第七十話 『ただし幼女、テメーはダメだ』
そろそろ日が暮れるという頃。
俺たちは木々を伐採して作った警戒エリアの中心で、切り株に腰掛けている。
ただ、俺はユーハの膝の上に座り、銀仮面の女は悠然とその場に立ったまま動かない。
「まず訊くが、テメェなんでこんなとこにいやがる」
「貴卿がここにいる理由を話せば、私も話そう」
どっかりと座る姐御に下から睨みをきかされても、仮面女は口調を乱すことなく応じた。
オルガは数秒ほど逡巡するように目を伏せた後、説明し始めた。
ユーハへの経過報告も兼ねているのか、抗魔病のことやNG作戦で知り得たことなども簡単に話した。
「……話は理解した。聖務より私用を優先するか。貴卿、聖天の位を剥奪されるぞ」
「うっせ、覚悟の上だっての。で、テメェの方はどうなんだよ十三位」
「貴卿と同様、私用だ」
仮面女はどこまでもフラットな声で短く答える。
というか……あれ?
なんかこの声、どっかで聞いた覚えがあるような……いや、気のせいか?
「その私用とやらの内容は?」
「答えられない」
「おいこら……オレにだけ言わせといて、自分はそれか? さっきオレが話せばテメェも話すっつっただろうが」
「私は詳細な説明までは求めていなかった。貴卿も、ただ私用とだけ答えていれば、私はそれで構わなかったのだ」
「ッ、の野郎……」
オルガは小さく舌打ちし、双眸を細めて非友好的な眼差しで仮面を突き刺す。
だが銀仮面は身じろぎ一つせず突っ立っており、オルガは呆れ半分に溜息を吐いた。
「もういい……それで納得しといてやる。代わりにテメェの名前を教えろ」
「え……あの、オルガさん、名前知らないんですか?」
俺は思わず口を挟んでしまった。
同じ聖天騎士なら、相手の名前くらい知っているはずだ。
「こいつの名前は公表されてねえんだよ、オレ等にもな。ただ聖天十三騎士の一人で第十三位、《虚空の銀閃》って異称があるだけだ」
十三人いる聖天騎士は一位から十三位の位階と固有の異称が与えられている。
オルガは第五位で異称は《蛇焰剣》だが、何位であるかに実力は関係していないらしい。ただ、第一位の《全天騎》だけは特別で、聖天騎士団の団長となるため、最も精強かつ有能な者でなければならないそうだ。
つまり婆さんは聖天騎士団で最強の存在だったのだろう。
「それに顔を隠してることといい、急に叙任されたことといい……事情はだいたい察せるが、名前くらい教えとけ。呼びにくいだろうが」
「私のことは好きに呼んでくれて構わない」
「あぁそうかい、じゃあ糞虫でも良いんだな?」
「貴卿がそれで良いのなら、私は構わない」
「…………クソ、この仮面野郎」
盛大に顔をしかめて毒づく姐御。
それから腕と脚を組んで仮面女を見上げた。
「で、どういう経緯でユーハを助けたんだ? ベルの話じゃ、海に流されたらしいが」
「偶然見つけたため、拾ったまでだ」
「偶然だぁ?」
仮面女の声にはある種の盤石さがあり、小揺るぎもしないので、嘘か本当かは判別できない。アインさんもなかなかに無愛想だったが、こいつはそれ以上だ。
「あの大海原で、偶然、オッサンを見つけたと、テメェ本気で言ってんのか?」
「そうだ」
「近くに船の残骸とこっちのオッサンがいたのに、そっちには気付かなかったと?」
「そうだ」
「……そうかよ」
半信半疑どころか、完全に疑っている様子ながらも、オルガは追及せずに頷いた。そして、先ほどよりも表情を引き締めて、真剣味のある声を放った。
「もうユーハから聞いたと思うが、オレ等の乗ってきた船が沈んだ。念のために訊いておくが、テメェこの島までどうやって来た?」
「貴卿の想像通りだろう」
「つまり、船はないと?」
仮面女は微かに顎を引くことで肯定の意を返す。
「あの、それじゃあどうやってこの島まで来たんですか?」
「…………」
「えーっと、あの、十三位さん……?」
「…………」
「あっ、そういえば挨拶がまだでしたね。私はローズといいます、よろしくお願いします」
「…………」
俺の呼び掛けに、しかし仮面女は視線すら向けず、完全に無反応を貫いている。
……あっれぇ?
もしかしなくてもボクちゃん、無視されてるのかな?
まだ八歳という母性本能をくすぐる幼女然とした外見をしているはずなのに、おっかしいなぁ。
「おい、テメェなにローズを無視してんだ」
「子供と言葉を交わす必要性を感じていないだけだ」
「やっぱテメェ気に食わねえな……まあ良い、それより今はこれからの話だ」
まあ良いって、それよりって、何言ってんですか姐御!
