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神霊核

彼は戸惑っていた。

口腔内には多量の炎のマナ。ブレスとして吐き出せば、眼下の小さき人間など瞬く間に消し炭と化す筈である。

先程戯れに投げつけたキュマイラの爪でも当たったか、人の子の片腕がなくなっていた。

このまま捨て置いてもやがて死んでしまうであろう人の子の目の前に突如現れた・・・・・・ソレ。


ドラゴン族の頂たる竜帝に等しきオーラを纏いし結晶は、人の両拳を合わせた程の大きさだろうか。


本能は、危険なものだ、滅せよと警鐘を鳴らす。

理性は、竜帝の如き結晶に攻撃するを良しとしない。


故に、口腔内にある炎のマナを蓄えたまま、彼は動きを止めていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ドラゴンがブレスを吐く動作を見せた瞬間、ソレは目の前に出現した。

キラキラと輝く、丸く削りだされた氷の如き結晶。


『喰エ』


突如、響く声。 一瞬、幻聴かと思った。


『ソレヲ喰ラエ』


頭の中に響き渡る何者とも知れない声。

心が支配される。強烈な『飢え』に。


気が付いた時には結晶を手に持ち、口元へと運んでいた。


ガリッ


まるで氷か巨大な飴をかじる様な音を立て、結晶を口に含む。

噛み砕かれ小さな欠片となった結晶は溶け、消えていく。

懐かしい感触。身体中に温かな何かが拡がっていくように思えた。

しかし、結晶の全てを呑み干しても『飢え』は残ったままだ。


『足リヌ・・・・・・喰ラエ・・・・・・アラユル・・・・・・』


自分に何が起きたのか。

微かに残る自我はここで起こった事を思い出そうとしていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「な、何だよ、コレ・・・・・・」


思わず自分の目を疑う。だって、目の前で魔物達が殺し合ってるんだ。信じられない。

ドラゴンが。巨大な怪鳥が。狼に似た怪物が。様々な怪物が互いに争っている。昔話とかお伽噺(とぎばなし)でしか出てこないような魔物がだ。


まるで夜中のように真っ暗な空には黒い雲。そして雷がそこかしこに走っている。

荒野のような大地をぐるりと囲むように積み上げられた大岩。人の手に因るものではないだろう。

無造作に積まれた大岩の高さは二階建ての建物よりもありそう。


そこらには戦闘の激しさを表す様に様々な魔物の死骸らしきものが転がっている。


「夢・・・・・・だよな・・・・・・」


今日一日、身体が重く熱っぽさがあったから、早めに寝たのに・・・・・・そのせいで、こんなヘンな夢を見てるんだろうか?


とてもリアルな夢だ。辺りには血の臭いのようなものが満ち溢れている。時折ドラゴンの吐く炎のブレスの熱風がここにまで届き、夏の暑さを思わせる。

上空では巨大怪鳥と飛竜がぶつかり合う。怪鳥の羽ばたきで突風が起こり、思わずバランスを崩し転倒する


「ホントに夢・・・・・・なのか・・・・・・?」


巻き起こる風に飛ばされぬ様に地面に伏せる。

ふと目線を上げると、少し先に半壊した金属製の巨大な人間っぽいものが見えた。ゴーレムとゆー魔物だろうか?

あの陰にいれば風をやり過ごせそうだ。

匍匐(ほふく)で前進して、ゴーレムの元へたどり着く。


一際大きく地面が揺れる。巨大な何かが落ちたのだろうか?

風の当たらないゴーレム陰に身を寄せる。人間でいう脇の辺り。


「もし、夢じゃなかったら・・・・・・何だ?父ちゃんのイタズラ・・・・・・じゃないよな・・・・・・」


「・・・・・・お前は何者か」


突然、目の前から囁く様な声がした。いや、囁き声にしては大きいんだけど。

キョロキョロと見回すと、自分の身長の倍くらいのところに赤い光が。どうやらゴーレムの目らしい。

・・・・・・ゴーレムの目?


「まさか・・・・・・」


「何者だと聞いている。人の子に見えるが、どうやって入り込んだのだ」


はっきりと聞こえた。ゴーレムの顔らしきところから。

まさかまだ生きてる・・・・・・?

ゴーレムの首がわずかに動き、こちらを向く。


「う、うご、うごッ・・・・・・」


「騒ぐな、人の子。他の者に気付かれる」


思わず口を押さえる。確かにドラゴンや怪鳥に見つかったら、ひとたまりもない。

とりあえず、このゴーレムには敵意はなさそうだ。


「人の子よ、何故ここにいる?ここは魔物しか入れぬ場所」


「まさか・・・・・・夢じゃない・・・・・・?」


「夢?・・・・・・なるほど、夢幻回廊経由の迷子か」


夢幻回廊って・・・・・・神隠しの一つって言われるアレか?

寝てる人が突然消えるのは、夢の世界とこの世を繋ぐ夢幻回廊に落ちたからってじっちゃんがよく言ってた。

え!?じゃあ、コレは夢じゃないのか!?


