夏休みの過ごし方
テストが済んで、平穏な毎日を過ごした。特に悪魔、ゲフンゲフン・・・諏訪輝の魔の手にかかる事もなく過ごしたのだ。うん、平和って素敵な事である。幸せを噛み締めながら、私は夏休みを迎えたのだった。
さて、夏休みである。どんな学校にだってある夏休みだが、健康な身体で過ごすのは初めてで楽しみにしている。両親の計画では家族で旅行を考えているようだ。何処に行くんだろう?前世ではそんな事出来なかったから楽しみだった。
ただただ純粋に楽しみにしていた、うん・・・何でこうなったんだろう?私はただ楽しい旅行になったら良いなって思ったんだけど。
私が今居るのは美しい白浜の海。綺麗だ。海に罪は無い。でも、楽しめる気がしないのはここが諏訪家のプライベートビーチだからだろう。何故、ここに居るかは大人達の思惑である。
私に釣り合う相手、それが諏訪輝なのだ。家の事を考えるとベストな相手である。それで小説でも婚約するんだっけ・・・嫌だなぁ。やっぱり恋愛ってしてみたい。私は前世で短い生涯だった。そんな訳で恋をした事がありません。
憧れている。それも、物語みたいな恋愛に。
平穏が欲しいです。そう願いながら私は食卓に着く。テーブルには美味しそうな料理が並び、人々の食欲を刺激している。でも、今の私はとにかく早くここから抜け出したかった。何故、諏訪輝と同じ食卓に着かなければならないのだろう。私はこの人と関わりたくないんです。きっと、そう訴えても聞き入れては貰えないだろうけど、心の中では叫ぶ。
メインの魚料理を口にする。美味しい。料理に罪は無いのだから、ちゃんと完食します。あ、これヒラメだ。美味しいね、このヒラメ。現実逃避しながら、一心不乱に食べる。そもそも、こんな状況で現実逃避しないで和やかに食事が出来ると思えないし、する余裕も無い。
元気の無い私の様子を窺う兄達に気付く。でも、ごめんなさい・・・元気なんて出ない。
しめじめとした食事が終わると私は与えられた部屋に戻った。何とかして、心の整理を付けなければならない。そもそも、彼はまだ私の害になる存在では無いのだ。小説ではこれからの未来でそうなるだけで。あれ?まだそんなに警戒する必要は無いのかもしれない。でも、安心は出来ないから気を付けるようにして・・・そんな風に考えながら私は眠ってしまった。
そして、翌日。私は後悔した。
起きてみると両親と兄達が笑顔で伝えてきた事がある。私にとっては笑顔になれない事実。待って、何で?物語が始まってからの婚約だったよね?何で今から婚約してるの?
帰宅して自分の部屋に戻った私は溜息を吐く。まさかの婚約に涙が出てきた。どうしよう、もう物語と違う現実に対処法が分からないよ。どうやったらこの婚約を解消出来るのだろうか・・・それも円滑にである。難関過ぎる事に私は挫けそうだ。
円満な関係を築き、後腐れ無く解消する。その為にはせめて仲良くしなければならない。関わりたくなかった人と仲良くするのは苦痛だろう。しかし、しなければ悲惨な目に合ってしまうのだ。それは避けなければ・・・家族の為にも。
でも、本当にどうしようか。
私の悩みは一晩中続いた。悲しい事に名案は浮かばなかった。