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#1 二度目の人生は森の中で引きこもってるよ

 今日も昨日と変わらず、家の隣にある小さな広場で椅子に座って太陽の日差しを浴びながら本を読む。

 周りは木、木、木で埋め尽くされていて、私が座っているところだけ日差しが差し込むようになっている。まぁ、周りに木しかないのは森の中だから当然といえば当然なんだけどね。

 この世界の共通言語で書かれた本のページを捲ろうとした瞬間、ふと、隣に飲み物とお菓子を置くために設置したテーブルの上に手紙があることに気がついた。

 本を読み始める前にはなかったそれを手に取り、封を開け中から便箋を取り出し読み始める。


 カナへ

 儂がお主をその世界へ送ってから15年が経った。お主だけでなく、お主の前の世界も15年の時が経っておる。

 今その世界ではVRMMOというものが始まろうとしているのだ。そしてそのVRMMOはデスゲームとなる。普通ならば、儂等はどうなろうと手を加えたりはしないのだが、このデスゲームにはあるはぐれ神が関わっている。

 儂等が下界に降りることはできぬのだ、降りていまえばいかなる理由があろうとも許されぬ。そのためお主に頼みたい。

 デスゲームに参加し、そのはぐれ神を捉えてもらいたい。お主の強さは既に神の領域へと踏み入っておる。そして神に対抗するために必要な神力もある。 

 いきなりこんなことを頼むのは悪いとはわかっておる。しかし頼めるのはお主しかおらぬのだ。

 報酬も儂等に可能なことならばいくらでも出そう。

 連れは何人でも連れて行ってもいいが、できるだけ少ないとうれしいぞい。

 受けてもらえるならば、この手紙を持ったまま受けると念じて欲しい。




「特にすることないし、この二度目の人生を与えてくれた恩返しとして受けるかな」


 手紙を持ったまま、受けると念じる。


 すると、便箋に書かれている文字が全部消え、新しい文字が浮かび上がってきた。



 受けてくれて感謝する。三日後の日付が変わる時にお主の家に使いの者を送る。



 私は別に今すぐでも構わないんだけど……、あぁ、連れを連れて行く場合誘いに行かないといけないもんね。

 といっても私には連れなんていないし……。


「あっ、そういえばあいつ最近伸び悩んでたっけ。VRMMOならちょうど良さそうだし誘ってみるかな」


 デスゲームなんて、この世界の人からすれば現実と変わらない、いやLvUPとかスキルとかで簡単に強くなれる分デスゲームの方が楽なのかな?


 




 私がこの森に住み始めて2年が経った時だった、一流の冒険者ですら入るのを躊躇う程の魔物が住み着いているこの森に一人の子供がいた。

 このことを教えてくれたのはこの森の頂点に君臨するもふもふワンコのメイラ。

 冒険者ならば容赦せずに襲いかかるけれど、どう見てもそうは見えないと言い、私にどうするか聞いてきたんだっけ。


 取り敢えず私がその子供の所へ行き、たどり着いた時にはゴブリン3匹に囲まれ今にも殺されそうな場面だった。

 ゴブリン、普通なら最下級に位置する魔物だけど、この森のゴブリンは少し違う。この森のゴブリンはこの森で生き抜くために力をつけた。種類は最下級と同じだが、強さのランクはBといったところだろうか。

 えーと、それで私が助けに入ると、緊張の糸でも切れたのか、子供は倒れた。

 仕方がないからその子供を私の家に連れて帰ったんだ。

 そして、その子供が目が冷めた瞬間に、私を見てなんて言ったんだっけ、

「俺強くなりたいです! 自分を守って生きていくだけじゃなくて、他の人も助けれるように! お願いします! 俺に戦う方を教えてください!!」

 そうそうこんな感じだった。

 なんでも倒れる前に私がゴブリンを倒したところを見ていたらしい。

 その後何故この森にいたのか、ということも聞いた。

 それを聞いて私はその子供、アルを弟子にすることにした。

 まぁ、弟子というか息子のような感じもあったね。

 アルには住む場所とかもなかったし、私の家に住ませた。

 アルには魔法の才能はなかったけれど、恵まれた身体があった。毎日家周りの安全圏内を走り込ませれば、普通の人の何倍もの速さで体力がついていき、基礎トレーニングでも同じように。

