ゴブリンの我がまま。
「私はヒュートレッド・ワーガイアです!」金髪の女子は名乗りを上げる。
町行く人の皆々は足を止め、ざわつき始める。
「ブルーブレス・ワーガイアを打ち滅ぼす為この地へ来ました!」
ざわめきは次第に歓声変わる。
エルフィランに入ること自体はそれほど苦労はしなかった。
定期便と呼ばれる船に乗り込むまではフウガにいるミカドの指示だし、夜の闇に紛れての航海だ。見つからなくて当然くらいに考えてた。だけど巨大な海獣とか内海の主とか出て来て海の男たちと一緒に戦った。
問題はここからだ。つまり、どうやって王になるか。
「お前ならどうする。」とレッド。
「突撃在るのみ。」
「そのココロは。」
「玉砕こそ至高の名誉です。」ヒュートレッドは力強く言い切った。
「アマゾネス気質を押し付けるな。」とは、言っても、それしかねえか。と、レッドは思う。いろいろ考えて、どれも詰んで、それでも考えて、そう思う。
「そもそも私、何であなたとココにいるのか良く分かってないんですけど。」
「今更言うかそれを。どうせ帰る所ねえだろ。」親であるグリーンピース・ワーガイアにも、兄であるブルーブレス・ワーガイアにも捨てられた様なものだし、関係最悪のフウガに滞在する立場でも無い。
「女一人旅に出るよりは貴方と居た方が多少はマシですが……。」
「それに、俺ってお前の何だっけ?」
「何ですか?」
「命の恩人だろ。」
「それはジョヴァンニで返したと思います。」
「回復の魔法か。あったな。まあいいじゃねえか、乗り掛かった舟だ仲良くしようぜ。」
「自分からそれを言う辺りがそこはかとなく不安です。」
「とにかく今回の作戦の鍵はお前が握ってんだ。頼むぜ相棒。」
という訳で拍手喝采の超歓迎ムードの辺りから。
「何でこうなった。」とレッドは町の人に聞いた。
「そりゃおめえ、ヒュートレッド・ワーガイアっていやあ、十人に満たない騎士たちを束ねてゴブリンの群れをなぎ倒し、居城を攻め落としたっていうじゃねえか。その上、エルスヴァンでは機転を利かせてフウガの手を遅らせ、ジョヴァンニが襲撃された際には、颯爽と現れて皇女グリーンピース・ワーガイアをお助けしてからなぜか行方知れず。そうかと思えばここ居るって話だ。」
「そりゃ盛り上がらずには居られねえな。」レッドは笑う。
「ジョヴァンニの大臣のブルーブレスを打倒しようってんだから黒幕はブルーブレスだって事だろ。やっぱり俺たちが正義なんだ。天は我に味方したってやつだな。」
なんだか知らんがそんな事になっていた。噂ってのはすげえな。満更嘘でもない辺りが秀逸だ。
夜分になるとレッドは馬車を出してヒュートレッドと合流した。
「レッド。貴方は恐ろしい策士です。たったの一夜にしてこの人気。」私は貴方が恐ろしいとヒュートレッドは笑みを隠さない。
「ミイラ取りがミイラに、じゃねえが気を付けろ。」人気取りが人気者になっちまう。とレッドは釘をさす。
「いいではないですか、人気者。」悪い気はしませんとヒュートレッド。
「だから危ういんだよ。他国の王族がこんなに人気になっちまうか分からねえのか。」
「なんで、ですか。」
「今までがそうだった様にここにいる奴らは支えを欲している。人柱だ。そこに現れた英雄。誰もが縋り付きたくなるってもんだろ。」
「だから、それの何がいけないんですか。」
「おめえみてえな他国のお姫さまが王政復活させちまったらこの国の奴らすがっちまう。」責任取れるのか。と、レッド。
「そんなに不安なら、貴方が参謀になればいいではないですか。」
「参謀なんて腐る程いる。いや腐っちまってる。だから英雄を欲するんだ。王を、上司を欲するんだ。
とにかく俺は降りるぜ。」
「今更降りるとは何事ですか。」
「もともと王様になんかなれっこねえんだ。」
「それはそうですが、今まで散々担がれて来たではないですか。今更降りるだなんて腰抜けですか。」
「確かに担がれてた。英雄だの公爵だの賢者だの王様になれと勝手な言い分でな。」
「そうです。今回は参謀です。」
「とにかくもう嫌なんだ。」とレッド。これが最後通告のつもりだ。ヒュートレッドには悪いと思っているのかも分からないゴブリンの我がままだ。
「斜に構えてる貴方がようやく本腰入れて頑張るかと思えばこのていたらく!」
「なんで怒るんだよ。もともと俺は……。」
そう言いかけた時だった。
どん、と音がした。とても大きな音だった。例えば隣で喋っている声が突然聞こえなくなる位の爆音。
見れば、というより嫌でも見てしまう。見えてしまう。町が、まるまる黒焦げになっているその様を。
今までいたエルフィランの町から炎に蹂躙されていたのだ。
誰がそんな事をしたのか。誰であろう、ただ事ではない事は明らかだ。




