げんむーせんせー、登場。
人は誰しも補正というものを持っていると私は考えます。
いわゆる「キャラクター補正」というものです。
主人公補正、ヒロイン補正、ライバル補正、といった人との関係性が深いものから…。
魔法使い補正、戦士補正、ガンナー補正というRPG的職業区分け。
更にはツンデレ補正やドジッ娘補正などといったものも。もちろん男の娘補正もありますぞ。
さておき、ここはそんな「キャラクター補正」を所有する子供たちを集めた学園。
私はそこの理事長兼教師をしております。
おっと、名乗り忘れましたな、私の名前は幻夢。生徒たちからは「げんむーせんせー」と呼ばれております。
そしてこの朝日のまぶしいうららかな午前。私はまさに教室へと出動せんとしているわけですが…。
聞こえてきました聞こえてきました、元気な生徒たちのはしゃぐ声が…。
「流歌ー!いいから宿題見せなさいよー!」
これはツンデレ補正の女の子ですな。
「え、えぇっ、ちゃ、ちゃんと自分でやらないと、いけないよう」
こっちは優等生補正の男の子。のび太補正も入っていると私は見ています。
「何よ流歌ったら生意気ね~!私の言うことが聞けないってぇの!?」
「で、でも、あうあうー…」
と、ここでもう一人の男の子の声が聞こえてまいりました。
「宿題すら男頼みとか、ほんっとバカなんじゃねーの、この女ジャイアン」
「なんですって!」
彼はヤンキー補正。
「宿題しねぇのは勝手だけどよ、それで人に頼るってのはどうなんだよ。するならする、しねぇならしねぇでハッキリしやがれ。ちなみにオレは全くする気がねぇ」
なにやら聞き捨てならぬセリフも聞こえてきましたが、おおむね正しいことを言っているようです。昔ながらのヤンキーなんですよ、彼。
「な、なによっ。私はただ…、る、流歌と…そ、そのっ…」
「え?」
と、これは流歌少年。
「流歌と話すネタが欲しかっただけなのに~!ばかぁ!もう知らない!」
ととととっ、ツンデレ少女が教室から飛び出して、私の方に向かってきます。
どん。案の定ぶつかりました。私は背が高いので(自慢です)、胸のあたりに、彼女の頭が。
「あ、先生…」
「亜実くん…」
私はそっと彼女の肩に手を置いて、やさしく引き離しました。
「素晴らしいツンデレでした…。書類選考の作文で私を木っ端みじんに罵倒してくださったあなたを”ツンデレ”と見込んで引き入れた甲斐があった…」
「で、でも先生、私、こんな自分が嫌なんです…」
「嫌悪することはありません。”ツンデレ”はあなたが持って産まれ、そして育んだ大切な個性なのですよ」
「個性…?」
「私が入学式のときに言った言葉を覚えていますか?」
「…あーすいません、私そういうの聞き流すタイプなんで」
「……全く覚えていないですか?」
「はい、一言一句、まったくさっぱり」
「……そうですか」
ちょっと涙が出そうになりました…。
「全ての人物にキャラクター補正あり。補正を磨くことは自分を磨くこと。補正が輝けばキミも輝くゾ」
私は入学式で言ったセリフと同じことを言いました。
「君は自分がツンデレであることを悩んでいるようですが…、ツンデレなんてすばらしいじゃないですか。ツンの後にデレなんですよ。何事も、上げてから落とすより、落としてから上げたほうがいいに決まっています。だから君は、誰よりも駆け引き上手なんです」
「私が、駆け引き上手…?」
「そうですとも。ツンデレなんて言葉が生まれたのは最近ですがね、昔からあるんですよ、ツンデレって。それはもう、江戸時代よりも、もーっと昔から、女性は男性をツンデレて落としてきました。ツンデレは男女間のみならず、あらゆる個人と個人との駆け引きで使われてきた手法です。…だから君は、本当はとっても頭のいい女の子ですよ。自分に自信を持ちなさい」
私が彼女の頭をなでると、彼女はにっこりと笑った。おやおや、かわいらしいじゃないですか。
「うん!ありがとう、げんむせんせー。私、教室にもどります」
「はい、ありがとうございます。…ところで亜実くん」
「はい?」
「ちょっと…私に向かって、その…」
私はもじもじした。亜実くんは”いやなよかんがするぞー”という顔をしている。
「”この変態ナルシスト教師!もうこんなに股間膨らませてんの?ほんとあんたって豚野郎ね!…で、でも、そんなところが好きなんだからねっ”(裏声)…って、言ってもらえませんか…?
赤らめた私の頬を、亜実くんの右こぶしがえぐった。
「あんたは入学式のときから変わんねぇなあ!このクソド変態野郎!」
私は興奮した。