こんなに可愛いらしい幼女を一顧だにしない冷血銀仮面をもっと責めてやってくだせぇよっ!
「単刀直入に言う、聖天騎士《虚空の銀閃》」
しかしオルガも俺のことなど見向きもせず、そっと一息吐きながら姿勢を正すと、冷血仮面女を真っ直ぐに見据えた。
その様は三日前に竜人たちと相対したときのように、女猟兵らしい見た目にそぐわず粛然としている。
「こちらに手を貸してもらいたい」
「……内容次第だ」
「頼みたいことは二つある。オレは真竜を狩りに行くから、こいつら三人を先に魔大陸まで送り届けて欲しい」
仮面女は黙したまま、二つの穴から覗く蒼い瞳でオルガの視線を受け止めている。
「もう一つはオレの帰りのことだ。知っての通り、今のオレ等には船がない。そこでアンタの魔法を頼りたい」
「私には守秘義務がある。余人に私の魔法を知られることは禁じられている」
「それを承知で頼んでいる」
片や女猟兵姿、片や全身マントに銀仮面姿。
どちらも聖天騎士には到底見えないが、雰囲気だけならば一種の厳かさが感じられる。
「……貴卿だけならば構わないが、そこの子供は元より、男性二人も送り届けることはできない」
「なぜだ? 守秘義務というのなら、アンタの魔法はそこのオッサンを助けたとき、もう知られているはずだ。そうだろう、オッサン」
話を振られたユーハは俺を膝の上に乗せたまま、「……うむ」とどこか曖昧な声を返した。
「某、水竜との戦いで最後は海面下に沈んでしまったのだが……海面に顔を出した直後、仮面殿がどこからともなく忽然と現れ、海面に立って某の腕を掴んできたのだ。その次の瞬間には……某は仮面殿と浜辺にいた」
「ユーハさん、それってつまり、どういうことですか……?」
「転移したってことだ、そうだろ十三位?」
仮面女はオルガの問いに肯定も否定もせず、碧眼を目蓋で隠し、ただ黙している。
というか、転移って……マジか?
転移盤という《聖魔遺物》が存在することから、転移魔法があっても不思議ではない。しかし婆さんでさえ、転移が可能な魔法は知らないようだった。
「オッサンに知られた時点で、守秘もクソもねえだろう。それとも、全員を転移させることはできねえか?」
オルガは挑発的な口調で煽るものの、仮面女はどこまでも素っ気なかった。
「《蛇焰剣》、貴卿だけならばザオク大陸まで送り届けても構わない。だが、他の者は無理だ」
「それは能力的に不可能だと言ってるのか? そうじゃねえよな、だったら何度か往復して一人一人転移させれば済む話だ。なぜ無理なんだ?」
「貴卿が私にそれを問い質す権利はない」
銀の仮面の向こうから発せられる声に感情の色はなく、ただ事実だけを淡々と述べている様子だった。
そんな相手をオルガはしばらく無言で見つめた後、「つまり……」と口を開いた。
「こいつら三人は無理で、オレだけなら魔大陸まで転移させてやるってことか?」
「加えて、貴卿は私に一つ貸しを作ることになる」
「分かってる、問題はそこじゃねえ。オレの代わりにローズかユーハを転移させることは可能か?」
「貴卿だけでなければ送り届けない」
「なぜだ……と訊いても無駄か」
仮面女は無言の肯定を返す……と思われたが、相変わらずな様子ながらも答えた。
「本来ならば、私に貴卿の頼みを聞く義理はない。しかし貴卿には行うべき聖務があり、聖伐に肝心の聖天騎士が不参加となれば、聖天騎士団引いてはイクライプス教国が不利益を被ることになる。故に、貴卿だけならば特別に送り届けても良い」
「ハッ、なるほど、意外と真面目じゃねえか」
オルガはシニカルな笑みを浮かべつつも納得しているようだった。
俺も納得した……というより気が付いた。
もし白竜島から魔大陸まで一瞬で転移できるのなら、オルガは聖伐に間に合うかもしれないのだ。無論、真竜狩りに手間取ればその限りではないが、可能性は非常に高い。
ディーカを出発したのが、翠風期第一節三日だった。
そして九日にクロクスを出航し、第四節一日にここ白竜島に上陸して、今日は五日だ。聖伐の開始時期は第七節から八節頃を予定しているらしく、これはフリザンテまでの移動に掛かる時間や現地での打ち合わせ等を考慮しているため、曖昧となっている。
仮に真竜狩りに三節掛かったとしても、転移できれば聖伐に間に合うだろう。
「だが、オレ一人だけってんなら、断らせてもらうぜ」
「えっ、なんでですかオルガさん!?」
「なんでもクソもあるか、お前等を置いていける訳ねえだろ。オレはお前を無事に帰すってクレアに約束してんだよ」
オルガは当然のことだと言わんばかりだが、それは違うだろう。
「でも私たちには船がないですし、オルガさんが向こうに戻れば、迎えの船を手配することもできますよね? それでオルガさんは聖伐へ向かえば、全て丸く収まるじゃないですか」
「仮にそうしたとしても、船が来るまではお前らだけになるだろが。三節近くもこの島で過すことになるんだぞ、危険すぎだ」