 五年が経った時には強化魔法を使っていない私の力を超え、素手で木を殴り倒すなんてこともできるほどに。

 もちろん戦闘技術もきっちり教え込み、剣があればこの森にいる魔物と一対一ならば負けない程には強くなった。

 そしてアルはこの森を出たいと言った。

 森を出て困っている人を助けたい、そしていろんな人の戦い方を見て技術を盗んでもっと強くなりたい、と。

 ついにこの時が来たかと思いながら私は許可を出し、アルはこの森から巣立っていった。

 アルを鍛えていた日々はとても楽しかった。だからその日々が終わるのは嫌だったけれど、私はアルが森を出ると言ったら否定しないと決めていた。

 アルは他の人を助けるために強くなった、ならこんなところにずっといたらそれは叶わない。


 アルはこの森を出てからも数ヶ月から一年に一回帰ってきて色々話をしてくれる。

 そしてついこの間帰ってきた時に最近伸び悩んでいるという話をしていたんだ。





 確か、今度は迷宮都市に行くって言ってたっけ……。

 ちょっと遠いかな、歩いたら片道一ヶ月程度。馬車でも往復三日以内は無理だね。

 転移魔法なら一瞬だけどね。

 別に何も持っていかなくても転移で取りに戻ってこれるから問題ないんだけれど、着替えくらいは持っていこう。あとギルドカードかな。

 読んでいた本に栞を入れ閉じ、椅子とテーブルも家の中に片付ける。 

 部屋に戻って着替えを空間魔法を掛けているポーチに詰め込む。

 ギルドカードはポーチに入れっぱなしのままだっけ。

 家はこのまま放っておいても魔物は誰も近づいてこないし、人はこの森にすらまず入ってこないから大丈夫。

 私は転移魔法で迷宮都市の近くにある印の場所へ転移する。




 次の瞬間には景色は森の中から平原へと移り変わる。そして後ろには迷宮都市の外壁がそびえ立っている。

 このまま外壁沿いに10分程歩き門に辿り着く。

 この時間帯都市に入ろうとする人は少ない。冒険者は都市内にある迷宮に潜るため、都市の外に出ることは、他の都市に移動する時しかない。入ってくる冒険者は大体が朝一か夕方になる。

 商人の場合も大体同じような感じで、この昼ごろはほとんど入ろうとする人はいない。

 今回もそうらしく、誰ひとり門を通行待ちしている人はいなかった。

 

「ん、この時間に人か、珍しいな。まぁいいか、自分を証明するものを見せてくれ。ない場合は銀貨一枚で仮身分証を発行するぞ」


 ある程度門に近づくと門番が話しかけてくる。その門番にギルドカードを見せる。


「カナ、冒険者。ランクは……隠してるか。まぁ関係ないしいいか。よし通っていいぞ」


 門番からギルドカードを受け取り門を通り抜ける。それと同時に前来た時とは変わらない景色が目に入る。行き交う人の中に多くの冒険者が見える。

 ここ迷宮都市では他の都市よりも倍程度の数の冒険者が集まっているため、住民の営業する店も冒険者にスポットを当てたものが多く存在するため、冒険者なら一度は来たい都市の一つだね。


