祝、初めての友達です!
学園の門を潜る。最近では声を掛けてくれる人が増えたが、友達になるには至らず・・・悲しい事に未だに私に友達は居ない。本当にどうしたら出来るんだろう。このまま、一生友達の居ない寂しさを味わうのだろうか。辛いよね、それは。
何としても、作らなくては・・・破滅に加え、一人も友達が居なかったとか、そんな人生振り返りたくは無い。
教室に入れば、こちらを窺う様に視線が集まる。最初は戸惑ったが、今では慣れた物だ。声を掛けて、気に入られる機会を窺っているのが分かる様になった。まぁ、気持ちは分かるんだよ。家の為に媚を売らなければならないのは大変だよね。 子供なのに。お金持ちの世界って・・・前世では憧れてたんだけどなぁ。だって、お金があれば治療出来たかもしれなかったし・・・でも、前世は前世で幸せだったんだよ。短い人生だったけども、満足している。
だけども、友達が居ないのはやっぱり・・・欲しいなぁ、友達。学園で作るのは、難しいかなぁ。
その日も授業を終え、向うのは塾。今の私にとって、一番の楽しみと言える。最近では塾生の子達とはある程度の会話が出来ていると思う。家柄を気にしないから気楽だ。それが普通なんだよね。
あ、あそこに居るのは・・・
「おはよう」
控えめにも挨拶をしてくれる女の子。私と同じくらいの身長に、ショートボブ。前髪パッツンなのがまた可愛らしい。将来が楽しみだね。そんな私の将来は・・・どうなるんだろう?小説では確か・・・くるくるというよりはグルグルな縦ロール。そして、口元に手を当てての高笑い。目は少女漫画のヒロインではなく、ヒロインの敵の悪女のように吊り上っていた。
んん?私・・・垂れ目なんだけど。吊り上っていくのかな。それに、一度だけ縦ロールにしようとした時は直ぐにロールが崩れていったんだよね。あれはあれで悲しかったのを覚えている。姿形で悪役になる訳では無いけれど、このまま成長出来たら良いなぁ。
そんな事をしみじみ考えている私の目にある物が映った。ついそれを見つめてしまう。しかし、いけない事だ。まじまじと人の持ち物を見つめるなんて、はしたない。でも、可愛い・・・何だろう、あれは。
将来有望な彼女の鞄につけられたマスコット。それはペアの動物だった。片方は真っ白な毛に覆われ、リボンを頭に着けているから女の子を模しているのだろう。ふわふわな毛並みを思わせる外見をしている。そして、もう片方は可愛らしい事には可愛らしいが、真っ白な子とは対照的だ。白の逆の色、真っ黒でふわふわと言うよりもさらさらであろう毛並みを思わせる。首にはネクタイがあるから男の子なのだろう。きりっとした目元が男の子らしい。
本当に何て可愛らしいネコちゃん!
私の視線はマスコットに釘付けである。あれはどうしたら手に入るのだろう。おねだりで手に入る物だろうか。勿論、おねだりするのは父にであるのだが。それに、おねだりするにしても情報が要る。どうしよう・・・話し掛けても良いのだろうか。学園内ではリトルであるが為に会話には気を使わなければならなかった。でも、今は違う。
しかし、一つ問題がある。私には高いコミュニケーション能力が無い。そして、ある程度のコミュニケーション能力も無い。つまりは著しくコミュニケーション能力が低いのである。
そんな私がこの可愛らしいマスコットの情報を聞き出せるのだろうか。無理な気がしてならない。
私は名残惜しくも、涙を飲んだ。
可愛らしいネコちゃんの姿が頭から離れません。大問題です。
本当に大問題である。勉強に集中出来ない程に頭から離れない。これは非常に不味い。私は何と言ってこの塾に通わせて貰っているのか。社会勉強の為と言ったのが思い出される。そして、勿論成績も重要である。勉強に身が入らない状況にあると知られたら、塾を止めさせられるだろう。そして、待っているのは家庭教師。今以上に友達の出来ない、憧れのお姉様方との接点の無い環境になるのだ。
・・・嫌です。絶対に嫌です。でも、頭から離れません。
「・・・・・・」
つい溜息が漏れる。仕方が無い、私にはコミュニケーション能力が皆無なのだから。諦めきれなくて名残惜しげにマスコットを見つめる。
神様、私は前世で悪い事をしましたか?病気と闘って必死に生きただけの筈です。もしかして、その戦いに負けて死んだのが悪い事でしょうか?まぁ、家族を悲しませたでしょうし。悪い事と言ってしまえば、そうなるのでしょう。しかし、それでも私は頑張った筈です、神様。少し位はおまけを下さっても良いではありませんか。コミュニケーション能力と言うおまけを。
そんな事を考えていた私にご褒美でしょうか。
「あ、あの・・・」
マスコットの持ち主であるショートボブの少女が話し掛けてきた。あぁ、ごめんなさい。いきなり振り向かれたら、びっくりするよね。それも将来の悪役(ただし、回避予定)が。
でも、彼女は優しかった。私の視線に気付いていたのだ。
この日、私に友達が出来ました。