身体がガクガクと震え出す。ヤバい、ヤバいよ。

こんな魔物の殺し合いのとこにいたら、確実に死んじゃう。

神隠しに合った人が戻って来ないのは、コレが原因!?

来月で十三だけど、僕はただの子どもだ。勇者の子孫とかでもないし、伝説の武器とかも持ってない。


「怯えるな、人の子。一時も待てば戻れる」


「え!?」


ゴーレムの言葉が冷水の様に頭に染み込んでくる。

パニックを起こしかけた頭が多少の冷静さを取り戻す。


「え!?ホント!?帰れるの!?」


「ここは一定時間のみ存在する闘技場。時間が過ぎれば元の場所へと戻される。」


「ってことは、それまで隠れてればいいんだね?」


「時間まで生き残る事が出来ればの話だ、人の子よ。・・・・・・オークの上位種が来るぞ」


ゴーレムに促された方を見ると、醜悪な人型の猪っぽいものが、こちらに向かっている。

僕と同じように、ゴーレムの陰に隠れるつもりか・・・・・・?


「ど、どうしたらいいの?僕、襲われちゃうよ」


「ならば潰すか?人の子よ」


え?と思った瞬間、ゴーレムの肩辺りからパシュッと音が鳴る。

こちらに向かっていたオークが突然弾け散る。


「!?」


驚いてゴーレムを見ても、無表情。

今のってゴーレムがやったんだよね・・・・・・

うぁ・・・・・・ちょっとチビッた・・・・・・


「威力がありすぎたか・・・・・・迂闊だった」


ゴーレムは上空に目線を向けている。

上空にはキュマイラを強靭な顎で噛み砕こうとしていたレッドドラゴン・・・・・・え?まさか?

案の定、ドラゴンはこっちを見てる。


「やはり気付かれたか」


はぁ!?何言ってんの!?ドラゴンだよ!?ヤバいじゃん!!

何だっけ、こーゆーの・・・・・・あ、死亡フラグ、死亡フラグ・・・・・・って、死んじゃダメぢゃん!!

隠れてたら大丈夫って言っといて、自分から音立てるってなんだよ!?


・・・・・・ドラゴン、笑ってる?ニヤリとしてる!?

ダメだ・・・・・・終わった・・・・・・


「案ずるな、人の子よ。我もここで負ける訳にはいかぬ」


・・・・・・ちょ、なんかイヤな予感が・・・・・・


「我にはローズクォーツゴーレムの許嫁が・・・・・・」


「うわぁぁぁぁ!!!!」


思わず、ゴーレムの台詞をかき消すように絶叫する!!

フラグ台詞ぢゃん、今の!!アウトだよ、アウト!!


僕の絶叫に応えてか、上空のドラゴンの首が大きく仰け反る。

あの構えって・・・・・・もしかして・・・・・・


「人の子よ、しっかりつかまっていろ」


言われなくても掴まってる。

ゴーレムは腕を僅かに動かして、僕の回りにシェルターのような隙間を作ってくれた


首をしならせたドラゴンが、ブゥンとゆーような音と共にキュマイラの巨体をこっちに投げつけた。


何か凄い衝撃と爆音、舞い上がる土煙、そして・・・・・・強烈な痛み。

身体を引き千切られたような強烈な痛みと身体を濡らすなま暖かい液体の感触。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・・


思わず地面を転げ回る。

ガグンと何かに当たって身体が止まる。

少しだけ見えたのは・・・・・・巨大な肉食獣の顔!?

光を失ったキュマイラの眼・・・・・・


ゴーレムは・・・・・・顔と胸?の辺りが残ってるけど、後は見えない。衝撃で跳んだのかもしれない。


起き上がろうとするが、痛みで視界が霞む。

右腕で支えようとして・・・・・・・・・・・・ない



ぼくのうでがなかった


かたのあたりからない


まるでなにかにきられたようにずばっと



血の気が引く。サーーッて音が聞こえそうなくらい。

痛みも消えていく。もしかして・・・・・・死んじゃう?



「逃げ・・・・・・人の・・・・・・」



逃げれない・・・・・・逃げられないよ、ゴーレム・・・・・・

もう隠れるところもないし、逃げても空から丸見えだよ・・・・・・


いやだ・・・・・・しにたくない・・・・・・しにたくない・・・・・・シニタクナイ・・・・・・シニタクナイ・・・・・・


上空のドラゴンは、炎を吐くような準備動作をしてる。

僕らに見せつけるかのように。

もっと怯えろ、もっと恐怖しろと言わんばかりに。


イヤダ・・・・・・シニタクナイ・・・・・・コワイ・・・・・・コワイ・・・・・・コワイ・・・・・・シニタクナイ・・・・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目の前で起きた出来事を彼は信じられずにいた。

路傍の石にしか思えない人間の雛がアレを喰らった。


コレは人間ではない。その正体に彼は心当たりがあった。


卑しき魔族、『修羅』


世に存在する竜族や魔族、神等にしても『核』というものを体内に秘め、 『核』に刻まれた情報を元にして存在している。

その『核』の結晶体を『魔核』や『神核』と人族は呼称し、武具や道具の素材としたりする。


その『核』を喰らい、己の力とする魔族が『修羅』


他者の血肉を喰らい、己の力とする者は竜族や魔獣にも存在する。しかし、それは栄養以上の意味をほとんど持たない(例外的に上位の存在へと『進化』する事が極まれに起こる)


その能力から、補食対象となりうる『核』を持つほぼ全ての者から忌み嫌われる。


今では数を減らし、『魔核喰い』の能力を持たない修羅がほとんどだと聞いていた。


しかし、目の前にいるのは『魔核喰い』の修羅。

まだ雛で戦闘力は低いし手負いだ。

殺らなければ、こちらが殺られる。


いつ殺るか?

