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第9話:寝てへん自慢はもうええねん

ポーション漬けで働く若き魔導具師。

ブラック工房の「根性論」を、最新の労務管理で叩き潰す!

パウルさんの畑を不当な契約から守り抜き、夕闇に湿った土の匂いや麦の芽の香りといった「生活の当たり前」を取り戻した農夫の笑顔を見届けたヨシコ。

だが、安堵の余韻に浸る間もなく、彼女のスマホが緊急の通知を告げる激しい振動を上げた。

届いたのは、かつて通信魔導具の調達でお世話になった若き魔導具師、レオが無理な増産ノルマにより工房で倒れたという悲痛な知らせだった。


ヨシコが急行したのは、王都の裏通りにある「魔導具開発工房・ブリッツ」。一歩足を踏み入れた瞬間、ヨシコの総務としての鋭い「嗅覚」が強烈な不快感を捉えた。

そこには、極限まで肉体を酷使した人間が放つ焦げ付いたような匂いと、換気の悪い部屋特有の淀んだ空気、そして過剰な魔法薬ポーションのツンとした薬草臭が充満していた。


工房の奥では、どす黒いクマを作ったレオが、震える手で魔導ペンを動かしていた。

彼の机には、一時的に集中力を引き出す代わりに肉体を内側からボロボロに蝕む「高濃度魔力ポーション」の空き瓶が、まるで墓標のように散乱している。


「レオ君、あんた、今何日寝てへんの」

ヨシコの低い声に、レオは力なく顔を上げた。

「あ……ヨシコさん……。大丈夫です、あと一時間で終わらせないと。……王宮からの至急案件なんです。ここで手を止めたら、工房の信用に関わるから……」

レオの目は焦点が合っておらず、唇は白く乾ききっている。


そこへ、工房の主である支店長が、厚い書類の束を机に叩きつけながら怒鳴り込んできた。

「レオ!まだできていないのか!プロなら根性を見せろ。魔導具師にとって、忙しいのは名誉なことだろう!寝ていないのは頑張っている証拠だ。ポーションをもう一本煽ってでも完成させろ!」


支店長の放つ無神経な言葉の数々に、ヨシコの眉間には深い皺が寄った。

だが彼女は即座に怒鳴り返すのではなく、工房の隅で黙々と床を磨き、散乱したポーション瓶を素早く分別している見習いの少年、ニルスに目を留めた。


ニルスは掃除の合間に、職人たちの作業動線を一切邪魔することなく、冷めた茶を新しいものに替え、職人が手を伸ばす瞬間に次なる素材を棚から揃えていた。

その動きには一切の迷いがなく、現場の状況を俯瞰で把握している者特有の静かなリズムがあった。


「……ほう。ええ動きする子がおるやないの」


ヨシコはスマホを構え、レオの疲弊しきった作業風景と、ニルスの無駄のない「段取り」の様子を同時に記録した。

さらに、支店長がデスクの奥に隠していた「受注計画書」と「職員名簿」を、総務の執念で素早くスキャンし、現場の歪みをすべてデータ化した。


「支店長さん。あんたの言う『根性』の裏側、今全部データにまとめたわ。あんた、レオ君一人に高度な調整から単純な下準備まで全部背負わせて、一番の『宝』である職人をドブに捨てとる。……そして、ここのニルス君。あんた、この子に掃除と飯炊きしかさせてへんの?」


「当たり前だ!そんな若造に物作りをさせられるか!見習いは雑用をこなしてナンボだ!」


支店長の怒鳴り声に、ヨシコが凍りつくような鋭い視線を投げ返す。


「アホ抜かしな。掃除や料理を馬鹿にするんやないよ。……見てみ、この子の動き。無駄が一切ない。掃除も料理も、本来は『工程管理』の塊やねん。いつ、何を、どの順番で動かせば現場が滞りなく回るか。この子は日々の雑用の中で、立派に職人の基礎を磨いてきとる。この子を教育してレオ君の負担を減らせば、作業効率は劇的に上がるわ」


ヨシコは支店長の鼻先にスマホを突きつけ、シロウ特製の解析アプリを走らせた。


「むしろ、寝る間も惜しんで仕事しかしてへん職人の方が、この子から『段取り』を教わることもあるはずや。……ええか、今のあんたのやり方は、ただの『資源の使い潰し』や。……さて、この惨状のデータは地球の弟たちに送らせてもらったわ」


シロウには、ニルスの正確な動きをベースにした「半自動化ライン」の設計資料を。

サブロウには、若手の採用と適正な育成に利益を再配分するための「経営再建プラン」の基礎データを。

イチロウには、過労死ラインを大幅に超えた労働実態と、安全配慮義務違反の証拠を。


「ウチの弟たちはそれぞれ自分の仕事で忙しいから、わざわざ呼ぶまでもない。でもな、この数字を見た超一流たちが、あんたの腐った根性論を理屈で完封する『回答』を今から寄こしてくる。……支店長、覚悟しときなさい。この工房を、ちゃんと人間が『生きて働ける』場所に作り替えさせてもらうで!」


ヨシコの宣言とともに、スマホが次々と「解析完了」の通知を鳴らし始めた。

それは、ブラック工房の終焉を告げるカウントダウンの音だった。


(第10話へ続く)


寝てへん自慢は、ただの無能の証明や。

シロウとサブロウが、数字で「損失」を証明したる。

次回、ブラック工房がホワイトに塗り替えられる瞬間、お見逃しなく!

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