無かった話になんて都合良くは行きません。
どうして、こうなったんだろう・・・無駄に抵抗しようとしたからだろうか?それとも、小説の通りになるように何らかの力が働いているの?そう思ってしまう事実に溜息が零れる。あぁ、家族に心配掛けてしまうのは嫌だな・・・
「・・・やだなぁ」
今までの努力は何だったのか。無駄だったのかな・・・いや、まだ分からない。最後まで足掻こう。それが私に出来る事なら。
「頑張る」
生きる為に足掻く。生きられなかった前世の分も。
「藤香ちゃん」
優しい声が私を呼ぶ。
「××」
温かい声が私を呼んだ。
「誰?」
私は誰なのだろう。私の名前はどっち?
はっと目覚めた私は暫くの間、荒い呼吸をしていた。夢を見た。懐かしくて恐ろしい夢。
「・・・前の」
前世の私の家族の夢。以前はもっと鮮明だったようにも思える。それは私が忘れて来ているからなのだろうか。現世の私の記憶が増えて行く度に前世の記憶は薄れて行く。当たり前なのかもしれないが、頼りになる記憶まで消えてしまっては困るのだが。
「・・・私、生きるよ」
だって、もっと生きたかった。でも、生きられなかった。死んでしまったから、今の私が居る。
「絶対に可愛いお婆ちゃんになって孫に囲まれて死んでやるんだから!」
それまでは生きてみせる。気合いを入れる。元気な私を見せる事なんて出来ないけれど、元気に生きるから・・・皆も生きるの。
ベッドから降りる。頑張ると決めた後に見た夢なだけに頑張れって言われているような気分だ。真実がどうなのであれ、私にとっては頑張れなのである。もう直ぐ、夏休みは終わる。その頃には私が諏訪輝の婚約者になった事は周知されているだろう。とりあえず、私がするのは「諏訪輝」の「鳳院藤香」の好感度を上げる事だ。そして、信頼出来る友人になる。それなら、婚約破棄になったとしても諏訪家とは縁が切れる訳では無い。
「よし」
気合いを入れる。私はこれから生きる為に生きるんだ。
その為にはまず朝食。きっと美味しいご飯を作ってくれているだろう。この前、新しく買って貰った白のワンピースを着よう。またやり始める為に。
「目標、嫌われない!」
その後の事はその時になってから考えよう。残念ながら、私に未来予知は出来ないのだから。
朝食はパンケーキだった。朝はたっぷりのヨーグルトを乗せて食べるのが好きだ。今日もたっぷりとヨーグルトを乗せる。そこに爺やが蜂蜜をたっぷりとかけてくれた。爺やにお礼を言って、一口。美味しさが口の中に広がっていく。大丈夫、頑張れる。
「藤香ちゃん、美味しそうね」
美味しいよ。だって、これはお母様が焼いてくれた物だ。大丈夫、これからもやっていける。そう思える元気をくれる味だった。
2017/3/4 誤字修正