「ローズとヒルベルタ殿は某が守る」
ユーハは後ろから俺の肩を掴み、勇ましく宣言した。
「オッサンの腕前は……まあ信用できるが、地竜はともかく火竜が相手だとまともに戦えねえだろ。それに万が一、真竜が襲ってきた場合なんかは対処しきれるとは到底思えねえ」
「そこは私が魔法で何とかします」
「なんとかできるとは思えねえから言ってんだ」
「それじゃあ、こういうのはどうかしら? そちらの仮面ちゃんに迎えの船を手配してもらうのよ」
俺たち四人は仮面女に視線を集中させるも、やはり身じろぎ一つせず、仮面女は答えた。
「それはできかねる」
「……だいたい理由は想像できるが、一応訊いておく。なぜだ?」
「貴卿を聖伐に間に合わせられない場合、私は貴卿と出会わなかったことにする必要がある。でなければ後々、貴卿を即時連れ戻さなかった私の責を問われることになる。故に、私が貴卿のために船を手配することはできない」
こ、こいつ……窮状にある俺たちのことより自己保身を考えてやがる……。
やっぱ冷血仮面だ、この女。
仮にも騎士を名乗るなら人助けくらいしても良いだろうに。
「おい十三位、少しはお仲間を助けてやろうとは思わねえのか?」
「思っているからこそ、貴卿だけならばザオク大陸まで送り届けても良いと言っている」
「テメェこの仮面野郎……」
オルガが憎々しげに睨み上げるも、仮面女は平然としている。
「オルガ殿、やはりここはそなただけでも送ってもらう他あるまい。アルセリア殿にもいち早く真竜の肝を食べさせてやることができ、聖伐にも間に合う」
「そうですよ、私たちなら大丈夫です。それにほら、あの地下に転移盤がありましたよね? アレを使ってみて、避難できそうなら避難するのも手です」
「バカ言え、どこに飛ばされるか分かんねえんだぞ。空転移で安全確認したところで、転移先が絶対安全って保証はねえんだ」
それはそうだが、こうなってしまった以上、試してみる価値は十分ある。
もし転移先がどこかの大陸だったら、町や村を探して、そこから自力でディーカまで帰ることもできるかもしれない。
うん、そうだよ、この手があったじゃないか。
「でも、まずはあの転移盤を試してみませんか? そうすれば、全員で帰れるかもしれません。ユーハさんたちが来る前はオルガさんも言ってたじゃないですか」
「だが、状況は変わった。行き先不明の不確かな転移より船の方がまだ安全だ」
姐御は仮面女に視線を戻し、切り株から腰を上げた。
そうして仮面女と正面から向かい合うと、なんと姐御はおもむろに頭を下げた。
「頼む、責任は全てオレが取るから、この島まで船を寄越すよう手配してくれ」
「先ほども言った通り、それはできかねる」
オルガの後頭部を見下ろしながら、血も涙もない仮面女は無感情にそう答えた。
「アンタの責任にはしない。そしてアンタはオレにデカい貸しができる。悪いことはないはずだ」
「幾ら頼まれようと、貴卿以外を送り届けることはできない」
「…………そうかよ」
力なくそう呟き、オルガは顔を俯けたまま再び切り株に腰掛けた。
それから妙な沈黙が漂い始めるが、今度はベルが立ち上がって、仮面女に詰め寄った。
「ちょっとアナタ、さすがに冷たすぎるんじゃなくって? 聖天騎士様だっていうなら、アタシたち無辜の民のお願いくらい聞いてくれたっていいじゃないのっ」
「…………」
「な、なによ、そんな睨まなくったっていいじゃない……こんなに可愛らしい女の子が困ってるのよっ、一人の大人として力になってあげようとは思わないの!?」
「…………」
ベルは仮面女の威容に若干ビビりながらも、果敢に言葉を突きつけていく。
だが当の冷血女はベルに氷のような瞳を向けるだけで、一切の返事をしない。
「仮面殿、貴殿は見ず知らずの某を助けてくれたにもかかわらず、同輩のオルガ殿の力にはなれぬと申すのか?」
「…………」
仮面女はユーハに視線だけは向けるも、やはり沈黙を保っている。
おそらくだが、この仮面女は何を言われても自らの主張は曲げないだろう。
だったら相手の気が変わらないうちに、約束を取り付けておいた方が良い。
「オルガさん、私たちは大丈夫です。私とユーハさんがいれば、三節くらいは生き延びられますよ。ですから真竜を狩った後はこの人に魔大陸まで連れて行ってもらってください。そしてアルセリアさんに真竜の肝を届けて、船を手配して、オルガさんは聖伐に行ってください。この状況ではそれが最善ですよっ」
オルガは片手で顔半分を覆い、黙考している。
しばらくすると、俺、ユーハ、ベルの顔を見回した後、仮面女に目を向けた。
「アンタに頼らず、オレが自力で魔大陸まで帰り着いたら、どうするつもりだ? オレはテメェが協力してくれなかったせいで聖伐に間に合わなかったと、上にそう報告するぜ?」
さすが姐御っ、この期に及んで仮面女を脅迫している!
