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げんむーせんせーのキャラクター補正教室  作者: からあげにレモンかけていいですか
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げんむーせんせー、たいいくのじゅぎょう

 まず最初に私の服装を自慢していいですか?

 いやだなんておっしゃらないでよく聞いてください。これでもかなーりオシャレさんなんですよ。ふふん。


 大雑把に説明すると、白いマジシャンのような服装をしております。

 白いモーニングコート(後ろが長いタキシードみたいなもんです)に白いシルクハット。

 白い手袋に白いフリルブラウスに白い革靴…と白づくめ。

 その中ちょこちょこと点在する苺モチーフ。

 蝶ネクタイはピンク色に白いドット、胸元のポケからのぞかせたハンケチーフはピンク地にイチゴ柄。

 ハーフリムの銀縁眼鏡からチェーンで垂れ下がっているチャームには苺が揺れ…。

 シルクハットにはふぁさっとしたシフォンスカーフ、もちろんピンク色を巻いてございます。


 どや、かわいいでしょう。

 しかも私って自分で言うのもなんですけど、まるでビスクドールのような端麗な美形なのでございます。

 肌の色も、もちろん真っ白。まるで白磁のようなインドア派の白さ…。

 

 そう、インドア派。浮世離れしたインドア派。それがこの私。

 

 なにが言いたいかというと…。


 私って、こんな白昼の運動場が死ぬほど似合わないってことですよ。


「げんむせんせー!ボールそっちいった!」


 てんてんてん、と薄汚れたサッカーボールが私の足元に参ります。

 もちろん、拾って投げ返すなんてことはいたしません。うっとうしげに蹴り返してやりました。だって手袋が汚れたらいやですもの。


「ふう……」


 それにしても暑い…。汗をかかないため水分補給を控えるというまるで大女優のようなことをしている私でも、この初夏の暑さには額らへんが汗ばんでしまいます。

 しかしながら、気をゆるませてはいけません。

 なにしろここはキャラクター補正が入った個性豊かな生徒たちが集う学校…。

 特に体育の授業となれば、ハプニングはつきもの。


 と、私が目を光らせていたそのとき、ばびゅんっと音がして一陣の風が巻き起こりました。

 グラウンドの砂が巻き上がり、眼鏡のレンズをビシバシ叩いていきます…。

「あー!シン、ずるいぞ風魔法使うなよー!」

「うるっせぇな~、僕様はもやしっこなんだから、このぐらいのズルはいーの!」

 巻き上がった砂の直線上に、赤毛の少年が立っております。

 いかにもクソ生意気そうな顔をした(失敬)、いかにもモヤシっこ、というような線の細い少年です。

 男子生徒たちは物議をかもしだし、ゴールキーパー役の生徒がその少年にボールを投げ返しました。

 少年がボールを受け取ると、白と黒の模様の上に、びりりっ!と電気が走ります。

「あれれ、もしかして僕様四面楚歌ってやつ?」

 強気なことを言っていますが、顔色が若干悪くなっています。

「体育の授業中は魔法使わないって約束しただろ!」

 そう。彼は「魔法使い補正」をもつ少年。その名もシンくん。

 ほかにも魔法使い補正を持つ生徒はいるのですが、彼はとびっきり優秀で…魔法使いの中でのエリート。もっとも、便宜上魔法使いと言っていますが、本当は超能力なのかもしれません。

 なら、なぜ「超能力者補正」ではないのかって?


 だって「超能力者」より「魔法使い」のほうがロマンあふれてて私好みなんですもの。うほほっ。


 ともあれエリート魔法使いのシンくんは、魔法使いだけあってモヤシ。当然運動音痴。

 ですが負けん気が強い彼のこと、ほかの生徒におくれをとるのが悔しいらしく、しょっちゅう魔法でズルをしようと。

「お前、何度目だよ!何回言ったらわかんだよ!サルですかテメェはあぁん!?」

「んだとコラ焼くぞテメェ」

 びりりっと再びボールの上を電撃が走る。

 いよいよいきりたってきた男子生徒とシンくんに、私は思わず遠い目になりました。

 体育の授業で起こるトラブルの6割はシンくんが引き起こすのです。能力は優秀でも、とんだ問題児ですよ。

 ……まあ、それでも私のかわいい生徒であることに違いないのですが。

「まあまあ、そのへんにしときなさい」

 だから私は仲裁に入りました。とことこと歩み寄って、男子生徒グループとシンくんの間に入ります。

「げんむーせんせー、またシンの味方すんのかよ」

「違いますよ。お互いのためにも、このへんにしといたほうがいいのではないか…と言っているのです」

「でも、俺たちおさまりがつかねぇよ」

「だからといって、ここでシンくんを殴りでもしたらどうします。彼はきっとやり返しますよ。本気で怒ったシンくんを相手にして、無事で済む自信がある人はいますか?」

「…………」

「シンくんは、精神的に幼いのですよ。子供を相手にしていると思って見逃してやってくださいませんか」

「オイコラ誰がガキだ」

 と、これはシンくん。

「……ちぇー」

「わかったよ、しゃあねぇな」

 私が説得したことで白けてくれたのか、少年たちが散り散りになり、自分のポジションに戻りだしました。

 そうそう、キーパーはキーパーの位置に、ディフェンダーはディフェンダーの位置にいるのが美しいのですよ。イイコイイコ。

 これでほぼ全員が所定の位置に戻りました。…シンくんをのぞいて。

「シンくん…これで何度目ですか」

 私はぼさっと立っているシンくんに言いました。

「……チッ」

 彼はなにやら複雑そうな顔をします。……私が仲裁に入ると、いつもこうです。

「君も、ポジションにつきなさい。今度は魔法を使わずにプレイすること」

「…………」

 シンくんは、ボールを持ったまま無言で元の位置に戻っていきます。

 ……うーん。

 なぜ、あんな顔をするのか気になるところではありますが…これにて一応、一件落着。

 私はてこてこと元いた位置、グランドの片隅に戻ります。

「ふう~……」

 シンくんにも困ったものですねぇ…。しかしこれで、この時間中は…。


 ばびゅ~ん!


 ……。


「あー!シン、てめぇ!」

「イイコにしてると思ったか、ブァ~カ!」


 私は砂嵐の中で天を仰ぎました……。



 神様…どうして私は、こう…、きれいに終われないのでしょうか……。



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