大陸に近づいていることが分かる。

 しかし、ちゃんとした船をセレクトしていたおかげか、護衛共は誰一人欠けることなく、船も盤石そのものだ。日中は魔法的な順風に見舞われているので航海は順調そのものであり、今のところ心配する要素は皆無だった。


「海は広いですねぇ」

「そうですね」


 律儀に相槌を打ってくれるイヴの声を聞きながら、俺は空中散歩と洒落込んでいた。翼人美女に抱えてもらい、船の上空あたりをゆったりと飛行してもらっているのだ。一日に一度は飛んでもらっている。


 周囲は見渡す限りの海原で、空はどこまでも広がっている。

 清々しいまでに雄大で茫洋とした景色だが、同時に孤独感を掻き立てられるものでもある。この広い青の中に船だけがポツンと浮かび、俺たちはうら寂しく飛んでいるのだ。


「イヴはずっと一人で旅してきたんですよね?」

「そうですね」


 俺を抱えて飛びながら、先ほどと同じ言葉でもって答えてくれた。

 声音は特に寂寞とした感じもなく、いつも通りだ。


「寂しくなかったんですか? 旅していたなら、色々あって心細くはならなかったんですか?」

「たまに、そうした気持ちになることはありました」

「それじゃあ、諦めようとは思わなかったんですか?」

「何度も思いました。それでも、諦めきれませんでした」


 イヴは十四歳の頃に実家を出たそうで、もう五年も旅をしていることになる。

 その年頃から一人旅をし続けてきたとか、並の少女には為し得ぬことだ。

 確固たる意志と行動力が必要だろう。

 そういう意味では、メルもあれで実はなかなか凄いんだよな。


「どうして、そこまでできるんですか? そのジークって人は、イヴにとってそこまでするほど大切な人なんですか?」

「大切でもありますし、私自身のためでもあるのです」

「と、言いますと?」


 眼下の船を追い越したイヴは緩く旋回し、高度を上げ下げすることでつかず離れずの距離を保っている。

 俺もイヴも、この大海原で戻るべき船を見失ってしまったら、途方に暮れてしまうことだろう。


「私は……彼と私自身に、誓ったのです。何があろうと、一生貴方の側にいて、手足となり耳目となり盾となると」

「…………」

「その誓いは私の中である種の神聖なものとなりました。そうすることが私であり、私はそのために生きるのだと、周囲の人々からも物心付く前から言われてきました」

 

 イヴの声には懐旧の念と誇らしさ、そして少々の苦味が混じっていた。

 なんだか口を挟みづらくて、俺は相槌も打てずに沈黙を保ち、しかし内心ではそのジーク某を妬んでいた。


 一生貴方の側にいるだぁ?

 ふっざけんじゃねえぞ、テメ俺と代われやコラ!

 男なら美女から一度は言われてみたい台詞だぞっ!

 もしイヴが恋愛的な感情はないと否定していなかったら、今まさに彼女の柔らかさを堪能している俺は酷く虚しい気持ちになっていただろう。


「ローズさんからすれば、少しおかしな誓いに思えるでしょう。普通、男女間でそのような誓いは婚姻くらいのものですからね」

「……そう、ですね」

「ある意味では婚姻の誓いのようだと私自身思いますが、どちらかと言えば騎士の誓約の方が近いでしょう。もちろん、私は騎士でも妻でもありませんし、それらに例えること自体、分不相応なのですが」


