やっぱり無かった話にして貰いたいです。
夏休みが明けた。夏休みの間に何度か彼と会ったが中々良好な仲ではないだろうか。目指せ、親しい友人なのだから好都合だ。しかし、困った事がある。
「藤香様は諏訪様の事がお好きなのですね」
同級生達の言葉に内心ショックを受けつつ、何とか受け流す事が出来た言葉だ。同級生達の勘違いは否定すればする程、肯定している様に見えてしまうだろうから苦笑いするだけに留めた。諏訪輝には説明を求められたら答えれば良いだろう。そして、その時は思ったよりも早かった。
同級生達の言葉にショックを受けた翌日、諏訪輝から呼び出された。
「分かってるだろうな」
威圧するように言う諏訪輝だが、その外見はあくまで子ども。怖くない。でも、これが脅しなのだという事は分かる。どうやら、この悪魔は勘違いをしているようだ。
どうしようかと考えている内に悪魔は何やら満足げに立ち去った。勘違いを正せないまま見送ってしまう。本当に、どうしよう・・・
悩んでいても仕方が無かった。一先ず、私がこの婚約を喜んでない事を家族に伝えよう。
「お兄様、お話したい事があるんです」
私はとりあえず、話しやすい一番下の兄に伝える事にした。喜んでいない事を必死に言葉にした。兄は拙い私の言葉を聞いてくれていた。話を聞いてくれるって素晴らしい。
「分かった。皆にも伝えよう」
私の頭を撫でながら兄は微笑む。その笑顔に安心する。分かって貰えるのは嬉しい。
そして、夕食を囲んでいる時に婚約の話は内々の物で発表はしないとの事。安心した。それなら、婚約は何とかなるのではないだろうか。その時はそう思っていました。
私は呑気にその日のメインである平目を食べていた。とても美味しかった。
後悔したのは翌日の事である。無かった事には出来なかった話が何故か周囲に知られていました。何故かと思って訊ねてみたら、あの諏訪輝本人が言い触らしていました・・・本当に何で?
呑気だった自分を責めたいです。
「仕方なくだからな。お前の事なんて何とも思ってないが、家の為だ。必要以上に俺に関わるなよ」
関わらない事をこちらがお願いしたい位です。勿論、そんな事言える訳が無い。微妙な表情をしていたのだろう。訝しげに私を見る悪魔・・・はっきりと言えば、関わらないのは無理な話なのである。それは彼も知っているだろう。
なのに、そんなに関わるのが嫌か。その考えは家の事を思えば子供過ぎるのである。これではフラれても仕方が無いのではないだろうか。頭が足りない。いっそ、さっさとフラれてくれないかな?その時はまだ先だけど、きっと今の状態では同情しないのだろうなと思う。
去って行く悪魔の背中に蹴りを入れたくなった。そんな事は出来ないから歯を食い縛る。
「・・・・・・」
小さく溜め息を吐く。私の望みは叶わないのだろうか。ここは物語の世界という事なの?それでも諦められないのは前世の記憶があるから。生きたいと願うから。
だから、どうか叶えさせて下さい。多くは望みません。願いながら虚しくなってきた。物語の通りに進めなければならないと言うのでしょうか。そんな苦痛を味わう位なら前世に戻りたい。折角の生きるチャンスを活かせない自分はどうしたら良いのかと途方に暮れてしまう。
「・・・やだなぁ」