でも、それは冗談抜きで止めておいた方が良いと思うんですけど……。
「好きにすれば良い。大事な聖務を放り出した不忠者の言葉だ、信憑性は薄い。ただ、それをすれば貴卿は私と敵対することを意味しているのだと、理解しているのか」
「それを言うなら、テメェは今、オレに敵対的な行動をとってるんだがな」
「私は善意で、貴卿に手を貸しても良いと言っているだけだ。助けがいらないようであれば、私は貴卿の前から姿を消すが」
「…………」
オルガと違い、仮面女の声には如何なる感情も表れていないが、二人の間に流れる空気は確かに張り詰めていた。
二人の聖天騎士様は無言で互いの瞳を凝視し合う。
が、ややもせぬうちに、オルガが深く溜息を吐いたことで空気が緩和した。
「……悪かった、すまない。十三位、オレだけでいいから、送り届けて欲しい。ただ、こいつら三人は転移してくれなくてもいいから、オレが真竜狩りに行っている間、護衛して欲しい」
「構わないが、護衛の件については条件がある」
「なんだ」
「私は子供が嫌いだ。故にそこの子供がいる限り、護衛は引き受けられない」
さっきも無視されたし、子供嫌いと聞いて納得だ。
しかし俺のようなプリティロリータが嫌いとか、よほど性根がひん曲がっているとみえる。少しはベルを見習えや。
「どうしてもか?」
「勘違いしてもらっては困る、《蛇焰剣》。もはやこの島における私用は済んだ故、私は今すぐにでも帰還したいと考えている」
「…………」
「にもかかわらず、竜種の存在する厄介な島に護衛としてこれ以上滞在し、あまつさえ私の嫌悪する者のために汗を流せと?」
冷たく無感情なその言い様に交渉の余地は絶無だった。
オルガは真顔で奴の瞳をしばし見つめるが、相手は微動だにせず泰然と佇立している。
「分かった……すまない。ならオッサンたちだけでも護衛してくれ」
「良いだろう。私は貴卿を送り届け、そこの二人を護衛する。無論、これは貴卿への貸しとしてつけておくことになるが、よろしいか」
「あぁ……構わねえよ」
やや疲れた声でオルガは首肯した。
この状況では姐御が妥協するしかないことは分かっていたが、実際にされると意外感は隠せない。
「悪いな、ローズ、ユーハ、ベル」
「いいえ、正しい判断です」
「うむ、何も謝ることなどない。ローズの身は某が命を懸けて守り抜く故」
「そうよっ、アタシだってこれでも三級の猟兵なのよ! 三人で力を合わせれば、三節くらいなんてことないわっ!」
オルガは実に複雑な面持ちで、口元に微かな笑みを覗かせた。
「まあ、でも安心しろ。真竜を狩るついでに、あの山地に棲む竜共は可能な限り間引いておくからよ」
何でもないことのように、物騒なことを宣う姐御。
しかしそこで仮面女が口を挟んだ。
「それは止めてもらいたい、《蛇焰剣》」
「なんでだ。まさか竜に情けを掛けてるわけじゃねえよな?」
「貴卿が多数の竜を葬れば、待機している我々の方にも多数の竜が襲いかかって来かねない」
「……どういうことだ?」
オルガの問いに対し、仮面女は淡々と説明した。
竜たちは今この瞬間も相識感によって俺たちを知覚しており、いつ襲いかかられても不思議ではないらしい。仮に、今ここでオルガが天竜連峰へと飛び立って行き、竜を殺戮した場合、竜たちはオルガに復讐するだろう。しかし、オルガだけでなく、オルガと一緒にいた俺たちの方にも報復しに来るという。
「貴卿の乗ってきた船が水竜に襲われたのが良い例だ。護衛はするが、こちらに大量の竜を寄越されても面倒だ」
「…………ちょい待て、じゃあ何か? もしかしてベルの船が水竜に襲われたのはオレ等のせいなのか? だが、あそこは相識感の範囲外じゃねえのか?」
「竜の知能を甘く見ない方が良い。貴卿が飛行してきた方角に狙いをつけ、外海に貴卿という敵の仲間がいないか探していたのだろう」
え……じゃあ若葉号が襲われたのは偶然ではなく必然だったのか?
