挫折と喜びと
初恋の君が判明しました。残念な事に私の理想のお姉様です。どうしよう。
愛読していたのが小説だったのが敗因だろうか。漫画だったなら、その大部分の表現方法は「絵」になる。しかし、小説は「文字」だ。僅かに挿絵のある物ではあった。しかし、肝心の人物・・・初恋の君の顔は描かれていない。分かっているのは、文字による表現と僅かな挿絵にあった後ろ姿。
「・・・それで分かれと言うのは無理があるよ」
小さく呟く。運転をしている爺やには聞こえない様に注意しながら。
あの後、百合子お姉様達と別れた私は絶望に近い思いを抱えた。元々、前世の私は姉と妹が居た。妹的な存在である従妹とは会う事が出来た。仲良くは出来なかったけど。だからこそ、姉的な存在が欲しかったのだ。
そして、見つけた憧れのお姉様。まさかの地雷。そうとしか呼べない存在でした。神様の意地悪。
仲良くしたい。でも、そうすると悪魔に出会う。どうしましょう。何か良い案は有りませんか?
あ、そうだ。
私はあの後、あるお願いを両親にした。最初は渋った両親だが、社会勉強の為と言えば喜んで手配してくれた。仲良くしたいけど、悪魔・・・いや、諏訪輝と会うのは嫌なのだ。ならば、会わない場所で仲良くしたら良いのである。そこで思いついたのは、お姉様方と話していた時に出てきた「塾」だ。
お姉様方は一般家庭の子供も通う塾に通っている。そこに諏訪輝は通わないのだ。そう、その塾でなら仲良く出来るのです!その塾にはお兄様も通っているし、勉強と社会を知る為ならば通わせてくれると思っていました。
そして、私の願いは叶った。
私は今日から、塾に通う。入学式みたいにならない様に頑張るぞー。教室に入ると既に数人が席に座って勉強していた。話し掛け難い・・・私は適当な席に座り、周りと同じ様に勉強を始める。
それにしても、小学生の勉強って簡単だね。一回した事だし、病弱だったから趣味や特技が勉強って感じだったんだよね。お陰で姉に勉強を教える様になったし。
・・・寂しいって言わないで。泣きそう。
授業が終わり、ある事をしようと教室を出る。目指すは入り口近くにある休憩スペース。待ち合わせにも使われるそこには、ある物があるのだ。それは・・・自動販売機。私は、前世は勿論の事、今世でも自動販売機でジュースを買った事が無い。今はお金持ちのお嬢様だし、前は病弱だったから家族がやってけれてたからね。
そんな訳で私は自動販売機を使ってみたい。ジュースを買ってみたい。願望を抱き、目の前に自動販売機が現れる。何種類ものジュースが並んでいるのを見て、ワクワクしてきた。
(どれにしよう・・・初めてだから味が分からないし、試したいけど不安だなぁ)
多彩な種類はその分だけ迷ってしまう。コーラ?確か、前世の友達が好きだったが私は飲めなかった代物だ。サイダー?炭酸水は何度か飲んだが、味が付いてるのは飲んだ事が無い。
・・・良く分からない。お茶にしよう。一番無難だと思う。何度か買ってから色々チャレンジします。
やりたい事はまだまだある。その第一歩なのだ、あまり冒険し過ぎるのは・・・辛いと言うか、疲れると言うか。とにかく、無理はしたくないのですよ。
こくりと飲み込んだお茶の冷たさに頬が緩む。寒い時は温かいお茶が良いが、それ以外なら冷たいお茶が好きだ。そういえば、前世もそうだった。好みはほとんど前世と似ている。やっぱり、魂が同じなのだろう。染み付いたものは中々消えない。
ペットボトルの残りを見る。まだ大分あるお茶は兄達の迎えが来る頃には無くなっているだろうか。そう考えた時、知っている顔が休憩スペースにやって来た。
「あ、お姉様方」
笑顔を向けてくれる人達に対して、自分も笑顔を返す。本当に良かった、塾に通う選択をして。だって、目の前の憧れのお姉様方に悪魔と会う事無く会えるのだから。本当に良かった。私は私を褒めてあげたい。
こうして、私はお姉様方との時間を確保する事が出来たのだ。
そして、初めての友達も塾で出来る事になる。
学園と塾で充実した勉学をしていた私だが、はっきり言ってしまえば同学年の友人がいない淋しい人間だった。まだ一年生で一人ぼっちは辛い。前世の記憶がある私の精神年齢は多少は上になってしまうだろう。しかし、前世だって所謂夭折したんだ。大往生出来た訳では無い。
・・・友達欲しい。切実な願いだった。
最近では自販機からジュースを買う事にも慣れた。今では選ぶのが楽しい。休憩スペースで買ったリンゴのジュースを飲む。爽やかな酸味と甘みが美味しい。出来れば、友達と飲みたいものだ。まぁ、居ないけどね。
「・・・・・・」
このまま・・・友達の居ないまま一生を終えるのだろうか。もしかしたら、破滅への道を進む事になるかもしれないのに?それは、嫌だ。何度でも言おう。私は友達が欲しい。でも、残念ながらどうやって友達を作るのか分からなかった。前世の記憶があっても、今の私の役には立ってくれないようである。前世でだって、友達が多くいた訳じゃ無いし、私からきっかけを作った訳じゃ無い。
本当にどうやって作ればいいんだろう。