第20話:新しい風吹かせよか。オカンの知恵、貸したるわ!
新しい風を吹かせよか。
カミシロ織の力で、村を再生させる。
役人さん、解約手続き、お願いするわ!
一ヶ月後。
カミシロ村の入り口には、王都の「居住区域集約化推進局」の役人が、顔をしかめて立っていた。
彼は高級なハンカチで鼻を押さえ、時折周囲の古い家屋を忌々しそうに睨みつけている。
「……ふん、相変わらず土臭い場所だ。村長、時間ですよ。本日をもって、こんな辺境への魔力供給は停止し、結界も強制解除します。王都に住ませてやるんだから、文句を言わずに、さっさと移住の書類にサインをしてください。私も忙しい身だ、こんな場所で一分一秒も無駄にしたくないんですよ」
役人は吐き捨てるように言い、書類を村長の胸元に突きつけた。
その態度は、弱者を救う公務というより、邪魔な荷物を片付ける作業そのものだった。
だが、村長は震えるどころか、背筋を伸ばして役人を真っ直ぐに見据えた。
「……いや、その必要はない。王都からの供給は、今日限りで『解約』させてもらうわい」
「はぁ?正気ですか?結界なしでどうやって、この忌々しい魔獣の群れから逃げるつもりです!命を救ってやると言っているのに、これだから田舎者は……!」
役人が苛立ちを露わにしたその時、背後から凛としたヒールの音と共に、数台の荷車を引いた若者たちが現れた。
そこには、漆黒のスーツを着こなしたハナコと、悠然と歩く四男・シロウ、そして割烹着の袖をまくり上げたヨシコの姿があった。
「解約や言うてるのが聞こえへんの?役人さん。そんなに王都が恋しいんなら、今すぐ帰りなさいな」
ハナコが冷徹な笑みで歩み出る。シロウは荷車に積まれた旧式の結界装置一式を役人の足元に「ドン!」と置いた。
「役人さん、これ。自分らが後生大事に抱えてた『金食い虫』のガラクタや。全部まとめておいたから、さあ、お持ち帰りください。この村にはもう、そんな効率の悪いもんは必要ないんやわ」
「な……装置を勝手に外しただと!?貴様ら、狂ったのか!」
狼狽する役人に、シロウはゴーグルを跳ね上げ、悠々とカミシロ織の支柱を指し示した。
「ええか役人さん、よう聞きや。自分らはこの地域の魔力濃度が高いことを『コスト』や言うて切り捨てたけどな、僕から言わせれば、こんなんただの宝の山やで。この村の特産品『カミシロ麻』はね、大気中の過剰な魔力を吸って育つことで、普通の繊維の数十倍いう驚異的な魔力伝達力を持ってんねん。……これまではな、ただの『重くて使いにくい古臭い布』やったカミシロ麻を織った『カミシロ織』やけど、僕がその伝統的な技法に、特定の魔導幾何学に基づいた編み込みパターンを加えるよう助言させてもうた。……そしたらどないや、化け物みたいな性能の魔導繊維に生まれ変わったわ!」
シロウの言葉に合わせるように、支柱の布が自然の魔力を吸い込んで青白く脈動し始めた。
「動力もスイッチもいらん。ただそこに在るだけで、大気中の魔力を吸い込み、一定の方向へ受け流す『自律型魔導誘導路』や。魔獣たちは、この織物が作り出す魔力の流れに抗えず、まるで水が高い所から低い所に流れるように、勝手に村の外れの崖下へと誘導されていく。そこには自動の罠があってね、村人はただそこへ行って、毛皮とか肉とか素材を回収するだけでええ。防衛しながら収益が出る、究極の永久機関やで!」
「な……そんな、馬鹿なことが……!」
役人が狼狽する中、ハナコがさらに追い打ちをかけるようにタブレットのホログラムを展開した。
「馬鹿なことやないわ。現に、この一ヶ月でこの村の収益性は、王都の平均的な農村の五倍に跳ね上がった。……見なさい。かつて村を出た若者や、私たちが連れてきた新しい入植者たちが、老人たちから『カミシロ織』の伝統技術を必死に学んでるわ」
そこでヨシコが、若者たちを見守りながら優しく言葉を添えた。
「ちなみに、私たちが連れてきた新しい入植者は、あの偽物ポーションの被害を受けてたスラム街の人たちやけどね。みんな希望を胸に、この村に来てくれたわ。彼らにとっては、ここはただの村やなくて、新しい人生を織り直す場所なんやわ。……役人さん、あんたがゴミ箱行きにしたこの場所は、今や希望の聖地なんやで」
ハナコが、冷徹なまでのプロの表情でトドメを刺す。
「今やカミシロ織は、魔法杖や盾の芯材として王宮騎士団からも先行予約が殺到してる。居住禁止命令を出すならどうぞ?ただし、王都は国防に不可欠なこの『重要素材の独占供給権』を永久に失うことになるけれど……それでもええの?その報告書を持って王都に帰ったら、あんたの出世、そこで終わりやけど」
完璧な経済損失のデータと、ハナコの鋭い指摘に、役人は顔を真っ青にして後ずさった。
彼は、自分が「早く帰りたい」と蔑んでいたこの村が、今や自分の首を左右する巨大な権益の塊になったことを理解した。
役人は震える手で装置の山を引き取り、逃げるように去っていった。
「……村長さん、ええ顔になったね」
ヨシコが微笑むと、村長は涙を拭い、若者たちの活気あふれる村を見渡した。
「ああ、ヨシコさん。わしら、もう一度この土で、新しい夢を織り上げるわい」
一仕事を終え、ヨシコは懐の飴ちゃんをカリリと噛み砕いた。
「……よし。これで、故郷の『メンテナンス』も完了やな。……さて、次はどこの不備を正しに――」
その時。
ヨシコのスマホが激しく震えた。
画面には、愛する息子・カケルの顔が映し出される。
『……母さん!ついに生まれたよ。元気な男の子だ!早く母さんに、孫の顔を見せてあげたいな』
画面の中で、赤ん坊を抱いたカケルと、幸せそうに微笑むルシアナ。
「……カケル、あんた……。そうか、ウチ、本当のおばあちゃんになったんやわ!」
ヨシコはスマホを胸に抱きしめ、天を仰いだ。
「ハナコ!シロウ!祝いや!今夜は大宴会やで!……明日から、カケルのところへ飛んでいく準備しなさい。シロウは大きなゲートを開けて、全員でリベリスへ殴り込みや!」
一人の老人の誇りを取り戻し、村を再生させたヨシコ。
次なる舞台は、愛する家族と、まだ見ぬ孫の待つ懐かしのリベリスだ。
(第21話へ続く)
村の再生、大成功や!
老人の知恵と若者の力が合わさったカミシロ織、これからの展開が楽しみやね。
……と、一息つく暇もなくスマホが激しく震えたわ。
カケルから?
「母さん、生まれたよ! 元気な男の子だ!」
うわぁ、ウチ、本当におばあちゃんになったんやわ! めでたい! めでたすぎる!
ハナコ、シロウ、仕事放り投げて準備しなさい!
家族全員召喚して、カケルの待つ「自由の街リベリス」へ殴り込み(お祝い)や!
次回、ついに異世界と地球の「最強家族」がリベリスに集結。
そして、あの金色の「孫娘」も黙ってへんで!
物語はいよいよクライマックスへ。
更新通知、絶対オフにしたらあかんで!