 そう語るイヴからはストイックな印象を受けた。

 真面目すぎて真っ直ぐすぎることが伝わってくる。


「ですが、その誓いは私が私であるために、あり続けるために、必要なものでした。ですから……私はその誓いを、果たさなければならないのです」


 それが唯一の道だと言わんばかりに、イヴの声はどこか切羽詰まっていた。

 俺はそんな人が眩しすぎて、なんとも後ろめたい気持ちがわき上がってくる。


 俺はイヴのように、レオナを想えていない。

 絶対に助けるとか口走っておいて、そもそもレオナが泣いた日の夜に強く決意だってしたのに、俺は初志を貫徹するために動けていない。

 いや、今後は動くつもりだけど、俺はイヴほど強くはなかった。

 もしアインさんに接触されず、何も言われていなければ、今頃は完全に過去を思い出として精算し、ずっとリーゼたちと一緒に楽しくやっていこうと思っていたかもしれない。

 

 俺は精神的にイヴの倍ほどの時間を生きている。

 自分より年下の姉ちゃんが強く逞しく美しく生きている姿は胸にくる。

 否応なく、俺もしっかりしなければと思えてくる。


「イヴは凄いですね。立派です」

「ありがとうございます。ですが、私などよりローズさんの方が立派だと思いますよ」


 応じた声からは謙遜の色が窺えず、本心から出た言葉であることが分かる。

 だからこそ、少し居心地が悪かった。

 俺はそんな凄い人間じゃないし、前世で無駄に培ったクズニート精神がまだ抜けきってもいない。


 いつか俺もイヴのように強い意志力をもって一人旅ができるくらい、立派な人間になりたいな。


 彼女に抱えて飛んでもらいながら、そんなことを思ったのだった。




 ♀   ♀   ♀




 南ポンデーロ大陸南西部の港町チュアリーを出発して、二十八日目。

 俺たちを乗せた船は無事に目的地に到着した。


「ようやく着いたわねぇ。といっても、やっぱり本来より相当早く着いたみたいだけれど」


 下船して、桟橋の上で大きく伸びをしながらベルが言った。

 今回もまた俺の風魔法ブーストにより、予定より幾分もお早いお着きとなっている。

 

「ふむ……どことなくクロクスに似ておるな」


 港から見える町の景観はたしかにクロクスを彷彿とさせるものだ。

 ザオク大陸東部の玄関口である港町ボア。

 この町――もとい魔大陸東部全域は北ポンデーロ大陸の影響を強く受けており、公用語もチュアリーと同じく北ポンデーロ語らしい。

 到着する直前まで俺はイヴに抱えてもらってボアの町並みを一望していたが、やはりこの町もクロクスのように建築様式が様々で、全体的にごちゃっとしていた。そのくせクロクス以上に巨大な町で、もはや大都市で表しても差し支えないだろう。

 

「とりあえず、早く宿を見つけましょう。もういい時間ですし、今日のところは美味しいご飯を食べてのんびりしましょう」


 既に太陽の位置は低く、あと小一時間もすれば没して夜の帳が下りる。

 日のあるうちに宿を見つけて、まずは船旅生活の疲れを癒したかった。


 俺たちは四人一緒に歩き出して、猥雑な町中へと入り込んでいく。

 こうして多くの人を見掛け、通りを歩くのも三節ぶりなので、なんだか新鮮だ。翠風期第一節の気候としてはディーカより気温は低めで、チュアリーにいた頃より少し肌寒い。

 

「ザオク大陸では東部が最も開拓の進んだ地域だと聞いています。ですが、この町の大きさや船と人の多さは少し意外でした。北西部のクロクスという町もこのような感じなのでしょうか?」

「そうですね……だいたいはこんな感じですけど、こっちの方が少し活気がありますね。町も大きいですし、人も船も多くて、猟兵以外の人も多く見掛けます」


 というか、猟兵をあまり見掛けない。

 いや、もちろん獣王国の町よりは多いが、クロクスよりは少ないように思う。

 これだけ大きな町なら、もう何世代も前から定住して、普通に暮らしている人々も多いのだろう。

 