俺と姐御はこの島に来てから竜をぶっ殺しまくった。
結果、竜たちは俺とオルガだけでなく、仲間の存在をも警戒して縄張り外を探索し、相識感でオッサンたちを知覚して襲いかかったと……?
恐る恐るベルの様子を窺ってみると、もの悲しそうに目を伏せていた。
だが俺の視線に気が付くと、薄く笑みを浮かべて見せる。
「大丈夫、分かっているわ。ローズちゃんたちは悪くないわよ。カーウィ諸島まで送り届けるって決めたとき、覚悟はしてたことだもの。それは……あの子たちだって同じよ」
一言くらい俺やオルガを責めたって良いのに、ベルは優しかった。
このオカマ超絶良い奴や……。
もう俺の中でベル株が絶賛高騰中ですよ。
「それと、念のためもう一度だけ言っておくが……護衛をするといっても、そこの子供は引き受けられない」
それに比べて、この仮面女は冷たすぎやしませんかね?
刃のように冴え冴えと光を反射する銀色の仮面は、ただ無機質で冷たい印象しか受けない。たぶん心の中もそうなのだろう。
姐御とは大違いだな。
「そう硬いことを言うな、ガキの一人くらい良いだろうが」
「私の提示した条件にそぐわぬ以上、この話はなか――」
「いや、悪かった、アンタが子供嫌いなのは良く分かった」
オルガは降参とでも言うように両手を軽く上げ、二、三度ほど頷いた。
それから思案げな顔になり、俺を見つめてくる。
「しっかし、それじゃあどうしろってんだ……」
「ローズは某が責任をもって守ってみせる」
「その場合、私はそこの剣士を守ることはできない」
仮面女はユーハの勇ましい宣言を邪魔するように口を挟む。
「アナタねぇ、女の子一人くらい良いじゃないっ」
「私は子供を視界に入れておくことすら許容できない。この場で同じ空気を吸っていると思うだけで吐き気がする。そこの子供がいる場合、私は貴卿の頼みを引き受けることはできない。そして貴卿の用事が済むまでこの島に留まる理由も無い故、今すぐにでもこの島を去ることになる」
こ、このアマ、いい加減にしとけよ……。
別に子供嫌いってだけなら、世間には色々な人がいるわけだし、個性として認めてやらんでもない。
だが、ここまでくると人間性疑うぞ。
オルガも俺と似たような心境なのか、仮面女へ蔑みの視線を送っている。
それでも抗議したり罵倒したりしないのは、俺たちが頼み込む側だからだ。
あくまでも俺たちは手を貸してもらう側で、仮面女が差し伸べた手を引っ込めたら、俺たちは再び窮地に陥る。
「ま、それについては追々考える。もう日が暮れてきたし、動くにしても明日からだ。今日はここで野営すんぞ」
いつの間にか空が赤らんでいた。
本来の予定なら、今日は船のベッドで休めるはずだったのに……今日もまた野宿だ。
仮面女以外の俺たちは姐御の言葉に頷き、とりあえず夕食探しを始めた。
♀ ♀ ♀
船が沈んでしまったので、食料が心許ない。
肉は襲い来る竜を狩ればどうにかなるが、野菜も食べないと身体が保たないだろう。というわけで、仮面女以外の面々で野草を摘み、拠点に戻ってきた。
「……肉、来ねえな」
魔物にも遭遇せず、竜も来てくれず、苦い野草を囓っていく。
それからしばらくして、ようやく火竜が現れた。
既に日は完全に没してはいるが、拠点である半径二十リーギスの円形広場のあちこちには火を灯してあるので明るい。
星空を背景に三頭の火竜が上空から襲ってきて、初っぱなから同時にファイアブレスを見舞ってきた。
ユーハとベルがいる現状、安易に逃げられない。
「おい十三位、一匹は頼むぜっ」
オルガは〈陽焰〉で火炎放射を蹴散らしながら竜本体を始末していた。俺は〈爆風〉で火炎を吹き散らした後、本体にとどめを刺そうとしたが……。
「ヒルベルタ殿!」
「ええ、任せてちょうだい!」
ユーハはベルの元へと駆け寄ると、身構えたベルの両手に足を乗せ、そのまま空中へと跳躍した。ベルの筋力が加わった大ジャンプによって一直線に上空の火竜へと突っ込んでいき、ユーハは刀を一閃した。すると竜の首が半ばから綺麗に断ち切られ、火竜の頭と違ってユーハは華麗な着地を決める。
無茶苦茶だ。
じゃあ残り一頭の方を片付けるか……と思ったとき、ちょうど空中で火竜の身体が血飛沫を上げた。両翼と首が根元から分離し、ユーハの倒した火竜に一拍遅れて地上に落下する。
微かな地響きが足下にまで届いてきた。
「ん? なんだ、今のローズがやったのか?」
「いえ、私じゃないですけど……」
俺はオルガの問いに首を振り、銀の仮面を凝視した。
今し方、火竜を仕留めたのは特級の風魔法〈風血爪〉だろう。
それは良い。
だが、俺は何も感じなかった。
「なかなかやるじゃねえか、十三位」
「…………」
オルガは仮面女の仕留めた火竜の死体を検めている。
しかし俺は肉よりも、得体の知れない仮面女の方が遙かに気になっていた。
魔動感が感じ取れる魔力波動は、行使する魔法に込められた魔力量が多ければ多いほど、より鮮烈なものになる。なので、初級魔法と特級魔法では感じ取れる強さに雲泥の差がある。
しかし、仮面女はこの近距離で特級魔法を行使したにもかかわらず、俺は何も感じ取れなかった。
おかしい……どういうことだってばよ。
竜に気を取られて気付かなかったとは思えない。
一撃で仕留めるほどの威力だったので、相応の魔力が込められていたはずだ。そんな特級魔法を仮面女はこの近距離で行使したのだから、気が付かないはずがない。
もしかして、魔動感では感知できない奴もいるってことなのか……?
