ハーフエルフの台頭。3
エルフの里へはフウガの城内にある魔法研究室とゲートが繋がっている。行きはよいよい、帰りもよいよいの予定だ。
ただ予定は未定の過程の工程だ。どうなるかは分からない。況してやヒュートレッドのやる気スイッチがオンになっている今、帰りにドラゴンと戦うとか言い出しかねない。本当に嫌な予感がする。
そんなこんなだけどとりあえずはよいよい。
エルフの何がしと言えどもそれも昔の事だ。今や魔法研究のための人員がわんさか押し寄せて賑わう集落となっている。そういう訳だからよいよいもよいよいだ。
エルフの前線基地だった場所にたどり着くと流石に人間やゴブリン達も居なくなり空寂しい。
それでも目的の場所はここの中心だ。空飛ぶ絨毯が大破しているので徒歩での散策である。
そして、たどり着く、冒険者と呼ばれる職業に漏れなく与えられるアバターの、その本体を補完する場所。
そこに繋がれて居るのは紛れもなくレッドだった。
生命反応らしきものは無い。手足も無い。おまけにカッコ良くも、ない。
「恐ろしい程無残ですね。」とミカド。鼻と口を押え、眉を寄せる。
「魔法でどうにかするんだろ。」とレッド。ミカドに構わずヒュートレッドを見る。
「一度蘇生してから回復をして、それからレッドを入れ替えるという手順になるのでしょうね。」とミカドが答える。ヒュートレッドは静かに魔法を意識する。
「ん。」
「何ですか。」
「いや、蘇生したらこの世に俺が二人って事になるんじゃねーかな、と。」
「そうなりますね。ただ、」
「ただ、今の俺の方がフェイクって事になるのか。」
「そうですね、複雑です。」
「いいさ、どうでも。元に戻っても今の記憶が固定されるならそれは俺の生きた証となる。」
「珍妙な事を言いますね、フェイクは貴方です。」
「へいへい。それでヒュートレッド、魔法は使えそうか。」
愛夢希望愛夢希望とぶつぶつつぶやくヒュートレッドはこれを聞いていない。それだけで十分な情報だったのでレッドは嘆息した。
「どうなる俺、どうする俺。」
「そんなのは分かっているのだろう。」と声が響く。歌い上げるかのような声は姿は見えずとも誰と分かる者だった。「死ぬのさ。」
「ビビアンか。」
視線の先に映るは異形の一言だった。
人の形をかろうじて保っているそれは、言うなれば、
「化け物。」とミカド。口を塞ぎ眉を顰める。
「化け物? 分かっていないな、竜の皮膚を移植し、人類を超越したのだ。いうなれば竜人。」
「竜の皮膚を加工したのか。竜人とはまた古風な。」
「もっと恐れろゴブリン。お前は既に死んでいるのだぞ。」
「そうだな。いうなればゾンビって所か。だがお前の相手は俺じゃねえ。」
レッドは振り向くとヒュートレッドが立っている。鋭い眼光でそれを捉えて離さない。
「女剣士が私の相手だというのか。いいぞいいぞ、その無能さをもっと見せろゴブリン。」
「隙だらけですが、いつでも良いのですか。」とヒュートレッドはいつもに況して冷淡な口ぶりでそれを言う。
「いつでも良いよ。ただしその刃が竜の皮膚を貫く事は無いが、」とそこまで順調に話すと竜人は地に伏した。ヒュートレッドが一刀の下に切り伏せたのだ。
一方竜人となったビビアンは状況が理解できていない。突然地面に倒れたようになっているから無理もないが、いつでも良いと言われた時点でヒュートレッドはため息を漏らして動き出していたのだ。その後は到達まで視認していたはずのヒュートレッドに切りかかられ、そして、倒れた。
そこまで分かると肩口から激痛が走る。声にならない声が腹の底から沸き起こるが誰の呻きなのかまでは分からない。それから吐き気、だるさが脳を揺さぶる。
「お、おおかしいッ!」とビビアン。肩口を抑え地面に声をたたきつけ、睨む。
「可笑しくねえだろ。竜の皮膚が刃を通さない所までは確かにその通りだ。だけどそこからが問題だらけだぜ。」
「筋肉や筋、骨に内蔵、脳に神経系、皮膚以外が全くの人間、いえ、エルフですか。それでは私の斬撃は防げても、」
「攻撃の無力化には至らねえ。」
「そもそも何故竜の皮膚に拘ったのですか。」
「竜の皮膚を加工したっていうその刃やら針やらをそのまま攻撃手段としたならば、それはそれで脅威だったはずだ。」
「そして皮膚を皮膚として固定するのではなく鎧として使うというのも一つでした。」
「お前の敗因は、エルフを敵に回した事だぜ、ビビアン。」
「そんなにも前からこうなる事を予測していたとでもいうのかッ!?」
「少なくとも俺たちを見限った時点でお前は一人だった。そうなればお前はきっと復讐を考える、くらいの事は予想がついた。こんな形だとは思わなかったがな。」
「なぜ、竜を召喚してフウガに攻め入らなかったのですか。その方がきっと、」
「うまく行ったはずだ。だがそれには大掛かりな仕掛けも必要だった。って所だろ。」
「違う。竜が、死んだ。」
「お前が?」
「寿命で、だ。」
「そいつはめっけもんだ。そういう訳だから恨むなよ。」
レッドがそういうとヒュートレッドはビビアンにとどめを刺した。




