魔法結晶を手に入れた。3
エルフの里で騒ぎが起きた。
広まるのは早かった。何せ組織の中枢の機能不全だ。王と武器庫の奪取をまんまと成された。これで対応が遅ければどうする事も出来なかっただろう。警備が気が付き軍、もしくは特殊部隊、どちらもが動く。それが正しい出来事だった。が、そうなるまでに時間が掛かり過ぎてしまった事にエルダーナは呆れた。
各大臣席におわす御歴々が王族排除を企てたのかとも思える緩慢さだった。
二度の朝日を拝んでようやく武器庫を取り囲むのはエルフの軍だが、武器は粗末な物だった。エルダーナは呆れた。この分では特殊部隊が動き出すのは更に遅いのだろう。
まあ、それでも当初の祖国に外圧を、という目的は達したのでエルダーナとしては十分だったのではないだろうか。
そもそもこの二日の間に成された会話の方が実りにも思える。
「エルフは何故差別するのか。」とはドワーフの王の言葉だ。結構普通に喋れるんじゃねーか。
「差別は差を生み、奴隷を遣わせた。」エルフの王は答える。勿論動くのは口だけになっている。
「それは分かってる。だけど蔑視された方はどうしたらいいんだって話だぜ。」レッドが言う。相当な鬱憤をため込んでいる様でもあるが、あくまで冷静に聞いた。
「弱者同士で束になり強者の城に攻め入ったではないか。」エルダーナが答える。
「攻めるとか守るとか、そういうのじゃなくて、もっと他にいい方法は無いのかよ。って話だ。」
「無い。変わるよう努力はした。しかし人類は皆闘争を欲している。無くなりはしない。」
「蛮性を、野生を守っているのはお前らエルフだろ。人類とか、でかい事言えば良いようにぼやけるとでも思ってるのか。でかいならでかい成りに使いようって物があるだろう。」
「野生を守るとは言い得て妙だ。が、変わるよう努力をしたことも又事実。そしてでかい物を相手にするには時代や、世界と言った同じくらいでかい物を手中に収めなければならないのも分かり始めてきたところだ。」
「共同体にならないといけないんじゃないのかよ。なんでそこまでして差別を捨てない。どこまで行ったら支配は終わる。いつまで待たせればお前らの希望が叶うんだ。」
「差別の終わりとは恐らく弱者の掃討を意味する。それを望むか。」
「飽くまでエルフ一強時代を終わりにしたくないって事だな。」
「どんな手を使ってでも。」
「お金持たせる事で労を蓄える性質がある。」とはドワーフの王の言葉。
一瞬なんの事か分からなかったが、ドワーフの間では当たり前に言われている事らしいそれは、過労死問題の事を指している様であった。
「極端な話になるが暇を取るかお金を取るかの二元論で、ある人はお金を取って死んでしまうまで仕事を止めないのだ。」
「ドワーフの法整備が追いつかないだけの事だろう。」エルダーナは言う。
「飽くまで合法的に人を殺せるか。試したくなりそうな話だな。」とはレッド。
「過労死問題と合法殺人とどこで繋がった。」
「持て余す資金力を有するエルフの考えそうな新しい殺人の形って思ったんだ。」
「単に思っただけならば、問題は無いだろう。」
「法整備が追いつく前に資金力を削られなきゃな問題は無いな。」
「どうしたってエルフを悪役に仕立てたいようだな。ゴブリン。」
「やらない。やる訳がないとは言ってくれないのか。ええ、エルフの王様よ。」
「よしなに。」とエルフの王はエルダーナを見た。
「御意。」と答えるエルダーナ。レッドは不服そうに唾を吐く。
「戦でも始まろうというのか。」とドワーフの王は言う。
「戦はな、在ったんだよ。人類同士が共に憎しみ合い血で血を洗ったんだ。素知らぬ顔して武器作ってるドワーフには関係のない所でな。」
「我等ドワーフ一丸となって戦いを止めて見せよう。」
「どうやってだよ。」
「歴史を変える事は出来ても戦を止める事までは出来ぬというか。」
「それこそが真理。」とエルダーナ。
「そういう事か。」
「なんの事だ。」
「惚けるな。歴史改変なんてしてたのかよエルフはよ。」
「ドワーフも馳せた。」付け加えるドワーフの王。
「そういう事は難しくなるから止めにしろ。この世界で自分がどこまで頑張れるかだけを考えるんだ。」
「逃げるな。頑張った結果、いや、頑張れる奴が危険分子って事か。なる程。過労死と金の関係が少しわかって来た。」
「仕舞え。未来は無限に広がっている。」
「ぬかせ。過去もまた無限だろうが。」
「今は、今しかないのだ。」
「今だって無限に無きゃ理屈じゃねえ。」
レッドが言った所でエルダーナはため息をついた。観念した様にも見えるが、ヒュートレッドの寝ている今は、奴にとっての好機。つまり、今は今しかない。
レッドはエルフの王をちらと見た。
それだけで十分だった。王とは、民を束ねる働きが重要なのではない。王とは、子孫を残す上で重要な責務がある。そして都合がいいのが男。都合が良くないのが女。種を残せるか、子を残すかで、扱いに差が生まれる。
重要なのは、王が要ると言う事。
「分かった。」とエルダーナは殺気を仕舞う。




