ゴブリン、三度エルフの里へ。3
結果から言うと、竜には勝てない。
そんな当然なことをいち早く伝える意味は特にない。ただ、空飛ぶトカゲが如何に恐ろしいものか、それを言いたいのだ。
全長十メートルほどの巨体が空を飛ぶ事。宙に浮く事の恐ろしさ。
それは魔法が使える奴が隣にいた事よりも恐ろしい。
空を飛んで、宙に浮いて、落ちて来る迫力ったら、無い。
何をもって表現したらいいのか途方に暮れてしまう所だが、まずはその威力だろう。
宙に浮いて、落ちて来る。只のそれだけで火山から溶岩が噴き出し、地面は数センチ下にずれる。底かと思っていたところがズッと下がる。
辺りには風が吹き荒れる。風圧さえ武器にしてしまうのだ。砂や灰が舞う。やがて熱が逃げない役割を果たすそれは、まずは太陽からの光を遮って、稲光を這わせる。
それから落ちて来る。どしどしと音を立てて、一つ一つが鉄砲の玉みたいに、鉛の玉みたいに重くって痛くって、熱い。
それだけでも致命傷なのに、溶岩は待ってはくれない。ぶすぶすと音を立てて時速六十キロくらいで辺りを侵食していき、根絶やしにしていく。熱で、焼け焦げていくのだ。そこいらじゅうがだ。
そんな大惨事だっていうのに竜は、見逃してくれない。そもそも厄災を生んだのが竜なのだから。
じっと睨みを利かせて、少しでも温度が低い所を見つけては火を吐く。もしくは自由落下を繰り返す。
だから、なんだってこんな危険なところに来なくちゃいけないんだ。と、改めて思う。
だから、なんだってこんな危険なところを住処に選ぶ奴らが居るんだ。と、改めて思う。
それでもやがて、竜は眠る。
最初からそれを待てばよかった。
刃は通らない。魔法は効かない。溶岩の直撃を心地よさそうにさえする低体温の巨大生物は、弱点なんて無い。足の爪と肉の間を目掛けて剣を突き立てても、苦にもしない。
ありったけの魔法を眼球に直撃した様に見えても、悉くが効いていない。
スピードだけが頼りの短剣使いはいち早くに道具使いへと転職し、そして悉くが無駄に終わる。
すべては、たった一回の弾道自由落下。これで勝負は決まった。
勝負? ハッ馬鹿げてるね。勝ち目なんて最初からなかったのに、妙に強気な女の口車に乗せられてとんでもない災害引き起こしちまった。
それでも生きてれば何とかなる事もある。
偽物の熱源をいくつもいくつも作ったり、悉くの炎を剣に封じ込めたり、地下を作って逃げ込んだりもした。
竜の前では全ての行為は意味を無くす。が、後ろならば、横ならば、と必死に生きた。
その結果として、生き残って見せたのだ。
たったの三人が、竜を相手に、翻弄して、攪乱して、寝かしつけて、逃げ延びて、生き延びたのだ。
そして、光る木。世界樹を見つけた。
世界樹は特定以上のマナが無ければ生存できない品種の植物。当然絶滅危惧種だ。
そこからエルフの里へ行ける可能性なんてのは実は零でもないが百でもない。裏打ちのない出来事で、今まではそれで助かったり、ピンチになったり、というかピンチ率が高い。
とにかく、待った。世界樹があるからと言って今回もたまたまエルフの里へ行けるとは限らないが、待つことにした。
ピンチは既に起こったものとして観測を続ける。観測は同時に生存の証拠になるからだ。
竜と対峙するなんてのは、もうしたくない。出来る事ならエルフの里へ行って、エルフ側に対して害意のない事を証明して、生き残りたい。
生き残りたい。ただそれだけだった。
世界中で、どうにもならない事というのは実は以外に少ないが、竜に対してはまさにそれだ。
世界中で、どうにもならない事。ズバリそれだった。
あんなもの、二度と御免だ。
多分ラスボスより強い。
だから、観測を続けた。
そして、ゲートはやはり、開かれた。