 人にぶつからない様に気をつけながら中央通りを少し進むと大きな建物が見えてくる。

 他の都市よりも冒険者が多いため必然的にその建物も大きくなる。

 その大きさは周りの建物を飛び抜けており、例えるなら親と子みたいな感じかな。

 そう、この建物がギルドだね。


 ギルドの扉は常に開放されており、私はそれを通り抜ける。


 中にはまだ昼だというのに、酒を飲んで酔っ払っている男がたくさんいた。

 それらを一瞬ちらっとだけ見て、受付に向かう。


「こんにちは、本日は―――――」

「アル・ゼレンスはこの都市にいるかしら」


 私がアルの名前を言った瞬間ギルドの空気が変わった。


「おいおい、嬢ちゃんあのクソガキのファンかぁ? あんな奴より俺のファンになれよ、そしたら毎日可愛がってやるぜ」


 後ろからおっさんが話しかけてくる。

 振り返ると、片手にジョッキを持ったまま酔っ払っている男が立っていた。


「なぁ、どうよ―――――」

「おい」


 その男が私に手を伸ばそうとした瞬間、その男の肩に手が乗せられた。


「その嬢ちゃんはお前みたいな弱っちぃBランクなんかじゃなくてAランクの俺のファンになるんだよ。引っ込んどきな」


 助けてくれるのかと思ったけれど、どうやら違うようだ。新たに現れた男は身長2メートルを超えており、大男と称するにふさわしい大きさだった。

 まぁ大きいからといって必ずしも強いとは限らないけど。


「あ、あの……」


 後ろでは受付の人が慌てているのがわかる。

 確かに私はムキムキでもないし、武器も持ってないから弱そうに見えるんだろうね。私にはどうしようもできないと思っているだろう。

 受付の人は私を助けようとしてくれてはいるものの、目の前の大男が怖いのか震えている。

 あ、最初のBランクの男は逃げるように外に出て行ったよ。


 まぁ、無視でいいかな。私に触れようするまでは放っておこう。そしたら正当防衛で殴れるしね。


「ねぇ、アルはこの都市にいるの?」


 大男に背を向け、受付の人に再度尋ねる。


「え、ええと……」


「おいこら、俺を無視しやがって……!」


 気配で後ろの大男が殴りかかってこようとしているのがわかる。


「ヴァン、やめておけ。ギルドの入口の方を見てみな」


 どこからともなく爺さんの声が聞こえ、大男だけでなく、私も気になったので入口の方へ振り返る。


「アル?」

「ヴァン、俺の師匠に手を出そうとした瞬間潰すぞ」

「「「「っ!?」」」」

 アルはそう言いながら周りを威圧する。うん、前より成長しているみたいでなによりだね。

 アルがこっちに向かって歩いてくると同時に、私の横に爺さんが近づいてきた。


「この人はな、Lランクのカナ・ゼレンスだ」

「あ、ジンじゃん。その年でまだ現役?」

「いや、既に引退しておる。今はここのギルドマスターだよ」

「そうなんだ、おめでとう?」

「それにしても全く・・姿変わってないのだな」


 私がこの世界に来た時は16歳。15年が経ってもその時の容姿から全く変化がない。

 つまり私は永遠の16歳ということ。30歳? 見た目も心も16歳なんだから16歳なんだよ!



 「まぁねー」

 そう言いながら私はアルを抱きしめる。私の方が身長が小さいから抱きしめるというよりは抱きつく感じなんだけどね。

 久しぶりに合う息子だし? ついつい抱きしめたくなるんだよね。


「アル、もっと強くなりたい?」

「当然だ!」

「よし、ジン。しばらくアル連れて行くね」

「か、カナ。連れて行くというのはどういうことだ?」


 私の問いかけにアルは即答し、ジンが私に聞いてくる。

「ちょっとね遠いところに行ってくるんだよ。もしかしたら数年掛かるかもしれないからそのへんよろしくっ!」


「す、数年!? アルはこの辺りで唯一のSランクなん―――――」

「ではではあでゅー」


 転移で私とアルは森の中にある家に転移する。


 ジンならどうにかしてくれるだろうし、大丈夫。うん、多分。


LランクはSの上のランクでルナティックのLです。



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