二度目の小学校(ただし、一度目は殆んど通ってません)
ドキがムネムネ・・・いや、胸がドキドキする。ごめんなさい、言ってみたかったんだす。でも、ドキドキなのは事実。
入学式ですよ、皆さん。いや、皆さんって誰だ?まぁ、そんな事は置いておこう。私はお金持ちが通う瑞雲学園の初等部に入学するのだ。目の前には大きな門がある。うん、ドデカいよ。こんなに大きくして意味はあるのかな?
私の背中にはピンクのランドセル。値段は知らないが結構したんじゃないかな・・・だってねぇ、お金持ちの意地だよ。このランドセル。子供には関係無いけどね。
それでも、ウキウキしながら校門をくぐった。無駄に大きい。もう少し利便性を考えようよ。
そして、広がる景色。
「すごい・・・」
前世で自分が把握していたのは文章と少しの挿絵だった。それが今は目の前で現実になっている。お城みたいな校舎は、これでも一番地味らしい。勿論、一番豪華なのは高等部の校舎。物語の舞台だしね。それでも、初等部の校舎が描写された事はある。確か、高等部のお兄様お姉様が初等部の子達と交流を持つ為だった筈。毎年、高等部の一年と二年が執り行う重大な行事だ。何故なら、幼い子供を御せてこそのカリスマ。子供は大人ほど我慢出来ないからね。
「藤香ちゃん?」
目の前の現実に感動していると母が呼び掛けてきた。あ、足止まってた。気を付けないと。まぁ、心配はしていないみたいだから良いけど。なんか・・・微笑ましげで居た堪れない。小さい子供が楽しそうに周りを見てるのは微笑ましいよね。ましてや、娘だし。
「ふふ、嬉しい?」
ええ、嬉しいですとも。前世では一応参加出来た入学式。でも、それはあくまで一応なのだ。開始直後に体調が悪くなっていき、序盤で退場する破目になった。あれは悲しかったよ。同じ一年生の子達に見送られての退場。しかも、帰宅する頃には熱が出て・・・病院に向かいました。で、嫌な予感がしたんだよね。予感は当たった。半月入院しましたよ。退院した頃には仲良しグループは出来上がりって訳だ。まぁ、小さかったから仲間に入れてくれたけどね。あの時話し掛けてくれて友達になった子達とはその後も仲良く出来た。あ、私が死んだ後・・・どうしたんだろう。
家族の事ばかり思い出していた私の中に新たな石が投げ込まれた。その石は家族の思い出に比べたら小石に過ぎない。でも、楽しかった日々が蘇る。私、なんて馬鹿なんだろう。友達・・・それも親友と言える子達を忘れるなんて。皆、許してくれるかな?
胸の痛みに耐えながら、入学式を迎えた。
それを見た瞬間、驚きの声を上げそうになった。お嬢様教育が功を制し、上げずに済んだけども。金色に輝くランドセル・・・恥ずかしくないのかな?こっそりとその子を見る。
ん?んん?あれれ?どっかで見た事があるような・・・あ、この子・・・似てる。誰にって?ヒロインのお相手だよ。私を、私の家を、破滅に陥れるかもしれない相手だよ。自業自得な所もあったけども、今はそんな所は無い。でも、彼が居るのなら確実にヒロインも居るだろう。破滅は確定事項なのだろうか。てか、同じクラスなんだね。
・・・胃が痛くなってきた。何で、同じクラスなの?確か、瑞雲のクラス分けは無差別だった筈。成績でも、家格でも無く、ただただ無作為に分けられている筈なのに。怖々と自分の席を探す。どうやら、席は離れている。良かった。出来るだけ関わらない様にしないと。
ヒロインがやって来る高等部まで私の精神が持つかは分からないが。凄まじい勢いで私の精神は削られていっている気がするのですよ。
ひとまず、言いたいのは・・・ヒロイン、趣味悪。だって、金箔を全体に貼ったランドセルだよ?そんな物を使う人間だよ?そんな人を好きになるんだよ?ヒロイン・・・何で、こんなのを好きになったんだろう。
とりあえず、物語が始まる前の設定を思い出そう。霧が掛かった様に細かい事がぼやけている。えーと・・・確か、ヒロインに出会い、ヒロインが傷付いた心を癒すんだっけ。あれ?何で傷付いたんだろう。
えーと・・・えーと・・・思い出せない。両親が死んだとか?違うよね、ちゃんと登場していた。じゃあ、兄弟?いや、一人っ子だったよ。それとも、親友とか?あれ?そもそも、親友が居たかな?
