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イエロー・ベル・キャブズの厳戒態勢(High A)  作者: 枕木悠
第一章 ファーファルタウは夜の七時
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第一章④

「ヘティ、私、パレードの先頭を飛ぶことになったの」

 アメリアは黒焦げの芝生の上に立つヘンリエッタに緊張しながら告げた。

「ま、」ヘンリエッタはアメリアからさっと離れ、じっとアメリアの瞳を見つめて、口を大きく開けて絶叫した。「マジでぇえええええええええ!」

「うん、」アメリアは小さく頷き、そして涙を必死で堪えながら、ヘンリエッタの手を握り訴える。「ど、どうしよう、私、ヘティ、私、どうすればいいのかなぁ」

 毎年九月の終わりに開かれる魔女たちのパレード。

 そのパレードの先頭を飛ぶ魔女は、宮殿に仕える全ての魔女の中から選ばれる。女王陛下の独断によって選出される。女王陛下に認められたと同じ、とっても名誉なことだ。入殿して間もないアメリアが選ばれるのは、本当に異例のことだった。

「やっぱり、アメリアの髪の毛が黄色いから?」ヘンリエッタは言ってすぐに口を両手で塞いだ。「ご、ごめん、アメリア、その、なんていうか、そんなつもりじゃ、えっと、ごめん」

「ううん、気にしないで、」アメリアは自分の黄色い髪の毛を触る。「その通りだから、私の髪の毛が黄色いから、私がクアドロフェニアだから、女王陛下は私のことを何も知らないのに、選んだんだよ、きっと、ああ、ヘティ、私、どうすればいいのか、分からないよぉ」

 アメリアはヘンリエッタの小さい体を抱き締めて、そして泣いた。「……ご、ごめん、ごめんね」

「いいよ、泣いてもいいから、」ヘンリエッタは優しくアメリアの後頭部を撫でてくれる。「よいよい」

 ヘンリエッタが優しく撫でてくれるから。

 アメリアの涙は止まらなくなった。

 今までずっと我慢していたものが溢れてしまってどうしようも出来なかった。

 罪深いことと思いながら。

 アメリアは女王陛下のことを恨んだ。

 何も知らないくせに。

 私のこと、

 何も知らないくせに。

 私の黄色を見て。

 この黄色は伝説だって勝手に喜んで。

 クアドロフェニア、だなんて勝手なことを言って。

 勝手に宮殿の魔女にして。

 勝手にパレードで私のことを見せ物にしようと企んでいる。

 自分が悪いことは分かってる。

 宮殿の魔女に憧れて登用試験を受けることを決めたのは私。

 秘密を隠し続けていたのも私。

 私には秘密がある。

 でもその秘密だって。

 宮殿に来れば、どうにかなるって思ったんだ。

 風の吹く始まりの都、王都ファーファルタウの中心、ベルズアッバズ宮殿!

 ここに来れば。

 宮殿の魔女がなんとかしてくれるって思ったから!

 空を飛べるようになるって思ったから!

「私は空が飛べません」

 アメリアの告白に、ピチカートは僅かに眼を大きくして困った顔を隠さずに言った。「・・・・・・え、空が飛べない、だなんて、え、冗談、よね?」

「本当です、私は、」アメリアはピチカートに空の飛び方を教えてもらえたくて、顔を真っ赤にして、とても恥ずかしかったんだ、強く訴えた。「空が飛べないんです!」

 アメリアは空が飛べない。

 だからもしかしたら。

 アメリアは魔女ではないかもしれない。

 魔女じゃない、なんだかよく分からない、小さな生き物。

 それが私。

 登用試験には、空を飛ぶ、なんていう項目はなかった。

 だから黄色だったアメリアは宮殿の魔女である証の深緑色のブレザに袖を通すことが出来たのだ。

「大丈夫よ、アメリア、私がなんとかするわ、」ピチカートはアメリアを抱き締めて約束してくれた。「なんとかしてあげる、大丈夫、ここはファーファルタウのベルズアッバズ、世界の中心よ」

 秘密はピチカートの親友のシャーロットにも伝えられ、空を飛ぶ方法をピチカートとともに探してくれると約束してくれた。

 ヘンリエッタにも、アメリアは秘密を教えた。ヘンリエッタにも知っておいて欲しかった。友達だから。

「とにかく、これは四人だけの秘密よ、」ピチカートは釘を刺すように言った。「アメリアが飛べない、なんてことが知られてしまったら、もしかしたら、アメリアは宮殿を追い出されてしまうかもしれないからね、でも、大丈夫、安心してアメリア、必ずあなたは飛べるようになるわ、約束する」

 ピチカートはまだ、約束を果たしてくれない。

 でも。

 アメリアは絶対に約束を果たしてくれるって信じていた。

 時間が掛かるかもしれないけれど、絶対に飛べるようになるって。

 でも飛べるようになる前に。

 女王陛下のご意向に従って、飛ばなくてはならなくなってしまった。

 私は空を飛べません。

 なんて。

 女王陛下に向かって言えるわけがないじゃない!

「練習しよう、アメリア」

 ヘンリエッタの声に、アメリアは顔を上げる。「え、練習?」

「そう練習、」ヘンリエッタはアメリアの肩に手を置き、真っ直ぐにアメリアの眼を見て言った。「空を飛ぶ練習だよ、練習すれば、なんとかなるかもしれない」

「で、でもぉ」

「私だって最初は上手く飛べなかった、練習したもの、ちゃんと、飛ぶために、無理矢理崖から飛んだりしてさ」

「でも、私は、箒に跨がっても浮かばないんだよ?」

「とにかく、練習、それしかないって、何もしないで泣いているよりはよっぽどいいと思うよ」

「……うん、そうだね、そうかもしれないね」

「私も付き合うから」

「本当?」

「うん、」ヘンリエッタはニッと笑顔を見せた。「だから泣かないで、アメリア、元気を出して、元気があれば、どうやら、なんでも出来るらしいからね」

「え、」アメリアは小さく微笑んだ。「なぁに、それぇ?」


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