だが、アインさんでさえ例外ではなかったし、婆さんからも感知不可能な者がいるとは聞いていない。
婆さんすら知らない転移の魔法を使えるらしいし、この銀仮面、只者じゃない。
「うっし、ローズ、肉切るぞ」
「あ、はい」
それから俺は魔剣で肉を切り出し、夕食の焼き肉を腹一杯に頂いた。
もりもりと肉を頬張っていた俺たち四人に対し、仮面女は小食だった。
食事中も仮面は着けっぱなしで、左手で仮面を持ち上げて口元を露出させ、右手で食べていた。
「お前、メシのときくらい仮面外したらどうなんだ? どうせフードで顔なんてろくに見えてねえし」
とオルガが言っても、仮面女は決して外そうとはしなかった。
ただ、口元の様子を見るに、結構若々しかった。
皺なんて全然なかったし、オルガより年上ということはなさそうだ。
「ふぁ……」
「ローズ、眠いなら寝て良いぞ」
食後、大きな欠伸を漏らした俺に、姐御がそう言った。
「いえ、まだ……それより、明日からどうするんですか?」
「夜が明けたら、あの山の方へ飛んでって真竜を探す。が、その前に……」
オルガはやや離れたところで切り株に腰掛ける仮面女に目を向けた。
相変わらずマントで首から下を覆っているので、どんな身体付きかも判然としない。この夜闇と目深く被ったフード、そして銀仮面のせいで顔は能面のように無味乾燥としていて、何とも不気味だ。
「おい十三位、お前ローズを守ってはくれないんだよな?」
「……何度も言ったはずだが」
仮面女は俺たちに体側を向けたまま、顔すら動かさず小さく答えた。
「なぜそうまでガキを嫌う?」
「…………」
「いや分かったから、無言で立ち去ろうとすんなっ。この件にはもう触れん」
仮面女は再び腰を下ろし、不気味な雰囲気を漂わせたまま、ただ座っている。
そちらから視線を外し、オルガは鋭く溜息を吐いた。
次いで思案顔でじっと俺を見つめてくる。
「仕方ねえな、チクショウ……ローズ、お前一緒に来たがってたよな? こうなったらオレに付いてきてもらうしかねえ」
「え? じゃあ私も一緒に真竜を狩っても良いってことですか?」
「それしかねえだろ、この状況じゃ」
未だ迷いの残る面持ちで、頭をガシガシと掻く姐御。
そこでユーハが口を挟んできた。
「待たれよ、オルガ殿。ローズは某が守る故、大丈夫だ」
「そうは言ってもよ、オッサン。やっぱここにローズを残してくより、オレと一緒にいてもらった方がまだ安全だ。さっきの戦いでもそれが良く分かったし、そこの十三位様のこともある」
もし俺がユーハたちと待機することになったら、仮面女は護衛をしてくれない。
だけでなく、この地に留まる理由もないので、オルガも連れ戻さず帰ってしまうという。そうなったら帰還手段が潰えてしまい、転移盤に賭けるしかなくなる。
もし転移先が魔大陸と対極の地――北ポンデーロ大陸北端だったら、帰るのに相当の時間が掛かるし、そもそも安全に転移できる保証もないし、転移先にいるだろう現地人が悪人という可能性もある。
それに先ほどのように火竜が襲ってきた場合、飛べないという点は大きなハンデとなる。魔法が使えないとファイアブレスを回避するのは難しいだろうし、一体倒すのにも時間が掛かる。
正直、オルガとユーハ、どちらが有能かと問われれば、剣も魔法も使えて空も飛べるオルガだ。ユーハだってそれは分かっているだろう。
更にこれらに加えて、真竜が襲ってくる可能性も無視はできない。
仮にオルガが一人で真竜探しへ行ったとしても、待っている俺たちの方へ真竜がやって来るかもしれない。無詠唱で魔法を使えるらしい真竜が精強であることは間違いないので、真竜と対峙した際にオルガがいない状況には不安が残る。
その点、同じ聖天騎士らしい仮面女がいれば、真竜という未だ見ぬ強敵に後れをとることはないはずだ。
「むぅ……」
ユーハは唸りながら、オルガから仮面女に目を向けた。
だが、やはり仮面女は何らのリアクションも返さない。
「ユーハちゃん、仕方ないわよ。アタシだって、ローズちゃんを守ってあげたいけど……でも、この状況だとオルガちゃんが適任よ。聖天騎士様なんだから、アタシたちよりしっかり守ってくれるわ」
「ヒルベルタ殿……」
