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第二章②

 砂漠を渡るにはワゴンで八時間以上かかる。港町から王都まで、直線距離はそれほどないのだが、絶えず発生している砂嵐によって何度も足止めされてしまうため、時間が掛かるのだ。王都へはシティ・リンクという旅行会社が整備した、コンクリートで固められた道をワゴンに乗って進む。どういう魔法が編まれているのか分からないが、そのコンクリートの上には砂が堆積しないようになっていて、常にコンクリートの路面が露出していた。その魔法がなければ、ワゴンで砂漠は横断出来ないだろう。

 ザ・フォレスタルズという、世界的なロックンロールバンドは、一週間後に開かれる魔女たちのパレードに招待されていた。聞くところによれば、我らが王都ファーファルタの女王陛下は、フォレスタルズのファンだと言う。これほど名誉なことはないと、王都の労働者階級の家に生まれたノウラ・フォレスタルは思っていた。

 フォレスタルズは自分たちのワゴンに乗って砂漠を横断していた。

 備え付けのレコードプレイヤが軽快な音楽を鳴らしている。車内は砂嵐の中を走っているとは思えないほど陽気だった。いや砂嵐のせいで、陽気な四人はさらに陽気になっていたのかもしれない。

 フォレスタルズのメンバはボーカルのノウラと、ギターのジョン、ベースのバリー、ドラムのミンス。ノウラ以外は男で、三人とも、正確な年齢は知らないけれど、ノウラよりも五つ以上歳上だった。

 ジョンがワゴンを運転し、バリーが助手席に座り、ノウラとミンスの二人は後部座席に座っていた。

 そろそろ出発してから六時間くらいは経っただろうか。

 王都は砂嵐によって姿を消されてしまっている。時折現れる看板によって、自分たちが王都までどれくらいの位置にいるのか分かる。先ほどの看板によれば、王都まで二時間、ということだった。その看板を信用すれば、ワゴンは順調に進んでいる、と言えるだろう。

 男たちは飽きることもなくレコードプレイヤから流れる音楽に合わせ体を揺らしていた。

 ノウラも音楽に合わせて歌を歌っていた。

 砂嵐が吹き荒れる、窓の外を見ながら。

 そして。

 それは当然に。

 ノウラの視界に入った。

 ノウラは叫ぶ。「ジョン、止めて!」

「え?」ロングヘアに女のような顔立ちのジョンが後部座席のノウラを振り返って言う。

「いいからっ、止めてって!」

 ワゴンは急停車。

 音楽は鳴り止まない。

「バックして」

「なんで?」

「何か見えたの、」ノウラは好奇心を瞳に灯して言う。「何か、変なのが見えた」

「何かって?」助手席に座るバリーがレコードの針を持ち上げながら言った。音楽が鳴り止む。

「それを確かめるのよ」

 ジョンはワゴンをゆっくりとバックさせた。

「ほら、何かあるでしょう?」

 ノウラは何かある、砂漠の方を指さした。

 ワゴンの正面に対して左手の方。

 三人もそちらに目を向ける。

 確かに砂嵐と砂嵐の隙間から、何かがあるのは分かった。球体だ。丸くて、尖っていて、いびつな何かがある。しかしそれが何かは分からない。大きさは人一人分くらいだろうか。コンクリートの道路からの距離はそれほど離れていない。

「女の子じゃないか!」ミンスが唐突に叫ぶ。隣に座るノウラは耳がおかしくなった。

「はぁ?」ノウラにはどうしてその球体が女の子だと分かるのか、理解出来なかった。「女の子って、どうして分かるのよっ!」

「砂に埋もれてるんだよ!」

「どうして分かるんだよ」ジョンが笑いを声に含ませて聞く。

「どうして分からないんだよ」

「どうしたって分からないぜ、」助手席のバリーも首を横に振りながら言う。「お前はたまに、女の子について訳の分からないことを言うが、あれが女の子だなんてさらに訳が分からないぜ、ワゴンに女の子がいないからって気が狂っちまったのか?」

