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魔女と申しましても、その姿形はその他の人間となんら変わりはありません。
妹と同じ金色の髪に空色の瞳はこの国でも珍しくもない色です。
彼女が他と異なったのは、その身に宿す魔力の質と量でございました。
それは、お妃様の御身に宿られたその瞬間に、王族であることを捨てねばならぬ程です。
第一子であったにも関わらず、その誕生は秘密裏に処理され、彼女は国の魔導師の一人に弟子として育てられました。
幸いなことに、陛下は彼女の出生の秘密を公然の秘密とし、御本人も物心ついた頃から自分が王家の姫であったことを自覚しておられました。
自覚していたからこそ実の両親に縋ることはせず、国に仕える大魔導師となったのです。
「ノワール様」
城の一角、正面入り口から左の離れに向かう一本の回廊で彼女は呼び止められました。
「ロザリー様、どうかなされましたか?」
実の姉妹でありながら、人目がある所ではその関係を隠すように敬称を付けて互いを呼び合う姫君たち。
知らぬ者には何気ない日常にも思えますが、知る者にとっては目を逸らしたくなるような光景です。
ぎこちないロザリー様に対し、ノワールはその表情を隠す白き面をその顔にかぶせておりました。
今に始まったことでもないので誰も咎めはしませんが、彼女は幼き頃からその顔を隠し、髪の色さえ分からぬようにフードをかぶって生活しているのです。
その姿を知る者は多くはありません。
ですが、大魔導師たる力を持つ者はそう居るものではなく、何者かにとって代わられる心配も無用です。
国王陛下がそれでよいと言うのであればそれでよいということでございましょう。
「ご相談したいことがございます・・・」
「かしこまりました。私の研究室でもよろしいですか?」
悲しげなロザリー様の前を歩くノワールの背は、仮面のせいか何の感情も浮かんではおりませんでした。
嘆き悲しむロザリー姫を連れて来た大魔導師に、部下たちは多少混乱の色を見せましたが、ノワールに近い者は落ち着いて対応しているようでした。
王族が暮らす城内にあるとはいえ、魔道研究室などという場所に王族が足を踏み入れることはまずありませんので、この混乱も仕方がございません。
部下に部屋に近づかぬよう人払いを命じたノワールは、ロザリー様を室内に招き入れ、落ち着くようにと抱きしめました。
既に仮面は床に投げ出され、ノワールは顔を歪めてロザリー様を抱きしめています。
「ロザリー・・・」
「御姉様、わたくし・・・」
仮面で必死に感情を隠してはおりましたが、ノワールは既にロザリー様の悩みの原因を知っていました。
ロザリー様がお声をかけられたのは、先ほど国王からその内容を聞いた帰り道だったのです。
「大丈夫。私が、何とかしてみせるわ・・・」
表では堂々と名を呼ぶことさえかなわない姉妹でしたが、妹であるロザリー様はノワールのことを大変慕っておいでです。
ノワールも妹たちのことはとても可愛がっております。
この国を守るべき国王やそのお妃様、そして妹姫たちを守るために、彼女は大魔導師という物騒極まりない称号を受け入れたのですから、今回の事でも当然彼女はその身を犠牲にする覚悟で対応を考えておりました。
文字通り、その身を代わりに据えることで。
最早何も言いますまい・・・