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第4話:出禁は「愛」やなくて「リスク管理」や

出禁は「愛」やなくて「リスク管理」。

ヨシコさんとイチロウの、最強リーガルチェック、開始!

ヨシコが掲げたスマホの画面から、落ち着いた、しかし凍りつくような冷徹さを湛えた声が響いた。

『――突然失礼いたします。私は国際弁護士のイチロウと申します。以後、お見知りおきを』

映し出された長男・イチロウは、乱れた髪一つない完璧な身なりで、穏やかに微笑んでいた。

その丁寧すぎる物腰に、逆に場が静まり返る。

「あ、あぁ!?誰だお前は!弁護士だか何だか知らねえが、俺の邪魔をするな!」

『おや、言葉が過ぎますよ。君が今、窓口の女性に行っている行為……。これは王国商取引法における「不当な給付の要求」、および刑法上の「恐喝罪」に抵触する恐れがあります。非常に興味深い事例だ。ぜひ、法廷という静かな場所で、君の「正当性」とやらをじっくり伺いたいものです。……いかがです?』

イチロウの慇懃無礼な問いかけは、まるで首筋に鋭い剃刀を当てられているような、逃げ場のない圧迫感を男に与えた。

「な……っ、ふざけるな!俺は金ランクだぞ!ギルドにとって最も大事な客だ!」

ヨシコは、泣き出しそうなミナの前に一歩踏み出し、背中で彼女を庇いながら、男と真っ向から対峙した。

そして、何も言わずに懐から一通の書状を取り出し、男の目の前に突きつけた。

それは、ナケナシ王国の王印と魔王の紋章が鮮やかに並び立つ、金色の重厚な書状だった。

「……ッ!?なんだ、これ……!」

男の顔から血の気が引いた。書状には、こう記されていたのだ。

『本状を持つ者の判断は、我ら両名の判断と同義である。万事において、本状を持つ者の意思を尊重し、全霊をもって協力せよ。――ナケナシ国王・魔王』

ヨシコは書状を懐に仕舞い、ポカンとしている男の鼻先を指差した。

「あんたな、今の書状見たやろ。……それと、イチロウの話も聞いたな?今ここでイチロウが作ったこの『ハラスメント対応規約』。これはウチのお節介で導入してもらうで。暴言、強要、過度な居座り……これ一回でもやったら、即刻『出禁』や。文句があるんやったら、直接国王様か魔王様に言いに行きなさい」

「……っ、そんな……たかが受付への文句で……!」

「たかがやないわ。あんたみたいなマナー守れん奴のために、健全な職員が辞めて組織がガタガタになるんは、両国にとって最大の『損失』なんやわ。もしこの規約に従わん言うんやったら、遠慮せんと王国の近衛騎士団と魔王軍の精鋭、ここに呼び寄せるけど……。あんた一人で、両国の軍勢と喧嘩する覚悟、あるんやな?」

男は絶句した。

目の前の「大阪のおばちゃん」の背後に、巨大な二つの国家の軍勢が、今にも押し寄せてくる幻影を見たのだ。

「……す、すまなかった!もうしない!悪かったよ!」

金ランクの誇りは霧散し、男は転がるようにギルドを飛び出していった。

それを見届け、ヨシコは震える支部長に規約を差し出した。

「支部長さん。これ、全支部に今すぐ通達しなさい。……断る言うんやったら、ウチ、今すぐ魔王軍に電話して『不適切な運営で職員をいじめてる支部長がおる』ってチクるけど?」

「い、いえ!直ちに導入、徹底させていただきます!」

支部長が規約を抱えて逃げるように奥へ走っていく。ヨシコは、張り詰めていた緊張が解けて涙を流すミナの肩を、優しく、しかし力強くポンと叩いた。

「泣かんでええよ、ミナちゃん。あんたは何も間違ったことしてへん。……ええか、仕事いうんはな、誇り持ってやるもんや。あんたのその笑顔を守るんも、ギルドの立派な『業務』なんやからね。しんどなったら、いつでもこの飴ちゃんなめて、シャキッとしなさい」

ヨシコはミナの手に黒糖飴を握らせると、颯爽とギルドを後にした。

王都へ戻る馬車に揺られながら、ヨシコはギルドの掲示板で見た、ある不穏なチラシを思い出していた。

それは、辺境の「要塞都市」で若手冒険者が次々と命を落としているという、注意喚起ですらないただの報告書だった。


「……あかん。あの『若手死亡率』、ただの事故やないわ。総務の勘が、どす黒いもんを感じるわ」


ヨシコはスマホを取り出し、連絡先を開く。

そこには次女・ハナコの名前。


「……ハナコ?ウチや。ちょっと送ったデータ見て。……せやろ?異常やろ。あんたの専門分野、リスク管理と保険の観点から言うて、これどない思う?……あ、やっぱり?あんたも蕁麻疹出るほどの数字や思うか」


ヨシコは、遠くに見える険しい「要塞都市」の山影を見つめ、深く、大きなため息をついた。


「装備の不備を放置して、死んだら『自己責任』で片付けとる支部長がおるみたいやわ。……ハナコ、準備しときなさい。次はあんたの銭ゲバ……やなくて、緻密な計算能力が必要や。ウチのお節介、次はちょっと数字に厳しく行くで!」


(第5話へ続く)


ミナちゃんの笑顔が守れて、おかんも満足や。

でも、不穏なデータが入ってきたわ。

若手の死亡率が異常に高い「要塞都市」。

そこには命を金と天秤にかける奴が……。

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― 新着の感想 ―
イチロウの慇懃無礼な問いかけは、まるで首筋に鋭い剃刀を当てられているような、逃げ場のない圧迫感を男に与えるとは、さすがです。それでも抗うお馬鹿な冒険者は、トドメの書類を目にするまで、自己主張するのね。…
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