ベルはユーハの肩に手を乗せて、どこかやるせなさそうに苦笑している。
「……ローズ」
「なんですか?」
「すまぬ……某にも翼があれば、まだ何とかなったのだが……守護剣士と申しておきながら、肝心なときにこれでは……面目ない……」
なぜか謝ってくるユーハ。
様子を見るに、微妙に鬱度が上がりつつある。
「謝ることなんてないですよ、私はユーハさんがいると思うだけで心強いんです。無理言ってここまでついて来てもらったんですし、むしろ謝るのは私の方です。ベルさんも、危険な目に合わせてしまって、すみません。それから、ありがとうございます」
「うむ……かたじけない……」
「良いのよ、ローズちゃん。それよりアタシはローズちゃんの身が心配だわ」
このオッサン二人は本当に良い奴だよ。
いつかきっと恩返しよう。
「んじゃ、そういうことで良いな。オッサンたちはそこの十三位に力借りて、きっちり自分の身を守って待っててくれ」
オルガが締めくくるように言って、話は纏まった。
これで俺も真竜狩りに同行することができ、帰還手段もどうにかなりそうだ。
あとは真竜を見つけて狩ることができれば、アルセリアを助けられる。
しかし……俺は疑問を覚えずにはいられなかった。
船の沈没と仮面女の出現は明らかに都合が良すぎる。
まるで状況そのものが、俺も真竜狩りに行けと言っているようで、気味が悪い。
特に、あの仮面女だ。
「――っ!?」
話し合うオルガたちから仮面女を見遣ると、目が合った。
焚火に照らされた銀色の面貌は冷徹に光を反射していて、その奥から確かに視線を感じた。だがすぐに仮面女は明後日の方へ顔を向け、先ほどまで同様に一人黙々と座し続ける。
「……………………」
もしかしたら、奴はアインさんのような存在なのかもしれない。
顔を隠しているし、愛想なんて全くないし、雰囲気もどことなく似ている。
状況的に見ても、可能性は高い。
とはいえ、仮にそうだったとしても、俺がすることに変わりはない。
真竜を狩って、肝をゲットして、無事に館に戻るだけだ。
本当は直接訊いて確かめてみたいが、オルガたちの前では訊けないし、そもそもあの仮面女は俺のことを無視するので、どうしようもない。
「ローズ、明日は夜明けと共に出るぞ。もう寝ておけ」
「うむ、せめて見張りくらいは任せよ」
というわけで、俺は早々に寝ておくことにした。
肉体的にはあまり疲れてはいないが、色々あったせいで精神的にはかなり消耗した。最近は満足に眠れなかったし、明日からまた大変になる。
俺は竜の警戒をオッサンたちに任せて、そこそこ安心しつつ眠りに就いた……
♀ ♀ ♀
「じゃあ、行ってきます」
夜明けと同時に、俺とオルガは出発した。
オッサン二人からは散々心配されるが、仮面女は無関心の態で見送りもしなかった。
結局、昨夜から日の出までに二十頭の竜が襲いかかってきた。
しかし俺たちは誰一人欠けることなく夜を明かし、対して拠点の周辺は竜の死体だらけだ。向こうから襲いかかってくるとはいえ、なんだか俺たちが非道な殺戮者のように思えてきて、少し気分が悪くなった。
とはいえ、これだけの竜を殺しているのだから、そろそろ真竜が向こうから出向いてこないものかと、期待していたりもした。
だが真竜らしき竜は現れず、どの竜もあっさりと俺たちに倒されてしまっていた。
「今日は天気が良くないですね」
眼下に森を見下ろし、前方にそびえる山々を目指して飛行していく最中、俺は何とはなしに呟いた。
本日の空は雲が多くて、なんだか不安を誘う天気だ。
「ま、雨が降らねえことを祈るしかねえな。あいつがオレ等を竜神山あたりまで送ってくれりゃ、だいぶ楽になったんだが」
銀仮面の女は転移の魔法を使える。
俺はまだこの目で見せてもらってはいないが、ユーハの件然り、今後の件然り、使えるのは確かなようだ。だから天竜連峰の奥地にそびえる竜神山の辺りまで送って欲しいと、オルガは頼んだのだが……敢え無く一蹴されていた。
「ったく、あの仮面野郎……ガキ嫌いなことといい、少しは融通利かせろよな」
「まあでも、ユーハさんを助けてもらいましたし、オルガさんも送り届けてくれるって言ってるんです。それにユーハさんとベルさんの護衛もしてくれますし、それだけでも十分感謝はできます」
