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第19話:消えゆく故郷と、守れぬ結界

故郷を守りたいという老人の叫び。

シロウ、ハナコ。

この村を「コスト」やなくて「資源」に変える仕組み、考えよか!

教育虐待の呪縛を解き、少年と母親が手を取り合う姿を見届けたヨシコは、王都のギルド本部から「ある広域案件」の資料を受け取っていた。


現在、王都が進めているのは「居住区域集約化政策」——いわゆるコンパクトシティ化だ。

魔物の脅威が続く中、点在する小さな集落を維持するには、魔導結界の維持費や警備コストが嵩みすぎる。

ならば人々を一箇所に集め、インフラを効率化し、浮いた予算を国防に回す。

総務の視点で見れば、それは極めて論理的で「正しい」経営判断だった。


だがその「正しさ」の陰で、静かに切り捨てられようとしている現場があった。

ヨシコが訪れたのは、深い山あいにひっそりと佇む「カミシロ村」だ。


深い霧を抜けた先、村の入り口へと繋がる一本道。

先頭を歩くヨシコの隣には、漆黒のパンツスーツに身を包んだ次女・ハナコ(保険会社支店長)、そして背中に山のような工具箱と奇妙な機械を背負った四男・シロウ(工学博士)が並んでいた。


「……なるほどな。こら、確かに効率悪いと言われるのも無理はないわ」

ヨシコが呟き、村の入り口に立つ。

真っ先に目に飛び込んできたのは、ひび割れた結界の支柱だった。

かつては村を外敵から守っていた魔力のドームは、今やところどころ穴が開き、山の冷気が村の中まで吹き込んでいる。


「お姉ちゃん、見て。支柱の根元が魔力の過負荷で炭化してる。これ、欠陥じゃない。大気中のエネルギー密度が、王都の設計思想を遥かに超えてるんだ」

シロウが機械的なゴーグルを目の前に下し、支柱の残留魔力を分析する。

一方、ハナコは手元のタブレットを開き、王都から引き出した極秘の統計データを流し読みしていた。


村の中を歩けば、耕し手のいなくなった田畑が枯草に覆われ、屋根の崩れた空き家が目立つ。

残されたのは、腰の曲がった老人たちと、彼らが守り続けてきた古い土の匂いだけだった。


「……もう、ここも寿命かのう」

村の外れ、村社の境内で、数人の老人が力なく座り込んでいた。

中心にいるのは、カミシロ村の村長だ。

ヨシコが声をかけると、村長は杖で地面を叩き、震える叫びを漏らした。

「わしらだって、国に迷惑をかけたくておるわけじゃないんじゃ。だがな……ここは先祖が何代も守ってきた土地。わしらはここで死ぬまで土をいじっていたいんじゃ!でも……もう、どうすればいいか……」


「……よし。それだけはっきりした根性があるなら、話は別や」

ヨシコが村長を見据えたその時だった。

村の入り口、支柱の隙間から、魔力の淀みを察知した小型の魔獣「ハグレオオカミ」が三匹、ズルリと這い出してきた。


「ひ、ひぃぃ!魔物じゃ!」老人たちが悲鳴を上げ、腰を抜かす。

だが、ヨシコとシロウは動じなかった。


「シロウ、あんたの試作品、ここで実戦投入や!準備しなさい!」

「了解、姉ちゃん!現場の『不純物』、まとめて吹き飛ばしてやる!」


シロウが背負っていた巨大な「高圧誘導送風機」を下ろし、ヨシコが手際よく肥料用の消石灰カートリッジと強力な消臭魔導剤を連結する。

二人は息の合った動作で巨大なノズルを魔獣の群れへ向けた。


「ええか、魔物は鼻が命や。そこへ、これ浴びせたらどないなるか、思い知らせたげるわ!」


ヨシコとシロウが同時にスイッチを入れると、猛烈な回転音と共に、指向性を持った強力な突風が吹き出した。

消石灰の微粉末と高濃度消臭ミストが、魔獣たちの鼻先へピンポイントで、かつ暴力的なまでの風圧で叩きつけられる。


「ギャウンッ!?」魔獣たちは、経験したことのない「異常に清潔で刺激の強い無臭の嵐」を正面から浴び、粘膜を焼かれるような衝撃と感覚の喪失に悶絶した。

混乱した群れは、互いに衝突しながら命からがら森へと逃げ帰っていった。


「……ふぅ。これ扱いには注意せなあかんで。消石灰は刺激が強い。それに畑なんかに撒きすぎるとpHが狂うて作物が全滅する。緊急時以外は厳禁、取扱注意や。……村長さん、何台かここに防衛用に置いとくからね」


ヨシコが乱れたエプロンを整え、シロウが機械の出力を調整している傍らで、ずっとタブレットを見つめていたハナコが、不敵な笑みを浮かべて一歩前に出た。


「……村長さん。今、シロウが解析した数値と、私が持っているデータを照合したわ。……正直、王都の役人は馬鹿ね。この村の真の価値に、誰一人気づいていないんだから」


ハナコがタブレットを操作すると、空中に鮮明なホログラムのグラフが展開された。

「これを見て。このカミシロ村一帯は、王都の他の地域に比べて、大気中に存在する魔力量が異常に多いの。その影響で、王都が設置した旧式の結界装置への負荷が絶えず限界を超え、他の村よりも頻繁なメンテナンスと膨大な魔力供給が必要になっていた。……だからこそ、この村は国の廃村リストの筆頭に挙げられてしまった」


村長が震える声で呟く。

「……魔力が多いことが、災いだったというのか。わしらの愛したこの土地のせいで……」


「いいえ、逆よ」

ハナコがキッパリと言い放ち、ヨシコ、シロウ、そしてハナコの三人が、同時にニヤリと笑った。


「リスク管理のプロから言わせれば、過剰なエネルギーは『災い』ではなく、活用すべき『資源』でしかないわ。……シロウ、あんたの出番やで」

「ああ、お姉ちゃん。この村特有の素材と、この過剰な魔力……。これらを組み合わせて、王都の役人の腰を抜かすような『新時代の防衛と産業』のモデルケースを、今からここで構築してみせるよ」


村長の問いに、三人のスペシャリストが答える。逆境を価値に変える「最強家族の総務」が、今、カミシロ村の運命を根底から書き換えようとしていた。


(第20話へ続く)


過剰な魔力は災いやなくて宝や。

役人の腰を抜かすような「新産業」、カミシロ村に起こしたるで。

解決編、絶対見逃さんといて。

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