 しばらく町を観察しながら歩いて行き、適当な宿にチェックインした。宿は幾つも見掛けたが、きちんとグレードは見極めて、中ランクの宿を選んでおいた。

 その後、またすぐに町へ繰り出して、晩飯にありつく。

 食事の席では町の所感や航海中のこと、そして今後のことを話し合った。

 が、既に航海中に今後の予定は決めていたので、確認だけとなったが。


「申し訳ありません、私のためにお時間をとらせることになってしまって」

「その台詞は船でも聞きましたよ。大丈夫です。私たちとしても助かることですし」


 この町ボアではイヴのために情報収集をすることになった。

 いくら《黎明の調べ》の力を借りる予定とはいえ、あくまでも予定だ。

 イヴはしっかりと自分でも探し人の行方を調べておきたいのだろう。

 そのせいで俺たちは足止めを喰らうが、イヴは翼人だ。

 俺たちは目的の町ラヴルまで翼人タクシーを利用するので、イヴが俺を運んでくれれば一人分の経費が節約でき、快適な空の旅を送れる。無事に魔大陸入りした今となれば、数日程度の遅れは問題ではないし、急がず焦らずいけばいいだろう。


 俺たちは久々に腹一杯に夕食を摂り、デザートとしてクレープを食べた。

 この世界の食文化や服飾文化はかなり発達しているのだ。

 なんだかんだで人類の歴史は三千年ほど前に一度最高潮を向かえたというし、その頃の歴史だってある程度は残っている。そう考えれば何らおかしくはないが、教育水準や科学的な技術に関しては押し並べて低い。学校だってあまりないらしいし、識字率も決して高いとは言い難い。


 ある面では進んでいて、ある面では遅れている。

 どうにもチグハグな感じは否めないが、この世界には魔法という超物理法則の存在がある。それに獣人や翼人などの他種族や魔物だっているんだから、前世の常識は当てはまらないし、前世と比べること自体がナンセンスであるとは思う。

 しかし、やはり拭いきれない違和感を覚える。

 この世界の人々は何の疑問もなく普通に生きているようだし、俺が前世という別世界を知っているからこその違和感かもしれないが……。

 それでも、何か妙なおかしさを感じるんだよな。

 例えるなら、都市経営シミュレーションゲームで中級者の作った街を見た際に抱く感想に似ている。幾つか整合性を欠いたロジックで作られた街なのに、全体的には上手く機能しているものだから、どうにも突っ込みにくい。この世界の文化文明を知れば知るほど、そんなどこかもどかしい思いが湧き上がってくる。

 ……いや、まあいいか。

 今更な話だしな。

 俺にとってはクリームとフルーツがたっぷりの美味しいクレープがある現実こそ全てだ。


 ユーハはクリームの甘さが苦手らしいので食べなかったが、俺とイヴはお代わりもした。イヴは相変わらず幸せそうだったね。

 そんな美女の様子とクレープの美味しさで、俺も幸せだったよ。

 

 夕食を済ませた後は宿に直帰した。

 明日はジーク某の行方調査のため、この町の宿や酒場、翼人タクシー会社を回って聞き込みをする予定だ。早々に休んで、明日からの活動に備えた方がいい。


「あの、ローズさん、せめて下着を……」

「ダメです」


 俺は恩人という立場を利用して、約三節ぶりの全裸添い寝を強要した。

 強要といっても、そこまで強引に迫ったりはしていない。

 せいぜい涙目と涙声でお願いした程度だ。


「あぁ……イヴは気持ち良いですね……」

「ローズさんは、なんと言いますか、不思議な方ですね」


 苦笑しつつも俺を受け入れてくれるイヴはやはり良い人だ。

 そんな美女の胸元に顔を埋め、俺も生まれたままの姿で美しい柔肌の感触を堪能していった。

 こうやって甘えるのは幼女のうちしかできないからな。

 もう何事にも後悔はしたくないので、今のうちにたっぷりと幼女の特権を行使しておいた方がいい。


 そうして、俺は全裸美女と一緒に全裸で眠りに就いた……。


 と思ったら、アインさんが現れた。

 

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