第一章③
「本当に、仲がいいよね、あんたたち、」シルバの髪を持つ、鋼の魔女のエヴァ・シエンタが言った。「シスタのお手本だよね」
エヴァ・シエンタの感想は、同じテーブルで朝食を食べている、ピチカートとアメリアの二人の姿を見て漏らしたものだった。ピチカートはスープを冷ましてアメリアの口に運んだり、アメリアはピチカートのためにパンにバターとジャムを塗ってくれたりした。それは二人にとっては普通のことなんだけれど、エヴァ・シエンタにしてみれば、仲がいい、という風に映るらしい。そんな風に思われてピチカートはもちろん嫌な気はしない。お手本なんて言われて凄く嬉しい。その嬉しさを小さく顔に出して、ピチカートはエヴァ・シエンタに向けて微笑んで見せた。彼女はピチカートよりも一つ年上の十七歳だが、ピチカートやシャーロットと同じ年の秋に入殿した魔女だった。
「あなたも誰かとシスタの関係を結んでみたらどう?」
「まぁ、それもいいかもしれないけれど、うーん、」エヴァ・シエンタは眉を潜めながら、珈琲に口を付ける。「私はいいや、アメリアとピチカートみたいな関係を築ける自信は私にはないよ、それに、」
「やっぱりメイドさんが好き?」ピチカートはエヴァ・シエンタの台詞を先回りして言った。
「そう、」エヴァ・シエンタは笑って言う。「ピチカート、知ってる? 最近、入った娘で、とってもチャーミングなメイドちゃんがいるんだ、今も多分、厨房にいるはず、名前はケリィ」
「ごめんなさいね、」ピチカートは首を横に振って笑う。「正直、どうでもいい、興味ないの、メイドさんには」
「普通の娘もいいよ」
「お願いだから、アメリアの前でそんなこと言わないでよ」
「アメリアちゃんは焼き餅焼き?」
アメリアはエヴァ・シエンタの質問に首を傾げてニッコリと、天使みたいに微笑む。黄色い天使だ。「どうかな? よく分かりません」
「私は焼き餅焼きよ、」ピチカートは身を後ろにそらし、じっとアメリアを見つめて言った。「凄く焼いちゃうの」
「ああ、怖い、」エヴァ・シエンタはわざとらしく自分の腕を抱いて、アメリアの頭を撫でた。「アメリアちゃん、この魔女を怒らせちゃいけないよ」
「もぉ、」ピチカートはテーブルの下でエヴァ・シエンタの足を蹴った。「変なこと言わないの」
「おっと、」エヴァ・シエンタは厨房の入り口の方を見て声を上げて珈琲を飲み干し席を立つ。「愛しのケリィちゃん、発見、じゃあ、二人ともまたね」
「うん、ばいばい」ピチカートはエヴァ・シエンタの手を触って言う。
アメリアはエヴァ・シエンタに僅かに頭を下げて見送った。
彼女はテーブルの間をすり抜けて、ケリィというメイドに真っ直ぐに近づき、早速口説いていた。確かに、彼女好みの可愛らしい娘だった。
「んふふっ、」ピチカートは声を漏らす。「本当に、しょうがない人ね、ねぇ、アメリア?」
「はい、」アメリアもエヴァ・シエンタに視線をやりながら笑っていた。「しょうがない人ですね」
そして二人は笑い合った。
幸せだった。
ピチカートは凄く幸せ。
可愛いアメリアが傍にいてくれて。
一目惚れだった。
登用試験の会場で、初めて彼女を見た瞬間に。
ピチカートは彼女に心を奪われてしまった。
なんて可愛い魔女なの!
ズキューンって具合に胸を撃ち抜かれ、ピチカートの心臓には穴が出来た。
そのピチカートの心臓の穴を埋めることが出来るのは、もちろんアメリアだけ。
アメリアの素敵な黄色。
だからもう。
アメリアと離れることは出来ない。
離れない。
離れてしまったら、穴は誰が塞いでくれるの?
誰も私の穴を塞ぐことなんて出来ないわ。
そういう話になる。
つまりそういうことなので。
私はアメリアとは離れられない体になってしまったのよ。
「ああ、ピチカート、アメリア、」背中の方から声がして、ピチカートは振り向いた。「ああ、ここにいたんですね、探しましたよぉ」
ブレザと同じ、深緑色の緑の魔女のファアファだった。彼女は昨年入殿した、ピチカートよりも二期下の魔女。歳はピチカートの一つ下の十五歳だ。この九月で二年目に入る。まだ二年目だが、彼女は入殿した頃から緑の魔女として完成されていて、周囲から一目置かれている魔女だった。彼女は二人が座るテーブルまでどうやら走って来たみたいで大きく息を切らしていた。ピチカートの前で止まると、胸を押さえ呼吸を整え、そしてずれた眼鏡の位置を直して言う。「大変ですよ、大変っ」
「え?」
「あ、違った、大変じゃなくって」
「はあ?」
「おめでとうございます、アメリア!」
「おめでとう?」アメリアは祝われる理由が見当たらないようでゆっくりと首を傾げた。「ファアファさん、おめでとうってなんですか?」
「そうよ、ファアファ、急に一体全体なんなの?」ピチカートはファアファを睨み言った。
「先ほど発表されたんですよぉ!」ファアファは彼女には珍しく興奮していて、五指を胸の前で組んでピョンピョン飛び跳ねている。眼鏡は彼女が跳ねるたびにずれてピチカートはそれが落下しないか心配だった。
「だから何が?」
「アメリアが選ばれたんですよぉ!」
「選ばれた?」
「ええ!」ファアファは両手を広げ、その場で回りながら言った。「パレードの先頭を飛ぶ魔女に、アメリアが選ばれたんですよぉ!」