「だがよ、そこまでするんなら、もう完全に協力してくれても良いだろって話だ。ローズやオッサンたちを転移させねえって話は未だしも、オレ等を竜神山あたりまで送った方が、真竜も早く見つけられるかもしれねえんだ。それは結果的に、あいつがオッサンたちの護衛をする時間が短くなることにも繋がるってのに……」
内容は愚痴そのものだが、姐御の口調はさっぱりしている。
あの仮面女の言動は既に受け入れているが納得はしていない、といった様子だ。
「ローズはああいう大人になるなよ」
「それは……融通の利く、器の大きな人になれってことですか?」
「ま、そういうこった。常識とか規則に捕われてばっかだと、動くべきときに動けなくなるからな」
さすが聖伐を放り出してきた人が言うと、やけに説得力がある。
「じゃあオルガさんみたいになれば良いんですね」
「あ? いや……オレはどうかと思うがな。参考にすんならアリアとかクレアあたりにしとけ」
そんなことを話しつつ、そろそろ山地に突入する……という所で、山間から風竜が四頭飛んできた。相変わらず遠目に見てもエメラルドグリーンの鱗に覆われた巨躯は立派で迫力があり、大きな翼で風を切りながら剛速で迫ってくる。
たぶん姐御がいなかったら、俺は未だに相当ビビっていただろうが、首元に感じる柔軟かつ豊満なクッションのおかげで心を乱さずに済んでいる。
ちなみに、背中には空のリュックを背負っている(挟んでいる)ので、オルガの体温はあまり伝わってこない。
二人して上級魔法やら特級魔法を喰らわせてやり、そそくさと四頭の風竜を撃墜した。もはや慣れたものである。
「そういえば、あの人に転移魔法の詠唱を教えてもらえば良かったですね。あ、でも機密なんでしたっけ?」
「そうだな……それに、ああいう特殊な魔法は習得しねえ方が良いぞ」
「え、なんでですか?」
「周りの奴らに使えると知られたら、色々面倒になるだろ。特に魔女の場合はより一層、黄昏のクソ共に狙われる危険があるし、空ぞ――転移の魔法が使えると、問答無用で教会に引き入れられる」
オルガは途中で何か言い直した風だったが、俺はそんなことより少し驚いていた。
「問答無用なんですか?」
「まあな、だから覚えようとは思うな。あの仮面野郎が素顔を隠してんのは、素性を知られて面倒なことになんのを避けるためだろうし、教国の意向でもあるはずだ。何にせよ、転移の魔法のことは下手に口にするなよ」
「……はい」
なんだか思いのほか真面目な声で言われたので、俺は大人しく首肯しておいた。
確かにオルガの言うとおり、転移という超絶便利な魔法が使えると、あちこちの国や勢力から引っ張りだこになりそうで、面倒かつ危険だろう。
まあ、そもそも詠唱が分からないとどうにもならないし、必ずしも習得できるとも限らないのだが……それでも転移魔法の存在自体が秘密らしいので、口外しない方が良いのだろう。
話をしているうちに、眼下の光景は既に森から山に変わっている。
山といっても木々に覆われた緑豊かなそれではなく、山肌が剥き出しになった険しい岩山だ。疎らに草木は生えているようだが、せいぜいがお飾り程度で、角張り切り立った山々の連なりは否応なく峻厳さを感じさせる。
しかも山峡にはうっすらと霧が立ちこめているので、仙人でも出てきそうな独特の雰囲気が漂い、妙に緊張してくる。
岩山の大きさは様々で、角柱のような数十リーギス級の小振りなものから、明らかに一千、二千リーギス級のビッグサイズまで混交している。
「また来たな……しかも今度は六匹かよ」
山陰や霧の中から火竜と風竜が姿を現し、肝が冷えるような恐ろしい咆哮を上げながら接近してくる。ついさっき山間部に入ったばかりなのに、竜たちは一生懸命お持て成ししてくれるようだ。
もう竜たちを殺しすぎて、そろそろ気の毒になってきているので、できれば襲ってこないで欲しい。
それでも真竜を探し出し、狩らせてもらうためには、奥へ奥へと進まなければならない。邪魔するのなら、排除するしかない。
……すまんね。
こうして俺とオルガは竜たちの本拠地と思しき天竜連峰に侵入していった。