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「そんな・・・お考え直しくださいませ、御姉様」
「御姉様がいらっしゃらなければこの国は・・・」
国王陛下の私室には、陛下夫妻の他に彼の侍女と娘の姫君二人と姉姫様の夫、そして大魔導師がおりました。
縋る姫たちの前でノワールは首を横に振ります。
「御姉様ならそんなことをしなくても、このような無法者っ」
「この方は先々代の大魔導師です。魔の者となられたこの方には、私の力など遠くおよびません」
ファキアという魔の者からの手紙には、王妃によく似たその娘を花嫁として差し出すようにと書かれておりました。
シェリアンナ様には既に夫となられた隣国の元第3皇子であらせられるレガード様がいらっしゃいます。
国の跡継ぎとなられるディオン様がお生まれになった今、彼女がその花嫁となる選択肢はございません。
ロザリー様にも政略結婚ではございますが、既に相思相愛の婚約者がいらっしゃいます。
刃向うことができない程の力を持つ魔の者が相手では、そうも言っては居られないのでございますが。
「出家した身ではございますが、私もお母様の娘です。それに、何かあっても私なら生きて帰る可能性がございます」
「ノワール・・・」
涙する王妃様には最も信頼する侍女がその傍らに付いております。
陛下はその王妃から離れるとノワールの傍へ行き、その身をしっかりと抱きしめました。
ここまで進んだ政略結婚を今更反故にすることもできませんし、ディオン様の母であるシェリアンナ様を行かせるわけにも参りません。
「私の国と合同でその者を討伐なさっては」
ノワールと血が繋がっているわけでもないのに、レガード様も何とかノワールの意思を曲げようと必死になって下さっているようでした。
「大丈夫ですわ、義兄様。幸い私には想う方もおりません」
全く幸いでもないことを言ったノワールは、本気で妹たちに泣き付かれてしまいましたが、その決意は揺らぐことはございません。
「それに、やっと私にも王族としての仕事が回ってきたのです。この国は、私の王家の血にかけて必ずや守ってみせます」
その晩以降、黒薔薇の魔女をこの国で見かける者はおりませんでした。
一区切り。
終わりじゃないです。
当たり前ですか・・・