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イエロー・ベル・キャブズの厳戒態勢(High A)  作者: 枕木悠
第一章 ファーファルタウは夜の七時
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第一章⑥

 光の魔女のジェニィは黄昏の紫色に染まり始めた空を飛んでいた。彼女の金色の髪の毛は黄昏を反射して煌めいている。

 彼女の周囲には海岸の方で一緒になった数羽のカモメがいて、彼女と戯れるように飛んでいた。

「んふふっ」

 ジェニィはご機嫌だった。

 速度を上げ。

 体を右にゆっくりと倒し。

 一気に三回転ロール。

 金髪が暴れて。

 イエロー・ベル・キャブズの帽子がふんわりとジェニィの頭から離れて落ちる。

 ジェニィは慌てることもなく垂直に高度を下げ、帽子を掴んで頭に乗せる。

 高度をカモメが羽ばたく高さまで上げる。

 そして手を広げた。

 風を全て受け止めるように。

 眼を瞑る。

 久しぶりの空。

 久しぶりの飛行。

 久しぶりの宅急便の依頼だった。

 夕食の準備をしていたら、チェルシ・ガーデンの隣でケーキハウス「エスペリイド」を営んでいる、ピギィ・スターキィからの依頼が飛び込んできたのだ。「お願い、ジェニィ! すぐにこのケーキをローリング氏のところに持って行って!」

 事情を聞けば、海岸の屋敷に住むローリング氏が娘のバースデイケーキを頼むのをパーティの直前まで忘れていたらしい。もうすぐパーティは始まってしまうようで、バースデイ・ソングを歌って娘がロウソクの炎を吹き消すという一大イベントまで時間がない、ということだった。

 基本的には箒の後ろに人を乗せて飛ぶのがキャブズの仕事だが、イエロー・ベル・キャブズは宅急便の仕事も承る。宅急便はジェニィの仕事だった。ジェニィは夕食の準備を社長に任せてすぐに飛んだ。そして無事に、バースデイ・ソングの大合唱までにケーキを届けることが出来た。ジェニィが「ハッピ・バースデイ!」って言いながら屋敷にケーキを届けたせいだろう、娘のキティは父が企んだサプライズだっていい方に勘違いしてくれたみたい。小刻みにピョンピョン跳ねて喜びを表現していた。「魔女様がケーキを運んできて下さるなんて、なんて素敵なお誕生日なんでしょうっ!」

 ローリング氏はジェニィに沢山のお代を払ってくれた。通常料金の十倍だった。ジェニィは「あら、たったこれだけですの?」と魔性の眼をローリング氏に見せた。

「参ったなぁ」ローリング氏は額の汗をハンカチで拭いながら苦笑した。

「んふふっ、」ジェニィは上品に微笑み返す。「以後、我らがイエロー・ベル・キャブズをご贔屓に、それでは失礼いたしますわ」

 ジェニィは首のイエロー・ベルを指で弾いて凛と鳴らして、ローリング邸を後にした。

 さて、遠くにファーファルタウのランドマークである、ビック・ベルという国会議事堂に隣接する背の高い塔の輪郭が見えてきたぐらいでカモメはジェニィから離れ、旋回、海に帰って行った。

 ジェニィはカモメに手を振って、そして高度を少し落とした。

 ちょうど、下はイリアナーズ・パークという王都で三番目に大きな国立公園だった。その北西にはヨーロッパ・ユニオンの帝都シィホースの象徴的建造物であるコロッセオに似た建物があり、その中では宮殿の管理の元、ドラゴンが飼育されている、という話だった。

 その建物以外は一面に鮮やかな緑色の芝が広がっていて、民の憩いの場となっている。黄昏のこの時間、人の姿はあまりなかったが、気になる二人の少女の姿があった。

 頭巾を被り、マントで体を覆い、箒に跨がった二人の、……魔女?

 ジェニィは彼女たちに吸い寄せられるように高度を落とし、そして彼女たちから少し離れたところに降り立った。ジェニィは背の低い木にもたれるように座り、彼女たちのことをしばらく見ていた。

 頭巾に隠れて髪の色はよく分からないけれど、二人とも魔女なのは確かみたい。二人とも小さくて可愛い。子供の魔女だ。見ていると自然と笑顔になった。飛ぶ練習をしているみたい。一人はちゃんと飛べるんだけど、もう一人はちゃんと飛べないみたい。

 というか。

 どうしてだろう?

 浮くことも出来ないみたい。

 もしかしたら魔女じゃないのかしら?

 気付けばジェニィは、二人に近付いていた。そして愛嬌のある笑顔を作って聞く。「ねぇ、お二人さん、こんな時間に何してるのぉ?」

「だ、」声を掛けられて初めてジェニィの存在に気付いた、という感じで吊り目の小さな魔女が声を上げた。頭巾の隙間から微かに見えた前髪の色から推察するに、この娘は炎の魔女。「誰だ!?」彼女はジェニィの首元のベルを見て言う。「キャブズ!?」

「イエロー・ベル・キャブズのジェニィだよんっ、」ジェニィは炎の彼女の方に体を傾けて言う。「ねぇ、ねぇ、何してるか、お姉さんに教えてよぉ」

「い、行こう、アメリアっ、」炎の彼女はジェニィを無視し、アメリア、というもう一人の魔女の手を掴んで向こう側に走り出した。「ほら、早く!」

「う、うん」アメリアもジェニィから離れるように、向こう側に走り出した。

「どうして逃げるのぉ!」

 ジェニィは頬を膨らまし、ふんわりと跳躍してアメリアの頭巾を掴んだ。

 ひもが緩かったみたいでするりと頭巾はアメリアの頭から離れた。

 そしてアメリアの髪の色が見えた。

 金色?

 違う。

「黄色?」

「返せ、莫迦っ!」炎の魔女はジェニィを睨み怒鳴り、頭巾を奪って舌を出した。「べぇーだっ!」

 そして二人は箒に跨がり飛び立った。

 アメリアは炎の魔女の箒の後ろに跨がっている。

 やっぱり飛べないみたいだ。

 どうしてだろう?

 それに黄色って。

「とっても素敵じゃないのっ!」

 ジェリィは二人の魔女が消えた空に向かって叫んだ。


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