ゴブリンは王様と友達になりました。
会議室にて。
「ブルーブ! どういう事ですか!」ヒュートレッドは駆け込んだ。
皇女グリーンピース・ワーガイアと大臣ブルーブレス・ワーガイアがそこには居た。が、その姿は緊急時の対策に追われている姿そのものであり、ヒュートレッド・ワーガイアは呆気にとられる。
「どういう事とは?」ブルーブレスはヒュートレッドに問う。時間も無いので手短に。と念を押した。
「部屋の外までオークやらゴブリンで犇めいていたぞ。」とレッドは言う。
それで他の者は皆口を濁す。何しろレッド自身が忌まわしきゴブリンなのだ。
「これはいったい?」とヒュートレッドはレッドに迫る。
「どれだよ。ああ、恐らく投石器だろうな。風の魔法とやらで飛距離を爆発的に伸ばしたそれでゴブリンやオークを飛ばした。」
「あなたはブルーブが反逆したと……。」
「ああ、そいつはこれからだ。」とニヒルに答えるレッドはブルーブレスを見る。そして、なあ。と、迫る。
「何が、在ったかは問うまい。しかし、ゴブリン。」とブルーブレス。名案だ。と、唸る。
「いったい何なのですか。」グリーンピース・ワーガイア。
「グリーンピース。俺の望みを訊いたな。俺の望みはアンタの死だ。」
「!?」
「まあ待て、本当に死んでもらう訳じゃねえ。つまりは。」
つまりは、グリーンピース・ワーガイアに現役を退いて貰おうと、そういう事である。現役を退いて尚影響力を有する存在であり続け、国の元首に格上げしてもらいたいという願望。
そうする事で、皇女が元首になる事で、長兄ではあるものの、立場の弱い男でありながら大臣職で奮闘していたブルーブレスは実質的に国を牛耳る事になる。
それにブルーブレス・ワーガイアは、乗った。
「ブルーブ!? なんて事を!」ヒュートレッドは驚きのあまり声を漏らす。
「兄と呼べ! ヒュートレッド、貴様は妹のなのだ! 後から生まれて、なぜ私を兄と呼ばぬ!」
「それでは!」
「それでは独裁だ。とでも言うか?」とレッド。
「ならば国民に信を問えば良いのか?」とブルーブレス。
すでに息は合っている。すでに戦況はブルーブレスの手の中にあるというのに、こういう事で息が合ってしまう。
これに同意するのはグリーンピース・ワーガイアがある。
「落ち着きなさい、ヒュー。国民は血族ではありません。」と、そういう言い放ったのだ。
この世界では血族は、血のつながりは、絶対的な同盟を意味する。つまり、グリーンピース・ワーガイアは、国を見限ったのだ。ヒュートレッドを一度はそうしたように、今度は国を見限った。
そもそも、皇女が国の元首になるのに反対する意見というのが、どこから出よう。この少数意見淘汰の国で、多数決の国で、自ら少数派を背負える器の人間が、この乱世で、どこにいよう。
これで多数なのだ、という。グリーピース・ワーガイアの決断の速さが戦況を有利にする絶対条件だった。
「それで、ブルーブレス。」とレッドは言う。
「なんだね、ゴブリン。」
「褒美は無いのか?」
「何が欲しい。地位か名誉か金か。」
「友達になろう。」とレッドは言う。
王族の友達。それは名誉であり地位でもある。どれくらいの名誉なのかと言えば爵位程。どれくらいの地位であるかと言えば、団体の長程。勿論使いようによっては金にもなる。
「ゴブリンよ。東の国フウガに話がある。」ゴブリン。そう呼んだ。つまり、友達にはならないと言う事。ではなく、条件によっては望みをかなえると言う事。
「停戦か。手形が欲しいところだ。」
それで、レッドもブルーブレスもヒュートレッドを見る。
「なぜ率直に爵位が欲しいと言わなかったのですか。」
東に向かう馬車の中でそんな事を聞くヒュートレッド。
「主導権をとられるから。」なんて事を言ってはみても、結局のところ主導権を相手に委ねている現状とどれ程の違いがあるのかは分からない。
「なぜ素直に従ったのですか。」
「友達になるのには何かしらの試練が必要なんだ。」そっけなく答えては見ても、内心何を考えているのかまでは分からない。
「なぜ東からの攻撃だと看破したのですか。」
「風の魔法とやらは何かと便利だと思ったんだ。」
「なる程、しかし、ジョヴァンニより東に位置する国はフウガではなく光の国エルフィラです。」
「エルフィラは国じゃねえだろ。まあしかし、そうか。今後はその線も考えに入れておくさ。」
「更に言うなら、風の魔法は廃れて久しい。」漆黒の瞳が、レッドを見る。
東の国、フウガ。風の国である。王の名はミカド。
四つの国の内、最も弱いとされていた国、フウガ。




