エルフが現れた。12
エルフの里は世界樹の入り口からもさらに遠い所に集落を構えている。
塔を中心にした魔法陣の外側に集落。魔法陣の内側、中心部に王宮がある。塔と一体になってそれはある。
遠目からでもわかるし、見ず知らずのエルフもそう言っている。
そう、知らないエルフはゴブリンを警戒していないのだ。
名も無きエルフのご老体が言うには、長老にでもなれば名前がもらえると言う事らしい。
名前が無いのは一般のゴブリンも同じだ。だからこそ驚いたのはそこだった。最初に出会ったエルフは名乗ったと言う事。エルダーナと名乗った事。名前があるのは特殊な所属であると言うのに名乗ったと言う事。
そして、名無しのこのエルフには名前が無いと言う事。ではどの様にして区別するのか。
ゴブリンと同じく背番号方式なのかと言えばそれも違った。
「我想う故に我在り。ではないが、君ある所に我もあり。と言った感じで言葉も感情も自動翻訳で吐き出される。それが良い事なのか悪い事なのかはワシのはわからぬ。だが、便利すぎるのも考え物という奴だ。
自分の意志と言うのを持って居る者は、持って居ない者と比べて寿命が短い。それでも自分の人生の主役にはなれる。ワシは自分が主役なのか脇役なのか端役なのかも分からずに君に言う。」
「安心しろ、爺さん。少なくとも俺の人生では、言葉の演技くらいはさせてやるぜ。」とレッドは言う。
「ふぉふぉふぉ、ありがとうよ。しかし君は何者だ?」
「一介のゴブリン風情だ。」
「ゴブリンか。」と爺さんは嘆息する。
ゴブリンとエルフは実を言えば同じ人種なのだ。と言うのは以前にもどこかで言っていたし、お分かりの事と思う。しかし和えて言うなら、ダークエルフと言う人種は存在しないのだ。
もしも、ダークエルフがゴブリンを淘汰するような場面があったなら、それはエルフに認められたゴブリンと認められないゴブリンの違いでしかない。
つまり、エルフが上で、ゴブリンが下。と言う固定観念がそうさせている。人種差別がそうさせる。差別がそこにもここにもある。と言う事だ。
爺さんのため息の意味は魔法が無くとも伝わる程に濃厚で、翻訳されて伝わる頃には哀れみが沸き起こる程だった。
爺さんへの哀れみ。同情もまた魔法で伝わる。
そしてこの空間では秘密と言うものが存在しない。すべてが筒抜け。
今の会話も王族に筒抜けなのだ。感情のやり取りもまた筒抜けなのだ。頭がバカになる位で丁度いいと、そういう考えなのかもしれない。
自由過ぎて不自由するなんて言葉は中二病とか言われるかもしれない。フリーの複数形がフリーズと考えてしまう様な中二病風情の戯言を真面目に読む奴なんていない事を切に願う。
結論を言ってしまえば、エルフは平和だ。エルフの里に不穏分子は存在せず、ゴブリンが入り込んでいる現状ですら混乱も暴動もない。ただただ親切だけがちりばめられている。
そして、話題は次へ。
つまり、名前のあるエルフの事についってだが、爺さんは知らないらしいので王宮に向かった。
遠いは遠いが平和なので何も起きない。いやゴブリンが紛れていると言うのに普通と言うのも恐ろしいが、それはそれとして利用させてもらう事にする。
王宮に届くと更に驚いた。
王宮には王族以外の立ち入りは基本的に出来ない。と思っていたが、自由だった。フリーパスで入れたのだ。それも謁見の間や玉座の間のさえ入れた。
残念ながら王は忙しいと言うので代理の者が応接する事になった。それも相当の事だと思うのだけど、簡単に叶ってしまった。本当に魔法の国だ。
「名前について知りたいとの事でしたので資料を用意しました。」と代理人は言う。
資料と言うのは歴代の名前と業績がずらりと並んだ特級の情報源だった。
悪用すれば進行形で英雄扱いされる事請け合いだ。
まあ悪用しても何でも叶ってしまうこのエルフの里ではあまり意味のない事だろうけれど、その中からエルダーナを探した。
職業欄に冒険者と書いてある以外に何もない。白紙もいい所だった。これは報告を怠っていると言う事らしいがそんなのは気にしないのがここエルフの里だ。
それでも名前が貰えるのかと驚いたが、冒険者と言うのはいわゆる主人公の事らしい。
自分の人生の主役は自分なのかも知れないが、エルフの里では特定の条件をクリアすれば他人の人生の措いても主役になれてしまうと言うのだ。
人生はよく暇つぶしと例えられたり、発展し過ぎた文明は遊びこそ我が人生と例えられたりする。
究極の人生はゲームでした論。と俺なんかは呼ぶそれは、何がやりたいのか分からない内に人生の終焉を迎えるよりずっと効率的でショートカットされた人生だと思うし、有意義だとも思う。
しかし、そんなことが許されるようになってしまっては人類の終わりの始まりだとも思う。
古代では人間と獣の白熱した戦いを見て興奮している事が正しいとされていながら滅んだ国があると言う。このエルフの里もまた同じようなものじゃないのか、と感じずにはいられない。
ともかく時間は掛かったがエルフの里はこれで調査完了だ。
フウガに報告したら次はドワーフの国でも見て回ろう。とか、そんな事を想っていたらそうはならないかもしれない。
戦いとなっては、レッドに勝ち目はないのだ。