頭の中がはてなで埋め尽くされる。疑問が更に疑問を呼んでいるみたいだった。パンクしそうな頭を押さえる。
心が傷付く何か・・・傷付く・・・心が?あ、思い出した。失恋だ。そうかそうか、良かった。って、良くないよ。相手は誰だっけ?えーと・・・確か、長年の初恋だった筈。その長年の拗れに拗れた初恋が実らず、暗い日々を過ごすんだっけ。誰だろう、こんなランドセルを恥ずかしげも無く使える奴の初恋の君は。
思い出せなかった私は帰宅してから考える事にした。だって、もう頭がパンクする。
友達出来るかなぁと期待していた私は見事に打ち砕かれた。周囲を見渡していて気付いたのは、私を見る周囲の目。この時になって、自分が超の付くお嬢様だと思い出したのだ。前世と同じく、スタートで躓くとは。周囲は元々仲が良い家の子供同士で交流があったのだろう。グループが出来上がっている。ぼっちなのは、家格が高過ぎる家の子ぐらい。まぁ、私も含まれるんだけどね。
私はポツリと自分の席に座っている。他の子は仲の良い子の所に集まっているのに。うぅ、辛い。でも、声も掛けられない。さっき、隣の子に話し掛けたんだよ?おとなしめの可愛い女の子。それで、オドオドされました。声掛けて、ごめんなさい。隣の子が席を離れるのを見送りました。
私が話し掛けてもオドオドしない子となると少ないだろうなぁ。本当にどうしよう。前世みたいに誰か話し掛けてくれないかな?
涙出そうなんだけど・・・じんわりと滲んだ視界。耐え切れずに俯く。私って・・・友達作れない。そういえば、小説で藤香に居たのは取り巻き。友達では無かった。
前世での友達の優しさが身に沁みる。何で、もっと一緒に居なかったんだろう。病弱だった私は皆と遊ぶのを遠慮していた。もっと我儘言って遊んで貰えば良かった。彼女達は優しかったから、私の傍に居てくれた筈だ。
悔しさの残る前世に思いを馳せる。あぁ・・・今世こそはと思っていたのに。
結局、友達が出来ないまま帰宅となった。迎えの車に乗り込み、ぼんやりと窓の外を見る。自分が望むのは、何なんだろう。
「お嬢様、お疲れになりましたか?」
優しい声がする。この声は運転をしている爺やの声だ。私が生まれる前から家に仕えている。だから、私が生まれた時から私を知る、私を私以上に理解してくれる存在だと思う。それに、爺やの声は落ち着いていて、本当に優しくて優しくて・・・そして、私に子守歌を歌ってくれたのは爺やである。
だからなのか。爺やの声を聞いた瞬間に肩から力が抜けて、何時の間にか眠ってしまっていた。
起きた時には車の中じゃなくて、ベッドの上。周りを見れば、少女趣味全開の私のお部屋。前世の殺風景な病室が嫌だったから、こんな部屋になっている。でも、天蓋付きはやり過ぎただろうか。一瞬何処に居るか分からなかった。
どうやら、爺やが運んでくれたようだ。時計を見れば、夕食までもう直ぐである。私は急いで髪を梳かした。
そんな学校生活初日。私は金ぴかランドセルの少年の初恋の君を思い出すのを忘れていました。