今だろ!


彼はそう判断し、周囲に渦巻く炎のマナを更に口腔へと集め始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



上空のドラゴンが再びブレスの準備に入った。

僕を焼き殺すには先程集めた炎のマナで充分なはずだ。

・・・・・・そうか、警戒してるんだ。

結晶を・・・・・・『核』を取り込んだ僕を。


取り込んだ『核』が馴染んだのか、先程感じた飢えは既にない。

むしろ気持ちは落ち着いている。いや、恐ろしい迄に冴え渡っている。


このままではドラゴンのブレスに焼かれてしまう。何とかしないと・・・・・・


ふと目についたゴーレム。壊れかけの胸内部に光る・・・・・・『核』


ゆっくりと数歩進み、ゴーレムの『核』へと左手を伸ばす。


「我・・・・・・喰ら・・・・・・」


目の光が消えかけのゴーレムが訴える。

止まりかけた手を伸ばし、ゴーレムの『核』に触れる。


「・・・・・・ごめんなさい。ありがとう」


謝罪と感謝の言葉を口にして、一気に引き抜く。

先程の結晶よりも二回りくらい小振りで、チカチカと瞬く光を内包していた。

眺めていたい気を抑えつけ『核』に喰らいつく。竜口の炎のマナはこの瞬間にも膨れ上がっている。躊躇する間はない。


「右腕生成」


何故だか取り込んだ『核』の扱い方が分かる。

ゴーレムの『核』を使って、欠損した腕を再生させる。

・・・・・・生身ではなくオリハルコンの腕になってしまったようだが、気にしている余裕もない。


今のところ、空を飛ぶ能力はなさそうだ。

攻撃に使えるのは・・・・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なん・・・・・・だと・・・・・・

壊れかけのゴーレムの『核』を喰い、腕を生やしただと!?

まさか、あれは修羅ではない別の魔族なのか!?


彼の心に焦りが生まれる。

圧倒的強者であったはずの状況が|攻撃をされてもないのに《・・・・・・・・・・・》覆された。

能力もプライドも高い彼には初めてのことだ。

しかし、屈辱を感じる余裕すらない。

ほぼ脳筋な赤竜族の数少ない例外である彼は生き延びる事を、『次の魔王候補に修羅がいる』情報を持ち帰ることを最優先に彼は思考を切り換える。


ブレスを少しずつ吐き、牽制しながら時間切れを狙うか。

後少しでこの空間の効果時間も終わり、住みかである竜の谷へと転送される。

飛んでさえいれば、攻撃される心配はないだろう。

未だ攻撃がないということは近接以外の攻撃手段を持っていないと考えて問題はない・・・・・・か?



いや、相手は修羅。『核』を喰らえば戦闘中だろうが急成長を遂げる存在だ。

遠距離攻撃を持つ『核』を見つけられた瞬間に、こちらの有利さは随分と下がるだろう。

いっそのこと、最大火力で勝負をかけるか。

負傷なり何なりで行動を制限出来れば・・・・・・いや、それは悪手か。

目の前で見たではないか。ゴーレムの『核』を使い、欠損した腕を瞬時に再生させたのを。

キズを負わせれば、再度オリハルコン化で修復される可能性がある。

皮膚をオリハルコン化されれば、ブレスの威力は半分以下だ。

そして最初に取り込んだ謎の『核』の存在が一番の不安材料となって、対策を立て難くしている。


余裕から遊んでいた先程の自分を恨みがましく思う。

キュマイラをちゃんと当てていれば、こんな・・・・・・



ある事に気付き、彼の表情が固まる。



あの修羅に気付かれる前に始末しないと益々自分が不利になる。

何とかしなければ・・・・・・


ブレスを放つべく、彼は首をしならせ大きく息を吸い込んだーーー途端に口腔で起きる爆発。

百以上の人間を焼き尽くす程の炎が彼の口腔内で暴れ回る。

炎の耐性を持つレッドドラゴンでもこれだけ至近距離で炎を受ければ多少のダメージがある。が、それ以上に精神的ダメージが彼を襲う。

思考が一瞬止まる。何が起きたのかが理解出来ない。


修羅が何か仕掛けたとしか思えないが、何をしたのか・・・・・・されたのかが理解出来ない。

ブレスを吐くために視線を逸らしたのが悔やまれる。


彼の思考が、己の死という最悪の結末に染まりつつあった・・・・・・


7/22 加筆修正

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