「どういう意味よっ!?」ノウラは助手席の背中を強く蹴った。「私は女の子じゃないって?」

「ノウラは女の子、っていう感じじゃないだろう」バリーはククっと笑う。

「まあ、なんて酷いことを言うんでしょう!」ノウラは腕を組み、頬を膨らませた。「解散の危機に発展しそうな事案だわねっ!」

「とにかく、助けに行く、」ミンスは鼻ピアスを外してノウラに渡そうとする。「ノウラ、持っていてくれ」

「嫌だ! 汚い!」ノウラは本気で拒絶する。「っていうか、どうして鼻ピアスをはずしたのよっ! 訳が分からないわっ!」

 仕方なく、という風にミンスは鼻ピアスを付け直す。

「行くなら今だ、」ジョンがわずかに窓を開け、外を見ながら言った。「嵐が弱まっている」

「本当に行くの?」ノウラは聞く。

「ああ、もちろん、」ミンスは溌剌とした顔をノウラに見せて叫び、ワゴンから躍り出る。「ロックンロール!」

 ミンスはワゴンから飛び出し、一直線に謎の球体に向かって走る。

 ノウラは砂が車内に入らないようにすぐドアを閉めて、再びすぐにドアを開けられる状態でミンスを待った。

 ミンスは砂の上を激走。

 一度前のめりにパタンと転けた。

「ああ、」ノウラは声を上げる。「莫迦」

 しかしミンスはすぐに立ち上がった。

 口に入った砂を唾と一緒に吐き捨て再び走り出す。

 幸運にも砂嵐は静かだ。

 ミンスはなんとか、謎の球体まで辿り着いた。

 こちらに向かってミンスは笑顔で手を振った。

「もう、そういうのいいから、早く帰って来いってっ!」ノウラはワゴンの中で叫ぶ。

 ミンスは砂の上に膝を付き、球体が砂と接している部分を手の平でかき分け始める。なんとなく、巨大なキノコを掘り起こそうとしているみたいだと思った。

 その球体には模様があった。

 なんというか、限りなく東洋的な模様だと思った。西洋的でない。シルクロードの東の果て、という感じの模様だった。

 ミンスは手を動かすのを止めて、ワゴンの方を見る。

 そしてミンスは謎の球体を背負って立ち上がった。どうやらそれは沢山の荷物を包んだ風呂敷のようだった。あまりにも巨大過ぎて気付かなかったが、風呂敷だった。

 そして驚くことに、ミンスは女の子を抱き抱えていた。

 小さな少女だ。

 本当に女の子が砂に埋まっていたみたいだ。

 ミンスは砂に足を取られながら、ゆっくりとワゴンの方に戻ってくる。

 ミンスは以前漁師だった。だから力持ち。ミンスじゃなかったら、荷物の沢山入った風呂敷を背負い、女の子を抱き抱えて戻って来ることは難しかっただろう。

「いけない、」ジョンが言う。「嵐が来る」

 ワゴンの前方。

 巨大な砂塵がこちらに迫ってきていた。

 ノウラはドアを開け咄嗟にワゴンから飛び出した。

「ノウラ!?」ジョンとバリーが後ろで叫ぶ。

 外は暑い。

 凄い熱気に火傷してしまいそうだった。

 一瞬、意識が遠のく。

 しかし、よろめきを振り払い。

 ノウラはミンスに向かって走った。

 ミンスも迫る砂塵に気付き、足を早める。

 ミンスと合流。

 ノウラは少女を引ったくるように奪い、背負ってワゴンに向かって急ぐ。

 暑い空気が肺を焼くようだった。

 砂が口の中に入り、何度も唾を吐く。

 砂塵が迫る。

 もう少し。

「急げ!」ジョンとバリーの声が聞こえる。

 ノウラは倒れ込むようにワゴンの中へ。

 ミンスも続いて車内に入る。

 しかし、巨大な風呂敷がドアに引っかかる。

 すかさず、ジョンとバリーが座席から身を乗り出し、風呂敷を中へと引っ張った。「せーのっ」

 スポンっ、という具合で風呂敷がワゴンの中へ。

 瞬間。

 車内に砂嵐が吹き荒れる。

「ああ!」雄叫びを上げて、ミンスはワゴンのドアを閉めた。

 間一髪だった。

 皆の髪はボサボサだった。

 呼吸が早い。

 口の中の砂を吐き捨てる。

 皆、それぞれ目線を合わせた。

 笑みが自然にこぼれてくる。

 この状況。

「ロックンロールを聞くしかないな」

 バリーが笑って言ってレコードの針を落とす。

 窓の外は砂が吹き荒れていて何も見えない。

 ワゴンは陽気なロックンロールが響いている。


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