表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第3話:客は神様やない、ただの契約相手や

今回の敵は「お客様は神様」を履き違えたカスハラ冒険者。

窓口のミナちゃんが泣かされてます。

トトの家庭問題を鮮やかに解決し、新興都市のギルドに「総務」という概念の爪痕を深く残したヨシコ。

彼女が次に向かったのは、ナケナシ王国の王都からもほど近い、冒険者の往来が最も激しい「中央ギルド支部」だった。


そこは王国経済の心臓部とも言える場所であり、日々膨大な数の依頼クエストと報酬が行き交っている。

活気にあふれていると言えば聞こえはいいが、実態は「効率」と「実績」という数字に追われ、現場の綻びが放置された殺伐とした空間だった。


特に、ギルドの顔である「受付窓口」は、ある深刻な病に蝕まれていた。


「おい、いつまで待たせるんだ!さっさとこの依頼の報酬を出せと言っているのが聞こえないのか!」


石造りの頑丈な窓口を、手甲で覆われた拳が激しく叩き、不快な金属音を響かせる。

怒鳴り散らしているのは、胸に金色のバッジを誇らしげに輝かせた高ランク冒険者の男だった。

その周囲には、獲物の血と泥の匂いが混じった獣のような威圧感が漂っている。


「……ひっ、も、申し訳ございません。規定により、魔物の討伐部位の最終確認には専門の魔導士の立ち会いが必要でして、あと、あと十分ほど……お待ちいただければ……」


顔を真っ青にして謝罪しているのは、配属されたばかりの新人の受付嬢ミナ(十九歳)だった。

彼女の指先は小刻みに震え、手に持った受理伝票は汗でじっとりと湿っている。

彼女の大きな瞳には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだった。


「十分だと!?この俺を誰だと思っている!特権階級の金ランク、ドラグニル様だぞ。俺の一分一秒がどれほどの金を生むか分かっているのか。待たせた分の賠償も、当然報酬に上乗せしろ。それが『客』に対する誠意というものだろうが!」


男の罵倒は止まらない。

言葉の暴力は物理的な衝撃となってミナを打ちのめしていく。

周囲のベテラン職員たちは、男の剣幕に目を背け、聞こえないふりをして事務作業に没頭していた。

高ランク冒険者はギルドにとっての「重要顧客」であり、彼らを怒らせることは支部の実績低下に直結する。

その恐怖が、組織全体に「客の機嫌を損ねないことが、マニュアルや正義よりも優先される」という歪んだサービス精神を根付かせていたのだ。


窓口の空気は重く、ミナが絶望の淵に立たされたその時――。


ギルドの喧騒と、男の怒声を切り裂くような、鋭く乾いた「柏手かしわで」の音が二回、響き渡った。


「はいはい、そこまで!やかましいなぁ。ここは神聖な仕事の場やなくて、どっかの動物園の檻の中か何かか?」


響き渡る、場違いなほど明るく、しかし芯の通ったコテコテの関西弁。

ヨシコが、肩にパンパンに詰まった大きなエコバッグを下げ、夕飯の買い物帰りのような気安さで悠然と歩み寄ってきた。


「あぁ!?なんだこのババア、邪魔をするな。俺は正当な権利を主張しているんだ!」


「ババア?誰のこと言うてんの。耳腐ってんのか、それとも眼球が節穴なんか。……それよりあんた、今ええこと言うたな。『賠償を上乗せしろ』て」


ヨシコは男の目の前に立つと、すっとスマホを取り出した。

画面上では録音アプリの波形が静かに動き始めている。

彼女は挑発的に口角を上げ、男を正面から見据えた。


「あんたみたいな立派な、ピカピカの『金ランク』様が、まさかただの言いがかりで小銭稼ぎしようなんて卑しいこと、考えてるわけないもんなぁ。確認やけど、あんたは今、『正規の確認手順という契約上のルールを無視して、規定外の金銭を一方的に要求しとる』ということで間違いないな?」


「あ、当たり前だ!ギルド側の不手際で俺の貴重な時間を浪費させたんだ、その損失に対する正当な対価を求めるのは商売の基本だろうが!」


「ほう、正当な対価ねぇ。……ミナちゃん、今のしっかりメモしとき。この人、自分の口で『自分にはギルドの共通規定は適用されへん』て断言しはったわ。証拠、バッチリやね」


ヨシコは震えるミナの肩を抱き、自分の背後に隠した。

そして、男を品定めするように、頭の先から足の先まで冷徹に眺めた。


「あんたな、自分の胸のバッジがなんぼ光ってても、ここは『ギルド』いう組織や。あんたはここで拝まれる神様やなくて、ギルドと『業務委託契約』を結んで仕事しとる一人の個人事業主やねん。組織のルールを守れん奴が、特権だけ寄越せ、金も色付けろいうんは……。それ、総務の視点から言うたら『ただの不良債権』……いや、組織を蝕む『コスト』でしかないわ」


「……っ、何を抜かすか!俺がいなくなれば、この支部の討伐実績はガタ落ちだぞ!俺を失う損失を考えろ!」


「へぇ、そんなに自分が『替えの効かん商品』やと自信あるんや。……そこまで言うんなら、あんたが今ここで、このミナちゃんに浴びせた数々の暴言、全部業務上に必要な正当な理由があるんやな?後で『虫の居所が悪かった』とか『そんなつもりやなかった』なんて甘い言い訳、通用せえへんで」


ヨシコは、男が傲慢な態度を崩さず、なおもミナを威圧しようとする一挙手一投足を、冷徹な観察眼で記録していく。

その視線は、もはや人間を見るものではなく、不備のある書類を検品するそれと同じだった。

男はヨシコの不気味な落ち着きと、論理的な詰めに苛立ち、さらに激昂して声を荒らげた。


「うるさい、黙れ!俺がルールだ!力のある者が優遇されるのがこの世界の理だろうが。文句があるなら、金ランクの俺を法的に裁いてみろよ!」


その言葉を待っていたと言わんばかりに、ヨシコは薄く、しかし最高に獰猛な笑みを浮かべた。


「……『法的に裁いてみろ』、か。最高にええ言質取れたわ。あんた、今自分の口で退路断ったで。おめでとう」


ヨシコは迷いのない手つきでスマホを操作し、連絡先の一番上に登録されている名前に指をかけた。


「……イチロウ?ウチや。ちょっと自分の立場を勘違いして、契約の概念すら忘れてしもた『金色の勘違い野郎』がおんねん。……ああ、言質も録音もバッチリ取った。次はあんたの番や。……ギルドの基本規約違反と王国の不当要求防止法、どっちで料理するのが一番こいつの将来に響くか、じっくり考えといて」


ヨシコの瞳は、もはや目の前の男を「客」とも「冒険者」とも見ていなかった。

それは、組織の健全性を維持するために、断固として排除すべき「最大級のリスク」を捉える目だった。


(第4話へ続く)


「俺がルールだ」?

異世界でもそんな寝言言う奴おるんやね。

ヨシコさんが「契約」のイロハを教えたるわ。

……次は、法務のスペシャリスト・イチロウが動くで。

更新、見逃さんといてな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヨシコさん、上手にカスハラの言質を取りましたね どーして、勘違い野郎って、「特権階級の金ランク、ドラグニル様」って、言わなくてもいい「特権とか、ランクとか、強調して、自分に様付けするんだろう? 今のあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