エルフが現れた。11
すでにエルフの軍隊が動き出しているかも知れない。
そういう状況においてもレッドは冷静だ。冷静に冷徹に冷ややかに、まあいい。と、調査はもともとそういう事態を予測しての命令だ。と、エルフの里へ向かおうとする。
一方で、ヒュートレッドはそうでは無い、熱狂だ。熱血に、熱烈に、熱く語る。多くの捕虜となった兄弟たちを郷に残して来た彼女は、好くはない。と、調査は元よりそうなって仕舞う前に切り上げなくてはいけない。と、意見を戦わせる。
戦いになると弱いのはレッドの方であるが、ここは踏ん張りどころと堪える。
「調査続行だ。かもしれないという程度の事はこの先いくつもあるだろう。」
「しかしここは英断の時です。」
「調査続行。エルフの里の情報が少なすぎる上に、俺たち二人だけで帰還しても戦況をどうこう出来る状況じゃなくなってる公算が高い。」
「私は、それでもいい。微力ながら粉骨砕身取り組めば道は開かれるものだと、そう、信じたい。」
「これで最後だ、調査は続行する。この分かれ道を分散してリスクが減るか増えるかが分からない。ならば死なばもろともを選ぼうぜ。頼りにしてんだ相棒。」
ヒュートレッドには分かっている事も在った。それはレッドは臆病者で後ろ向きな考えを持って居る事。何より、自分の命が大事だと言う事。
大よその事は分かる積りだ。今回も助けたいと言う衝動を微塵も見せないレッドは、恐らく帰還する危機的状況より前のめりに倒れこむような、後ろ向きな考えを選んでいる。と、ヒュートレッドは思う。
現状、それは合っている。
少なくともレッドは自分から危機的状況に飛び込んでいくタイプの英雄ではない。
何より、調査を命じられて居ながら、目的地にも到達せずに引き返すのは愚の骨頂ではないか。と、そう考えている様にも見える。彼が英雄であるならば、そう考えるだろう。
そして、ヒュートレッドは確信した。
相棒、そういわれて素直に思うのは、吐き気だ。
人間でもないのに、それの様に振る舞う様は吐き気を催す。好きか嫌いかで言えば生理的に受け付けない。そんな奴に相棒と呼ばれながら、吐き気を催しながらも、彼と共に居るのは、主従関係にあるからだ。
主は自分で従はゴブリン。分かりやす関係だ。それなのにそこはかとなく彼の言いなりの様に動いている気は前々からうっすら感じていた。今回もそれを感じていると分かっていた。
だから、戦った。意見を戦わせた。それで、ああ、そうかと分かったのだ。
間違えているのはレッドだと、はっきり分かった。
自分がしっかりしなくてはこの部隊、この編成では、ダメになってしまう。だからこそ、率直に異見しなくてはいけない。と、気づいたのだ。
「私は、帰還します。」
ペットだと思っていた。少なからずかわいいと思っていた。下に見ていたし、実際後ろに控えているだけの使えない奴だった。時たま、まぐれで何か大きな事を成そうになると、降りたりしてた。いろんな人に騙されて、使いまわされて不憫だなんて思わないのか。と、何度か聞きたくもなった。実際噴出した事も在る気がするけれど、それでも何故かへらへらしてへこへこしてた。
私と彼は違うのだ。
彼は愛玩動物ですらなく、私は王族だ。
だから彼は私の意見をどうするかと言うのは考えてはいけない。私は、私を尊重し、彼もまた私を尊敬しなくては、ならないのだ。
ついてはこの決定。彼はやはりこちらに付かなくてはならない。
「じゃあサヨナラだ。」
レッドはそう言ってフェアリーに何か話かけている。
エルフの里に行く為の何か。茫洋としたもの。
ヒュートレッドは、こうなってしまった意味が分からない。
いつも私が正しくて、「そうするしかねえか。」と、折れるのがこの男だった。
「出口までは僕が案内する。」と、フェアリーが言う。
レッドは一人で光で編まれた架け橋を渡っていく。
ヒュートレッドはそれを眺めて、絶叫した。
こんな筈ではなかったし、こんな事は許されない。
王族は清く正しく美しく在らねばならない筈。こんな事が、ゴブリンなどと言う低俗種が私に逆らっていい筈がない。こんな事は許されない。許さない。
隔して、エルフの里は魔法の楽園だった。
愛も夢も希望もてんこ盛りの空間だった。
木々が生い茂るその向こうにタワーが見える。大きな塔だ。その周りをぐるりと魔法陣が取り囲み、神々しく輝いている。魔法による光、マナによる光である様に思える。




